六百四十話 <女帝衝城>
階段の下のほうからモンスターの気配を察知。
魔素の形は様々で……数が異常に多い。
……基本の形はヒトデっぽい。
左側の穴の下のほうで、薄らと靄のような網目状のものが点滅しながら消えていく。
綺麗な編目の幽霊が誘導? 分からない。
しかし、ヒトデ軍団はゆっくりと上がってきている。
ヒトデか……。
神獣ロロディーヌに乗って行った地下の冒険を思い出すなぁ。
地底神ロルガから蜂式ノ具を取り返す&その地底神ロルガ討伐の旅。
魂の黄金道を辿りつつ独立都市フェーンを目指した。
そんな地下の大冒険の道中戦ったモンスターの中に、ヒトデの形をしたモンスターが存在した。
この地下遺跡に棲むヒトデも同じ系統だろうか?
そう思考したところで、左の掌にある<シュレゴス・ロードの魔印>を意識。
『略して、シュレ。今、倒したヒトデは地下にも湧くモンスターか?』
左の手の平の魔印からピンク色に近い半透明の蛸の足の先っぽが出る。
その蛸の一部がペコリと頭を下げるように動くと、
『――主、似たようなモンスターは無数に存在する。名前はそれぞれにあるだろうとは思うが、我はいちいち、そんな名前は覚えていない。【旧神たちの墓場】に棲まう群生旧神たちの名なら知っているが……』
『そうだな。つまらんことを聞いた。で、その地下の【旧神たちの墓場】のことを教えてくれ』
『知能を有した群生旧神たちが棲まう場所だ。その中のシュバス=バッカスと〝アドルの秘境〟を共有したこともある』
『アドルの秘境? なんだそりゃ』
『ある種の知見を実際に共有する体験である』
少し意味が分からない。
ヘルメと一体化しつつ、そのヘルメの子精霊的な闇蒼霊手ヴェニュー軍団の世界が自意識と融合するって印象だろうか。ま、よう分からん。
念話は終了――。
胸ポケットが揺れに揺れる。
魔造虎にレーレバの笛ではない。
ぶるぶると震えて厭らしい動きをするホルカーの欠片さんだ。
こっちのバイブレーターのほうが、俺にはしっくりとくる。
このホルカーの欠片さんは、キサラと……。
麗しいエロい思い出よりも、まずは、下だ。
ホルカーの欠片が震えているということは、迫る軟体動物のヒトデ軍団は、神界側からは、穢れの敵なんだろう。
ハートミット曰く、ここは第一世代のミホザが残した古代遺跡らしいが……。
小屋の前にあったリザードマンの死体と小屋の中の争った形跡と、手帳の内容から予想すると……。
グルドン帝国の秘密結社の連中と絡む魔界王子ハードソロウの眷属が地下に潜む?
それとも、この小屋があるのは火山地帯とフサイガの森だ。
蝶族にリザードマンの勢力が強い。
だから、この地下にはリザードマンたちが潜んでいる?
バーレンティンも過去に……【湖底魔群塔】と古の地下墓ミトブルーで、リザードマンと争ったことを報告してくれた。
吸血王サリナスと血賢道の大魔導師アーヴィンが築いた地下祭壇とか?
すべての祭壇に血を捧げた時、アガナスの秘鍵書をくれるらしいが……。
または……黒き環だ。
その向こう側の世界の一つであるだろう獄界ゴドローンからの来訪者か?
地底神系モンスターの巣窟かもな。
種族ホームズンを率いていたナズ・オン将軍とか。
臭いからやだなぁ。
槍使いレターゲス。
蛸魔術師のルゲマルデン。
地底神ロルガ。
蟻地獄の魔術師。
ま、可能性は色々か。
地底神級の相手なら、聖槍アロステで<光穿>をぶっ放す。
破迅団団長ミレイヴァルの召喚もいい。
いや、王牌十字槍ヴェクサードを用いるか。
地下で獲得できた<怪蟲槍武術の心得>もあるし。
んだが、今回は光属性の武器で行こうか。
と、右手で胸元の<光の授印>を叩いてから――。
右手に聖槍アロステを召喚。
消していた血魔剣を左手に再召喚――。
右手を上げて聖槍アロステを構えた。
右腕の戦闘型デバイスの表面に浮かぶアクセルマギナが視界に入る。
小型ヘルメよりも小さいアクセルマギナ。
目の前にある半透明の極小のキーボードに凄まじい速度でタイピング中。
独自にプログラムを実行中か?
