表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍使いと、黒猫。  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

557/2026

五百五十六話 姐御肌のマジマーン船長

 

 激しい戦いは一段落。

 沸騎士コンビは普通に帰還。

 ピュリンはイモリザに変身してもらう。

 ココアミルク肌のイモリザは俺を凝視して、挙手。


「じゃじゃーん、シュウヤ様! やっと、やっ~~と、わたしの番なのですね♪ 門番長としての実力を歪なグリフォンとやらに! ぎったんばったん――」


 ぎったんばったん――。

 ぎったんばったん――。

 敵を薙ぎ倒す。

 ぎったんばったん――。

 ぎったんばったん――。

 敵を薙ぎ倒す。


 と、歌い始めたので、


「ストップ。もう倒した後だ」

「はいです。知ってます。実はピュリンが貢献できてわたしも満足しているのです」

「そっか、んじゃ次はイモちゃん、俺の、第三の腕として――」


 俺は風槍流の構えから<刺突>を出すような腕の動きを繰り出す。


「活躍してくれ」


 <刺突>の動きを見たイモリザは満面の笑みを浮かべた。


「はい! 大事な基本! <刺突>!」


 背伸びをしながら小さい腕を真上に突き出す。

 髪の形を小さい槍に変えていた――面白い。

 この辺りは少女的で可愛らしい。


 微笑んだイモリザは俺に向けて跳躍――。

 宙で黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)に変化。


 肩に着地した黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)のイモリザ。


「ピュイ♪ ピュイ♪」


 頭から胴体まで芋虫らしい突起物が並ぶ。

 所々に〝偽の眼〟と乳首を合わせたような形がある。


 その気門のようなところから黄金色の粉を出した。

 俺の首に黄金の粉を吹き付けてくる。

 イモリザは小さい頭部で、畏まる。

 ペコリと頭を下げてから、俺の首に頭部を寄せてきた。

 冷たい感触に、うひゃっと思わず、肩を捻ったが我慢。


「キスのつもりか?」

「ピュイン♪」


 小さい頭部をあげて、コクコクと頷く。

 また畏まる黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)のイモちゃん。

 キスをしたつもりのようだ。


 その黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)のイモリザは胸脚と腹脚と尾脚がある。

 歩行の仕草は多種多様でユニークだ。


 様々なイモムシとケムシが合わさったような妙な動きで……。

 しゃくとり虫のように移動する時もあれば……。

 脚を更に縮ませて、ダックスフンド風によちよちとした仕草で歩行することもある。


 その仕草は、とても可愛かった。

 そんなイモリザは、俺の首にキスを続けながら俺の後頭部に胴体を付着させつつ歩行。


 そこに白鼬が――。

 ジョディの首から離れたイターシャだ。

 黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)のイモリザと黄金の粉を触ろうとする。

 しかし、イモリザは素早い。

 ぐにょーん、くねくね、ちびちび、ちょびちょび、と音は鳴らないが、体に空気圧を受けているような音を発しながら脚たちを様々に変化させていく。

 イターシャの赤ちゃんのような指を避け続けた。

 多脚の達人めいた動きだ。

 イターシャの指も可愛いから触らせてあげればいいのに。


 続いて蜘蛛娘アキも近寄ってくる。

 いそいそと動くイモリザのことを凝視してきた。


「アキちゃん、大丈夫よね?」


