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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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559/2030

五百五十八話 アルゼの街

2024年2月19日 12時59分 修正

 飛翔していたジョディは樹に蹴りを入れ足先のドリルで、その樹を縦に切り裂きながら降り立った。


「あなた様、ここは人が多いです。森と川近くにモンスターはそれなりに居るようですが、冒険者たちの駆逐速度が速い――」

「おう、偵察ありがとう」


 可憐なジョディとハイタッチ。


 ジョディを連れて皆と共に囲われた街道を出る。

 街道には、商人たちも進んでいた。オセべリアの兵士の詰め所が見えてきた。

 ストシュルマンが、そこにいた兵士たちに挨拶しながら進む。


 赤茶色のアルゼの街の正門が見えてくる。


 皆で、その正門前の街道を進む。

 人族の商隊に交ざりながら街道から門を潜った。


 門を潜って街の中を進む――。


 右側に八支流の川を活かす巨大な港があった。


 港らしく、大小様々な船が並ぶ。

 軍艦のような形の船が多い。


 銀船のような魔導船は……見当たらない。

 あの中にマジマーンの船があるのかな。


 俯瞰で見ていないから分からないが……。

 壁があるところから正門と港の形状からして、たぶん、アルゼの街は川に沿いつつも半円の形をしているはず。


「このまま、中央の道を進む」

「了解」


 ストシュルマンに返事をしながら大通りを歩く。

 通りを行き交う人々は人族の数が多い。

 浮浪者、爺さんと婆さんにお孫さんを連れて飴玉を買っている一般人。


 鎧が似合う冒険者――。

 タブレット衣裳を着た商人。

 ポポブム系の魔獣に乗った商隊たち。

 顎が長い種族の旅人。

 オセべリア王国の兵士たち。

 外套を着込むエルフの旅人。

 笠を被る虎獣人(ラゼール)の集団。

 ガントレット系武器を両手に持つ豹獣人セバーカ集団。

 巨大な金魚鉢を懐に持った怪しい猫獣人(アンムル)

