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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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五百五十七話 竜騎長ストシュルマンの涙とマジマーン

2021/08/27 0:13 修正

 アキに視線で隠れろと指示を飛ばす。

 その蜘蛛娘アキは挙手をしてから敬礼。


「はい!」


 と、元気な声を出したアキ。

 そそくさとロゼバトフの下に向かう。

 ビアは両手を広げバッチコイといった姿勢だったがスルーされていた。


 アキは大柄のロゼバトフの背後を利用しながら、速やかな動作で、繁みの中に突入するが、メイドスカートの膨らみが茂みに引っ掛かった。


 すっぽりと茂みに嵌まる尻。

 まさに頭隠して尻隠さず。


 パンティさんが見えた。

 水滴マークと白色の蛾の模様で可愛い。


『ふふ、可愛いお尻ちゃん!』


 ヘルメが反応。

 すぐにメイドスカートを窄めてスカートをしまうアキは隠れた茂みから頭部だけをピョコンと出す。

 メイドキャップを片手で押さえていた。

 ニコニコしている。

 しかし、妖しさを増してどうする。


 ストシュルマンはそんなアキを注視しない。

 よかった。体内の魔力を操作していた。

 下のドラゴンも魔力を双眸に宿す。


 すると、ドラゴンは側頭部から胴体にかけての鱗たちの上に魔紋を浮かばせていく。

 緑と銀の鱗たちも輝いた。

 筋肉の形を浮き彫りにしたかと思えば、それらの鱗たちは、波か、呼吸でもするように、ぐわらりと蠢いて裏返った。

 色彩感を美しく変えている

 更に、口を開けたドラゴン――。


「グガアァァァァッ!」


 威勢のいい叫び声だ。

 銀色と緑色の魔力の波も声に混ぜるように放つ。

 ――肌に振動する圧力めいたモノを感じた。


『閣下、反撃しますか?』

『いや、今は交渉だ』

『はい』


 小さいヘルメは怒ったような印象。

 振動するドラゴンの威圧の声は精神を削るような声質だからだろう。


 荒神カーズドロウのロンバルアや魔竜王の古代竜の類いではないが……。

 緑と銀のドラゴンはロロディーヌのグリフォン級の大きさだから、びびる。


 大騎士レムロナの扱うサージェスを一回り大きくしたドラゴンだ。


 にしても、うるさい威嚇だ……。

 だが、口に出さず、


「……死の旅人は知りません」


 と、素直に答えた。

 ストシュルマンは俺を見て、


「見かけない顔だが、死の旅人ではないにしろ……」


 すぐにカルードたちへと視線を向けた。

 双眸を細めてカルードを睨む。


「そこの刀を使う黒髪の中年たちは目撃者の情報と完全に一致する。お前たちが領主の館と酒場と宿屋で暴れていた奴らだろう。だが……しかし」


 ストシュルマンはなぜか……。

 マジマーンとゾスファルトを見て言葉に詰まる。

 知り合いか?

 あ、ゾスファルトは領主の依頼でカルードを追ったんだった。


 しかし、カルードたちの情報は出回っていたか。

 スゥンさんの魔法のリング(リングオブガイガー)の幻影魔法もアルゼの街から出た後に使ったのだろうし、そう都合よくすべてを隠せるわけもなく。


 ストシュルマンは俺に視線を寄越す。

 彼が使役している大きな竜も角が生えた長細い頭部を振って周囲を探っていた。


 紫苑の花々が咲いて綺麗だが、ここはロロディーヌの着地で多くの樹木が打ち倒された状況。

 そして、花だけじゃなくカルードが身を隠そうとしていたように、窪みと繁みはいたるところにある。


 伏兵がいると思うのは当然だ。


 アキの存在が伏兵の行動だが……。

 そのことは告げず、


「俺たちは冒険者。街に向かいたいのですが」

「だめだ。ルガイサッド、背後に回れ」


 ストシュルマンは大きな竜に指示を出すと、

 乗っていた竜から飛び降りた。


「ガォォォォ」


 大きな竜の名はルガイサッドか。

 そのルガイザッド(ドラゴン)で、カルードたちを攻撃するつもりか?


