第三王子、奮闘す
俺の危惧に反して、犀モンスターは次々と倒されていく。
セルティたち遊撃部隊も凄いが、冒険者たちの実力はやはり侮れない。
しかし、リュミエルの話では、これで終わりではない筈だ。遊撃部隊を誘き出した後にこそ、本番が始まる……。
そして、草原の一角に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
紫色のおどろおどろしい光とともに姿を現す、山羊の頭を持った人型のモンスター。
「悪魔種だ……!」
誰かの声が聞こえた。
なるほど。確かに、これは悪魔だ。俺の背が緊張に震えた。
しかし、セルティたちは怯まない。フォーメーションを崩さす、悪魔種に迫って行く。
先頭は、高そうな鎧を着たイキったニイチャン───俺が召喚された時に、喚きまわっていたニイチャンだ。よく覚えている。が、戦っている最中は、ちゃんとデキる奴っぽい。
その後ろを、セルティが剣を片手に追走して行く。召喚士の筈だが、普段は前衛寄りなのか。
「種族名、バフォメット! 弱点は光属性! 私が魔法を練るまで時間を稼げ!!」
完全魔法使いらしい第三王子、ヴィクトルが指示を発する。鑑定持ち、光属性、パーティーリーダーで第三王子。それに、イケメンだ。物語なら、勇者候補だね。
そして、女魔法使いが弾幕を張り、スカウトの男が背後から短剣を振るう。
バフォメットが煩そうに片手を振ると、新たに五つの魔法陣が浮かび上がった。そこから湧いて出て来る、少し小柄なバフォメットが五体。
これは、ヤバいんじゃ……と思っていると、五体のバフォメットが更に五体ずつのゴブリンを喚び出した。
「セルティ、召喚だ! フェンリルあたりで良い!」
「……分かった」
やはり、セルティは召喚士なんだ。しかし、召喚獣を一々指定されているのは、俺を喚び出してしまったせいか?
セルティのすぐ脇にフェンリルの巨体が出現するが、たちまちゴブリンたちが群がって来る。
後から喚び出されたバフォメットたちが、どんどんゴブリンを召喚しているのだ。これは、キリがない。冒険者たちも手を貸しているが、全然数を減らす事が出来ない。乱戦になってしまったせいで、範囲魔法も使えない様だ。
まずい。まずいぞ。
第三王子が物量に呑まれそうになっている。
俺はブラッディーウルフの革鎧を装備して、狼型のヘルムで顔を隠すと、ミスリル小剣を片手に乱戦の中に飛び込んだ。
アイスボルトを乱射しながら、第三王子の周りのゴブリンを薙ぎ払う。
「すまない!」
「コカトリスを召喚します! コカトリスは味方です!」
言って、インベントリからコッコを喚び出す。
「コケェエエェェェッ!!」
満を持して現れるコッコ。
その巨体に、どよめくゴブリンと冒険者たち。
「コカトリスは味方だ!」
すかさず第三王子が叫ぶ。ありがたい。
「コッコ、好きに暴れて良いぞ! ゴブリンとバフォメットを叩き潰せ!!」
「クエ〜〜〜ッ!!」
コッコはゴブリンたちを轢き潰しながら、一直線に親玉のバフォメットに向かって行った。強い敵狙いらしい。大丈夫なのか不安になるが、セルティたちもいるし、信じるしかないだろう。
俺は第三王子と女魔法使いをゴブリンたちから守るのに専念するだけだ。
「魔法を放つ!!」
第三王子が力強く魔法杖を振り上げた。
コッコがバフォメットにたどり着く前に、第三王子の魔法が完成した。
「ホーリーレイン!!」
視界が、白く染まった。
雨、と言っても水ではない。一本一本が光の針の様なそれが、夜の草原に降り注ぎ、ゴブリンたちの身体を貫いていく。ギャアギャアと騒いでいた小鬼どもは、悲鳴を上げる暇さえ満足になかった。光に触れた端から黒い煙を上げ、崩れる様に消滅していく。
