レベル爆上げ
そしてまた、ミラパーティーでのお出かけ。
レベル上げ的には美味しくないが、様々な情報が手に入るこの機会を、俺はけっこう気に入っている。
今日はちょっと遠出して、羊のモンスター狩りである。
体長が三メートル近くあるが、あまり強くはない相手だ。ただ、その巨体と大量の体毛のせいで、耐久力がとんでもない。
そんな面倒なモンスターを狙って来たのは、その肉の調達が依頼に出されていた為である。
「つまり、美味しい、と?」
「ああ、とてつもなく美味いらしい」
俺の問いに、ロロが確信を込めて頷いた。
「食べた事は───?」
「ない」
「そっかぁ」
「悪いが、持って帰れないぐらいにドロップしないと、俺たちで食うって選択はないからな」
「持って帰れないって、具体的に何個だよ?」
「三個だな」
「四個目は食えるんだな?」
「ああ、でも、まず倒すのが大変なんだからな」
「まあ、それだけ頑張ってみるって事で───」
「リョウマ、やる気だね」
「肉だからな」
「理由が俗っぽい……」
ミラが呆れた様に笑う。 だが、俺は真剣だった。 レベル上げ的には美味しくない。依頼報酬もそこそこ。だが、美味い肉が食えるかもしれない。 それは、俺にとって十分すぎる動機だった。
草原の向こうに、目的の羊モンスターがいた。 体長三メートル。小さな白い山。 角は太く、身体を丸めて突進して来たら、人間など簡単に吹っ飛ぶだろう。
「まずは足止めする!」
俺は右手を掲げ、魔力を込めた。
「アイスボルト!」
放たれた氷の矢が、羊モンスターの前足に突き刺さる。 だが、毛が厚すぎる。 ダメージは通っているが、決定打には遠い。
「うわ、本当に硬いな……!」
俺は舌打ちしながら駆け出した。 剣を抜き、魔力を流し込む。
「ブレイド!」
剣の周囲に、淡い魔力の刃が重なる。 普通に斬るだけでは、あの毛と皮に弾かれる。ならば、剣を強化して斬り裂くしかない。
羊モンスターがこちらに気づき、鼻息を荒くした。 次の瞬間、巨体が地面を蹴る。
「リョウマ、来るぞ!」
「分かってる!」
正面から受ける気はない。
俺は横に跳び、すれ違いざまに前足へ斬撃を叩き込んだ。
ザシュッ、と手応え。 だが、浅い。
「この毛皮、反則だろ!」
それでも、怯ませる事は出来た。 俺は続けざまにアイスボルトを撃ち込み、動きを鈍らせる。 ミラが横から斬りかかり、ロロが目を狙う。
それでも羊モンスターは倒れない。 白い巨体を揺らし、何度も突進して来る。
俺は汗をかきながら、何度もブレイドを振るった。 正直、かなり本気だった。 経験値の為ではない。肉の為である。
「リョウマ、目が怖いよ!」
「肉が俺を呼んでるんだよ!」
「呼んでないと思う!」
そんなやり取りを挟みながらも、俺たちは一体、また一体と羊モンスターを倒していった。
一体目、肉なし。 二体目、肉一つ。 三体目、肉二つ目。 四体目、肉三つ目。
そして五体目。
俺は最後の力を振り絞る様に、羊モンスターの懐へ潜り込んだ。 突進後の隙。 狙うは首元。
「ブレイドォッ!」
魔力の刃が、白い毛皮を裂いた。 羊モンスターが大きく鳴き、巨体を傾ける。 ドスン、と地面が揺れた。
光となって消えた後、そこに残ったのは───肉。
「四つ目!」
俺は思わず拳を握った。
「よし、焼こう。今すぐ焼こう」
「気が早いな!?」
「鮮度が命だろ」
「ドロップ品に鮮度とかあるのかな……」
ミラが苦笑し、ロロが肩をすくめる。 俺はすでに気持ちが焼肉に向かっていた。
「近くに湖があったよな? 水場の近くで調理しよう」
「駄目だ!」
俺の提案に、ロロが血相を変えて叫んだ。
「え?」
「湖は駄目だ。絶対に近づくな」
「なんでだよ。水もあるし、景色も良さそうじゃないか」
「景色を楽しむ場所じゃない。あそこには、桁違いの大物が棲んでる」
ロロの声は、冗談ではなかった。 ミラも表情を引き締める。
「湖の主って呼ばれてるモンスターだよ。正確なレベルは分からないけど、この辺りで活動する冒険者が手を出せる相手じゃない」
「そんなに?」
「そんなにだ。しかも、匂いに敏感らしい。湖のほとりで肉なんか焼いたら、確実に寄って来る」
なるほど。 湖のほとりで焼肉。 大物が匂いに釣られて出て来る。 普通に考えれば、最悪の展開である。
「……分かった。離れよう」
「素直で助かる」
ロロは胸を撫で下ろした。
