六百三十九話 ハートミットの実力
右側はフサイガの森だ。奥に溶岩円頂丘が見え隠れしている。
火砕流とかを心配するが大丈夫か?
左はヘルメが踊っていた泉。
小屋の前には薪が転がって、地面に焦げたあとがある。
その前後に古い布が敷かれてあった。
「小屋があるのにキャンプ跡」
「……ただの小屋じゃない」
「うん」
ハートミットが語っていたように、ミホザの遺跡が、あの小屋の中にあるのか。
焚き火の回りに散らばった骨の具合から……。
キャンプをしていたのは、数ヶ月前に見えるが……。
キャンプは無視して骨の残骸を踏みしめながら進む。
古びたリザードマンの死体が数体転がっているのを無視して歩く。
三角屋根の小屋は内普請された形跡があった。
扉はない。部屋の奥の様子は机があるぐらいしかここからでは見えない。
扉の前の地面には、青白い宝石の破片が突き刺さっていた。
その宝石の欠片には、まだ魔力が残っている。
右側には、棒と棒の間の紐に、リザードマンの皮と肉のような物がぶら下がっていた。
近くには、木組みで補強した貯蔵庫らしき物もあった。
横の壁には、古びた斧が刺さっている。
千切れた網も多数転がっていた。
魔力の反応は小屋の奥に複数ある。
俺はハートミットに、
「その手首に浮かぶディメンションスキャンは魔素の探知が可能なんだろう?」
「うん、スキルも多数ある。<魔感知>、<魔風探>など」
さすがは銀河を股に掛ける海賊さんだ。
冗談交じりに、
「さすがは銀河戦士。ナ・パーム・ド・フォド・カリームと呼べばいいのか?」
と発言すると、ふふっと笑ったハートミット。
「ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス! 銀河騎士様にお仕えします。と言えばいいの?」
と、冗談を返してくる。
俺はハハッと、笑ってから、
「さて、真面目に行こうか。魔素は地下かな。人かモンスター。動いているのもある」
「動いていない反応は、ミホザの遺跡の鍵を開けるパーツの反応かも」
塔雷岩場にもあった、ミホザの髑髏鍵を納めた祭壇かな。
「ハートミット。遺跡を狙う以上は、鍵のような物を持っているんだろう?」
「うん、二つある。鍵が合えばいいけど。あと、他の誰かが扉を既に開いていたら……空っぽかもしれない」
「鍵が合えば、か。ミホザの髑髏鍵は複数あるのか」
「うん。大陸や地域によって、鍵が合わない&反応を示さない遺跡もある」
へぇ……。
「俺のミホザの髑髏鍵で開くタイプの遺跡でもあるかもしれないってことか」
「そういうことよ。だからこそのクルーの誘いでもある。だから、コンゴトモヨロシク?」
どこかで聞いた言葉だが、ツッコミは入れない。
「お、おう」
ウィンクを繰り出すハートミットは可愛い。
俺は視線をママニとビアに向けた。
ママニはすぐに察知。
「ご主人様、左から偵察を」
「我は右から」
と、小屋の周囲の偵察に動く。
周囲に魔素の群れが近付いてくる気配があった。
「ママニとビア。あまり外に出るなよ。この小屋の周囲だけでいい」
「はい」
「分かった!」
ヘルメは俺の頭上に浮かびつつ静止。
悩ましい紐パンを見ながら、
「ヘルメ、パンティが新しい?」
「ふふ!」
と、喜んだヘルメ。
くるくる舞うように両手を広げつつ降りてくる。
体から虹色の水飛沫を出しつつ後光を発しての、ヘルメ立ち――。
群青色の競泳水着的なコスチュームが似合う。
水着の表面を水の粒が弾けて消えていく。
敬礼を行いたくなるほどに、スタイル抜群なヘルメさん。
