302. 崩壊の前日
エデンやシグアグルム達と別れ、マグダリーナ達は無事家族旅行の体で聖エルフェーラ教国の中に入り込んだ。
しかしその時には、エステラとアンソニーが連れ去られたであろう聖十一教会の周囲には、武装集団が包囲していた。
パイパーが慣れた様子で、付近の住人に尋ねる。
「私達、今日この国に巡礼に来たのですが、一体何があったんですか?」
「それがなんでもねぇ、教皇様がお亡くなりになった途端に賊が入り込んで聖十一教会を占領したらしいんだよ」
「まあ、怖い。こんな大きな包囲網を展開するなんて、賊はかなり人数の多い集団かしら? 賊は何を要求してるの?」
「え? さあなあ。言われてみたら、教会の中は静かだし……確かに変だなぁ」
さすが本職の諜報員だっただけある。
マグダリーナ達は頷き合って、パイパーの真似をして住民達の疑問と不安を煽っていった。
まあまずこの武装集団をどうにかしないと、教会に入れないからね。
幸い教国側もこの騒動のせいで、ショウネシー家の入国に注意を払う余裕はないよう。
早速ハラがスライム影の軍団を操り、情報収集をはじめた。
マグダリーナは辺りを見回した。聖エルフェーラ教国では魔獣を使役するような者はいないとパイパーから事前に聞いておいて良かったと思う。
スライム達はどこにでもいる弱小魔獣だから連れていても警戒はされない。
ヒラとハラとモモ、シンはその色と輝きで、特殊個体の子を収集してるのかで納得されているようだ。
同様にヴヴも、バンダナを巻いて額の宝石を隠せば角兎の幼体をペットにしてると思われているようで大丈夫。ライアンのベストのポケットにしっかり入り込み、顔だけちょこんと出している。
ナード、ゼラ、プラの3匹は、ゆーふぉにいる間に、シグアグルム達がぬいぐるみに見える魔法と軽量化の魔法が付与された服やマント、リボンなどで飾りつけてくれた。
当然ナードはレベッカ、マグダリーナはプラ、ゼラはダーモットが抱っこしている。上機嫌で。
問題はササミ(メス)だが、ぬいぐるみにしても嵩張るので、パイパーが大きな鞄に入れて運んでいる。
「お父さま、とりあえず宿を確保しましょう」
こんなところでは、あの教会の包囲網をどう突破するか、話あうこともできない。
「でしたらお薦めの宿があります。……というか皆さまの生活水準に合わせると、いささかお薦めとは言いにくいのですが、教会を見渡せる場所にあって、拠点にするには最適かと」
今の生活水準に匹敵する国など、ススス王国くらいだろう。そこは期待してないので大丈夫。
……なんだけど、パイパーが案内してくれたのは、誰が見ても高位貴族が利用するための高級宿だった。
貧乏性が抜けきれないマグダリーナとダーモットが驚いていると、パイパーが「貴族家の家族旅行ですから、あまり安宿だと逆に怪しまれます」と全くもってその通りなことを言い、1番大きな部屋を取ってしまった。
宿の部屋に入ると、その絢爛豪華さに驚いた。数多くの燭台。縁を黄金の色に塗られた木製の家具達。そして色とりどりの糸で織られた壁のタペストリーには、光輝く黒髪のエルフの女性が描かれていた。
「女神エルフェーラ様だわ」
タペストリーを見て、レベッカが自身の黒歴史を見せられたかのように、気まずそうに頬を赤らめた。
マグダリーナも近づいて眺めた。黒髪の中に青や紫、緑等の色も織り交ぜてあり、素人目にも芸術品として価値の高いものだとわかる。
「教会のエルフェーラ様は黒髪なのね……」
「女神の身姿を描くのに、背景が暗い色彩だと合いませんでしょう? その為に明るい背景色に映える黒や濃茶で描かれるようになったのです」
パイパーの説明は、理屈では納得できるが、それでいいものなのと思わずツッコミたくなる。
ただっ広い部屋で、パイパーが直ぐに暖炉に火を入れてくれた。