 着地したストシュルマンは制動がない。

 槍と盾を構えながら近づいてくる……。


 魔槍杖の穂先をストシュルマンに向けた。

 肩の相棒も、


「ンン――」


 喉声を出して跳躍し着地。

 黒豹の姿に変身。

 頭部を下からくるりと回すように顎を上げながら、口を開けた。


「ガルルルゥ」


 と牙を出して威嚇の声を発するロロディーヌ。

 その開けた口から少しだけ炎を吹く。


「な、黒豹に炎だと……」


 ロロディーヌの姿と炎に驚いたストシュルマン。


 相棒の威嚇と同時にヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)から光の弦を出す。

 光線の弦は光の矢を射出するだけじゃない。

 接近戦でムラサメブレードのように扱える。


 ユイは動かない。

 カルードも鴉さんも動かない。

 ジョディにママニは視線を合わせて、互いの武器を見てからストシュルマンの左右に進む。


 フーとビアにバーレンティンたちも続いた。


 骨喰厳次郎の柄を握るバーレンティンは微笑むと<血魔力>の操作をした。


 影のような軌跡を地面と宙に残す。

 血色と影色に染まる花々が恐怖を回りに抱かせた。

 ストシュルマンは、バーレンティンを注視したが、すぐに俺を睨んでくる。


 各自、ストシュルマンとの間合いを測るように歩いていく。

 エヴァとレベッカは俺の左右に位置どる。


 だが、戦いはまだだ。

 誤解を解く努力はする。


「今は友好的な話し合いを望みます」

「街を襲っておいて友好だと? 白色の貴婦人勢力と結託したサーマリアの海軍特殊ヘンラー隊が何を語るのだ」


 サーマリアの海軍がなぜ出てくるのか疑問だが。

 素直に真実を、


「サーマリアの海軍は知りませんが、俺たちは樹海で、死の旅人を擁する白色の貴婦人こと親玉の大魔術師ゼレナードを倒しました。そして、アルゼの街に部下を潜入させて、領主の館を含めた宿屋兼酒場の部屋を占拠したのは、その白色の貴婦人ことゼレナードの部下が仕込んだ三つの魔法陣を破壊するためだったんです」

「聖ギルド連盟が追っていた死の旅人と白色の貴婦人の打倒だと? 俄には信じられないが……」

「証拠になるか分かりませんが、聖ギルド連盟に関するアイテム類は幾つか持っています」

「……ほぅ、まずは名を聞こうか」


 俺の瞳を凝視するストシュルマン。

 信じようとしてくれていることは、分かる。


「名はシュウヤといいます。Bランク冒険者です」

「俺の名はストシュルマン、漂流の竜騎長と呼ばれている。オセべリア王国の上位騎士の爵位を持つ。領主様から雇われた」

「はい、竜騎長様」

「いや、様は要らない。領地を持たない名誉職、敬語も不要だ。その辺の用心棒と同じ。だから普通に話せ。ストシュか、ストシュルマンでいい」


 そうは言うが、いきなりストシュと略すことはできねぇよ。


「了解。では……ゼレナードに白色の紋章を刻まれて、命令に従うしかなかった死の旅人たちの幹部のことから話をしようか。少し長くなるがいいか?」

「構わない。聞かせてくれ」


 ストシュルマンは頷く。

 聞いてもらおうか、俺たちの物語を!