 レベッカが聞いていた。


「は、はい!」


 メイドキャップを手で押さえる仕草は可愛い。

 しかし、レベッカが聞いているようにアキの視線は少し怖い。

 人族の双眸から、ギョロリと切り替わる複眼たち。


 獲物を追う動きだ。


「アキ、これは食い物じゃないからな」

「分かってますが、捕食対象に見えてしまいました」

「ダメだぞ」

「承知しました! 食べません!」


 敬礼する。

 蜘蛛娘アキ。


 イモリザも黙って喰われないだろうし、大丈夫だとは思うが。

 デロウビンの言葉もあるから少し不安だ。


「さきの戦闘では、歪なグリフォンの血肉を食べていたな」

「はい、美味しかったですよ~」


 すると、レベッカが、アキの後ろ姿を見て、


「アキちゃん、そのメイド服のような素材は体内から?」

「はい、そうですが」


 と服の話題に移っていく。


 一方、黄金芋虫イモリザは竜頭金属甲(ハルホンク)を通り右肘に移動。


 肘に到達すると点滅しながら第三の腕と化した。

 よし、その第三の腕でグーチョキパーを作る。


 そして、相棒、少しだけ運転を頼む――。

 右手を振るいながら気持ちをロロに伝える。


「ンン」


 相棒は喉声を響かせて了承してくれた。


 即座に魔槍杖バルドークを元の右手に召喚。


 イモリザの第三の腕に魔槍杖を渡す。


 <導想魔手>も発動。

 その七つの指と大きい掌の歪な魔力の手(導想魔手)に聖槍アロステを召喚。

 続いて、左手に神槍ガンジスを召喚した。


 フリーハンドの右手で腰の鋼の柄巻を握る。

 そのまま鋼の柄巻を抜きながら、鋼の柄巻に魔力を込めた。


 鋼の柄巻から青緑色のムラサメ光刀(ブレード)が生える――。

 

 いつものブゥンという音が鳴った。


 左足を一歩出し、三槍一剣の構えを取る。

 風槍流の歩法『風読み』をゆったりと行った。


 更に腕を交差。

 三つの手が握る魔槍と神槍と聖槍を交換――。

 簡単な風槍流『枝崩れ』の実行――。


 一斉に片手と第三の腕が握る槍たちを消去――。

 鋼の柄巻でガンスピンを実行――掌で回転させつつ、その鋼の柄巻を腰に差し戻す。


 第三の腕も縮ませて肘と一体化させた。


 何かの肉が肘に隠蔽擬態をしたようにも見える。

 だが、完全に第三の腕は一体化した。


「ん、槍のお手玉が上手!」

「はは、お手玉に見えたか」

「うん」


 エヴァは可愛く頷く。

 そのエヴァはマジマーンとゾスファルトの周囲に展開していたサージロンの鋼球を手元に引き寄せていた。エヴァなりに皆の守りを優先してくれていたらしい。

 

 皆も分かっていたのか、お礼をエヴァに言いながら、笑顔を向けていた。


 そこからカルードとの話し合いに移る。

 渋いカルードから、


「そろそろオセべリアの領内です。グリフォン部隊と竜騎士たちに気を付けるべきかと。雇われる存在もいますし、今は戦争中。先のグリフォン編隊とドラゴンの群れも、何か理由があるのかもしれません」


 と忠告を受けた。


「空軍か。ま、なんとかなるだろう。アルゼの街では少数で行動する。聖ギルド連盟の建物は堂々と入る予定だ」

「はい、前にもお話をしましたが、わたしは顔が割れていますから。そのほうがよろしいかと」

「ご主人様に賛成です。秩序の符牌(オリミールの導符牌)と簡易地図があるのですから」


 と、ヴィーネも同意する。

 頷きながらヴィーネの手を握る。

 勿論、恋人握りだ。

 ヴィーネは頬を赤く染めて、頷く。


 レベッカとエヴァたちから、腕の取り合いになったが……。

 この喧嘩しているようで仲がいい<筆頭従者長(選ばれし眷属)>たちを連れていく。


「大事な荷物は無事に返したい。そして、事の顛末をちゃんと、聖ギルドの幹部たちに報告しないとな。ドルガルとアソルの家族か親友がいたら……告げるのは辛いが、墓も、な……」