「この広さですから、温まるまで時間がかかります。まだ上着はお脱ぎにならないでください」
普通の貴族は使用人が脱がせてくれるまで何もしないものだけど、ここにそんな常識を持った貴族はいない。それが十分にわかっているパイパーは、一声かけた。そして荷物の箱から、ササミ(メス)を出してやる。
『随分と物々しいではないか』
ササミ(メス)は、誰かに気づかれたりしないよう、こっそりと窓から外を覗く。
「やっぱりこの国の中では、転移魔法は使えないなの」
魔法画面を出し、スライム影の軍団からの情報を整理しながら、ハラが言った。
「……まあ、そもそもそれが出来たら、エステラやトニーもとっくにあの教会から出てきてるよな」
「ひとつだけ抜け道があるなの!」
ハラの瞳がキランと光った。
「妖精のいたずらなの!!」
全員の視線が、ナードに集まった。
くまっ くまくまっぷぷー
ナードはしっかりレベッカに抱きついて、絶対離れない強い意志を示した。
「困ったわ。ナードが作る妖精のいたずらは、せいぜい私とナードが通れるくらいしかありませんわよ」
「ヒラとハラとモモなら、レベッカにくっついて一緒に行けるんじゃないかしら」
「リーナお姉様ったら! エステラお姉様のところに行かないと行けないのはリーナお姉様とライアンお兄様ですのよ! ナード、私の代わりにリーナお姉様と行って来てくれる?」
いやっぷー!!
ナードはイヤイヤとレベッカにしっかりとくっ付いた。
ダーモットがそっとレベッカを撫でた。
「レベッカ、ナードと一緒にヒラくん達を連れてってやってくれ。そうすればエステラやトニーもこちら側の支援が出来るかもしれない。リーナとライアンは、私が責任持って連れていくよ」
「え? どうやって?」
マグダリーナは冷静にツッコんだ。嫌な予感しかない。
ダーモットはいつも通りののんびりさで笑った。ディオンヌ商会印の収納ボディバッグをポンポンと叩く。
「ここに、家族用のウイングボードが入ってるから」
「それって、紛れもなく正面突破ぁぁぁぁ!!!!」
マグダリーナは叫んだ。
「さすが伯爵! んじゃおれとパイパーさんはゼラとササミと一緒に別のボードに乗って撹乱行動すっから。んでその後別行動な」
ヴェリタスはパイパーに頭を下げた。
「ライアンやレベッカと一緒に居たいだろうけど、今回は俺と一緒に来て下さい」
「あの……どうして……?」
当然パイパーは戸惑った。
ヴェリタスはニヤリと笑う。
「だってさ、聖女の聖属性魔力を燃料にしてるって魔導具、ぶっ壊しておかなきゃだろ?」
パイパーは驚いた。
確かにあの魔導具達がある限り、いつレベッカが狙われるかわからない。
「それにゼラとササミには、なるべく多くの住民を周辺国に避難させてもらわないとだし。リーナ達が教会に侵入して何かが起こってるって思われてる間に動かなきゃな」
「ルタ……」
こういう事をしっかりサポートしてくれるところが、この従兄弟の頼もしさだ。
パイパーは頭を下げる。
「かしこまりました。案内させていただきます」
「頼むよ!」
それからヴェリタスは、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「ドミニク叔父上も、教国の魔導具は残しておくと碌なことにならねぇっていってたしな……」
プラがリィンの町のマンドラゴンに連絡を取り、まだ女神の塔は攻略されていないと確認して、ひとまず安堵する。
聖十一教会に乗り込むのは明日の早朝。
そう決めた。
ヒラとハラとモモがみんなにととのえるの魔法をかけてくれて、暖炉の火の番はゼラがしてくれる。
明日、何かが起こる――
そんな予感がして、マグダリーナは眠れなかったが、ダーモットとヒラが子守歌を歌う声が聞こえて瞼が重くなった。
もしも面白ければ、ブックマークと評価をお願いします!




