劣等生パーティー
そして、依頼の日がやって来た。
俺たち大量の冒険者たちも、ギルドで集合してから、馬車で現地に運ばれる。
着いたのは、惑わしの野と呼ばれる草原の一角だ。付近には森があり、森の中にはダンジョンもあるという。
学院生たちは成績や特性に応じて、様々な地形に振り分けられ、演習を行うのだそうだ。
俺は、ソロ三人と二人組が一組集まったパーティーの担当となった。
と言っても、一人でやる訳ではない。
こちらも、ソロが三人、二人組が一組の計五人だ。実質、一人で一人を担当する形である。
で、俺が担当するのは、リュミエルという魔法使い少女らしい。魔法使いのソロ少女なんて、冒険者業界ではまず見られないタイプだ。少々、気が重い。
「ソロの女の子だ。俺たちオッサンが付くのはいやがるかと思って、若いお前にしたんだ。変な気は起こすなよ」
こちらのリーダー格であるゴモラには、そう釘を刺されてしまった。
顔を合わせてみれば、リュミエルは典型的な貴族の少女に見えた。
美しい金髪を、野外演習というのにツインの縦ロールにし、抜ける様に白い肌に、静かな湖面の様な青い瞳。手足はすらりと伸び、姿勢は良く、桜色の唇には常に自信ありげな笑みが浮かんでいる。
セルティを知らなければ、文句なく俺の知る最高の美少女となっただろう。
でも、どうしてこんな子がソロでいるのだ?
「はじめまして。リョウマといいます」
「リュミエルよ。……失礼だけど、あなた、歳はいくつ?」
「十四才です」
「はあ!?そんな歳で役に立つっていうの?」
彼女は十六才だった筈だ。そりゃ、こんな子供がお守役と知ったら、そういう反応になるだろう。
「ご心配なく。これでも、レベル二十ありますから」
「え、十四才でレベル二十?どんなモンスターを倒して来たら、その歳で二十まで上げられるのよ?」
今度は、別の意味で驚いた様だ。
「まあ、そこは内緒です。リュミエルさんのレベルは?」
相手は間違いなく貴族の筈だが、学院生である限りへりくだる必要はないと聞いている。
「十二よ」
これは、ミラやノノたちと同格ぐらいだ。けっこう頑張っていると言える。
そこから必要な打ち合わせを済まし、野外演習が始まった。
学院生は、リュミエルの他に、巨漢斧戦士のクールド、回復魔法を得意とする剣士のジャッジ、魔法剣士コンビのオスワール、メスライという面々だ。彼らで普通にパーティーを組めば良いのにと思うが、色々と事情があるのだろう。
俺も色んな秘密のせいで、ソロ主体になってる訳だし。
まずは、モンスター討伐だ。
学院生五人は、歩調を合わせる様子はないが、一応同じ方向に向かって歩き始めた。
先頭でイキっているのは、クールドだ。ウサギ系モンスターや鳥系モンスター相手に、両手斧を振り回しては、逃げられている。場を荒らしているだけなのだが、他の四人は冷笑を浮かべているだけで、怒っている感じではない。もっと大物しか、相手にする気がないのだろうか。
そうこうするうちに、前方に巨大な影が現れた。
クレイゴーレムだ。身長が三メートルぐらいある。
そんな相手にも、クールドは変わらず突っ込んで行った。胆力があるのか、馬鹿なのか……。
クレイゴーレムが手のひらを横薙ぎに振り回す。
ゴッ!という音とともに、クールドが吹っ飛んだ。
「え!?」
思わず声が出た。殴られるって想定もしてなかったのか。
今度は、ジャッジが前に出た。回復魔法が得意という割には、クールドの様子を見ようともしない。片手剣と盾という装備で、ゴーレムとの距離を詰めていく。
ジャッジだけでなく、学院生は誰もクールドに近寄ろうとしないので、仕方なくクールド担当のゴモラがポーションを片手に駆け寄って行く。
なるほどね。そういう者たちの集まりならば、パーティーなんか組み様もない訳だ。
ジャッジは、盾を前に出し、慎重に距離を詰めていた。
そこまでは良い。
そこまでは、まだ良かったのだ。
「はあっ!」
気合いとともに、ジャッジはクレイゴーレムの脚に斬りつけた。
カンッ!