 リーンは生きていることを祈ろうか。


「はい」


 そこからマジマーンに話を振った。

 アルゼの街&アズラ海賊団のことも聞く。


「取り引き相手は、三番隊隊長、名は剣槍のビエズ。魚人ではないが、独自の武術を扱う凄腕だ」

「へぇ」


 猫獣人(アンムル)らしく武人の四腕で魔剣サシュルンサスと魔槍ミスナルを扱うとか。

 名はビエズで、名字はガルマンド。

 一瞬で、その人物と戦いたいという欲求が生まれた。


 思えば、友の神王位第三位、四剣のレーヴェも猫獣人(アンムル)で武人。

 種族的に三つの目と四つの腕を持つから武人が多いのかな。

 ホクバという、いやな奴も居たが。


 マジマーンは話を続けた。


「アズラ海賊団はローデリア王国の大海賊私掠免許状を持つ。しかし、オセべリア王国の大海賊私掠免許状はない。大海賊として、オセベリア王国の海軍と商船を狙う敵対関係の大海賊なのだ」

「だからか。レイと銀船を捕まえた場合、その引き渡し場所はアルゼじゃなく、湾岸都市テリアなのか」

「支流の内陸部ですからね。アルゼは」

「そうだ。湾岸都市もオセべリア領だが、ハイム海からローデリア海へと逃げることは可能。敵対しているサーマリア王国に近い都市だけに港の往来の警戒は強いが……秘密裏に【シャファの雷】が仲介してくれたらしい。アズラ海賊団の船は安全なようだった」

「でも、戦争中よ。アルゼにしろテリアにしろ。リスクが高すぎるような気もする」


 ユイが指摘する。


「確かに、リスクが高いからこその、金と実力のあるわたしが選ばれた」

「俺に提示した額も相当だったな」


 虎獣人(ラゼール)のゾスファルトの言葉にマジマーンは頷いて、


「ふむ。前金だけで、船が少し傾くほどだ」


 そんな大金か。

 だが、


「大白金貨として、もらわなかったのか」


 マジマーンから口笛が響く。


「【天凜の月】の盟主様らしい言葉だねぇ、だが、わたしは海賊だよ? 大商人が持つような珍しい硬貨は持たないさ。それだったら白金貨の塊のほうがいい」


 そういうものなのか。

 硬貨も鑑定しないと偽物も混在しているかもしれない以上は、流通が多い硬貨のほうが役に立つってことかな。

 そのことは指摘せず、


「【シャファの雷】は湾岸都市を支配する闇ギルドの名だな。地下オークション前の会合で見たことがある」


 俺の言葉の後、ヴィーネが、


「盟主はガイ・ギュルブンですね」


 と、発言。

 ユイも、


「覚えているわ」


 ユイの表情と小さい唇を見ながら、ふと、カリィの話を思い出す。

 カリィの話に登場したサーマリアの公爵が気になった。

 その線からいくと……。


「だから、アズラ海賊団や他の十二大海賊団の幾つかは、サーマリア王国とも通じている?」

「……可能性は高いです。ご主人様は鋭い予想を立てる」


 ヴィーネが指摘してくれた。

 すぐに予想がつくと思うが。


 カリィが暗殺したメンバーはクナの闇のリスト(知り合い)だった。

 同時に【ビヨルッド大海賊団】でもある。

 そのカリィは……。


『サーマリアのロルジュ公爵とオセべリアのシャルドネ侯爵のことだよ。アルフォードはサーマリアで、レンショウはオセべリアで、と言うようにボクは両国と繋がっている。今回は女狐側にも顔を立てる仕事として、そのサーマリアの公爵系の仕事で外に出ることが多かった【ビヨルッド大海賊団】のバッソリーニとニールセンの【通称・邪道兄弟】を暗殺したってこと。その仕事はもう完了♪』