そして、悩ましい巨乳のおっぱいさんが――。
ぷるるん、ぷるるん、ぷるるるん、と――。
重力神に物申す――といったように、見事に揺れていた。
俺はエガちゃん並に股間からグーパンチを行うほどに、ノックアウト。
そんなヘルメはニコニコの笑顔満面だ。
コスチュームの上に羽織る水の羽衣が、いつにも増して煌びやか。
指先から出た<珠瑠の紐>には螺旋状の稲妻が走る。
痺れる効果ってより、感電死しそうな攻撃が可能になったっぽい。
「ヘルメ、精霊の泉からパワーを?」
「はい。闇蒼霊手ヴェニューが、色々な精霊ちゃんと融合したり、わたしも相性のいいピュルンの水雷精霊ちゃんと融合しました。ピルシィンちゃんは残念ですが、空に消えちゃいました」
群青色と蒼色の瞳は輝いているし、おどけ顔の、肌艶も増して見えた。
無数の精霊たちを取り込んだ常闇の水精霊ヘルメか。
俺はそのヘルメを見ながら、ジョディもチラッと見て、
「ヘルメとジョディは、ここで待機。ママニとビアの警戒に合わせろ。俺たちを追ってきたリザードマンなら潰せ。交渉できる相手なら、無理に争うな。俺とハートミットは中に入る」
「はい」
「あなた様、お任せください――」
「うん」
「んじゃ、入るとして――」
魔察眼と掌握察を実行。
ディメンションスキャンでも確認――。
罠らしき物は感知できない。
アクセルマギナを見て「罠のような物はあるか?」と聞いた。アクセルマギナは、
「罠の確率は高いですが、中に進まないと遺跡に入ることはできません」
「だよな、ドローンを飛ばして見るか――」
と偵察用ドローンを即座に出して、小屋の中を把握。
ドローンに反応はなし、机に箪笥か。奥に台所かトイレがあるし、左に人形?
と、すぐにドローンを手元の戦闘型デバイスに戻した。
「――ハートミット、罠を探るような魔機械はないのか?」
「バイオスコープで見ているけど、魔素の反応ぐらいね。分からない」
「んじゃ、入る。いいよな?」
「うん。罠があるってのは当然認識しているから心配しないでいい」
「了解」
と、先に小屋の中に入った。
刹那――。
薄らと靄のような網目状のモノが周囲に浮かんだ。
が、すぐに、その網目状の靄のようなモノは消失。
すぐに、板の間から軋むような音が響く。
――ビビッタ。ホラーかよ。
踵と爪先で、床を突く――。
床はしっかりとして固い――。
アーゼンのブーツの底で、床を確認しつつ背後に、
「ハートミット、今の見えたか?」
「うん。魔力生命体? 何かの警戒網に引っ掛かったかもね。それともエウロパから聞いているけど、有名なシャプシーってモンスター?」
「かもしれない……」
だとしたら<光条の鎖槍>の出番か。
聖槍アロステと血魔剣をメインかな。
閃光のミレイヴァルを出すことも考えよう。
『わくわく』
サラテンの沙には反応しない。
床の材質は古いが腐ってはいない――。
そんな板の間には、丸い机と椅子に、横の壁際には寝台と古びた箪笥が並ぶ。
左の壁際に、木彫りの人形が無造作に転がっていた。
魔力はない人形。
しかし、六つの腕に瞳が四つ目か。
皇帝カイを表す人形だとしたら、目を四つ持つ人型なのか。
魔人系の知的生命体を模倣しているような人形に見えて不気味だ。
その周囲の床と壁のところどころに刃物による傷があった。
右斜め上の天井には穴が複数ある。
穴の回りには焼け焦げた跡か……。
その表面には、幾何学模様の線が薄ら見え隠れしている。
一見はログ=ハウス的だが、実は素材が石材か、ミホザの遺跡に関係した物か。
第一世代が残した小屋ということかな?