「うおっ……!」
俺は思わず腕で顔を庇った。熱い訳ではない。眩しいのだ。それに、何となく身体の表面を撫でられている様な、不思議な感覚がある。悪魔やアンデッドには致命傷でも、普通の人間には害がないタイプの魔法なのだろうか。さすが第三王子。勇者候補みたいなスペックをしているだけある。
だが、光の雨が収まった後に残った光景は、完全勝利とは言い難かった。
ゴブリンたちは、ほとんど壊滅していた。あれだけうじゃうじゃ湧いていた小鬼の群れが、まるで嘘の様に消えている。しかし、バフォメットたちは違った。
「グォオオオオオ……!」
親玉バフォメットが、全身から黒い煙を上げながらも立っている。角の片方は欠け、肩口には光に焼かれた様な穴が空いていた。だが、その赤い目はまだ死んでいない。むしろ、怒りでさらに禍々しく輝いていた。
他の五体のバフォメットも同じだ。膝をついている個体もいる。片腕を焼かれた個体もいる。だが、倒れてはいない。
「まだ生きてるのかよ……!」
思わず声が漏れる。ホーリーレイン一発で雑魚は消し飛んだが、幹部クラスには決定打にならなかったらしい。いや、かなり効いてはいる。効いてはいるが、倒し切れない。ゲームで言うなら、HPを半分ぐらい削った感じか。嫌な現実感だ。
「もう一度撃つ! 時間を稼げ!」
ヴィクトルが叫んだ。その顔には疲労が浮かんでいる。さっきの大魔法で相当MPを食った筈だ。それでも、すぐさま二発目の詠唱に入るあたり、肝が据わっている。
「了解!」
セルティが短く答えた。同時に、彼女の横にいたフェンリルが低く唸る。
フェンリルは白銀の毛並みを逆立て、一体のバフォメットに飛びかかった。その巨体に合わせて、セルティも剣を構えて走る。召喚士なのに、本人も普通に強い。いや、召喚士だから後ろで守られているもの、という俺の認識が間違っているのかもしれない。
フェンリルが喉元を狙って跳び、バフォメットが腕を振るう。その爪がフェンリルの肩をかすめ、白銀の毛が舞った。だが、その隙にセルティの剣がバフォメットの膝を斬り裂く。
「はあっ!」
鋭い。昼間の学院生たちとは、やはり比較にもならない。
一方、ミラとノノのパーティーも別のバフォメットを抑えていた。ミラが前に出て、盾役らしい男と並んで攻撃を受け止める。ノノは背後に回り、バフォメットの隙をうかがっている。あのノノが真剣な顔をしていると、妙に新鮮だ。いや、普段から真面目ではあるのだが、俺の前ではどこか飄々としているからな。
俺も一体のバフォメットへ向かう。正直、怖い。 ゴブリンとは圧が違う。サイズも違う。見た目も普通に悪魔だ。角。蹄。山羊の顔。筋肉の塊みたいな上半身。近づくほどに、ぞわぞわと嫌な気配が肌を刺した。
でも、今は顔を隠している。鎧も替えている。 誰かに正体を見られる心配は、たぶん少ない。 ならば、多少は無茶が出来る。
「アイスボルト!」
牽制で氷弾を撃ち込む。バフォメットの胸に命中したそれは、表面を凍らせるだけで弾けた。大したダメージではない。だが、一瞬だけ動きは鈍った。
「そこ!」
俺はミスリル小剣を握り直し、懐へ飛び込む。 普通の剣では弾かれそうだったので、魔力を刃に纏わせる。
「ブレイド!」
薄い魔力の刃が小剣の周囲に伸びる。それを、バフォメットの脇腹へ叩き込んだ。
硬い。肉を斬っている感触ではなく、分厚いゴムの塊に刃を押し込んでいる様な感覚だった。それで
も、ミスリルと魔力刃の合わせ技なら通る。
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