 と、楽しそうに語っていた。

 ビヨルッド大海賊団は、サーマリア王国の仕事を多く引き受けていたから、それを気に食わないシャルドネがカリィに暗殺を指示した。


「……カリィの語っていたことに、繋がるからな」

「すべてのことには裏がある、って言葉をシジマ街でよく聞いたけど」

「あぁ」


 聞いていた鴉さんも、


「そうですね。ロルジュ公爵は無数の裏組織を抱えていますから、わたしが所属していた【ロゼンの戒】だけではないのです」


 と補足してくれた。


「【ロゼンの戒】の追っ手を処分してから日が経つ。優秀な鴉を追うことを諦めたように思えるが」

「はい、カルードの存在を知れば追う気も無くすとは思いますが、アドリアンヌ経由で情報が漏れている可能性が」

「ふむ。ありえるが、鴉。お前を苦しめる者はわたしが許さないから安心しろ」


 と、カルードと鴉さんは微笑み合う。

 追っ手がいたのか。

 そこで、過去のことを皆に話していく。


「知っているように、俺は過去に【梟の牙】を潰した」


 盟主だったエリボルは過去に……。



 ◇◇◇◇



『外洋の独立都市について、もう少し詳しく』

『海光都市ガゼルジャンだ。そこを支配する闇ギルド【海王ホーネット】と不可侵条約を結んでいる。これの背景には【オセベリア王国】の商船をガゼルジャン海賊や海のモンスターから守るという盟約も含まれているのだ。わたしは、そのお陰で、オセベリア王国の海軍大臣ラングリート侯爵と懇意な仲なのだよ』


 セーヴァが語っていたガ・ペ裏協定の話もあった。


『……そんなことを知ってどうするのだ。もう、わたしの【梟の牙】と大商会は終わりだぞ。船商会は各船長たちがいるので、暫くは続くだろうが……表の纏め役も兼ねていた総長であるビルが死んで、生き残っている幹部もベックとレネの二名だけだ。縄張りもその二人が守る〝倉庫街〟のみ。その縄張りも何処かに取られるのは時間の問題だろう』

『それで、どこの闇ギルドに縄張りを取られたんだ?』

『〝食味街〟を【月の残骸】に〝賭博街〟を【夕闇の目】に〝市場街〟を【覇紅の舞】に取られた。それもここ数日の間にだ……お前は本当に闇ギルドの刺客ではないのか?』


 この時、野生ライオンの社会とか、俺は考えていた。


『……そうだ。刺客ではない。俺自身の判断でここにいる。単に、自分へ掛かる火の粉を払っただけ。ただの、冒険者だよ。……それと、この帳簿はなんだ?』

『……それは、裏帳簿だ』


 そう、この裏帳簿。

 レムロナ繋がりで第二王子に託した陰謀の数々が載った帳簿だ。


『どういった関係者が出てくるんだ?』

『……お前は冒険者なのだろう? ……それを知れば、国、大貴族に追われるぞ?』

『そんなことはお前が心配せずともよい、さっさと話せ』


 この時のエリボルは必死だったな。


『……わかった。知らないからな。これは衛兵隊、第二青鉄騎士団、ホワイトナインの関係者である貴族たち、オセベリア王国の重鎮貴族たちとの取り引き内容だ。隠蔽私掠船、格安で奴隷提供、国の商業組合の行政を通さない海光都市経由の各種貿易の融通、オリーブ油とクルックの実を用いた資金洗浄、不正価格操作。魔薬取り締まりの融通、貴族仲介者への利益提供、等』


 ここの隠蔽私掠船と、今の状況も合う。

 【梟の牙】の船たちが、ハイム海でローデリア王国の船やラドフォード帝国の船に【アズラ海賊団】&【ビヨルッド大海賊団】たちを襲っていたということだろう。


 ガ・ペ裏協定と繋がる【海王ホーネット】の海賊もオセべリア以外の船を襲っていたのかもしれない。


 他にも、エリボルは、


『セスドーゼン領を治める海軍大臣の〝ラングリード侯爵〟。迷宮都市を治める第二王子ファルス様の補佐をする立場であるペルネーテ行政副長官〝デクオル伯爵〟同じく副長官〝トニライン伯爵〟。その第二王子護衛の一人、ホワイトナイン序列第八位大騎士である〝ダラー子爵〟。衛兵隊隊長を兼任する第二青鉄騎士団団長の〝リード〟子爵だ』