作成中か不明だが、彼女の頭部から魔線が放射状に出ている。
キーボードと小さい指から魔線が迸っていて凄まじい。
AIが、キーボードを打つという意味がないようなアナログチックな演出をわざわざやっていることが面白い。
その魔線の背景に薄い古代文字で書かれた光魔ルシヴァルと<ルシヴァルの紋章樹>が浮かぶ。
更に、<脳魔脊髄革命>と遺産高神経の古代文字もある。
俺とアクセルマギナが繋がっているという意味だろうか。
そして、周囲に灰銀色の粒子が行き交いつつガードナーマリオルスが動き回っていた。
血の鎖と紋章樹のマークと重なっている宇宙戦艦のミニチュアもある。
下に薄らとアクセルマギナ・グラナード級重巡洋戦艦といった意味のある魔印の文字があった。
隣にはマグカップの形をしたガードナーマリオルスと似た魔機械とΩの文字が出現。
小型戦闘機のミニチュアもある。
疑似太陽の灯りとムーンショット計画という文字と重なって、戦闘機の名前は見えない。
が、あの小型戦闘機は、前に話をしていた銀河騎士専用の戦闘機で間違いないだろう。
背景の宇宙模様も目まぐるしく変化を遂げた。
背景の石碑のモニュメントとオウムガイとモールス信号のような点滅する星々の宇宙。
そんな宇宙の流星模様が巡っている。
――綺麗だ。
角の点を滑らかに繋ぐ数字の点には、1.618って数字もあった。
静かな作業BGMを鳴らす演出もいい。
そんな背景の前で、一生懸命に指を動かすアクセルマギナ。
小人のようだが、CGを超えて、不気味の谷がないから、すこぶる可愛い。
人工知能のアクセルマギナちゃんか。
んだが、前にハートミットが艦長室で見せていたタイピングと似ているな。
あの時の半透明なキーボードはもっと巨大だったが……。
そんな疑問を持った刹那、背景ごとアクセルマギナは消失。
ディメンションスキャンの立体地図と映像が浮かぶ。
その奥行きのある映像の中に、ヒトデの形が多いモンスター軍団が映る。
うようよと這い上がってきている。
リアルタイムのレーダー網か。
戦闘型デバイスから響く音楽も、また、戦闘的な感じに変化してきた。
――この辺のセンスもいいねぇ。
この戦闘型デバイスを作ったカレウド博士は天才か。
「標的数335645、魔素変換効率99%――」
と、アクセルマギナの機械声が戦闘型デバイスから響く。
前のアイテムボックスの表面に浮かんでいた〝記録〟もバージョンアップしているということだろう。
モンスターの名前表記はカットされているようだ。
――名前の表示はない。
さて、ヒトデの軟体動物のすべてを倒すとして……。
右腕の戦闘型デバイスに映るレーダー網ばかり見てはいられない。
ハートミットに報告しよう。
「下からさっきのクラゲ擬きの大軍が来る。殲滅しつつ下に向かおうか」
「あ、速い――」
ハートミットを置いて前傾姿勢で前進――。
魔闘術を全開に――。
ヒトデの形をした軟体動物の群れは、階段と右側の壁から迫る。
それら軟体動物のモンスターとの間合いを詰めた。
即座にハルホンクの衣装を壊さないように<血鎖の饗宴>を繰り出す。
体から出た<血鎖の饗宴>――。
波頭のような勢いで軟体動物を呑み込む。
瞬く間に数十の軟体動物が蒸発。
続けざま、奥の軟体動物目掛けて――。
<光条の鎖槍>を発動――。
三発の<光条の鎖槍>が軟体動物に突き刺さる――。
しかし、光槍が突き刺さった軟体動物は爆発しなかった。
やや光に耐性があったであろう軟体動物だ。
衝撃を殺せずに体をくの字に湾曲させたところで、その体に深い亀裂が走る。
亀裂から蒼色の閃光を発した軟体動物はドッと鈍い音を出して爆発した。
爆発した軟体動物に巻き込まれず残っていた<光条の鎖槍>は後部が展開し網になる暇もない。
そのまま光槍としての形を保った<光条の鎖槍>は斜め下に直進し下の壁に突き刺さった。
その<光条の鎖槍>に、こびりついた肉片が閃光を発した。それら肉片は、パッパッパッと線香花火のように散る。
更に、壁に付着した軟体動物の血肉が、光の網と化した<光条の鎖槍>の後部に触れた――。
その血肉は蒼色を発して連鎖的に爆発して炎上。
壁の表面を蒼い炎が駆けていく。
その炎上模様は、光の網となった<光条の鎖槍>の後部の明かりと、その炎が重なって眩い。
ある種の芸術、近代的な象徴画のアートに見えた。
……迫ったヒトデは倒しきったが、長い階段は下に続く。
このまま階段から普通に下りていくか、それとも……。
左側に広がる穴から一気に下降するかな。
すると、
「凄い魔法攻撃。エレ銃の意味がない……」
と、ハートミットが聞いてきた。
「ヒトデのようなモンスターは光が弱点だっただけさ」
「それでもよ! シュウヤが選ばれし銀河騎士だとよく分かる。見て、この鳥肌――」
と、本当に細い腕を出して、戦闘服を一瞬で溶かすように消去する。
素肌の一部を見せてくる。ナノ技術装備か。
一瞬、おっぱいの位置を見たくなったが、紳士を貫いた。
頬をぽりぽりとかいてから、
「……で、階段は普通に下りずに、一気に下りようと思うが」
左側を見ながら指摘する。
「そこの左の穴から?」
「そうだ。遺跡の底を目指す。モンスターはまだいるし、ハートミットは飛翔しながら戦えるか?」
「余裕。ハイブリッドなわたしは、素で宇宙空間に出ても戦闘は可能。脹ら脛と靴底にブーストスラスターもある。手と腰には特殊なラメラブースターも展開できるし、とっておきの〝桜花型ラメラル〟もあるから平気よ」
ハートミットはくびれた腰を振る。
ベルトにぶら下がる金属のアイテムを指した。
ラメラブースターと桜花型ラメラルか。
何かの推進力を生むスラスターって感じか?
