初の対人戦?
「……まずい」
俺は慌てて振り返る。
隠し通路の入口から、三人の男が入って来るところだった。 三人とも三十代から四十代ぐらい。装備はそれなりに整っているが、顔つきはあまりよろしくない。 いかにも、荒事に慣れている冒険者という感じだ。
先頭の男が、俺を見て目を細めた。
「ああ? なんだ、ガキじゃねえか」
二人目の男が、奥にある開いた宝箱を見た。
「おい、まさか……こいつ、もう開けやがったのか?」
三人目が舌打ちする。
「ふざけんなよ。せっかく見つけた隠し通路を、ガキ一人に先越されたってのか」
空気が悪い。
俺はすぐに愛想笑いを浮かべた。
「あ、えっと、すみません。俺、もう出ますんで」
下手に刺激しない。 こういう連中は、理屈より面子で動く。 宝箱の中身を渡せと言われたら、最悪、安物の指輪だけ渡して逃げることも考えるべきだ。
だが、先頭の男は腰の剣に手をかけた。
「おいガキ。中身、置いてけ」
「……え?」
「聞こえなかったのか? その宝箱の中身は俺たちのもんだ」
「いや、俺が先に見つけて……」
言い終わる前に、男が剣を抜いた。
ぞっとした。
脅しではない。 こいつら、本気で斬るつもりだ。
「ガキが隠し通路なんぞ見つけるから悪いんだよ!」
男が踏み込んで来る。
速い。
俺は咄嗟にブレイドを展開し、剣で受けた。 金属音と一緒に、腕が痺れる。
「ぐっ……!」
重い。 レベルが上がっているとはいえ、まともに鍛えた大人の冒険者三人を相手に出来るほどではない。
横から二人目が回り込んで来る。 逃げ道を塞ぐつもりだ。
俺はアイスボルトを放ったが、男は盾で弾いた。
「魔法も使えるのかよ、このガキ!」
「なら余計に生かしとけねえな!」
まずい。 本当にまずい。
ここで強い魔法を連発すれば、あとで面倒になる。 けれど、出し惜しみして死んだら意味がない。
俺は一瞬だけ迷い、すぐにメニューを開いた。
アイテム欄。 ゲーム開始時、課金石で買っておいたランダムペットモンスターの卵。
いつ使うか迷って、ずっと温存していたものだ。 まさか、こんな形で切ることになるとは思わなかった。
「頼むぞ……!」
俺は卵を使用した。
空間が光る。 通路いっぱいに魔法陣が広がり、その中心から巨大な影が現れた。
鶏のような頭。 鋭い嘴。 逞しい脚。 蛇のような尾。
体高二メートル近い、異形の鳥型モンスター。
「コ、コカトリス……?」
俺が呟いた瞬間、三人の男たちの顔色が変わった。
「な、なんでこんな所にコカトリスが!」
「知るか! 逃げ──」
最後まで言わせなかった。
コカトリスが、凄まじい速度で跳ねた。 太い脚が先頭の男の胸を蹴り飛ばす。 男は壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。
二人目が悲鳴を上げながら剣を振る。 だが、コカトリスは首をひょいと傾けて避けると、嘴で男の肩を突いた。 それだけで男は絶叫し、剣を取り落とす。
三人目は逃げようとした。 しかし、コカトリスの尾が鞭のようにしなり、足を払う。 転んだ男の背中に、コカトリスの脚がどすんと乗った。
「ひっ、ひいいい!」
「……殺すなよ」
俺が慌てて言うと、コカトリスは不満そうに首を傾げた。
通じている。 どうやら、ちゃんとペット扱いらしい。
俺は息を吐いた。
三人の男たちは、全員気絶している。 死んではいない。 たぶん。
「よし。俺は何もしてない。こいつらは隠し通路でモンスターに襲われた。そういうことだ」
自分に言い聞かせる。
実際、倒したのはコカトリスだ。 俺ではない。 いや、召喚したのは俺だが、それを言わなければ分からない。
俺はコカトリスを見上げた。
「助かった。ありがとう」
コカトリスは得意げに胸を張った。 ちょっと可愛い。
しかし、こんなものを連れて歩けば大騒ぎになる。 俺はすぐにインベントリへ戻した。 光に包まれ、コカトリスの姿が消える。
残ったのは、気絶したおっさん三人と、開いた宝箱だけだ。
「……帰ろ」
余計なことに関わる前に、俺は隠し通路を後にした。
ダンジョンを出ると、俺はいつも通り受付へ向かった。 そして、隠し通路で宝箱を見つけたこと、指輪が二つ入っていたことを報告する。
査定の結果、宝箱から手に入れたのは、俊敏を高める指輪だった。
力の指輪も俊敏の指輪も冒険者には需要があるらしく、二つ合わせて金貨十枚になった。
「金貨十枚……」
袋の重みを感じた瞬間、頬が緩みそうになる。 慌てて真面目な顔を作った。
受付嬢は感心したように俺を見る。
「リョウマさん、また隠し通路を見つけたんですか?」
「あ、はい。たまたまです」
「たまたまで二度も見つけられるものではありませんよ。探索の才能があるのかも知れませんね」
「いやあ、そんな大したものじゃ……」
俺は曖昧に笑う。
だが、周囲の冒険者たちの視線が、以前とは少し違っていた。
レベル一。 スキルなし。 お荷物。
そういう目だけではない。
あいつ、何か持ってるんじゃないか。 そういう探るような視線が混じっている。
その日のソロ行で、俺のレベルは八まで上がっていた。 新しく、アイスストームという範囲攻撃魔法も使えるようになった。
着実に強くなっている。 金も増えた。 切り札のコカトリスまで手に入った。
なのに、素直に喜べない。
「……目立ちすぎたかな」
俺は金貨の入った袋を懐にしまいながら、小さく呟いた。
強くなるのはいい。 稼げるのもいい。
だが、この世界で一番大事なのは、たぶんそこじゃない。
力を持っていると知られた時。 その力を、誰にどう利用されるか。
それを間違えたら、きっと取り返しがつかない。
俺は宿へ戻る道すがら、今日の出来事を頭の中で整理する。
指輪二つ。 隠し通路。 気絶したおっさん三人。 コカトリス。
「……うん。何もなかった。俺は宝箱を開けて帰って来ただけだ」
そういうことにしておこう。
ただし、次からはもっと慎重に動く。
そう決めた俺の視界の端で、メニューに新しい表示が出ていた。
――ペットモンスター:コカトリス
――名前を設定してください。
「名前……」
俺は少し考えた。
あの頼もしくも妙に得意げな姿を思い出し、苦笑する。
「じゃあ、お前はコッコだ」
途端、メニューに文字が刻まれる。
――コカトリス『コッコ』が登録されました。
こうして俺は、誰にも言えない相棒を一羽、手に入れたのだった。
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