 と、繋がっていることを自慢そうな面を浮かべて話をしていた。


 ◇◇◇◇


「うん。【梟の牙】もオセべリアの海軍からしたら役に立っていたってことね」

「だから、闇ギルド【ベイカラの手】の支援を受けた【黒の手袋】が……ペルネーテの当時の【月の残骸】を襲ったんですね」

「そっか。そこに繋がるってことね……鱗人(カラムニアン)のガロン・アコニットは、海軍、魚人、海賊ともに顔が利くとメルも話をしていた」

「地下オークションの終了直後にも、接触をしてきた鱗人(カラムニアン)だな」

「闇ギルド【ベイカラの手】は海軍大臣の侯爵ラングリードの犬ですね、同時にユイは……」


 と、ヴィーネが鋭い視線をユイに送る。

 ユイは俺とヴィーネに視線を向けて、頷いた。


「そう、わたしを追うベイカラ教団」


 アコニットはその時、

『特別なベイカラの神気を感じ取ったからです。神姫、神子、巫女、わたしはこの闇ギルドの立場を利用し無謬のベイカラの力を宿した者たちを集める役回りを担っているのです』


 と、語っていた。


「今思えば、【海王ホーネット】と同盟を得た【月の残骸】が成長すると見込んだラングリードが、アコニットに接触をしてこいと命令を出したのかもな」

「ベイカラ教団として、ユイを欲した理由が強いと思いますが、確かに、そうかもしれませんね」


 皆、頷く。

 ユイは<ベイカラの瞳>を発動させている。

 アコニットの暗殺とか考えていたりして……。

 ま、それはないか。


「しかも、これから向かうアルゼの街を治めているのが、ヒエジ・ゼン・トニライン伯爵よ。今は娘のフレデリカが領主だっけ」

「ふーん、オセべリア王国だから当たり前だけど、色々と絡み合ってるのねぇ、メルも大変ね」


 と、レベッカは懐からお菓子を取り出してぼりぼり喰いながら能天気に語る。

 しかし美味そうに食べている。


 ニコニコと……。

 くっ、何か癒やされるぞ。


 憎たらしいが癒やされる。

 なぜだ。


「ん? 食べたいのシュウヤ」

「お、おう」

「ふふ、じゃ、口をあーんして」

「それは、サウススターじゃないぞ?」

「いいの! ほら」


 お望み通り、口を開けた。

 レベッカはチーズの菓子を俺の口に入れてくれる。

 と、すぐに頭部を突き出し、口を閉じる! 


「あ、もう!」


 そのレベッカの白魚のような指もゲットしたった。

 レベッカは頬を少し膨らませるが、まんざらでもない表情だ。


 頬を赤く染めて指をそのままの状態にしてくれた。

 すぐにヴィーネとエヴァからツッコミが来て、指を退いたが。


 マジマーンたちから、何イチャイチャしてんだという視線を受けたので、


「話が脱線したな、すまん。で、マジマーン。海賊関係の話を頼む」

「……ちっ、ローデリア王国はアズラ海賊団に大海賊私掠免許状を与えているんだ。オセべリアとサーマリアからしたら敵という状況なんだよ!」


 なんか怒っている。

 続いて、ヴィーネが、


「カリィ繋がりから推測して、サーマリア王国の公爵の立場から判断しますと……アズラ海賊団とローデリア王国を、対オセべリア王国戦線に利用したということでしょうか」


 と、発言。

 サーマリアもローデリアと敵対しているが、共通の敵(オセべリア)を持つということ。

「呉越同舟」といった有名な言葉もある。

 他にも范雎の遠交近攻政策は有名だ。


「……状況的にそうだろう」

「確かにガゼルジャンを支配する【海王ホーネット】は【天凜の月】と同盟を結んだからね。【梟の牙】とのガ・ペ裏協定(裏協定)はなくなったけど、まだ条約通りにオセベリアの船を守っているようだし、その代わり、他国の船は前と同じように襲っているはず……」