ま、彼女は宇宙海賊の【八皇】であり、ナパーム統合軍惑星同盟の上級大佐でもある。
更にセクター30という特殊部隊に所属する者が、ハーミットことハートミットだ。
あの腰のアイテムは普通ではないだろう。
「――了解、なら先に下りる」
そうハートミットに告げてから階段の端から飛び降りた――。
大きな縦穴に突入。
――金玉がギュンと縮むような思いを感じた刹那――。
下のほうから軟体動物が出現――。
え? 魔素の気配がなかった――。
「複数、魔素反応を遮断する敵です――」
アクセルマギナの機械声が響く。
もう一人ヘルメが増えたような印象を受けた。
しかし、気色悪い軟体動物のヒトデだ。
体毛のような触手が多く紫色の皮膚を持つ。
中心と端に眼球。
その眼球からビーム的な光線が――。
そんな目玉ビームなんて喰らうかよ――。
<生活魔法>の水を下にばら撒く――。
大量の水が、ヒトデに降り掛かった。
中央の目玉からビームが射出されたが――。
そのビームは水を越えることはなく、水の中で乱反射――。
――即座に<牙衝>の聖槍アロステを繰り出す。
<生活魔法>の水ごと軟体動物の眼球を十字矛が貫いた。
隠蔽能力を有した軟体動物は爆発するように炎上。
軟体動物を突き抜けた聖槍アロステは、狭い横壁に十字矛が刺さった。
燃えた軟体動物は蒼い血飛沫的な閃光を発する。
その蒼い血飛沫を吸い寄せつつ――そのアロステを消去。
同時に<鎖>を内壁に打ちこむ。
<鎖>を収斂しながら、その内壁に両足を突けつつ下を把握――。
深い穴――。
と、そこにヒトデの集団が下からドッと飛来した。
まだ、距離がある。
即座に独鈷魔槍を右手に召喚。
アンカーの<鎖>を消しつつ独鈷魔槍に魔力を通す。
右手が握る独鈷魔槍の両端から、銀色のブレードが出た。
更に魔闘術を全開――。
よし――女帝槍レプイレスさんの<女帝衝城>を試すとしよう。
――腰の魔軍夜行ノ槍業が嬉しそうに振動。
その魔軍夜行ノ槍業から漏れた魔線が独鈷魔槍と繋がった。
続いて、魔軍夜行ノ槍業から魔槍を持ったレプイレスさんの幻影が出現。
目元は前と変わらず布で覆われている。
そんなレプイレスさんと俺は重なった。
『愛しい夜の瞳と水の使い手よ。妾に血の触媒を、おくれ……』
『おう』
贄、いや、触媒としての血を独鈷魔槍に流しながら――。
『おぅふぅ』
女帝槍レプイレスさんから厭らしい声が響く。
<女帝衝城>を繰り出した――。
<刺突>の突きのモーション中――。
その血濡れた独鈷魔槍から、無数の血の茨を備えた血の魔槍の群れが迸る――。
同時に、女帝槍レプイレスさんの幻影が俺から離れて直進。
女帝槍レプイレスさんの周囲に大小様々の血濡れた魔槍の群れが、彼女を守る茨道を作るように周囲に広がった。
続けて、小さい城を形成する血色の魔槍の槍衾がヒトデの群れを呑み込む――。
ヒトデの群れは一瞬で消失。
幻影の女帝槍レプイレスさんは振り返った。
その彼女の背後に魔界の戦場の一部が映る。
そして、『女帝魔槍譜』と出ると、
『槍が来たりて、善と悪の古き神々に関わることなく、胸に虚無宿ることなく、触媒の女帝槍の『霊』と『臓』が宿る。反躬自省のまま『魔霊触媒秘訣』を獲得し『魔城』を得るに至り『魔槍女帝槍』を極め絶招に繋がる』
と、文字が浮かんでいた。
すると、レプイレスさんが、
『まだまだ、荒削りだが、妾の弟子と認めようぞ』
そう語った。
目元は布で塞がれているが、俺を見ていると分かる。
微笑むと消えた――いや、女帝槍レプイレスさんは、魔力の粒子となって振動が続く魔軍夜行ノ槍業の中に収斂。
暫し、余韻を感じていたいが――。
まだ、下は怪しい。
同時に右手に鋼の柄巻を握る。
――ムラサメブレード・改を起動。
「今のは槍使いの技よね。凄すぎて分からないけど、綺麗な精霊さん?」
