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失われた未来を頂きにあがります。 Part.2


 参列者達も、その最前列に座るオズワルドも。

 エイジャースも、レオーナも、礼拝堂に現れた彼女を知らない。

 しかし唯一、この場でコヨーテだけは彼女のことを知っていた。


「あれは……」


 何を隠そう、現れたその女性はアキラが以前コヨーテに見せたアキラ自身の過去の姿。


「ウェディングドレスは全女子の夢、私もこの姿だった頃に着てみたかったなぁ」


 姿こそ見覚えはなくとも、それが怪盗ハンターだとレオーナ達が悟るまで時間は要さなかった。

 ドレスに身を包んだ自分の姿を嬉々として眺めるアキラだったが、彼女を見るレオーナの目は驚愕に染まりきっている。


「結婚式の花嫁といえばこれよね、これ」


 すると今度は腰元からブーケを取り出すアキラ。


「何故だ……何故ここに……」

「知りたい? どーしよっかなぁ、教えたげよっかなぁ」


 口紅で艶めかしく彩った唇に細い指をあて、アキラは自らを教師するレオーナを嘲笑った。


「おい、何をしている! さっさとあいつを捕まえろ!」


 だが、レオーナにとってアキラがここにいる理由など二の次だ。そんなことよりも、自分の計画を壊しかねない彼女を捕らえることのほうが先決。

 レオーナの口から強く言い放たれた命令にすぐさま反応したのは、彼女が従える男性教徒達だった。

 男性教徒達に続き、帝国兵達もベンチから立ち上がり、剣を抜き取る。


「前列、野郎バッカで汗臭いんじゃないの? 華、添えたげましょっか」


 仰々しい空気に耐えられず、参列者達は立ち上がって礼拝堂の隅へ避難を始めた。


「行け! 祝いの席を踏み荒らす不届き者を始末しろ!」


 更なるレオーナの怒号に男性教徒達は動き出す。

 刹那、アキラは口角をこれでもかと吊り上げて笑い、男性教徒達の頭上にブーケを放り投げた。


「It's SHOW TIME!」


 アキラの口から流暢な英語が聞こえてきたかと思えば、今度は宙を舞うブーケが音を立てて爆発。

 爆発の規模こそ小さかったものの、破裂したブーケからは色とりどりの草花と鼻を突き刺すような香りが一瞬にして周囲に広がった。


「この匂い、まさかっ!?」


 レオーナはこの香りの正体を知っている。彼女でなくとも、誰もが一度は嗅いだことがあるだろう。

 何より、ブーケから発せられた香りを鼻に入れた途端、男性教徒や数名の帝国兵が意識を失って赤い絨毯の上に転がったのが“それ”の正体を物語っている。


「しまった! エイジャース!」


 額から一滴の汗が輪郭を伝ったレオーナが振り向いた先で、エイジャースもまた意識を失って地面に倒れようとしていた。

 慌てて彼に手を伸ばすが、彼女の視線の先にあったは倒れゆくエイジャースの手ではなく白い指輪ケースに眠る熾天使の指輪。


 ――――しかし彼女の行動を遮るように、剣の刃が空を裂く。


「皇子に触れるな」

「何っ!?」


 手の甲に切り傷を負いながらも、すぐさま飛び退いたレオーナ。彼女の視線の先で、中腰になってエイジャースの身体を片腕で抱えているのは鎧に身を包んだ青髪の青年・オズワルドだった。


「何をしている、貴様らの相手は私ではなくあのコソ泥だろうがぁ!」


 脇から飛び出してきたまさかの伏兵に怒りを抑えようともせず、レオーナは怒鳴り散らす。

 だが、彼女の視線の先でベンチに皇子の身体を預けていたオズワルドは落ち着き払っていて、冷ややかな視線を返した。


「ああ、ハンターもまた僕からすれば敵だ、しかし勘違いしてもらっては困る。

 我ら帝国兵にとっての敵とは、法の下で暮らす国民の生活を脅かす全ての犯罪者だ! レオーナ・ミルドバーグ、あなたを超級反逆罪で連行する」


 穏やかに眠るエイジャースの前に立つオズワルドの剣の切っ先がレオーナへ向けられる。


「クソッ、クソッ! どいつもこいつもっ! 貴様もだコヨーテ、何故こいつらが私の魔眼の能力と計画を知っている!」


 祭壇の前で狼狽えていたコヨーテは細い首で何度も首を横に振った。


「違う、私ではない」

「黙れ黙れ黙れぇ! 母さんを殺したのは貴様も同罪だ! 全てが成就する時、貴様の命もあると思うなよ裏切者!」


 そう言ってレオーナの手から祭壇の方へ投げられたのは、熾天使の指輪が入っていたはずの白い指輪ケース。

 翡翠に輝く宝石を携えた指輪を握り、レオーナは笑う。


「エリクサーで魅了の魔眼の虜になった奴等を無力化したのだけは褒めてやる、だが少し遅かったなぁ!