「ガゼルジャン側もオセベリア側となるのかな。ローデリア王国からしたら俺たちは敵となる」

「そう。わたしたち的にはオセべリア王国と知り合いが多いってだけの感覚だけどね」

「【天凜の月】も、他国からしたらオセべリアの犬に見えるはずです。ラングリードがあれから静観している理由にも通じる副長メルはもうファルス殿下と与しています」

「そうだったわね。貴族の粛清に力を貸しているとエヴァからも聞いたわよ」

「ん、一回だけ頼まれて、協力した。悪者貴族だった」


 なるほどなぁ。


「先も言ったけど、すべてが繋がるってことね」


 ユイの言葉に頷く。

 そのユイは俺に微笑みを向けてから、


「そして、何度も言うけど、【梟の牙】の海運事業と隠蔽私掠船が有効だった。だから、今、オセべリア海軍としての海の交通路が弱まっているところもサーマリア王国は狙っている?」

「たぶんな。【梟の牙】というハイム川とハイム海を利用する潤滑油は、結構重要だったってことだろう」

「ヒョアンさんも、シュウヤが、いや、【天凜の月】が台頭したことで、間接的にダメージを受けたとか、語っていたわね」

「ん、オセべリア王国が大海賊私掠船免許状を与えている海賊団は?」


 エヴァがそう聞いてきた。

 俺はすぐに魚人さんのブルーを思い出す。

 ウォーターエレメントスタッフを返して感謝された。


「「「【海王ホーネット】?」」」


 ユイとレベッカとヴィーネがハモった。


「いや、聞いてない。海王ホーネットのブルーは、エリボルから脅迫を受けていたからな。個人的なルートのガ・ペ裏協定だけのはず」


 すると、マジマーンが、


「……群島諸国サザナミのハーミット団がオセべリアから免許状を受けていると聞いたが、知らなかったのか」


 ハーミットか。

 どっかで聞いたことがあるような、シュヘリアの剣法とかにあったか?


「知らない」

「わたしも」

「ん、メルに聞いてみる」


 エヴァは血文字通信をメルに行う。

 メールかラインかメルらしいしっかりとした血の文字が浮かぶ。


「血文字って奴か」

「ん」


 驚愕しているマジマーンの問いに、血文字越しに頷くエヴァ。


「……すまん、続けてくれ、そもそも、群島諸国サザナミのことは聞いたことがあるだけだ。まだ知らないことが多い」


 マジマーンは血文字を眺めながらエヴァに血文字を続けてくれと語る。

 すると、メルと血文字交換をしたエヴァが、


「ん、メルはハーミット団を知ってた。船商会が遭遇しても戦いにならなかったって。避けて通ったと。けど、詳しくは現場にいなかったから知らないですって。オセべリア王国が大海賊私掠船免許状を与えたのはフリュード冒険卿が率いている船団だけのはずとも、」


 続いて俺にも、メルから血文字が浮かぶ。


『総長、普通は大海賊私掠船免許状は大々的に発表しないので、分からないことが多いんですよ』

『分かった。機密が多いのか。ありがとう』


 メルに血文字で返事を送った。

 エヴァも目の前の俺の血文字を見て頷く。


「そっか、ありがとエヴァ」


 そのタイミングでカルードに視線を向けた。


「マイロード。暗殺の仕事は船を利用するよりも内陸部のほうが多かったです。海賊の免許のことはあまり知りません」

「うん。私たちは使われる側。シジマ街では、仕掛けるほうが多かったからね……殺される側の事情は知るよしもない」


 ユイは悲しげな顔を浮かべていく。

 過去を気にしているようだな。

 俺は寄り添う気持ちを顔に出してユイを見る。


 ユイは笑顔を返してくれた。


 ゾルの家の庭で一緒に食べ物を口にしていた頃を思い出す。


「私掠船免許状はあまり見ることはないからな。島々は共通語が通じないところも多々ある。アムロスの孤島を根城にしていたドルトン海賊団も免許状はないし、魚人語が多い」


 マジマーンがそう発言した。

 あの島々だと固有な言語が多いのか。

 しかし、マジマーンの共通語はかなり高レベルだと思う。

 そのことは告げず、


「……わかった。免許状がなかった【梟の牙】がオセべリア海軍に重要視されていた理由がその辺にありそうだな」


 すると、カルードが、


「その【梟の牙】とエリボルを褒めるわけではないですが、あのやり方は闇ギルドらしく狡猾で巧妙な方法かと。表で活躍するのはあくまでもオセべリア海軍であり、裏に徹する動きで膨大な利益を得る。実に利口なやり口です」


