第21話 弱肉強食
(ク......コノワタシガ......タカガニンゲンゴトキ二.......)
(マアイイ......コンカイハ......ミノガシテヤル.......)
(マズハ.......イチドワガコキョウヘ......モドラネバ.......)
カーティス「まだ生きているな」
ゾーイの首根っこを掴むと、カーティスは耳元で囁いた。
カーティス「死んだふりなどしなくていい......お前が生きていることはわかっている」
全身の毛が逆立つ。
ゾーイの身体は今_______
圧倒的な恐怖に支配されていた。
ゾーイ「ド......ドウシテ......」
カーティス「お前たち上級魔族には核が存在する。普段は隠れているが、一度生命活動が停止することで体内に現れる。そして______それを破壊しない限り、決して死ぬことはない........そうだろう?」
ゾーイ「ナゼ......ソンナコトヲシッテイル........」
カーティス「これまで、お前のようなやつを何体も処分してるんだよ。実に......魔族らしい姑息な
生態だ」
(コ.....コイツ......)
自分の本能が正しかったことを、ゾーイは改めて悟った。
この男は、あまりにも危険すぎる。
だが___
ゾーイの中であるひとつの疑問が生まれる。
魔族の中でも、結界の扱いに関しては上位の存在であることを自負していたゾーイ。
そんな自身が作った結界を.......ましてや、多大な魔力を込めた最強の封牢を......
いとも簡単に破ったことが、どうしても腑に落ちなかった。
ゾーイ「ドウヤッテ......アノケッカイヲ.......」
カーティス「ゾル・アズースという魔族に聞き覚えは?」
その名を聞いて、ゾーイは驚愕する。
人間の口から、その言葉を聞くとは思いもしなかったからだ。
ゾーイ「サ.......サンダイマゾクノオヒトリ.......ケッカイオウ.......ワタシノ......シダ.......」
カーティス「そうか......やはりかなりの大物だったのか」
ゾーイ「ナゼ......アノオカタヲシッテイル......」
カーティス「もう10年近く前になるか.......グローリア大陸のとある村で出くわしてな」
「これから"魔法大国アインソフィア"を滅ぼしに行くと言ってたんでね......側近と一緒に処分させてもらったよ」
ゾーイ「ナ......ンダト......」
地下世界には、3体の強大な魔族が存在する。
そのうちの1体であるゾル・アズースは結界王と呼ばれ、多くの魔族から恐れられていた。
今から約10年程前______ゾル・アズースは数体の側近とともに突如その消息を絶つ。
普段から同族にほとんど興味を示さない魔族だが、地下世界では一時期その話題で持ちきりになるほどだった。
カーティス「やつの結界に比べたら、お前のソレはまるで子供の玩具だよ」
カーティスは冷酷にゾーイを見つめる。
まるで......虫けらでも眺めるかのように。
カーティス「それにしても______師が師なら、弟子も弟子だな。クズめ」
ゾーイの結界術の基礎はゾル・アズースから習得したものであった。
自分の礎を築いてくれた師.......
自分以外の全てを見下していたゾーイが、唯一崇拝している存在であった。
ゾーイ「ギ......ギザマァァァァ!!」
力のない声を上げながらカーティスを睨みつけるゾーイ。
そんなことなど意にも介さず、カーティスはゆっくりと本を開いた。
自然に次々とページがめくれていく。
そして____
それは真っ黒なページを開いた後、その動きを止めた。
「怨(オ"ーン")」
ヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥゥ
禍々しい黒いオーラが幾重にも折り重なりながらゾーイを包み込んでゆく。
ゾーイ「コ......コノ......ケッカイハ.......」
ゾーイはかつて、この結界を一度目にしている。
今、自身を包み込んでいる結界。
それは_______
カーティス「私は意外と慈悲深くてね。お前の最期を........師の結界で飾り付けてやろう」
ゾーイ「ナゼダ......ナゼオマエガ........アノカタノケッカイヲ.......イヤ......ソモソモニンゲンデアルオマエガ........マリョクヲモタナイニンゲンガ.........ドウシテケッカイジュツヲ.......」
カーティスは、自身の首飾りを軽く握った。
カーティス「昔......とある場所で便利な代物をいくつか"拝借"させてもらってね」
ゾーイを包み込む結界の内側では、黒いオーラが次々と束ねられてゆく。
それはいくつもの剣となり、ゾーイを取り囲んだ。
ゾーイ「ココマデノ......チカラヲモッテイナガラ......アクマデモ.......エンゴ二マワルトハ......」
「サイショカラ......サイゴマデ........キニクワナイ......ヤツメ.......」
カーティス「さようなら」
その言葉を合図に_______
グサグチュグチャグシャァァァァァアアア!!
数多の呪いの剣がゾーイの身体を貫く。
胸奥に光る黒い核が、音もなく砕け散り_______
ゾーイは断末魔を上げることもなく息絶えた。
その身体からは黒い霧が発生し、結界内を満たしている。
カーティス「死んだあとは瘴気を巻き散らす........本当に厄介な生き物だ」
カーティスは一度本を閉じると、それを結界の中へと放り投げた。
カーティス「食え」
その言葉と同時に勢いよく本が開く。
そのページには、無数の牙と大きな長い舌が生えていた。
それは、ゾーイの身体に飛び乗ると____
アグ......アグ.......ゴクン!
あっという間にその身体を呑み込んでしまった。
結界内の瘴気はたちまち消え去り、本も元の姿へと戻ってゆく。
手を伸ばし結界を消すと、カーティスは本を拾い上げ中身を確認した。
そこには、黒いページが1枚追加されている。
カーティス「マナが空になったか。途方もない力だが.......今の私には手に余る結界術だな」
カーティスは、そのページを見ながら先ほどゾーイが言ったことを思い返していた。
*
ゾーイ「ココマデノ......チカラヲモッテイナガラ......アクマデモ.......エンゴ二マワルトハ......」
*
本を閉じると、カーティスは自身が通って来た空洞を見つめた。
頭の中を過ったのは______
偶然にしてはあまりにも不自然な、ウィルとスピカとの出会い。
カーティス「あのふたりには......強くなってもらう必要があるんでね」