と、背後でカレウドスコープの出力を弄りつつ観察していたハートミットに視線を向ける。
「当然、元々は、第一世代が残した遺跡」
「だろうと思った」
真新しい背嚢と鞄を発見。
グルドン帝国を意味する六つの腕のマークが入った鞄。
古い血痕も……その血痕が続く奥の下から魔素の反応がある……。
引きずった血の跡からして……人と人が争った跡か?
モンスターと争った? 血の跡はトイレのような部屋がある壁の囲いの向こう側か。
……階段があるんだろう。
まずは、鞄と背嚢をチェック。
「これらの品、ほしいのはあるか?」
「要らない。シュウヤにあげる」
「分かった」
白金貨二枚、金貨三十枚、銀貨三枚、ポーション各種、薬草の束、短剣か。
更に、地図と紙片が複数挟まった分厚い手帳。
金はもらっとこう。即座にアクセルマギナに放り込む。
薬草の束は、どんなモノか分からないが――。
ま、貴重な薬草かもしれない。エヴァとかミスティにプレゼントできるかもと思うし、回収しとくか。
次は手帳。
「……手帳もいいのか?」
「うん」
なら、見るだけ見る――。
手帳の革紐を解いた。
パラパラと乾燥した地図の紙、羊皮紙的な古い紙か。
地図はこの当たりの簡易的な地形図っぽい。
整った紙には、
『バビロンの血筋は永遠が約束される。<血の月>が空を覆う時、子精霊が吹き荒れるであろう。魔界セブドラの古の王子ハードソロウが現れし時、偽りの予言の言葉がすべてを破壊する。だから動くのだマイグ・マイグよ。御心を忘れずにバビロンの教えを貫けば、魔界王子ハードソロウの魂箱の欠片を体に宿し、禍々しい魔力で民を欺く扇動者の〝偽りの預言者〟の言葉に打ち勝てるだろう。そして、夢魔の杖を扱う<神聖なる乙女>の言葉に耳を傾けよ……さすれば道は開かれん』
と、書かれてあった。
「ハートミットはマハハイム語を話しているが、現地の言語は読める?」
と、書かれた差し出す。
「読めるわよ。バビロンの血筋ってのは、グルドン帝国に伝わる秘密結社ね。<血の月>は分からない。偽りの預言者ってのは魔界王子の関係者か、宗教でしょ。<神聖なる乙女>もたぶん東の都市に関わる宗教組織……夢魔の杖だから、神聖教会ではなさそうねぇ」
「そっか。で、この情報と血の跡からして、魔素の反応も増えてきた……何かが棲むか、居ることは確実。このまま、奥に向かうか?」
「当たり前よ。わたしが怖じ気づくとでも?」
「……その強気な姿勢は買う。が、何が起きるか不明。だから、俺が先に行く。あとからついてこい」
「……う、うん。ありがと」
と、急に女子っぽい仕草で、顔の下半分を両手で覆う。
恥ずかしがってる? 頬を朱に染めるハートミット。
口説いているわけじゃないんだがな……。
――いきなり頭部がズドンッて吹き飛んでも、俺なら死なないからこその言葉と態度なんだが……ま、可愛いからいいか。
ハートミットから視線を外して、奥に向かった。
やっぱり階段があった。
「階段があった。降りる――」
アクセルマギナを意識し、偵察用ドローンを飛ばす――。
暗いが、長い階段――。
同時に血魔剣を抜く――<血魔力>を込めた。
髑髏の柄の両端から出た血がブゥゥゥンと音を立てる。
血魔剣の峰にも俺の血が迸る。
柄は髑髏だが、血魔剣は血の十字架にも見えるだろう。
足下から壁にかけて、歪な十字の形をした血の明かりが刻まれる。
――下には長い階段が続く。
明かりを発したドローンの映像とリンクするから酔う。
と――その偵察用ドローンの視界に気色悪い軟体生物が映ったところで映像が消えた。
偵察用ドローンは壊れたようだ。
匂いは、血……勿論、俺の血の匂いじゃない……。
掌握察に複数の魔素の反応を得る。
形は……長細い。
――蛇か?