 だからこその八頭輝という称号か。

 総長の両手剣使いのビルだって、人族では強者だった。

 レネもいた。

 そして、ヤゼカポスの短剣を持っていた二剣使いのオゼ・サリガン。

 忍者マンも牛刀ピーリも皆、強かった。


 と、思い出していると、 


「ハーミット団は銀船のように魔導船が多く、謎が多い。そして、秘密裏にオセべリアの貴族と協定を結んで活動を続けている大海賊はローデリア海では多いだろう。工作活動やら色々な」


 マジマーンの言葉に頷く皆。


「とにかく【血月海星連盟】としてのわたしたちの台頭も大いに関係があるってことですね」


 ヴィーネの言葉に皆が頷いた。


「そうだ。ユイの言葉ではないが、すべてのことに裏がある」


 マジマーンも頷いて、


「といった流れで分かると思う。領主のフレデリカが、わたしの船を拿捕している可能性が高い」

「アルゼの街で問題でも起こしたのですか?」


 と、鴉さんがマジマーンに聞いていた。

 珍しい。いや、アルゼで騒動を起こしたことを気にしている?


「いや、問題は起こしていない。船商会として届けを出してないぐらいか。が、それはどこの船も同じこと。やはり、一番の理由は、名声と船だろう」


 マジマーンから女海賊としての誇りを感じた。


「やはりマジマーンさんと呼ぶべきか?」

「総長、それは皮肉に聞こえるからやめてくれ」

「すまん、話を続けてくれ」

「うむ。わたしも自慢ではないが、幻の四島を見つけた大海賊と呼ばれた女海賊のはしくれ、なのだ」

「へぇ」


 幻の四島ってどっかで聞いたような気がする。


「そんなわたしが愛用していた母船カーフレイヤーも多少なりとも装備が整った魔船の類いに値するイカス最っ高ぅ! の船なのさ! 銀船を追えるぐらいにな。船首も海神セピトーン様の加護がある代物。そんな最高で、イカス船の見張りも少ない状況。そして、カルード殿は領主の館で暴れたと聞く。その件を鑑みれば、おのずと……」

「おのずと、その最高なイカス船にある、お宝か、積み荷が領主としては気になるか」

「その通り、ゾスファルトもそう思うだろう?」


 マジマーンの問いに虎獣人(ラゼール)のゾスファルトも頷く。


「……最高にイカス船か、その判断は俺にはできない。が、アズラ海賊団は十二大海賊団の一つ。そこから依頼を受けるほどの船を持つマジマーン様? の船だからな。そして、ローデリア王国とサーマリア王国とも対立しているオセべリア王国の領主は、自分の屋敷が未知の集団に襲われたのだ。サーマリアと本格的にドンパチしている中で、その背後関係が気になって、怪しい船を調べるのは、必然と言える」


 カルードの下に付くと決めた片腕の剣士ゾスファルトが流暢に語る。

 ママニと同じ種族の方だ。

 因みに彼の仲間たちも一斉に頷いていた。


 そのゾスファルトに、


「冒険者として雇われてカルードを追ったんだよな」

「はい、元の依頼主はマジマーンではなく、フレデリカ領主からの緊急要請です」

「最初からマジマーンに雇われていたわけではなかったのか」

「はい、『くせ者を追え』と。俺たちはカルード殿たちを追う途中で、マジマーンの一味と遭遇。剣呑な気配となって戦うか? といったところで、マジマーンさんと交渉が始まりました」