 熾天使の指輪さえあれば、聖杯を動かすことができる……帝国の犬共も、外で騒ぐバカなギルドの奴らも、そしてハンター、貴様も全員まとめてあの世行きだバァァァァァァァカ!」


 小さく鋭い瞳は見る者に猛禽のそれを彷彿とさせた。

 だがそんなものに動じるオズワルドやアキラではなく、アキラは黒マントに木の仮面といつも通りの姿に戻って赤い絨毯の上を歩く。


「オズワルド君さぁ、皇子様を助けんのもいいけど指輪守らなきゃダメでしょ」

「黙れ」


 呆れたような口振りで告げたアキラにもまた、オズワルドの鋭い視線が向けられる。


「うっそぉ、冷たくない!? 今は仲間なんだってあれだけ言ったじゃんか」

「一時的に手を貸すと言っただけだ、君のような犯罪者と慣れ合うつもりなど毛頭ない。

 それに君のタイミングを計り辛い口上は何だ、前から思っていたが君は見せかけにこだわり過ぎていて――――」

「あーあーあーあー! 聞こえなーい!」

「なんと卑怯なっ! これだから君のような卑怯で中身のない犯罪者と手を組むなど御免だったんだ!」


 最初はちょっとした口喧嘩のつもりだったようだが、徐々にヒートアップして最早敵が誰なのか分からなくなる始末。


「ちょっと、中身のないって酷くない!?」

「事実を言ったまでだろう! 見せかけばかりにこだわるのは中身のない空虚な人間の証だ!」

「言い過ぎでしょーよ! なんで私は手を組んでるあんたから、こんなに精神攻撃受けなきゃなんないのさ!」


 恐ろしいほどオズワルドの口から出てくる暴言に押され、アキラは思わず仮面の下で半泣きになってしまう。

 だが、二人の口論は一瞬にして止まり、その視線が周囲に配られた。彼らを取り囲んでいたのは、レオーナの魔眼による魅了能力を受けていなかった真っ当なラグナ教徒達。


「馬鹿共めっ! そこでこの国が終わるのを黙って見ていろ!」


 槍の切っ先を向けられた二人が動けないのをいいことに、レオーナは高笑いをあげながら礼拝堂から走り去る。


「どーすんのさ、あんたのせいだかんね」

「彼らは何も知らない、できれば殺したくない」

「はいはい、それは御人好しなことで」

「他人に言えたことか、命に手を下さないのは君の流儀(ルール)だろう」


 背中合わせになった二人は余裕を装うものの、得物向けられて囲まれるという圧倒的不利な状況から抜け出すのも一苦労であるのに、時間に余裕がないときた。

 どうしたものかと互いに頭をフル回転させていた所、突然教徒達の陣形が崩れ始める。


「オズワルド隊長の援護に回るのだ!」


 高らかに上げられた声の主は、参列していた帝国兵。

 元々魅了にはかかっていなかった為に、気絶こそしていなかったが何が起こっているのか把握できず動けなかったよう。


「……お前達」


 だが、オズワルドの命が狙われているとなれば話は変わる。

 何が起こっているのか、どう動くのが正解なのか、それは分からないが自分達の隊長を守るのは彼らの使命。こうして教徒達と正面からぶつかるのも、彼らが使命を全うしているだけの話だ。


「ここは我々に任せ、オズワルド隊長は行ってください」

「分かった、この場を鎮圧次第皇子と無害な教団関係者達を安全な場所にお連れしろ!」

「はっ!」


 威勢良く畳みかける帝国兵達の攻撃に耐えられず、教徒達の陣形が崩れ始めた。

 その一瞬の隙を見逃さない二人は、一気に駆け出す。


「素晴らしい部下をお持ちのようで」

「彼らと共に、今度は君を捕まえる番だ」

「ったく、今はそれよりやることがあるでしょ」

「ああ、僕達の手で未来を変えるぞ」


 回廊に踏み入り、立ち塞がろうとする教徒を息の合った蹴りで吹き飛ばして足を進める。


 帝国兵の若きホープと世間を騒がす大泥棒、一年間決して相容れなかった二人が協力関係を結んだのは昨日の夜のことだった。

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