 手押し車を押して駆けている小柄獣人(ノイルランナー)たち。


 胸元に巨大な鯛の形をした財布を抱えている謎ドワーフ。


 多種多様な人々。

 少しだけ大柄のセンシバルという種族が多いか……。

 規模は小さいが布告場のような場所も見かけた。

 ヘカトレイルとあまり変わらない。


 エルフと人族の商人たちを護衛している大柄の毛むくじゃらが近くを歩いていった。


 ぷゆゆ系の樹海獣人と鼬獣人(グリリ)の姿は見えない。

 狼月都市ハーレイアのような音楽はあまり聞こえてこないな……どちらかと言えば、喧噪だ。


 樹海は樹海でも結構変わる。

 予想するに、この南マハハイム地方の人口は虎獣人(ラゼール)小柄獣人(ノイルランナー)が一番多いと予想。


 そんなことを考えていると……。

 赤煉瓦の建物が見えてきた。

 赤色だが、一見は四角い豆腐。

 あれは冒険者ギルドか。

 厩舎もあるし、ペルネーテと似た作り。


 その冒険者ギルドの建物を通り過ぎたストシュルマンは足を止めた。


「シュウヤ、ここが連盟の建物だ。左が冒険者ギルドだな」

「おう、案内をありがとう」


 ここが聖ギルド連盟の建物か。

 世界遺産のサグラダ・ファミリア風の石材を生かした建物だ。

 石門の上には受難のファザードと少し似ている作りの、アシンメトリーな四つの短塔があった。


「小さいですが、聖なる雰囲気を感じますね。北方諸国にも似たような建物はありました」


 ヴィーネは奴隷商人を利用する形で、自ら奴隷となりながら旅をしてきたからな。

 納得しながら「そうだな」と、ヴィーネを見て、石門を見ながら進む。

 すると、正面の門ではなく、左右の柱にあった扉が開く。


 壁と内部に繋がる詰め所か。

 そこから出てきた聖ギルド連盟の制服を着た人たち。


 二人が近寄ってきた。

 片方の和風のジャケットが似合う緑髪の女性を注視。


 ジョディもその和風なジャケットを注視した。


 古い衣服と現代服を合わせたような洗練された服は、いつ見ても独特だ。

 その緑髪の女性が、


「止まりなさい! ここは聖ギルド連盟の敷地内ですよ! そして、ストシュルマン様、事前に連絡がございませんが、どういうことでしょうか。冒険者ギルドは隣ですよ」


 ストシュルマンごと、俺たちを止めてきた。

 竜騎長という名誉職も聖ギルド連盟では通じないようだ。


 この女性に秘鍵書を返すのもアレだから一応は……。


「すみません、用があるのは俺です」


 と、秩序の符牌を出して掲げる。


「それは! バスターの秩序の符牌(オリミールの導符牌)!」

「お!」


 と、緑髪の女性と隣の厳つい男性は驚く。


「ディル、本物の左片を持つ方だ。無礼のなきように右片を出せ」

「はい、よろしいですか?」


 ディルって緑髪の女性が聞いてきた。

 秩序の符牌を差し出す。


 と、彼女は左と右の秩序の符牌を合わせた。


「合いました! では、これはお返しします。こちらからどうぞ」


 返してもらった秩序の符牌を受け取った。

 緑髪の女性は頭を下げる。

 半身を維持しながら笑みを浮かべて、石門の扉へと、細い腕を向けた。

 その方に、


「了解。俺の名はシュウヤ、重要な報告がある。聖刻印バスターのお偉いさん方に会いたいんだが」

「はい、わたしの名はディル。現在常駐している方は、六番リーン様と一番ファルファ様です」


 え?


「リーンだと! あのフリュード冒険卿の孫だよな?」


 思わず、興奮した。


「はい。この間、片腕を失い身体がボロボロな状態で運び込まれてきました。樹海で冒険者グループと遭遇して救出されたとか」


 生きていてくれたか。

 よかった。


『よかったですね。ドルガルさんとアソルさんのことは残念ですが』

『あぁ』


 視界に浮かぶ小さいヘルメは何回も頷く。

 更に小さいヴェニューたちが、そんなヘルメの回りを泳いでいたが、気にしない。


「生きていてくれたか」

「ん、あの樹海を独りで生き抜いたのは凄い」

「そうね。精霊使いだからこその力かな」

「片腕を失ったとは残念ですが、生きていたことは朗報ですね」

「あなたさま、あの時の方ですね!」

「そうだ」

「リサナさんを生み出したような剣精霊たちを呼び出したのでしょうか」

「たぶん、だが、杖は破壊してしまったからな、何か別の理由がありそうだ。で、ディル、リーンは元気なのか?」

「元気ですよ。ただ、モンスターに救われたと、可笑しなことを喋っていましたが……」


 モンスターに救われた?

 白色の貴婦人の施設から脱走したモンスターたちの一部か。


『ヘルメ、施設の外の戦場で様子がおかしいモンスターが居たと話をしていたな』

『はい、わたしたちに攻撃をしなかったモンスターも居ましたから、デロウビンのような存在かもしれませんね』

『確かに……』


「あ、そのリーン様から秩序の符牌を?」

「いや、アソルだ」


 俺がその名を告げると、ディルさんはギョッとした表情に変化した。


「え? まさか、重要な報告とはアソル様の件でしょうか……」

「リーンから聞いているなら、分かるだろう」

「……はい」


 ディルさんは顔色を悪くすると、


「急ぎ、中へ」

「おう」

「わたしも入るが」

「どうぞ。ストシュルマン様も白色の貴婦人戦と関係が?」

「いや、わたしは直接に関係ない、今回はただの案内、付き添いだ」


 片目を瞑りながら語るストシュルマン。

 今までそんな素振りは見せなかったが、落ち着いてリラックスしたのかな。


 そんなストシュルマンを含めた皆と一緒に扉を潜る。

 結界らしき物はない。

 もう一つの扉を開けて中に入る。


 部屋の中を進むようだ。

 歩きながら、ディルさんに、


「魔族探知の魔道具とか結界はないんですか?」

「奥の幹部会議の間にありますが、ここはサーマリア王国に近い地域、人族にも魔族の血を引く方々は多い地域なので、あまり意味がないんですよ」


 ディルさんがそう説明中にジョディは沈黙しながら腕を上げて懐にあるフムクリを見せてきた。

 なるほど、そのアイテムがあれば結界があったとしても察知され難くなるってことか。


 ジョディに目配せをしつつディルさんに


「吸血鬼用に特化したアイテムとか結界は?」


 と、聞きながら歩く。


「戦神教団や未開スキル探索教団のようなスキルと装備品はわたしたちにはありません。神聖教会を利用した聖水がある程度ですね。有名な黒の貴公子もこのアルゼの近隣に出現はしませんから」