「……かくかくしかじか……」


 白色の貴婦人関連のことを簡易的に説明。


「次は、アルゼの街の魔法陣についての説明を」

「頼む」


 ストシュルマンの言葉に、俺はすぐに頷く。


「ゼレナードの部下が仕掛けた魔法陣は、アルゼの街に住む〝すべての人の魂を奪う〟という、とんでもなく危険な魔法陣だったんだ」

「すべての魂だと……」


 俺はカルードたちに視線を向け、


「その魔法陣は破壊したから安心しろ。俺の部下、家族たちが破壊してくれた」


 すると、サルジンが、


「はは! 俺も家族か」

「当たり前だ。顔が赤いぞ」

「バーレンティンも赤いが……」


 赤髪のサルジンとバーレンティンが、俺に家族と言われて、きょどる。


 一方、照れた様子の墓掘り人たちとは対照的なストシュルマン。

 蒼白な顔色を浮かべていた。

 悲しみの気持ちを面に出して、


「一連の事件は、アルゼのために、か……」


 と、語る。

 さきほどの鋭い視線は消えていた。


 そして、何かを考えるように空を見て……。

 間をあけてから、俺を見てきた。


 彼の瞳に薄らと涙が滲んでいる。

 理由は分からない。


「……ラズアン……」

「ラズアン?」

「死んだ兵士、友の名だ」


 ……お気の毒とは言えない。


「済まない」


 としか言葉が出てこなかった。


「謝る必要はない。シュウヤの語ることが事実なら間違ったことはしていないのだから。そして、ラズアンも間違っていない。お互いに街を守ろうとした……結果……」


 ストシュルマンの瞳から一雫の涙がこぼれ落ちる。

 カルードたちは気まずそうな表情を浮かべていく。


 俺もだろう。


「……マイロード。わたしたちの責任です」

「そうじゃない! お前はお前の仕事をした。すべての責任は俺だ」


 ジョディもストシュルマンの表情から大事な友のことを思い出したのか、もらい泣きをしていた。


 ……シェイルの治療の石も探さないとな。


「シュウヤ、変な気を起こさないでよ?」


 ユイは俺の表情を見て、ゼレナードの本拠地の前で語っていた会話を思い出したようだ。

 俺は空元気のように笑みをわざと作る。


 首を手刀で叩きながら、


「はは、安心しろ、首を差し出したりはしない。したとしても首だけが動いて、ワハハハッと、首だけ飛行を行うかもしれないぞ」

「ふふ、安心した」

「あなた様、それは怖いから止めてくださいね」

『同意します。閣下が死んじゃいやです』

『死なないから安心しろ』

『はい!』


 と、視界に浮かぶ小さいヘルメは、独特のヘルメ立ちを敢行してきた。 

 俺は切り替えるように視線を巡らせてから、ストシュルマンを見る。


「さて、続きの話をして大丈夫か?」

「うむ、話を頼む」


 ストシュルマンは頬を弛緩させている。

 槍を持つ腕も力が失せていた。


 魔力操作の巡りも緩やかとなったことを確認しながら、


「アルゼの街とゼレナードが潜む樹海の施設から離れているせいか……または、死の旅人の術者が未熟だったお陰か、その魔法陣は傷をつけるだけで魔法の機能を失うタイプだった。だから破壊は容易。しかし、部下たちが占拠していたように、そう簡単に破壊はできない理由があった」

「どうしてだ! そのような危険な物はすぐに破壊すべきだろう」

「普通ならな。しかし、ゼレナードは時空属性の大魔術師。その樹海の施設に潜入していた俺たちの存在に気付く可能性があったんだ」


 訝しむストシュルマン。


「気付いたとしても民たちの危険がなくなるのなら、さっさと壊すべきだと思うが……」

「まぁ、聞け……」

「……」


 ストシュルマンは頷く。


「……ゼレナードの施設で捕らわれていた仲間の小柄獣人(ノイルランナー)の家族たちが居たんだよ」

「人質か。お前たちは自らの危険を冒して、白色の貴婦人討伐に動いていたのか……」

「そうだ。最初に話をしたように、その人質たちを救いつつアルゼの街に仕組まれた三つの魔法陣を破壊し、白色の貴婦人ことゼレナードの討伐に成功した。だから、アルゼの領主に、その魔法陣の破壊についての説明をしている時間も手間もなかったってことだ」


 と、説明。

 ゾスファルトとマジマーンは、この一連の話の流れを聞いて驚いている。


 カルードたちが話をしていたはずだが……。


 ゼレナード戦の詳細はまだだったようだ。

 そして、どういうわけか……。


 俺の話を聞いたストシュルマンは、俺の話よりも、驚いているマジマーンとゾスファルトを見て……。

 目を見開いている。


 ストシュルマン的にマジマーンの反応は予想外だったのか?

