五百五十九話 ジョディはん
そんなことを考えていた直後――。
ジョディが、
「あの……あなた様、聖ギルド連盟の方々のことは嫌いなのですか?」
と、聞いてきた。
「いや、勘違いするな。好きとか嫌いじゃない。単純に大切な物を返しただけで満足なんだ」
「そうですね、そうでした。ケマチェンとフェウを倒したと、ドルガルとアソルの仇を取っていただいて……舞い上がって……いきなり洗礼とか、シュウヤさんの気持ちを考えていませんでした!」
リーンの声に応えるように、部屋の出入り口で、また振り返った。
扉の縁に手を当てながら、
「リーン。俺も急ぎで態度が悪かった。またどこかで会えたら嬉しい。ファルファさんも」
「そんなことはないです! 聖ギルド連盟の悲願を果たしてくれた、大恩……。本当に本当に感謝しています」
「はい! そうですよ。わたしたちは本国に戻れるのですから!」
「おう! その笑顔を見ると、間違っていなかったと思える。ありがとう」
「ふふ、シュウヤさんて方は……」
「シュウヤ殿……」
ファルファさんは感極まって涙を流す。
「ファルファ……」
「リーン、このような英雄シュウヤ殿と、知り合えたことが、オリミール様の祝福なのだと思う」
「えぇ、本当に。本音を言えば、何か、特別な……お礼がしたかったのですが」
そう語るリーンは、顔を赤く染めていた。
爺さんの冒険譚が聞きたいかも。
とか、考えていると、ジョディが、パンと手を叩く。
「ならば、ケマチェンを始末したわたしが! お礼を受け取るということで聖ギルド連盟の方にお願いをしてもいいでしょうか」
「いいぞ、リーンとファルファさんもいいかな?」
「はい、なんでも言ってください!」
「当然です、ケマチェンは……わたしたちを苦しめた元締めのような奴!」
「だ、そうだ。ジョディお願いをしてみろ」
「はいです! では制服を……聖ギルド連盟の幹部さんたちの制服がほしいのです!」
と、左右に細い腕を広げて、おっぱいを揺らすジョディはん。
その勢いと必死な姿を見て、なぜか、京都か大阪風に、はんをつけてしまった。
「よろこんで!」
リーンもなぜか、ジョディはん、と同じポーズを取った。
『ふふ、ジョディポーズですね!』
『ヘルメさん、お尻さんが揺れているぞ』
『はい! 閣下的には、こちらのほうが!』
と、見事なおっぱいさんでヴェニューを挟む……。
小さいが魅力的なヘルメだ。
目のやり場に困る。
「では、こちらにセットの品があります」
「ふふ、ジョディさん、衣装部屋に戦用の衣と首枕も用意しましょう」
聖ギルド連盟の幹部。バスターの方々だが……洋服店の店員さんに見えてしまった。
この光景に眷属たちから笑い声が漏れた。
「んじゃ、俺たちは先にいくから、リーンとファルファさん、ジョディを頼みます」
「「はい!」」
俺たちは先に聖ギルド連盟の建物を出た。
ストシュルマンに案内してもらう。
大通りから狭い通路を進むと、背後から急接近する魔素を感じた。
これはすぐに分かる。ジョディだ。
振り向くと、楽しげに低空を飛翔しているジョディの姿が見えた。
満足そうで和やかだ。
「あなた様! 見てください!」
「お、おう、もらったようだな」
と、壁に両足を突き刺して、立つジョディ。
聖ギルド連盟の衣装が気に入ったようだ。
「はい、聖ギルド連盟の幹部候補生が着る洋服が、気に入りました! あとで研究して、取り込んでみます!」
「そうか、よかったな。だが、壁に穴を作ったらだめだ。下りなさい」
「はい!」
一応、ストシュルマンに修理代で金貨を手渡した。
「シュウヤ、必要はないが、ま、受け取っておこう」
「おうよ。竜騎長様への賄賂だ」
「はは、また冗談を」
そんな調子で会話をしながら進む。
壁に囲まれた敷地が見えてくる。
石門も壁が続いている先に見えてきた。
壁を越えた右側は斜め上に少し傾斜している。
その天辺に庭と高級そうな屋敷が見えた。
城ってわけじゃないが、広そうな敷地だ。
手前の石門に、貴族としての家紋のようなマークが刻まれていた。
領主が住むにふさわしい家だ。
石門の上で弓を備えた衛兵たちも見えた。
ストシュルマンがその兵士に話しかけていく。
暫しの間の後、衛兵たちと話を終えたストシュルマンが、手を振った。
直後、正面の石門が地響きを立て、開いていく。
ストシュルマンが戻ってきた。
「――さぁ、ここが領主の家だ。衛兵には話を通しておいた」
「了解、ありがとう。さぁ行こうか」
と、仲間たちに知らせる。
「はい」
「ん」
「お偉い様に会うって、どうにも緊張しちゃうわ」
「ファルス殿下と何回も会ったのに?」
「うん、高貴さって、意外に雰囲気として出るからね。わたしは紅茶売りと冒険者として育ったからさ……」
と、レベッカとエヴァは会話を進めていく。
俺たちはストシュルマンに連れられ敷地内の庭を進んだ。
庭は色とりどりの花々が咲く。
足下は、巨大な石が点々と敷かれ歩きやすい。
石は、大きい屋敷の玄関口まで誘導するように続いている。
先頭のストシュルマンは気さくに庭に咲く花々と植物のことを語りながら先を歩く。
皆も一緒に進む。
「ご主人様、キャネラスの家を思い出します」
と、ヴィーネが花を見て指摘してきた。
綺麗な白と赤が混ざる花があった。
確かに酔芙蓉という花と似ている。
酔芙蓉は朝が白く夕方にピンク色へと変化を遂げる。
ヴィーネを買った時か。
ダークエルフの銀色の髪と花を比べるように眺めていたっけか……。
ヴィーネは俺との握り手を強めて、見つめてくる。
すると、恋人握りを満喫していたヴィーネを押しのけたマジマーンが隣にきた。
勇気のある女だ。
ヴィーネは素直に身を引く。
赤色の鱗が目立つガドリセスの鞘は腰に差したままだ。
「総長、母船カーフレイヤーの交渉の件だが」
「俺に任せろ。とは言えないな。サーマリアの海軍、名は……」
「海軍特殊ヘンラー隊だよ。そのオセベリアの肩書きが邪魔をして、船の交渉は上手くいかないって言いたいんだね?」
その海軍特殊ヘンラー隊はどういった部隊だったんだろう。
が、その部隊のことは聞かずに、
「普通はそうなる。が、領主次第だろう、交渉時に口を挟んで構わない」
「お、ありがたい。しかし、総長の邪魔をするつもりはないよ。船を諦めざるを得ないとなっても、わたしたちは恩を返すし、忠誠を誓ったからね。もう大海賊や諜者としてではなく、【天凜の月】の駒として動くつもりさ」
「分かった」
「ん、もう玄関」
話をしながら歩いていたから、エヴァの言うとおり、玄関だ。
ストシュルマンがこちらを見て大きい玄関扉の前で待っている。
彼の前に、執事と召し使いらしき女性たちが立っていた。
俺たちが視線を向けると、その執事たちは頭を下げてくる。
「皆様、ストシュルマン様からお話を伺いました。ささ、皆様方、こちらです」
「分かりました。失礼します」
と、一礼してから、開いている玄関を執事の案内の下、進む。
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