その刹那――。
階段下からにゅるっと音が響くと、牙が全身に生えた軟体生物が迫った――。
俺を喰らう気か――咄嗟に血魔剣を振るう<飛剣・柊返し>。
迫る軟体生物は歪なヒトデの形だ。
その気色悪い体から、酸を帯びた鉤爪的な歯牙が伸びた。
が、<飛剣・柊返し>の血魔剣の峰が、その牙ごと、軟体生物の体を溶かすように、撫で斬る。
――そのまま軟体生物を両断した。
――ジュアァァァと蒸発する音が谺する。
右に振り抜いた血魔剣からブゥゥゥンと音が響く。
続けて、襲来してくる軟体生物に向けて、左手を翳す。
『妾の出番だな――』
『悪いが、違う』
<超能力精神>――。
ヒトデとイカと女性の性器の形をした歪な軟体生物たちを吹き飛ばす。
が、数が増えたように階段の下から湧く軟体生物――。
<光条の鎖槍>を発射。
光の筋となった一本の光槍が、軟体生物を複数貫く。
軟体生物は全身から亀裂が走り、亀裂から青白い光を放ちつつ爆発して散った。
弱点はやはり光か。
次は槍を使って、女帝槍レプイレスの<女帝衝城>を試すかな――。
「すごっ! わたしも参加――」
ハートミットだ。
前転しながら俺を跳び越えつつ金色のブレードを振るう――。
「<半雫・海驢星剣>」
ハートミットのエコー掛かった声!?
――彼女は足下に白銀の獅子と魚を合わせたような幻想的な怪物の靄を纏う――。
宇宙的な幻獣の星剣術か? 動きが加速したハートミット――。
超DNAなんたらとかと語ってた効果かも?
凄い速度で軟体生物を縦に真っ二つ。
続けて、袈裟斬りから逆袈裟斬りを繰り出しては――。
「<星鵜・震剣>――」
そうスキル名か剣術名を呟くと、ブレードの柄巻をスムーズに左右の手で持ち替えつつの横回転――更に分身を作ると、左右へ交互にブレードを振るいながら前進――。
黄金色のブレードがぶれにぶれた。
五匹の軟体生物を真っ二つ――。
階段の上から階段の下に体がぶれて分身体を作りながらの移動剣術か。
分身体も揺らぎつつ階段下のハートミットの体に戻っていく。
同時に何重に重なって千手観音的に四方に出ていた黄金色のブレードも一つに集約しつつハートミットが持つ黄金色のブレードに納まった。直後、その鋼の柄巻に備わるハート型のボタンを押したハートミット。
彼女が握る鋼の柄巻の鍔と中身の焦点レンズが光る。
と、光刃の放射口から発せられていた黄金色のブレードがシュッと音を立て放射口に引き込まれるように消失。
ハートミットは――バク転から側転で階段を上がってくる。
背中と足の一部から白銀色の獅子の足のような幻影が消えては現れる。
魔力の線も無数に出ていた。
エヴァの金属機構を彷彿する人工筋肉の技術もあるのかもしれない。
……ユイ的な凄い機動力だった。
そんなハートミットは俺の側面に戻った。
そして、自らの実力を自慢するように、ニコッと笑顔を見せると、
「――どう? 自信あるって言ったでしょ?」
「あぁ、正直驚いたよ。艦長であると同時に【八皇】の名は伊達じゃないってことは理解した。ナパーム統合軍惑星同盟の上級大佐どの――」
と、額に指を当て、敬礼。
ハートミットは俺の指先を見て、笑う。
「ふふ、よろしい」
笑顔がチャーミングだ。
そんなハートミットのおっぱいさんが肩に当たっていることは彼女に告げない。
続きは来週です。
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コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻発売中。