 そのストシュルマンは、眉間に皺を作ると、ジロッと視線を向けてきた。


 彫りが深いから迫力がある。


「……それを信じろと?」

「そう言うが、ストシュルマン。もう、既に信じている面だぞ?」


 と、にこやかに語る。

 ストシュルマンは俺から冒険者のゾスファルトに視線を移し、


「まぁな。俺の知る事情と合う。嘘とは思えない」


 と、にこりと笑いつつ喋ってくれた。


 ゾスファルトは領主の依頼でカルードを追ったからな。

 ストシュルマンも領主の依頼で追撃に出た冒険者たちが居ることは聞いているだろう。


「竜騎長ストシュルマンですな」


 虎獣人(ラゼール)のゾスファルトが発言した。


「そうだ。隻腕のゾスファルトと、その冒険者グループだな。フレデリカ嬢、いや、領主からも聞いている」

「聞いているなら話は早い。カルード殿たちを襲撃したが失敗。本来なら死んでいたが、カルード殿に救われた……そして、シュウヤ殿の話が真実ならば、いや、真実なのだろう。俺たちアルゼの街で活動していた者たちは、このカルード殿に指示を出したシュウヤ殿にも命を救われていたことになる……俺は二度も命を救われた……そして、俺のパーティメンバーの家族たちの命も、救われたことになる……この借りは、俺が代表して、命を賭しても返す思いだ……」


 虎獣人(ラゼール)らしい熱い言葉だ。


「ゾスファルト! 俺たちも」

「いや、これは俺の責任だ」


 と、ゾスファルトはパーティメンバーにそう語る。

 同じ虎獣人(ラゼール)だったママニも考えが分かるのか、深く頷いていた。


 そして、ママニは、カルードのことを尊敬の眼差しで見つめていく。


 俺はゾスファルトとマジマーンを見てから、ストシュルマンに視線を向けた。

 ここで念を押す。


 胸元にラ・ケラーダのハンドマークを作る。


「俺が語ったことは真実。水神アクレシス様と呪神ココッブルゥンドズゥ様の名に誓おう」


 その時、体の内に魔風を帯びた冷たい石のようなモノを感じた。

 それは心を掴むような不可思議な感覚。


 同時に『……じゃ』と懐かしい声のようなモノも聞こえたような気がしたが……。

 気のせいかな。


「長い呪神の名は聞いたことがないが、不思議と生暖かい風と迫力が伝わってきた。しかし、なぜ、サーマリアの海軍特殊ヘンラー部隊と一緒なんだ?」

「サーマリアの海軍特殊ヘンラー部隊が一緒? 海軍の者がここに居るのか?」

「……そこの赤髪の女のマジマーンが所属している海軍特殊部隊の名だ」


 ストシュルマンは槍の穂先をマジマーンに向けた。


「マジマーンが所属だと? マジマーンは大海賊……」


 マジマーンを見ると、彼女は頬を指で掻く。

 視線を斜め右上に上げていた。


 ストシュルマンは、


「俺もマジマーンと直接会うのは初めてだ。しかし、その右頬のホクロ。更に、腰にぶら下げた布のマークの〝四島の海賊印〟はマジマーン一味の証し。そして、接収した書類からマジマーンの名が記された銀船に関する書類が山ほどあった。水の魔術師も色々と喋ったな。パイレーツスレイヤーの名も聞いた」

「……また、懐かしい名を」


 マジマーンには海賊殺しの名があったのか。


 闇のリストのドラゴンスレイヤー、龍撃のトムハル。


 鹿殺しのディアスレイヤー。

 テルカの金玉殺しのゴブリンスレイヤー。


 名もなき町でも、よくあるモンスターの討伐者としての渾名は多くあると思うが……。


 同じ海賊殺しのパイレーツスレイヤーか……。


「……大海賊でありながら様々な顔を持つ女海賊……サーマリアの海軍特殊ヘンラー隊の分隊長マジマーン殿で間違いないな?」


 と、刑事が犯人を捕まえる前の言葉のように聞いている。


 こりゃマジマーンだけに、マジか。

 いや、洒落てる場合じゃねぇ。


 そのマジマーンが、


「……船の見張りの水妖の魔導師チップは……やられたようだねぇ」


 船の見張りは少ないと語っていたが。


「今話をしたように、既に捕らえて情報を吐かせた。水の魔法使いは厄介だったが、対処はできた」

「チッ、一味の中でも手練れのチップを……さすがに人数、いや、竜騎長ストシュルマンの実力か」

「……当然、俺の名も知っているか」

「酒場で歌われるほどの英雄の一人。怪人山姥が率いていた匪賊集団からオセべリアの姫を救い、騎士の上位の竜騎長の称号をルーク国王から授かった男の名は、ローデリア海でも有名だ。大騎士を断ったことでも吟遊詩人が好む物語として歌われてるぞ」

