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傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活)  作者: 天三津空らげ
終章 ショウネシーで待ってる

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308. 灰の中から

 ハンフリーは、奇跡の魔法の小瓶をルシンに渡そうとした。


「これはやはり、君か他のハイエルフが使った方が確実だろう」


 だがルシンは受け取らなかった。

「……俺にはとっくに、生まれる前から契約していた精霊がいる。俺は星読みの権能を、無意識にその精霊と共有していた。だがその精霊にはもう、死者を蘇生するほど力は無い」


 聖エルフェーラ教国の大精霊レーヴィー。

 エヴァが護っていた、今世の己の精石が教えてくれた……。自分が彼の共犯者であり、その為にもう1度生を受けてきたことを。

 当然だった。

 レーヴィーを見出したのは、己の星読みの力だったのだから。


 創世の時も。ウシュ帝国滅亡の時も。

 この世界の滅びを拒否したのは、ルシンとエルフェーラとディオンヌだった。

 女神が本当は、諦めたくないと思っていたことを知っていたから……。

 もし世界を造りなおしたその時に、1番目に生まれるハイエルフが、”今とは違う“エデンになることを知っていたから……。


 たった3人のハイエルフの我儘で、多くの苦難を人々に与えてしまった――。

 だから今、ルシンに与えられた消失は、当然の報いだった。


 でも、セレンとエヴァに罪はないのだ。


「女神は慈愛深い方だ。こんな俺でも許してくれている……。その小瓶は単純に”願いが叶う“小瓶だ。精霊と共に願えばいい」


 ハンフリーの顔に、安堵の灯りが灯る。

 ルシンはハンフリーの前に跪き、両手を重ねて胸元に置いて身を屈め……そして(こうべ)を垂れた。


「ハンフリー・ショウネシー様、その小瓶は貴方のもっと大切な願いを叶えることも出来る。ですがどうか、我が父セレン・エルロンドの命をお助け下さい。代わりに俺はこの身の限り何でも貴方に差し上げます」

「いや、要らない」


 ハンフリーは即答した。


「私の望みは、我が領民の死は安らかな寿命であることだ。不可能に近いことはわかっている……だからまずは、理不尽な暴力による死を撲滅したい。つまり、君の望みと私の望みは一致している」

「……っ」

「ルシン……それに君の主人はエステラだ。彼女のためにも、その身は軽く扱ってはいけない。さあ、立って。ハイエルフが風邪を引いたら、領民皆が心配してしまう」


 ハンフリーはルシンの腕を取った。それからふと、何か思いついた顔をした。


「前言撤回だ。私は1つだけ、君に対価として命じたいことがある」

「なんでしょう?」

「セレンが無事目覚めたら、たった1回でいい、『父さん』と呼んであげてくれ」


 ハンフリーは微笑んで、小瓶を掴み直しセレンの遺体に向き合った。ルシンはただ黙って、ハンフリーに頭を下げた。


「精霊エルフェーラよ、我が願いに力を貸して欲しい」

『ええ、勿論そうしましょう』


 ハンフリーの背後に、黄金に輝く精霊エルフェーラが顕現した。


『ルシン、エヴァの精石を彼の胸に』


 ルシンは頷いて、翡翠のようなエヴァの精石をセレンの胸元に置いた。


『ではハンフリー、願いを口にしてセレンに向けて小瓶の蓋を開けて。後の細かい調整は、わたくしがします』


 ハンフリーは頷いた。

「創世の女神よ、どうか、我が領民のセレンを生き返らせて下さい」


 漆黒の小瓶は、蓋を開けた一瞬だけハンフリーの手の中で震えたかと思うと、光の粒となって消えた。

 そして。

 セレンの亡骸から、青白い火柱が立ち上がる。

 吹雪は止み、雪の代わりに灰が舞う。


「これは……?!」

『心配いらないわ。女神の炉の炎で、彼の身体を造り直しているのよ』


 炎が消えると、灰の山があり、その中からゆっくりとセレンが起き上がる。


「創世の女神よ、感謝致します」

 黒マゴーの転移魔法に入れて貰えず、吹雪の中を隊列を組んで追いかけてきたコッコ(メス)達が、ハンフリーを取り囲む。


「……ルシンは? 無事か?」

 セレンの第一声がそれだった。

 ルシンは震えながら1歩踏み出し、セレンに声をかける。


「……父さん」

 その声に、セレンはつい先程まで、物言わぬ死体だったことなど無かったかのように、頬を上気させて満面の喜色を浮かべた。

「ルシン!! 良かった……そなたが無事で」

 いつもの通りにセレンはルシンを抱きしめた。生まれたままの姿で。

 黒マゴーが外套を取り出し、そっとセレンの肩にかけた。


「もう良いだろ……」

 ルシンはそっと、セレンを引き剥がす。そしてその額に輝くエヴァの精石を見て、目を丸くしてエルフェーラを見た。


「これは?」

『ああ、それ? 器を新たに造り直しついでに、女神にお願いしてハイエルフにしていただいたの。セレン、大変でしょうがルシンをお願いしますね。いずれエヴァももう1度貴方と出会う為にやってくるでしょう』


 エルフェーラの言葉に、セレンも目を丸くして額に触れる。


「ハイエルフ……? 私が?」


 そしてほろりと涙を流した。

「ああ、今度は私がエヴァを待つ番なのだな……このショウネシーで……」


 エルフェーラはルシンに微笑んだ。


『ルシン……わたくしは世界の再創造を拒んだことに、一片の罪悪感も後悔もないのよ。だってわたくしは、この世界に生まれた生命として、正当な権利を行使しただけだもの』

「エルフェーラ……」

『貴方も堂々となさい。あの時のわたくし達は、確かに世界の行く末を変える場所にいたのでしょう。ですがそれ以降の世界は、その時の数多の生命が歩みの流れを決めたのです。以前似たようなことを、貴方はマグダリーナにも言ったはずよ』


