316. ショウネシーで待ってる
ショウネシー領に帰ると、セレンがハイエルフになっていた。彼はエヴァが生まれ変わって来るのを、息子と共にこのショウネシー領で待つらしい。
いつまでも待つ男が、1人増えた。
だが、待てない者もいる。
エステラは冬の終わりに、ニレルの気配を感じた。
しかしあの後まもなくエデンに伝達された注意事項によると、ニレルはレーヴィーの厄災の最後の後片付け――フィスフィア王国ダンジョンの魔物の氾濫をどうにかしないと、リーン王国に入れないらしい。しかも今後ショウネシー領に行くまで、ハイエルフやエステラの従魔とも会ってはならないとの制約がある。
これが守れなかったら“ニレル”として肉体を持つことはできないそうだ。
それを知った後、エステラはマグダリーナの側で泣いた。
「無理。絶対無理。私はニレルのハイエルフだもん。気配は感じるのに逢っちゃダメなんて、我慢なんかできる自信がない……」
「エステラ……」
「……せっかくみんながすぐ逢えるようにしてくれたのに……」
マグダリーナは黙ってエステラを抱きしめた。
そうしてエステラは、強い決意を込めて言った。
「だから、ニレルの事を忘れることにする。大人しく待てるように。ニレルが、ショウネシーに来るまで」
そうして本当にエステラはニレルを忘れる魔法を、自分にかけてしまった。
という訳で、なるべくエステラの前でニレルの話題は出さないようにと家族に通達したところ、当然皆、エステラならしかたないという顔をした。
「どうせあと1年以内にニレルが戻って来たら思い出すんだろ? なら良いんじゃね?」
ちょうど遊びに来ていたヴェリタスが言う。
「仮にエステラが忘れたままでも、ニレルが頑張るだろうから心配ないんじゃないかな」
ライアンの言葉に、アンソニーも強く頷く。
本来の今日の家族会議の議題は「ライアンがエルフになったことを学園でどう説明するか」だった。
ショウネシー領内は本当に誰も気にしてなかった。混血だったエステラも耳が長くなったから、そういうこともあるんだろう第2弾だ。
ドワーフの子供達は、子供らしい率直さで「お兄ちゃんエルフだったの?」とズバッと聞いてきたけど「実はそうだったみたいだ」で「そうなんだー」と納得していた。中には「俺たちも魔法使い様のおかげで無くなった腕も生えたしな!」って笑う子達もいた。
皆、おおらか過ぎると思う。
「そうだわ! “ダンジョンの宝箱を開けたら、エルフになった”でどう? アルバート殿下の例もあるし」
「さすがに不敬にならないか?」
「あえて殿下の例を出さなければ良いのよ。ダンジョンならそういうこともあるかなって思わせれば勝ちよ!」
聖エルフェーラ教国がたった1日で滅んだことは、大陸中を震撼させた。
だがちゃっかりとデナード商業国が、教国の“貨幣鋳造の魔導具”を持ち出し、経済基盤が大きく崩れることはなかった。
そしてリーン王国はそこそこに、ショウネシーはいつも通り平和だった。
期待していたが、新たな神が増えたことで『女神教』の名が変更されることはなかった。
そしてわたしはとても大切な事を家族に伝える。
「お父さまの結婚式に向けて、家族全員脱毛してもらいます!!」
アンソニーが驚いた。
「ぶ……VIOもですか?!」
「そこは今回無しで。一般的な清潔感を出す範囲です!」
ドロシー王女の卒業も新学期も3月。もう間近に迫っていた。
そんな折りダーモットはとうとう、女神の塔のキングスライム部屋で“卵”を手にした。
それは恭しくクッションの入った籠に入れられ、ダーモットだけでなく、タマやシンも弟が生まれるとわくわくしている。
そして卵から生まれたスライムベビーは、僅かに透明感のある濃いブルーグレーの身体の中で、キラキラと星が輝いていた。どこかで見た感じのある特殊個体だが、誰も何も言わずに、大切に育てられている。
そうして3月半ば、とうとうダーモットとドロシー王女の結婚が執り行われた。
王都の神殿で女神像の前で婚姻の誓いをたてる。何故かヒラが2人の誓いの立会スライムになっていた。
「病める時もぉ健やかなる時もぉ、ちゃんとご飯を食べてぇ睡眠をとりぃ、疲れたら休みぃ、ふんわりとぉそして時に懸命に活動しぃ、たまに女神様を思い出し笑顔になりぃ、大事に大事に生きることを誓うぅ?」
「誓うよ」
「誓います」
その後は王都とショウネシー領で豪華な宴が行われた。
その夜、ダーモットはバルコニーで街明かりを眺めながら子守歌を歌っていた。
それは全ての家族と領民に向けた、優しい優しい子守歌。
ドロシーは夫になった人に寄り添って一緒に歌った。
ねんね ねんね すやすやねんね
月も星も 君が大好き
ねんね ねんね すやすやねんね
あした起きれば わくわくいっぱい
枕もとで 踊るよ
眠りの精霊 輪になって
キ-アグ キ-アグ 花のかおりを
ねむねむ眠りは 癒しの魔法
見えない光が 君をつつむ
ねんね ねんね すやすやねんね
女神はきょうも 君を見守り
ねんね ねんね すやすやねんね
あした起きても 側にいる
ずっと 君を あいしてる
一年後、ショウネシー領東門。
リィンの町がダンジョンと観光の町となったおかげで、ショウネシーに訪れる人は確実に増えていた。
門番は冒険者の格好をした青年から住民カードを受け取り破顔した。
「おかえりなさい! ショウネシーの皆で待ってましたよ」
「ありがとう、ただいま」
長い白金の髪を靡かせて、美貌の青年はショウネシー領に足を踏み入れた――
-終-
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