「……まぁな。白の九大騎士(ホワイトナイン)は憧れだったが……権力争いは苦手なんだよ」

「そうかい。で、領主はわたしの船、カーフレイヤーを拿捕したってことだね」

「中身は色々と拝見させていただいた。マジマーン本人が必要な箱と椅子に操縦桿は、鉄格子が掛かり入れないようだが、他の物はすべて接収済みだ」


 マジマーンは安堵したような表情を浮かべる。

 銀船と似たような船を持つのかな。

 しかし、鉄格子がパイロット席にある?


「だろうねぇ。最高にイカス船だったろう?」

「……俺に船の価値は分からん。さて、マジマーン殿、素直に投降してもらおうか……」


 ストシュルマンには悪いが、それはだめだ。


「ストシュルマン、マジマーンはもう俺の部下だ。引き渡すことはできない」

「さすが総長!」


 マジマーンは口笛を吹く。

 俺は目を細めて、


「……マジマーンさんよ。サーマリアとは一言も聞いてないぞ」


 皆も、マジマーンの一味を凝視。

 赤み掛かった黒髪を揺らすマジマーンは、


「総長、サーマリアの国に所属しているのかと、わたしに聞いていないだろう?」

「そりゃ聞いていないが……」


 カルードとエヴァも驚いている。

 レベッカもヴィーネも、マジマーンの一味以外、皆、驚いていた。


 ゾスファルトも驚いて口を開けていた。

 鳩が豆鉄砲を食ったようって奴だ。


 虎獣人(ラゼール)の彼も俺たちと同様にマジマーンの素性は知らなかったか。


「一応はハーミット団の下りでヒントを皆に出したつもりだったけどねぇ。あ、別に総長を騙していたわけじゃないよ。大海賊は、いや、わたしの場合は、天候の変化に応じて表情を変える天候予測器のように、表情を変えなきゃやっていけなかったってだけさ。大海賊は綱渡りが商売(ウリ)なところが多いからね……」


 天候予測器に綱渡りか。


 マジマーンは、金と実力のあるわたしが選ばれたと言っていた。


「……そういうことか。大海賊マジマーンさんよ。アズラ海賊団から依頼をされるほど、レイと銀船と積み荷の追跡ができる実力(・・)ってことか」

「ふふ、総長、謝るから許しておくれ。だが実力は実力さ! カルード殿に負けて救われたことも実力」

「大海賊とは言うが、間諜としての仕事もあったということか」

「……そうねぇ。諜者としては失格かしら。しかし、大海賊としての大義に殉じる心はあるつもりだよ。だから良心に従う」


 マジマーンはハッキリとした口調で語る。


「そして……」


 色っぽい口調で短く呟くと……。

 ゆったりとした歩法で近寄ってきた。


 目の前で、丁寧に頭を下げたマジマーン。


 彼女の髪が垂れると、いい匂いが漂ってきた。

 爽やかな花の香り。


 マジマーンは、赤と黒が混ざる髪をたくしあげる勢いで、パッと、頭部をあげる。

 表情は明るい。


「――この際だから、はっきりと言うけどさ、秘宝を律儀に返そうとする総長は、愚直すぎる」

「悪かったな」


 いきなりの文句か。

 その直後、マジマーンはニヤリとして、


「だが、逆に強く惹き付けられたよ! カルード殿に命を救われたから、礼を返すことしか頭になかったが……」

「礼か」 


 うん、と頷くマジマーン。

 照れるように、頬を細い指先で掻くと、


「正直言うと、礼よりも、総長という存在に、気持ちが大きく揺さぶられた」

「そうは見えなかったが」

「……それも実力。でも、本当に、わたしはあんたが気に入ったんだ! 空旅も驚愕だった。あんな巨大なモンスターを皆とわたしを守りながら倒して……更に言えば白色の貴婦人を討伐する行動力と武力を持ちながら偉ぶることをせず、冷静にわたしを観察しながら旧来の友とでも話をするように……懐に招き入れて、気さくに接してくれちゃって、さ……衝撃的だったよ……こんな底の知れない男は海にいない。いや、他のどこにもいないよ! 心底、最高にイカス男だと震えたのさ、苛つくほどに、ね…………だから、そんな総長に従うのも、また、実力であり事実だ!」


