彼女の居場所
ミラのパーティーが隠し通路を発見し、中級ポーションを手に入れた話は、大いにギルドを賑わせた。
その隠し通路にはまだ続きがあるんじゃないかと考えた、いくつかのパーティーは、先を争って飛び出して行ったぐらいである。
先日の変異種からの撤退の件と合わせて、ミラパーティーは、若いながら一目置かれる存在となりつつあった。
中級ポーションは、金貨六枚になった。俺の手元にも、金貨が一枚入って来た。
パーティーとしては万々歳なのだが、俺にはまだ大事な要件が残っている。
皆で打ち上げをしている最中にノノに目を向けると、例によってギルドの裏庭に連れ出された。
「良い働きだったな、リョウマ。やっぱりお前は使えるな」
「で、情報の方は?」
「ああ。お前、この街にある学院を知っているか?」
「いや」
「ラムゼール魔法学院。要するに、貴族様方が魔法を習う所なんだが、そこにセルティという召喚魔法使いがいるらしい」
「本当か?」
「ああ、間違いない。でも、会おうったって無理だぜ。庶民が会いに行ける場所じゃねぇ」
「むぅ……」
「でも、いつかはチャンスもあるさ。それまでは大人しく待ってる事さ」
確かに、相手が貴族では分が悪い。居場所が判明しただけでも、ひとまず前進とするしかないか。
「ありがとう。助かった」
「……いや、それが約束だったからな」
ロロが、何かびっくりした様な表情になった。お礼を言われ慣れていないのか?
「じゃあ、戻るよ」
「本当に無茶はするなよ。……ああ、それと、その子は召喚のやり直しを試みてるって話だ」
「召喚のやり直し……?」
別れ際のセルティのセリフが甦る。
実際は「また……」としか聞こえなかったが、あれは「また、あなたを召喚する」と言っていた筈だ。召喚される条件というものが、あるのかないのか、あるとすれば何なのか、考える事が増えたが、彼女に会う為と思えば大した事ではない。
思わず笑みを浮かべる俺を、ロロが怪訝な表情で見つめていた。
宿に戻った俺は、ベッドに寝転ぶと、メニューのショップを試してみる事にした。
これまではロクにお金がなくて、手が付けられなかったのだ。でも、今の俺には金貨一枚という「大」金がある。
ちなみに、金貨一枚は日本円でいう十万円ぐらいみたいだ。
銀貨で一万円。銅貨で千円。半銅貨で五百円。大雑把だけど、そんな感じ。
ショップを開くと、更に『装備』『食料』『薬品』『魔法』『アイテム』『その他』と項目が開いた。
試しに『装備』を開くと、また『武器』『防具』『アクセサリー』の項目。『武器』を開けば、『剣』『棒』『弓矢』『盾』『その他』と続き、更に『剣』を開くと、やっと様々な剣のリストがズラズラと並べられた。
「すごいな、これは」
俺がゲームを始める時に買った課金のミスリル小剣を探してみれば、銀貨二枚の値段が付いていた。俺が実際に払ったお金は二千円ぐらいだったと思うから、十倍の値段だ。でも、この世界の店で買おうと思ったら、とてもじゃないがそんな値段では済まないだろう。
「これは、転売したら、とてつもなく儲かるんじゃ?」
それに、普通では手に入れられない高価なアイテムが、いつでも安価で手に入る訳だ。
このメリットは、大きい。いや、大き過ぎて、ヤバい。
魔族がどうのと言う前に、絶対囲われるか処刑されるか、だ。
「でも、使わない手はない」
また、いつでもセルティに召喚されても良い様に、準備だけはしておかないと。
俺は『魔法』の項目を開くと、魔法スクロールの一覧を眺め回した。
「お、あった」
極大氷魔法氷河……金貨一枚。
「うわっ、ちょうど金貨一枚かよ。……でも、買う!」
購入ボタンを押すと、インベントリから金貨一枚が消えて、チャリーンという音が響く。そして、替わりに魔法スクロールのアイコンが増えた。
「よしっ!」
と、その途端、「きっと、……きっと喚び出してみせるから……」そんな声が聞こえた声がした。
「ええっ!?」
びっきりして身体を起こすと、目の前にリナの顔があった。この宿の娘だ。
「ええっ!!」
リナもびっくりして、身を仰け反らす。
「ちょっ、お前、何で部屋にいるんだよ!?」
「お水を持って来てあげたんじゃない!いくら声をかけても反応ないから、寝てると思って、水だけ置いて行こうとしたのに……そしたら、またあんたが宙を眺めてニヤニヤしてるから……」
「あ……」
床を見れば、水の入った桶が置かれていた。
「悪い。疲れて、寝惚けてたみたいだ」
仕方なく、下手な嘘を吐く。
「大丈夫?冒険者に成り立てで、参ってるんじゃない?」
「いや、ホントに大丈夫だから」
何とかお水の礼を言いながら、リナを追い出した。いい子なんだけど、タイミングが悪過ぎる。俺が魔族か何かだったら、口封じされてる場面だろう。心配になってくる。
もうリナが部屋の前にもいないのを確かめてから、身体を拭く。
そうしながら、貴族に囲われるのは困るが、貴族の目に止まる様な冒険者になるのは、一つの方法としてアリだなと考えていた。
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