 言いたいことだけ言うと、エルフェーラは光が解けるように消えた。

 毒熊事件のことを思い出して、ルシンは苦笑いした。



◇◇◇



 早朝4時から始まった、デナード商業国の闇競売は、まずまずの盛り上がりを見せていた。

 開始時間も会場も、毎回違う。

 商品も武器や美術品、魔導具や人……多岐に渡った。


 この国に王はなく、東西南北と裏に分けた大主(たいしゅ)と呼ばれる5人の経済支配者達が国を動かしていた。

 その大主(たいしゅ)の1人、デナード商業国の裏世界を統べる男リブロは、競売の舞台裏でスパイスの入った熱い葡萄酒を飲みながら様子を見ていた。上質の黒い服、黒い手袋をしたエルフの血を引く端正な顔立ちの男だった。

 競売の参加者に他の大主(たいしゅ)もいる。面倒ごとはなるべく避けたいが、ススス王国ができてから、大主(たいしゅ)達の機嫌は芳しくなかった。


「最後の商品は――」

 競売の進行役がそう言った瞬間、会場の灯りが消えて、その空気が震えた。


 暗闇の中、魔法の光を纏って、美しい青年が現れたのだ。


 白い衣装に白金の長い髪、そしてエルフのような長い耳……。

 微かに輝きながら、彼……ニレルは、ゆっくりと舞台に上がっていく。

 誰もが静かに彼の挙動を追っていた。

 

「商品は、僕だ」


 リブロと、参加者達が息を呑む。

 このような青年の出品など、知らされていなかった。

 リブロはオリガの孫を捕らえ損ねた時に見た、美しい少女の面影を鮮明に思い出す。

 この男は、あの少女と“同じもの”だ――


 ふいに、青年と目が合う。リブロは手にしていた葡萄酒のカップを置いた。


「より、正確に言えば、僕に仕える権利だ。落札者には、すぐに大きな仕事をしてもらうことになる。早い者勝ちとしよう」


 二レルは壇上に用意された椅子に、足を組んで傲慢に人々を見下ろす。


 参加者達から嘲笑が漏れる。何を言っているのかこの青年は。


「さあ、僕のものになりたいのは誰だ?」


 青年がそう問う。

 しっかり施錠された空間に、にわかに風が流れ出す。精霊だ。そして薄暗い壇上に、彼の魔力と精霊の輝きが。


 神秘の光が、二レルの美麗を彩り、ただひととき、神をも信じぬ人々の(こうべ)を垂れさせた――


 会場全体の澱んだ空気が、澄み渡る香りの鮮烈なものとなって肌に突き刺さる。

 人々は何かを感じつつも、それを振り払うかのように身じろぎしはじめた。


 リブロの背筋がふるえた。

 この機会を逃せば“彼ら”との縁は途切れてしまうだろう。

 彼は即断した。


「10億!」


 会場はざわついた。

 「裏」の大主(たいしゅ)であるあの男が、そんな大金をということは、この話は儲かるのだ。そんな思惑で、他の大主(たいしゅ)達からも声が上がる。


「10億2千万」

「11億!」


「僕が欲しいのは、即決断して動けるものだ。はじめに早い者勝ちだと言っただろう。10億の彼が落札者だ」


 慌てて進行役が落札の木槌を打つ。

 こんな無茶苦茶な競売は初めてだった。


 ニレルは転移魔法で、落札者の男を目の前に呼び寄せる。そして驚愕している彼の頭に手を(かざ)した。その為すべきことを直接脳裏に伝え、必要な魔法の入った小さな封筒を渡して。


「では、後は任せた」

「待て……! そんなもの、俺のような者に任せて良いのか?!」

「失われてしまうよりは、まだ良いだろう」


 そう言って、男の主人は消えた。



 競売終了後、売上を確認する「裏」の男達の元に、「東」「西」の大主(たいしゅ)がやってきた。


「リブロは何処だ? あのエルフは一体なんだったんだ?! あの空と関係があるのか?」


 「裏」の大主(たいしゅ)、リブロの腹心の一人が対応する。裏に属する者達は、エルロンドから流れてきた混血が多い。この男もそうだった。


「我らが大主(たいしゅ)は今この国にはおりません」

「どういうことだ?!」


 夜が明けたのに薄暗く、天からは不気味な轟音が鳴り響いている。光を撒き散らしながら。


「リブロ様から伝言が御座います」


 雷鳴が鳴り響く。その轟音に男達は震え上がった。雷光が、あたりを照らす。


 リブロの部下も、背筋が泡立つ恐怖を必死に堪えていた。


「この“雷”はリーン王国の神……。行き先は教国なので、この国の被害は少ないとのこと。我々闇ギルドが今後リーン王国とススス王国に関与しないことを条件に、リブロ様は落札した主人から、これから廃墟と化す教国から“貨幣鋳造の魔導具”を持ち出す手段を得たとのこと。早速精鋭部隊と仕事に向かいました」


 東西の大主(たいしゅ)達は、ごくりと喉を鳴らした。


「リブロはその魔導具をどうするつもりだ……?」

「さて? そこまでは。私が賜ったのは、まずは大主(たいしゅ)の皆様に本日聖エルフェーラ教国がなくなることをお伝えすることでしたので」


 西の大主(たいしゅ)は、すぐさま通信魔導具を取り出した。

「今すぐ教国との関連事業を切り離せ!」


 東の大主(たいしゅ)も踵を返して出ていった。

 貨幣鋳造の益を考える前に、目の前に迫った損失を最小限にしないといけない。


 当然「裏」の方も、いち早くその対応に動いていた。

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