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傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活)  作者: 天三津空らげ
終章 ショウネシーで待ってる

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315/316

315. 裁定

 真っ白な空間にマグダリーナはいた。

 マグダリーナだけではない。


 ルシン。それにタマ・シャリオ号で先に行った筈のダーモットにアンソニー、そしてレベッカとライアン。別行動していたはずのヴェリタスとパイパー。


 そして、エデン。


 誰がこの現象を起こしたのかは、誰もがわかっていた。


 ニレルがいる。神の光を纏って。

 それはマグダリーナの知っている女神の輝きより、少しだけ冷たく厳しいものだった。

 女神様は皆等しく慈愛を下さる存在だが、ニレルはその衣の裾に入れる者を選ぶ神だ。本能的にそうだとわかった。


 ニレルの横には、その手を握ったエステラと、2匹のスライムが微笑んでいる。


 この“場”に()ばれた者達は、新たな神の庇護を受けた者だと思って良いのだろう。


『世界の修復は成った』


 ニレルは静かにそう言った。

 神々しいその姿は、嵐の中の雷光のようであり、世界を覆う雪のように、美しく、恐ろしい。だが目を逸らすことは出来なかった。


『僕は神として、この場に()んだ者達を裁定しなくてはならない。何故なら僕は女神の造った物質世界を統べるものだから……』


 ニレルの瞳は、どこか硬質。

 だが名を呼ぶその声は、とても優しかった。


『リーナ、トニー、よく頑張ったね。皆、褒美に何が欲しい?』


(裁定って、そういう意味?!)


 ヒラとハラがぷるんぷるんとご機嫌に揺れる。


「遠慮しなくていいよぉ。エステラ(タラ)ニレル(ニィ)の新しいお名前貰ったしぃ」

「ハラとヒラは限界突破して、新たな進化を遂げたなの」

輝ける生命の(シグア)ディンギルスライムになったよぉ!」


 見た目は特に変わってない。敢えて言うなら、額の精石が星形になっていた。


 しかし神様からご褒美を貰えると言われても、直ぐに思いつくものはない……。


 皆戸惑っていたが、真っ先にアンソニーが叫んだ。


「行かないでニレル! ずっとぼく達とエステラの側にいてください!!」


 わたしもハッとした。


「そうよ! エステラと約束したんでしょう? それをしっかり守って。わたしとトニーの願いはそれだわ!」


 ニレルはいつもの優しいお兄さんの顔で笑う。


『ありがとう。その願いは僕の力になる。僕は一旦女神のところへ行き、それから必ずエステラの元に帰ってくる。ただ……』


 ニレルは厳しい表情になる。


『僕の中の神は、僕自身をも裁定する。事態がここまで複雑になったのは、僕が逃げていたせいだ。だから再び肉体を得て戻るまで100年……それが今のリーナとトニーの願いをくんで僕に課された条件だ」


 ヴェリタスは真っ直ぐニレルを見た。


「100年なんて冗談じゃないよ! エステラだけじゃない、俺達もニレルを待ってるんだ! 俺の願いは時間の短縮だ。もっとはやく会えるように!」


 ニレルの瞳が、驚きに揺れた。


「だったら俺も」

 ライアンが手をあげる。

「俺とヴェリタスで20年ずつ、合計40年の時間短縮を願う」

 レベッカが続いた。

「だったら私も20年!」

 パイパーも遠慮がちに言う。

「もし私にも願う資格があるのでしたら、更に20年の時間短縮を……」


 百年が一気に残り20年になった。


 ダーモットが微笑む。

 その言わんとする事を察して、ニレルは先手を打った。


『流石に今直ぐには無理だ。僕の中の神の部分もそれは赦しはしない』


「では1年。1年後に君は戻って来るんだ。みんなでショウネシー領で待ってるよ、ニレル」


 ニレルの中で一瞬、ダーモットの微笑みにエルフェーラのそれが重なる。


『……了解した。では1年後にまた会おう』


 ニレルの輪郭がぼやける。


「んはっ、俺とルシンは放置か?!」

『追って注意事項を伝達する』


 マグダリーナはエデンの声で現実を思い出した。これ、また女神教に影響するんじゃない? 王様にも報告必要そうだし。


「ニレル! 神様の方の貴方はなんて呼ぶようにしたらいい?!」


『好きなように……いや、“天の輝き(シャルガル)”そう呼称することにしよう』


 エステラの誕生日に贈った薔薇(ロサ)の名を言って、ニレルは輝きと共に消えた――


 眩い光の中、皆の意識も途絶えた。



◇◇◇



 その日は突然の雨だった。

 松田(まつだ)理奈(りな)は両手に買い物袋を提げて慌てて横断歩道橋を降りる。

 そして足を滑らせた。


 落ちてくる理奈(りな)に驚き、散歩中の犬の飼い主が、リードから手を離す。

 犬は車道に飛び出して、軽自動車が急ブレーキでハンドルを切った。なんとか犬を避けたものの、後続車がぶつかって、軽自動車は潰れた。


(大惨事じゃないの――!!)


 マグダリーナは映画でも見るように、どこか遠い気持ちでその状況を見ていた。


 やがて軽自動車から、見知った魂が浮かび上がる。


(エステラ――!!)


 ああそうだ。ルシンから離れたわたしは、ずっとその存在を追いかけていた。


 ウシュ帝国滅亡の反動で、別世界に飛ばされた女神のカケラを。この世界に連れて帰るために……。


 そして松田(まつだ) 理奈(りな)がやっと追いついたのだ。

  理奈(りな)の魂は、女神のカケラを大事に抱えて飛翔した。

 異世界へと――――


 前世のエステラへの罪悪感は一切無かった。この時の 理奈(りな)は、確かにルシンの二つ名である、白の死神としての本当の使命を果たしたのだ。



✴︎ ✴︎ ✴︎



 ススス王国の非確認飛行物体ゆーふぉの中で目覚めた。従魔達も含めて全員揃っている。

 先に目覚めていたのはエデンとエステラで、マグダリーナに気づくと手招きした。


「それは?」

 エデンが薄紅色の精石を眺めて、難しい顔をしている。


「元お師匠と私の精石よ。ハイエルフの精石としての役割が果たせなくなってしまったの。まあ、世界の修復の代償の一つね」

「エステラは大丈夫なの?」


 エステラの隣に座って、薔薇(ロサ)茶をいただく。

 エステラは前髪を上げた。その額に、ローズピンクの八芒星の精石が一つ輝いている。


「ニレルが新しい精石をくれたから大丈夫」

「良かった。エデンはなんで難しい顔をしてるの?」

「指輪にするか耳飾りにするか首飾りにするか悩んでるの」

「なるほど」

「でもね、お師匠が生まれ変わってもお師匠だった記憶はないじゃない? 昔の女の形見をいつまでも身につけられちゃ、きっとたまったもんじゃないわと、娘として的確なアドバイスをしたところ」

「あー、それは嫌よね」


 マグダリーナも深く同意した。

 そして悩みが平和で安心した。


「きっと1年なんて、あっという間よね」

 エステラはぽつりと呟いた。

 それからふわりと笑った。まだ寝ている周囲を眺めつつ。


「みんなありがとう。大好きよ」

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