いや、音がおかしい。
粘土の塊を斬った音ではなく、石でも叩いた様な音がした。見れば、ジャッジの剣はゴーレムの脚に浅い傷をつけただけで止まっている。
「硬い……!?」
「そりゃ硬いだろ!」
思わずツッコミが漏れた。
クレイゴーレムといっても、ただの泥団子ではない。魔力で凝縮され、芯の部分には核もある。少なくとも、何も考えず剣で斬ってどうにかなる相手ではない。
クレイゴーレムが、ゆっくりと腕を振り下ろした。
ジャッジは盾で受けようとした。
受けられる訳がない。
ズドンッ!という鈍い音が響き、盾ごと押し潰されかけたジャッジが地面を転がる。
「ぐっ……!」
幸い、直撃ではない。咄嗟に身を引いた分、腕と肩を痛めた程度だろう。けれど、立ち上がるには時間がかかりそうだ。
「次は私たちね」
「ええ。見せてあげましょう、凡人どもに」
次に前へ出たのは、魔法剣士コンビのオスワールとメスライだった。
二人は剣に魔力を流し、炎と風を纏わせる。見た目は派手だ。確かに、ただの剣士よりはゴーレムにダメージを通せるかもしれない。
ただし。
「合わせる気、あるのか……?」
俺が呟いた瞬間、二人は左右に分かれた。
いや、挟撃自体は悪くない。悪くないのだが、合図もなければタイミングも合っていない。オスワールが先に突っ込み、メスライはその背中を見てから慌てて走り出した。
「フレイムエッジ!」
「ウィンドスラスト!」
二つの魔法剣が、クレイゴーレムの両脚を狙う。
オスワールの炎刃がゴーレムの表面を焼き、メスライの風刃が粘土を削った。
おお、と少し感心しかけたところで、クレイゴーレムが身体を回した。
巨大な腕が、ぐるんと円を描く。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
二人は仲良く巻き込まれた。
オスワールは炎を出したまま吹っ飛び、メスライは風の魔力を暴発させながら地面を転がる。危うく、その風刃が近くにいたジャッジの足を削りかけた。
「危なっ!」
ジャッジ担当の冒険者が、慌てて彼を引きずって避難させる。
何だこれ。
モンスターより、学院生の方が怖いんだが。
「……おい、リョウマ」
クールドを引っ張って戻ってきたゴモラが、低い声で俺を呼んだ。
「はい」
「お前の担当、止められるか?」
見れば、リュミエルがゆっくりと前に出ていた。
その顔には、余裕の笑みが浮かんでいる。いや、余裕というより、ようやく自分の出番が来たと喜んでいる顔だ。
「皆さん、ずいぶん苦労なさっているのね」
リュミエルは縦ロールを指で払うと、杖を掲げた。
その瞬間、空気が変わった。
ピリ、と肌に痛みが走る。
草原に生えていた草が、風もないのに震え始めた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。何を使う気ですか?」
「決まっているでしょう。雷撃魔法よ」
「初級ですか?中級ですか?」
「上級に決まっているじゃない」
決まってない。
全然決まってない。
「ゴーレム一体に上級はやり過ぎです!せめて威力を絞って——」
「《雷神の槍よ、愚鈍なる土塊を穿ちなさい》」
聞いてない!
詠唱が始まった途端、リュミエルの周囲に青白い雷光が集まり始めた。杖の先端に魔力が凝縮され、眩しい光球となる。
クレイゴーレムも本能的に危険を感じたのか、こちらへ向かって歩き出した。
いや、歩き出すな。
お前が近づくと、こっちも巻き込まれるだろうが!
「全員、下がれぇ!」
ゴモラが吠えた。
俺も反射的に駆け出し、近くで倒れていたオスワールの襟首を掴む。もう一人の冒険者がメスライを抱え、ジャッジ担当がジャッジを引きずり、クールドは半泣きでゴモラに担がれている。
「サンダージャベリン!」
リュミエルの杖から、雷の槍が放たれた。
それは速かった。
速すぎた。
青白い閃光が草原を裂き、クレイゴーレムの胸部を貫く。次の瞬間、轟音とともに雷が爆ぜた。
ゴーレムの上半身が、内側から吹き飛んだ。
土と石片と魔力の残滓が、雨の様に降り注ぐ。
「うわっ!?」
俺はオスワールを抱えたまま、地面に伏せた。頭上を拳大の土塊が飛んで行き、少し先の地面にめり込む。
これ、直撃したら普通に死ぬやつでは?
しばらくして顔を上げると、クレイゴーレムは跡形もなかった。核ごと粉砕されたのだろう。
結果だけ見れば、見事な一撃である。
ただし、演習としては最悪だ。
「ふふん。どう?これが私の実力よ」
リュミエルは得意げに胸を張った。
だが、その直後、ぐらりと身体が傾く。
「……あら?」
俺は慌てて駆け寄り、彼女の肩を支えた。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ。少し、魔力を使いすぎただけ……」
顔色が真っ白だ。
少しどころではない。完全にMP切れである。
「普段は、どうやって戦ってるんですか?」
「今の魔法で倒すのよ」
「今の以外は?」
「……まともに使える攻撃魔法は、今のだけよ」
俺は無言になった。
ゴモラも無言になった。
他の冒険者たちも、無言になった。
学院生たちは土まみれで倒れ、リュミエルは一発撃っただけでふらついている。ゴーレムは倒せた。確かに倒せた。
だが、これを勝利と呼んで良いのだろうか。
「なあ、リョウマ」
ゴモラが、疲れ切った声で言った。
「はい」
「今日の依頼、俺たちが狩りを補助する仕事だったよな?」
「そう聞いてます」
「……これ、補助じゃなくて、介護じゃねえか?」
否定出来なかった。
俺たち五人は顔を見合わせ、揃って深いため息をついた。
前途多難。
その言葉が、これほどしっくり来る状況もなかなかなかった。
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