俺もそこで無茶をするつもりはなかった。
今日の目的は、あくまで肉を食う事だ。
俺たちは湖から十分に離れた場所を選び、簡単な野営の準備をした。 火を起こし、羊肉を串に刺す。 脂が火に落ちた瞬間、じゅう、とたまらない音が鳴った。
「うわ、匂いが……!」
「これは、確かに依頼が出る訳だな」
焼けた肉に塩を振り、かぶりつく。
瞬間、俺は言葉を失った。
柔らかい。 だが、頼りない柔らかさではない。 噛むたびに肉汁が溢れ、濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。 羊特有の香りはあるが、臭みではない。むしろ、それが肉の甘みを引き立てていた。
「うっま……」
それしか言えなかった。 ミラも、ロロも、後の二人も、しばらく無言で肉を食べていた。 会話などない。 あるのは、肉を噛む音と、幸せそうな吐息だけだった。
「これは危険だな。また狩りたくなる」
「まあ、それは分かる」
ロロが苦笑する。
俺は串に残った最後の一切れを見つめながら、ふと思った。
湖の主。匂いに釣られて出て来る大物。レベルが桁違い。
普通なら、避けるべき危険。だが、俺にはショップがある。 金さえ払えば、強力な魔法スクロールも買える。
あれ? これ、使えるんじゃないか?
ミラたちには言えない。
だから、その日は大人しく帰った。
そして翌日。
俺は一人で草原に来ていた。
「さて、羊狩り第二ラウンドだ」
目的は肉。そして、餌。
昨日と同じ様に、羊モンスターを狩る。アイスボルトで足を止め、ブレイドで斬りつける。一人なので少し手間はかかったが、昨日の経験がある分、動きは悪くない。
何体か倒したところで、肉が一つドロップした。
「よし」
俺はそれを持って、湖へ向かった。ロロの忠告は覚えている。だからこそ、準備はしてある。
インベントリを開き、目当ての品を確認する。 極大魔法スクロール『氷河』。 値段は高い。金貨一枚。だが、命を守り、経験値を得る為の投資と考えれば、安いものだ。
湖のほとりに着く。静かな水面。昨日見た時は綺麗な場所だと思ったが、今は底知れない不気味さがある。
俺は肉を串に刺し、火を起こした。
じゅう、と脂が落ちる。香ばしい匂いが、湖面へ流れていく。
「さあ、来い」
しばらくして、水面が揺れた。小さな波ではない。湖そのものが脈打つ様に、大きくうねる。
次の瞬間、水柱が上がった。
現れたのは、大蛇だった。全長数十メートル。 胴回りだけで、俺の身体など簡単に呑み込めそうな太さ。濡れた鱗が陽光を反射し、巨大な顎がこちらを向く。
「……これは、無理だな」
正面から戦えば、確実に死ぬ。だが、正面から戦う必要はない。
俺はスクロールを広げた。込められた魔力が解放され、空気が一気に冷える。
「極大魔法───氷河!」
白い光が湖面を走った。
音が消えた。風も、水しぶきも、大蛇の咆哮すらも、まとめて凍りついた。
次の瞬間、湖一面が氷の世界に変わる。大蛇は首をもたげた姿のまま、巨大な氷像となって固まっていた。そして、ひびが入る。
ぱきん。
小さな音を合図に、大蛇の身体が光となって砕け散った。
直後、俺の身体を凄まじい感覚が駆け抜けた。
レベルアップ。またレベルアップ。さらに、また。
「うお……っ!?」
膝が笑う。全身が熱い。いや、周囲は凍っているのだから、熱い訳がない。これは、身体の内側が作り替えられている感覚だ。
メニューを確認する。
レベル十八。
「……マジか」
昨日までの苦労は何だったのか。そう思ってしまうほど、一気に跳ね上がっていた。
俺は凍りついた湖を見渡し、それから手元の焼きかけの肉を見た。
「なるほどな」
肉で釣る。大物を出す。スクロールで仕留める。 経験値を稼ぐ。
金はかかる。だが、召喚された先で死なない為なら、安い。俺は、いつまた呼び出されてもいい様に、今のうちに強くなっておく必要がある。
俺は焼けた羊肉にかぶりついた。冷気の中で食べる熱々の肉は、昨日以上に美味かった。
「次も、この手で行くか」
誰にも聞かれていないのをいい事に、俺は小さく笑った。常識外れ?危険? 卑怯?
知った事か。
大物モンスターだろうが、湖の主だろうが、経験値になってくれるなら大歓迎である。
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