「この辺りはヴァルマスク家の餌場ではないんですね」

「……最近では湾岸都市テリアで吸血鬼の目撃情報は多いですよ。ハンターもベンラック村とテリアに集結しているようですし」


 ノーラはまだペルネーテについてないようだが。

 何しているんだろ。


 そのことは告げずに、


「……しかし、聖水だけでは不安を覚えそうではありますが」

「聖刻印バスター様たちが居ます。皆、吸血鬼に効く攻撃をたくさん持っていますので襲撃を受けても、程度によりますが、まず負けることはないです。それに黒の貴公子は別ですが、ヴァルマスク家はあまり目立った行動を取らないですから」


 そんな会話をしながら狭い部屋を進む。

 椅子に座っていた聖ギルド連盟の兵士たちが立ち上がり挨拶してきた。


 俺は無難に、片手をあげて挨拶。


「こんにちは」

「お邪魔します」

「どうも」

「いい服装ですねぇ~」

「ん、こんにちは」


 各自、その聖ギルド連盟の兵士の方々に挨拶しながら部屋を通り抜けた。

 ドルガルとアソルの傍で、共に笑い合った聖ギルド連盟の方々を思い出す……。


 頭を振ってディルさんの背中を追い掛けた。

 部屋から通路に出る。


「広間の右側に大部屋があります。そこに聖刻印バスター様たちが居ます」


 ディルさんがそう語る。

 狭い通路の奥に扉が見えてきた。

 扉を開けて中に入る、ホールのような広さ。

 天井は二つの塔の内側か。

 螺旋上の階段は結構な高さまである。

 途中の二階、三階、四階の踊り場から先には廊下があり、廊下の先には部屋が幾つもあると分かる。


 階段下にあるタペスリー飾りと垂れ幕を見ながら、ディルさんの後に続いた。


 すると、ストシュルマンが、


「中に入ったのは初めてだ……」

「そうなのか。オセべリア王国は聖ギルド連盟とあまり連携を取っていないのか?」

「連携はあるが、それは俺とフレデリカ領主よりもドライな関係だ。否、地域ごとに変化するからそうとは言えないか」

「なるほど、ヘカトレイルでは冒険者ギルドマスターとシャルドネ閣下は仲よさそうに見えた」


 カルバンとの会話は覚えている。

 意味ありげな、煙をぷかぷかと吹きつけてきた。


「そうだろう。ただ、冒険者ギルドと密接な関係を持つ聖ギルド連盟だが、幹部は、個人個人の考えの元動く場合が多いと聞く」

「へぇ」

「元々オセべリア王国の外からやってきたオリミール神を信奉する武闘派のグループだ。このアルゼでは、神聖教会の一派と変わらない立ち位置」


 すると、ディルさんが、振り向く。


「ストシュルマンさん、戦争に協力的でない聖ギルド連盟のことを嫌っているのですね」

「いや、嫌ってはいない。それを言ったら俺も戦争に協力していないほうだ、シャルドネ閣下のやりくちは気に入らない」

「そ、そうですか、では、こちらです」


 そんな会話をしながらホールを進む。

 ディルが足を止めて、


「ここです」


 と、部屋の扉をノックするディルさん。


「ディルです。オリミールの祝福のお客様をお連れしました」

「なんだと! すぐに通せ」

「だれかしら」


 部屋の中から声が響く。

 ディルさんは俺たちのほうを向いてから「どうぞ」と扉を押した。


 部屋に入ると、中央にリーンが居た。

 もう一人の男性は知らない。

 彼が幹部の聖刻印バスターの一番、ファルファか。


「あぁ! シュウヤさん!」

「よう、リーン、生きていたんだな」


 と、駆け寄ってくるリーン。

 片腕は失っていると分かる。


 衣裳の袖が揺れていた。


「はい。アソルとドルガルはわたしを逃がすために……」


 リーンに対して頷いてから皆に顔を向けた。

 ユイ、ヴィーネ、レベッカ、エヴァたちは微笑んでから頷く。


 ジョディとマジマーンたちは部屋の様子を観察していた。


 俺はリーンに向けて、


「その件だが、白色の貴婦人勢力を掃討した。皆で協力して倒した」

「え? 倒した……」

「なんだと!?」


 リーンと金髪の男性が驚く。

 衣裳からして、やはり聖刻印バスターか。


「フェウとケマチェンも?」

