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傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活)  作者: 天三津空らげ
終章 ショウネシーで待ってる

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303/316

303. 黄昏に佇む

 本当の名前など、とうに忘れた。


 もうすぐ子が生まれると、幸せそうにお腹を撫でて微笑む女。

 珍しい薄荷色の髪をした、世にも美しい女。

 オリガ。

 美と幸福を手に入れたあの女の全てを奪うと決めた時から。


 本当の姿など、とうに忘れた。


 オリガの姿を手に入れたから。


 オリガとその夫は、教国にまつろわぬ異端の流民だった。名も知らぬ古い女神を祀っていた。


 否、私は忘れちゃいない。

 己がエルフとの混血であったことを、惨めな奴隷だったことを。


 だからオリガの姿と名を、そして娘を奪い、その伴侶の生命も奪った。


 私の世界は醜く汚く、生きづらい。

 美しいものは皆、私達の苦しみを踏みしめた結果そこにある。ならばどんな容赦も要らない。私を守ってくれる大精霊様とゼフ様だけが信じるに値するもの。


 だが、オリガの姿は老けるのが早かった。あの姿自身に魔法的な神秘が宿っていたかのように、私を拒絶する。


 そこに現れたのがこの美しいエルフの女の遺体。額に傷があることは残念だが、死して尚輝きが朽ちぬ、永遠の肉体。

 姿変えの魔法などではない。ゼフ様のお力を借りて、死の直前に直接その器を手に入れたのだ。


 ショウネシーを呪うために。

 全てを焦土とするために。



 ✴︎ ✴︎ ✴︎



 冷たい雪だった。それでも昏く黄昏れは訪れる。

 冷たい人生だった。それは王になると決めた時から理解していた。


 そうで無くても、己は黄昏れに向かってしか生きられぬ(たち)であった。

 誰かの喜びを分かち合って幸福を感じることなどない。いつも飢えて渇き、落ち着かぬ心を持て余していた。


 エルフ族はその力の有り様が、美醜に現れる。だが自分は産まれてすぐこの顔に醜い痣を、歪んだ骨格を与えられた。赤子の扱い方のわからぬ粗忽者のせいで。

 それは己のせいでは無いし、己の価値とはまた別であるはずだった。


 しかし誰もが彼を嘲笑した。


 だからまず、姿変えの魔法を覚えた。

 美麗な見目になれば、彼への嘲笑は無くなった。

 だがそれで満足など出来なかった。


 兄弟達を弑して王座に着いた後も。


 そして王になった時、先王より、創世から語り継がれてきた“神の御座位(みざくら)“の存在を知らされ、初めて彼……エルフ族の王、シャザーンは胸を躍らせた。


 それは我が物。神となるのはこの私しかないのだ――


 だから教国へ向かい、大精霊が他人の身体に入り込む技を観察した。

 いつ現れるともわからぬ、その存在を待つ為に。


 研鑽を怠らず、長い年月をかけて、魔法を完成させた。

 己の“血縁者の身体”を“器”として奪う魔法を。


 シャザーンはちらりと同行者の女を見た。

 今はハイエルフの亡骸に入っているオリガ。彼女はシャザーンがゼフの名を騙り、魔法の実験体としたものだった。


 生物に対する改造魔法が得意なエルフは、新たな魔法を生み出す際には、まずその不完全な魔法を他人を改造して移植する。そして様子を見ながら改良していくのだ。


 オリガは随分と役に立った。


 きっとショウネシー領でも、役にたつはず――


 あとは、息子の身体と神御座位(みざくら)を手に入れれば――――

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