 偉そうに腕を伸ばしつつ、この場で宣言するように語るマジマーン。

 彼女の仲間たち、マジマーンの一味たちも一斉に頷いていた。


「ん、シュウヤに惚れちゃった」

「あ~ぁ、仕方ないってね。当然な流れって受け入れちゃっている、わたし……はぁ」


 ユイは<ベイカラの瞳>を発動させて俺を睨む。


「ね? そんな流れになるとは思っていたのよ。美人だし」


 レベッカもユイに同調するように双眸に蒼炎を宿した。


「はい。しかし、サーマリアの海軍とは驚きですね」


 冷静なヴィーネだ。

 銀仮面も触らず、銀色の虹彩は俺を真っ直ぐと見てくれている。


 冷たい眼差しでもないし、安心した。


 が、違った。

 ガドリセスを抜いて、鱗の鞘の先を、俺の下腹部に向けている。


 あの鞘は、歪な巨大グリフォンの胴体に強烈な鞘の打撃を喰らわせていた……。

 俺のびびった視線に気付くと、ヴィーネはキリッとした視線で俺を睨んでから微笑んだ。


 鞘の武器は下げてはくれなかった。

 一物を鞘でビンタでもするつもりか!? 


 いやいや、新しいプレイをとか、へんなことはすぐに忘れよう。


「……大海原で、大海賊として、生きるためなんでしょうけど三重スパイとか、フランのようなことをしていたってことでしょ?」

「ん、わたしの力が通じなかったのもびっくり」


 エヴァはマジマーンの手を触っていたからな。


「特殊部隊でもあるらしいし、何かしらの対精神防御アイテムを持っている?」

「身体は一応調べました。怪しいアイテムは持っていませんでしたよ」

「はい、わたしも調べましたが」


 フーと鴉さんがそう告げてくる。

 カルードも頷いていた。


「ん、何かしらのスキル」


 エヴァの言葉に、皆が頷く。


 マジマーンは微笑む。

 その彼女は【天凜の月】の名をわざと出していない。


 竜騎長ストシュルマンは領主に雇われている側だと考慮しているということだ。


 マジマーンなりに、【天凜の月】の配下として、俺に対して従う意思を示している証拠でもあるのかな。

 空旅の最中、マジマーンと色々と話をしたが……。


 のらりくらりと強かな女だ。


「ん、シュウヤ、ごめん」

「いや、エヴァが謝る必要はない。気にするな」

「わたしも未熟、勉強になる」


 エヴァは天使の微笑を見せてくれた。

 クナでさえ、ある程度読めたエヴァの超能力系の<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>。


 マジマーンの心の表層を読み切れないとは……。

 <筆頭従者長(選ばれし眷属)>として成長しているエヴァの力を弾く、何かしらの精神耐性スキル持ちか。


 レベッカが語っていたようにマジマーンは海軍特殊ヘンラー部隊。

 分隊長という側面もあるようだし情報を引き出されるような、対拷問に慣れている?


 そのことは聞かず、


「マジマーン。サーマリアの海軍特殊ヘンラー部隊に所属したまま、俺の配下に加わるということか?」

「そうなる。わたしのすべては総長次第(・・)よ」


 嗤うマジマーン。

 途中から、鋭い視線で値踏みしてくる。

 俺……次第か。

 その言葉は短いが……深い。


 わたしの立場は今後有効に使えるんだぞ? 

 と、暗に示していると分かる。


 俺の器を計っている?

 喰えねぇ女だ。

 まさにメルっぽいし格好いい女海賊だ……。


「分かった。マジマーン。お前のすべてを受け入れよう」

「――ハッ、改めまして、このマジマーン。総長殿に忠誠を、海神セピトーン様にかけて誓います」


 片膝を突けて、頭を垂れた。

 初めてか?