と、上で浮いているハートミットから質問がきた。
「魔界の八怪卿、八槍卿とか、言われている槍の師匠の一人だ」
「……へぇ」
ま、普段、惑星セラの海で活動しているとはいっても基本は宇宙海賊&ナパーム統合軍惑星同盟だ。
魔界セブドラのことを理解しろといっても難しいだろう。
俺もまだ傷場から魔界セブドラに行ったことはない。
いつかは、魔皇シーフォの三日月魔石を納めに魔界に向かわないとな……。
正直、いつになるか分からんが。
と、青緑色と黄緑色に変化するムラサメブレード・改のブレードを見る。
そのブレードからブゥゥゥンと音が響く。
周囲の壁に青緑色の光が反射して綺麗だ。
すると、浮いているハートミットが上から、
「この遺跡、下が深そうね。ミホザの第一世代もどうしてこんな縦穴を……」
「ハートミットも分からないのか」
「うん」
「塔雷岩場とも形が違う。世界各地にある遺跡はどこも形が違うのか?」
「そう。かなり違う。推測では年代の違うミホザ種族が、何かの目的で作ったとか。ミホザ以外の第一世代の種族が、わざと残した遺跡なのかもしれないという推測もある」
推測か、どちらにしろ、古代遺跡はロマンの塊だ。
と、深い縦穴を窺った――。
……縦穴は横幅も広い。
溝には少し隙間があるが……。
その隙間の奥はびっしりと石が敷き詰められてある。
これほどの精巧な技術を用いて縦穴を作る技術力。
やはり宇宙文明の力か。
俺が知る地球でも、似たような石組みはあった。
ペルーの首都のクスコ。
巨大遺跡の土台に、同じような十二角の石もある。
マチュピチュの古代遺跡も有名だった。
エジプトのピラミッド、ペルセポリスの大階段、与那国海底遺跡。
最後の遺跡は、D遺伝子と関係する日本人らしい遺跡だった。
と、観察は終了。
溝から湧くように出ていたヒトデの出現は止まったか?
しかし、さっきのヒトデには驚いた。
<無影歩>並の魔力遮断能力を持つモンスターもいるってことだ。
見た目といい、牙から酸が出ていたし、恐怖でしかない。
が、これも修業。
魔素の探知だけに頼ってはダメだということだ。
――用心しよう。と、ヒトデがまた出現――。
速度は遅い――魔闘術で対応できる。
「シュウヤ――」
「俺が対処する」
「うん」
――ブゥゥンと髑髏の柄から血が迸る。
その血の柄越しに――下から迫るヒトデを睨んだ。
体毛的な触手が目立つヒトデだ。
臭そうで、回転している。
俺は即座に、左手の血魔剣を下に差し向けた。
体毛的な触手が目立つヒトデの中心を、その血魔剣の切っ先が捉えた。
――血魔剣が貫いたヒトデからドヴァッとした鈍い音が響く――。
ヒトデは溶けながらブシュウアァと気色悪い音も発した。
紫色の血飛沫を放出して、爆発した。
その紫色の血飛沫が顔にかかる前に――。
血のすべてを吸い寄せた――。
「左右から隠蔽型ギュノスモロンRNA因子要因が来ます――」
アクセルマギナの声だ。
続けて、その警告通り、左右から迫った触手が多いヒトデを――。
血魔剣で払うように<水車剣>を用いて、真っ二つ――。
下から迫るヒトデには――。
――近寄らせるかよ!
――との気概で、<超能力精神>で対処。
ヒトデの群れを吹き飛ばす――。
その吹き飛んだ一部のヒトデを<鎖>で追撃――。
梵字が光る<鎖>が貫いたヒトデは爆発。
「反応が消えていますが、大量です」
アクセルマギナの機械声が焦ったような質に変化している。
簡易AIだが、感情を持つのか。
連続的に迫る小さいヒトデ――。
――チッ、数が異常だ――。
続きは明日。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1-10巻発売中。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻発売中。