「当然」

「フェウはわたしが新技<血饌竜雷牙剣>で仕留めました」

「ロンハンとダヴィと……あか、ううん、わたしが殺してしまった」

「ケマチェンはわたしが、抹殺しました」

「わたしは施設を蒼炎弾で、蜂の巣にしてやった!」

「ん、わたしはお留守番」


 ユイの表情が気になったが……。


「……凄い、死の旅人は殲滅したのですね」

「その親玉の白色の貴婦人こと、ゼレナードは俺が倒した。アルゼの街に設置した魔法陣も破壊、樹海から一つの脅威が消えたことは確実だな」

「うむ。聞けば聞くほど、オセべリア王に報告すべき事柄だ……報酬、領地付きの貴族もあり得るだろう」


 ストシュルマンが呟くが王様とか勘弁だ。

 そんな貴族なんていらない。

 キッシュが得るならいいかもだが……。


 ま、さっさと地底くんだりに挑戦しよう……。


「あなたが、シュウヤさんですね。俺は、聖刻印バスター一番ファルファ。よろしく頼む」

「よろしくです。ファルファ殿。そして、リーンとファルファ殿に返す品があります」


 と、挨拶をし、アイテムボックスを操作。

 秩序の神オリミールのギルド秘鍵書を取り出した。


「そ、それはまさか」

「はい、ギルド秘鍵書。白色の貴婦人が持っていた物。お返しします――」


 とファルファ殿に手渡す。

 <投擲>しようかと思ったが、丁寧に返した。


「あわわわわ」

「……こ、これは本当にひ、秘鍵書だ!!!」

「どうしよう。本物よ……ファルファ、これで……本部に帰還できるの?」

「あぁ、旧王都ガンデに帰還できる……これもドルガルとアソルが身を犠牲にしたお陰だ。オリミール神の御業でもあるだろう……」

「うん」

「急ぎ、皆を集めよう……」

「でも、裁き間に捕らえている犯罪者たちの処遇はどうするの?」

「処刑だ」


 ……なんか物騒なことを話しているが……。

 ファルファが握る秘鍵書を見ながら、


「オリミールの加護が強いためか、ゼレナードは扱えなかったようですね」


 と、告げた。


「そのようだ。しかし、感謝のしようがない。秘宝をこうもあっさりと……ありがとう。シュウヤ殿……」

「いや、当然だ。ドルガルとは戦いましたが、俺には戦友でしたから、今、この場にドルガルが居ないのは辛いですが、二人の喜ぶ姿が見られて凄く嬉しい」

「……誤解して襲い掛かったわたしたちを許してくれて、命を救ってくれて、ひ、秘鍵書まで、感謝……お礼のしようが……」


 リーンは全身から力から抜けたように、お尻を床にストンと落とす。

 太股に視線が向かってしまうが、直ぐにそらした。


 尻餅をつけたリーンに向けて、


「……いいって、リーン。リーンのお陰で、蛞蝓の剣精霊やら鹿やら色々と合わさった波群瓢箪が進化。リサナという未知の精霊が誕生したんだから」

「はい……しかし」

「旧王都ガンデに来ていただくのはどうだろう」

「あ、いいですね! シュウヤさんに、オリミール神の心臓が宿る幽世部屋で洗礼を受けていただくのですね」

「あぁ、聖ギルド連盟の聖刻印バスターに!」


 盛り上がっているところ悪いが……。

 俺はガンデとやらには行かない。


 眷属の皆とマジマーンたちに視線を向け頭を振る。

 頬に肩で休んでいる黒猫(ロロ)の尻尾が当たった。


 そして、リーンとファルファ殿に向け、


「すまんが、今は興味ない。んじゃ、ストシュルマン。領主の館まで案内を頼む」

「分かったが、いいのか?」

「いいんだよ、出よう」


 と部屋の外に出るが、「「シュウヤさん!」」と、リーンとファルファが俺を呼ぶ。


 振り向いて、


「悪いが、俺も忙しいんだ。そして、ドルガルとアソルに家族がいたら、仇は、皆の力で果たしたと、伝えてくれれば満足だ。じゃあな」


 と、踵を返す――。

 感謝は素直に嬉しいが洗礼とかごめんだ。

 宗教に入りたくない。

 俺には俺の大事なおっぱい育成大臣がある。

 と、ふざけてみたが、まぁ、西に向かう際に機会があればって感じだな。

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