「俺もだ」

「俺も!」

「総長!」


 と、マジマーンの一味たちも続く。


「副長のメルさんに早く挨拶したいところね」


 一方、竜騎長ストシュルマンさんは困惑顔だ。

 マジマーンの引き渡しを俺が拒否したことと、アルゼ救出の話に嘘がないと感じているからこそ、判断に迷いがでたか。


 気持ちは分かる。


「ストシュルマンさん。見ての通りマジマーンは俺の部下。そして、俺はアルゼの街を破壊するつもりも、マジマーンに何かをさせるつもりもない。そもそも聖ギルド連盟に返す物があるから、このアルゼの街にきただけなんだ。ということで、アルゼの街に向かいたいんだが」

「分かった。しかし、そこの集団は無理だ」


 カルードたちに視線を向ける。


「勿論だ。元よりここで待機予定だった。カルードもいいな?」

「はい、マイロード」


 俺は頷く。

 そして、ストシュルマンに向けて、


「んでは」

「あ、待ってくれ、俺が案内する。そして、できれば領主に説明をしてほしいのだが」

「会うだけな。領主への説明はストシュルマンがしてくれよ。ってことで竜騎長ストシュルマンさん。改めて、よろしく頼む」

「おう。了解した。俺のほうこそ、よろしく頼む。シュウヤ殿」


 ストシュルマンは笑顔で語る。

 その彼はドラゴンのほうに頭部を向け、


「ルガイサッド、警邏に戻れ。後で呼ぶ――」


 ストシュルマンは緑と銀が混じるドラゴンに指示を出した。

 喉と手の甲の魔法の文字が光っている。

 布で隠していないし竜魔騎兵団のマークとも違う。

 やはり、元々は魔物使いか。

 独自の竜を従わせる印字魔法かな。

 俺も親指にバルミントとの絆でもある竜の紋章がある。


 ルガイサッドは双眸が煌めいた。

 長細い頭部に胴体と背中も分厚い。

 ワイバーンより大きいし、典型的な大きいドラゴンだが、やはりサジハリのほうが強烈だ。

 そして、バルミントを思い出す。


 サジハリの下で元気に育って成長をしてくれていることを祈る。

 マジマーンが俺に視線を向けてきた。


 アルゼの街に入りたいか、目的はすぐに分かる。


「マジマーンも連れていくがいいかな」

「……いいが、大丈夫だよな」

「あたしが、そんな腫れ物に見えるってのかい? 安心しな。目的はあたしもカーフレイヤーだよ」

「だ、そうだ。まぁ、その船について、領主に掛け合ってみるが、それで満足か、マジマーン分隊長殿」

「……総長って皮肉が好きなのかい?」

「ンン、にゃ」


 俺の代わりに肩に乗っていた相棒が応えていた。


 そうして、ストシュルマンに案内してもらいアルゼの街に向かう。

 ユイ、ヴィーネ、エヴァ、レベッカにマジマーン分隊長と、その部下のハッカクという魚人を連れていく。

 ジョディも付いてきているが、空の上だ。


 ストシュルマンもジョディの姿を見て……。

 訝しむが、聖ギルド連盟の衣裳と似ているから、文句は言ってこなかった。

 ジョディも聖ギルド連盟の方々は気になるようだな。


「シュウヤ、白色の貴婦人討伐のことだが、アルゼの街の民たちが真実を知ることはないかもしれない……」


 先を歩くストシュルマンが、気まずそうな面を浮かべながら語った。


「構わない。死んだ兵士の家族たちは知るべきだと思うが、普通の民たちが真実を知ったところでな。無闇矢鱈に恐怖感を煽るだけ。事前に知っていれば生きることに繋がるかもしれないが、その委細は領主に任せるさ」

「……深い洞察に感謝する」


 竜騎長ストシュルマン。

 友を喪っても私情に流されず状況を理解し話をしようとする。

 寛大な心を持つ男か。

 オセべリアの王様が、彼を気に入って爵位を与えた理由が分かった気がした。

 

「槍使いと、黒猫。」11巻が2020年6月22日に発売。

漫画版「槍使いと、黒猫。」2巻が2020年6月27日に発売。

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