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傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活)  作者: 天三津空らげ
終章 ショウネシーで待ってる

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310/313

310. こんとん。と、混沌に溶けて

 ライアンが触れると、ゼフの額の宝石は、一瞬火花のような円形の光を瞬かせたあと、するりと取れた。

 黒い狼のゼフは、役目を全うして、光の粒になって消えていく。

 アンソニーがそっと口元を引き締め、涙を我慢していた。彼の手には、黒い毛並みを撫でた感触がまだ残っている……。


 驚いたライアンは、一応確認する。

「エステラ、これはあの中に入れて良いのか?」

「入れて入れて! すぐ入れて。長く持ってると、どんな影響あるかわかんない物だから。何なら、そこから投げ入れても良いわよ」


 釜の中をかき混ぜていたヒラとハラも、木のヘラから手を離して戻って来た。

 ライアンは頷いて、世界の綻びを集めて封じた宝石を投げ入れる。


 こん……とん。

 小さな音を響かせて、釜の中に沈んだ。


 ぱちぱち。しゅわしゅわ。しゅうしゅう。

 釜の中は小さな光を弾けさせはじめた。


 エステラは釜に近づき、中を確認する。


「うん、こんな感じかな。ヒラとハラは、リーナ達の近くにいてみんなを守ってね。レーヴィーがこの中に入ったら、この教会は崩れるから」

「わかったぁ。みんなぁ、ダモの周りにしゅうごーう!」


 ヒラとハラが、ぽてぽてやってくる。

 代わりにレーヴィーがぽてぽてエステラの側に行った。


 エステラはレーヴィーを拾い上げた。


「なんて言ったら良いのかしら。私がもし、貴方の立場だったら、きっとここまでできない……。だから」


 エステラはレーヴィーの頬に口づけた。


「まあ後はニレルと一緒に良いようにしておくから、心配しないで」


 レーヴィーの瞳から、ホロリと涙が溢れた。


『私はこの一瞬の為だけに、今まで有り続けたのだろう』


 レーヴィーは釜の縁に上り、スライムの身体を脱ぎ捨て、精霊としての最後の灯りを灯す。


『……我、創世の女神の名において願い奉る。我が権能の全てを、私の〈女神の星光(エステラ)〉に……!』


 エステラは驚いて、レーヴィーを振り返った。その瞳が揺れる。


『そして“神の御座位(みざくら)”につく新たな神による世界の修復が、我が魂を糧に成さしめ賜わんことを…………!!』


 レーヴィーの輝きが、眩くあたりを照らす。

 そして彼はゆっくりと、釜の中へと沈んだ――


 エステラはくしゃくしゃの泣きそうな顔をした。

 そんな顔をしても、エステラは可愛いなどとマグダリーナが暢気に考えた瞬間、ぞくりとするほど、強烈な魔力の波動を感じた。


 エステラは驚きのあまり涙が引っ込み、茫然と呟いた。


「お師匠……、なんで?」


 その視線の先には、どこから現れたのか、魔力で造られた矢がある。それはエステラの師匠のディオンヌの魔力だった。

 そしてそれは既にエステラの額の精石を貫いていて。


 エステラはそのまま、レーヴィーが溶けた釜の中に、倒れて沈んだ。


エステラ(タラ)ぁぁぁっ!!!」

「エステラ――っ!!」


 ヒラとマグダリーナは、同時に叫んだ。

 釜に駆け寄ろうとしたマグダリーナとヒラを、誰かが突き飛ばす。


 ダーモットだ。

 ダーモットはそのまま、釜から現れた、黒い帯の様なものに巻き取られ。


 釜は触手のように帯をうねらせ、捕らえたものを引き込んで型を変えていく。


「ナード!!」

「くそっ、レベッカから離れろ!」


 同じく黒帯に巻き取られたナードをたすけようと、ナードと共にレベッカが捕らえられ、レベッカを助けようとライアンは剣を抜いたが、幻のように剣身がすり抜けた。2人と1匹がのみこまれていく。


 そして同時に、シンとタマ、アンソニーも。


「なんなのこれ?!」


 マグダリーナとヒラは思い切り突き飛ばされたおかげで、黒帯触手の射程範囲外に出たようだ。怪我も、咄嗟にハラが大きくなって受け止めてくれたので、何処にもない。


 気がつけば半月の形だった釜は、満月のような球体になって、質感材質も変わっている。皆を閉じ込めたまま――


「ど、どうしよう……」

「えいぃ!」


 とぷん。と小さな音がして、ヒラが球体のなかに手を突っ込んだ。


「いけそうなの?」

 ハラが真剣な目で確認する。

「んんーっ、確かに存在を感じるのぉ。でもみんな苺とぉ、りんごのぉ、混ぜ混ぜジュースにぃなったみたいな感じぃ。存在をぉ、掴めないぃぃ」


 しゅるると手を元に戻して、ヒラは戻って来た。

 ハラと額を合わせて情報共有をする。


「やばいなの」

 ハラは振り返ってマグダリーナを見た。

 心臓が、くるしい。


「ヒラはぁ、雷からここを守るぅ。時間稼ぐからぁ」


 ヒラがうーんと魔力をこめて光を放ち、結界のようなものを張ったのがわかった。

 ハラはじっとマグダリーナを見て言った。


「リーナ、アレなの。アレを使う時なの」

「助かるの……? 助けられるの? みんな……」


 ヒラは難しい顔をしている。

「やってみないと、わかんないなの。でもさっきの魔力はディオンヌのだったの。待ってても状況は変わんないなの!」


 そうだ。ヒラの言う通りだ。

 こんな時のために、エステラは大事な魔法を分けてくれたのだ。


 マグダリーナはすっと目を閉じて、深呼吸した。


(ここは優しい雪と美しく香る薔薇(ロサ)の溢れるススス王国の神域……)


 エステラから魔法を受け取った、あの場所を思い浮かべる。


 ハイエルフでも原初の魔法使いでもないマグダリーナは、まず神域を肌で感じられるほど想像(イメージ)する必要があった。


 ふわりとマグダリーナの髪が風に靡く。微かな光をはらんで。


 ハラは息を潜めて見守った。


「我が願いに、世界よ震えよ」


 マグダリーナは、目を瞑ったまま詠唱をはじめた――


「震えながら(ことわり)を超えよ」


 両手を胸の前で組む。


「我、リィンの町の長なるもの。ショウネシーの魔法使いの代行者なり。ゲインズ領の大魔法使いの最後の魔法、そのふたつ目を行使する。(いで)よ権能持ちし始まりのハイエルフよ、今が、その時!!」


 マグダリーナの腕輪から、眩い銀の輝きがあたりを満たす。


(どうして――!!)


 光が収まり、姿を現した者を見て、マグダリーナは思い切り叫んだ。


「チェンジ!!」


 続けてハラも叫んだ。


「入れ替えなの!!」

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