「そうだよ。わたしが説得した『戦って無駄に命を削り合うより同じ獲物を追うことが筋だろう』とな。そして同じ金ならわたしたちのほうが大金を出す。とね」


 マジマーンの態度は分かりやすい。


「はい、話を聞くうちに、カルード殿と合流したエルフのフーさんと蛇人族(ラミア)のビアさんを追っていると知りまして……金も出すからと共闘に移ったのです」

「よく分かった。で、マジマーン。金を出したアズラ海賊団は荒神とか信奉しているのか?」


 ホウオウとアズラ。

 過去の荒神大戦の話に通じているかもしれない。


「そうよ。船首に荒神アズラ様の像が目立つ船が多い」

「それは魔道具かな?」

「似たようなもんだね。船首ごとに船の効果が違うのさ。値段が高い品だと複数の神々の力が宿っている船首もあると聞くよ。海賊たちの中ではその船首を狙って争奪戦もおきるぐらいだ」

「船の世界も面白そうだな。で、レフト・ドン・ガーシュってのが盟主or総長なんだろ。ガーシュは荒神アズラの力を得ているのか、または船長クラスの全員が荒神アズラを信奉しているとか?」

「全員が全員荒神アズラ様を信奉しているとは限らないよ。ただ、当然、皆、何かしらの能力を持つ強者ばかりのはず。十二大海賊団は並じゃない」


 国から公認された〝大海賊私掠船免許状〟を持つ大海賊たちか。


 セリス王女が見せてくれたローデリア海の近隣地図。

 群島諸国(サザナミ)へと通じているように広いからな。

 色々な島もあったし……貿易の権益は相当なもんだろう。


「そっか、アルゼの街で、他に注意するところは?」

「漂流の竜騎長ストシュルマンが居る時もある。空の警備の依頼を受けていたら厄介ね」

「竜騎長、白の九大騎士(ホワイトナイン)か?」

「いえ、オセべリアの上位騎士の爵位を持つ個人の竜騎士」


 と、告げたのはカルード。


「国の騎士? 冒険者か?」


 俺がそう聞くと、マジマーンが、


「この地域の出身で、ドラゴンしか使役していない魔物使いの冒険者だったと」

「ドラゴンテイマーか。レムロナや大騎士のような力があるのかな」

「ドラゴンを使役できた理由は、歌でも聴いたことがない」

「歌?」

「そう。酒場でな。幾つか彼の歌を聞いたことがある」

「そこまでの存在か」


 吟遊詩人に謳われる英雄さん。


「元々は、配達に連絡や輸送と周辺のモンスター退治で金を稼いでいたようだが、次第に国に雇われることが多くなり、オセべリアの姫様を救って爵位を得たと聞いた。ルーク国王のお気に入りで、大騎士の誘いを断った逸話もあるし、かなりの強者なんだろう」

「へぇ」

「わたしが領主の館の一室を占拠した時には、居なかったですが、アルゼの街ではバルドーク山からの竜の襲来が頻繁にあると聞きました。雇われている可能性はありますな」

「戦争中だし、ありえる」


 まぁ、樹海とはいえオセべリア領の街だ。

 聖ギルド連盟の建物もあるし、わざわざ、ゼレナードが狙うほどの街。

 そんな強者の人物が居てもおかしくはない。


「そっか、理解した。これでも吸って休んでくれ」


 俺は魔煙草を出し、マジマーンに差し出した。


「お、ありがたい」


 と、魔煙草を受け取ってくれたマジマーンは口に咥える。

 俺は紅玉環に魔力を込めてアドゥムブラリを発動。

 指環からぷっくりと卵のように出たアドゥの頭部にAを刻む。


 人差し指に闇炎を灯し、マジマーンに近付く。

 煙草に火をつけてあげた。


「気が利くねぇ。平たい顔だが整っているし色男だ。女にもてるのも頷ける……」


 マジマーンは頬を斑に赤く染めていた。


「海賊云々の前に、マジマーンもこうして話ができる理解ある美人な女性だ。それなりに対応はするさ、んじゃ空を見ながらまったりとする」


 と、言いながら離れた。

 相棒の後頭部の黒毛に包まれているビームライフルを取る。

 カレウドスコープと連携させる。


 スコープを覗きながら……遠距離偵察。

 何もなし。遠くにガーゴイルとクラゲが見えるだけか。


 速度はマジマーンたちも居るからゆっくりだ。


 さて……魔煙草で一服。

 少し落ち着いたところで、訓練でもやるか。


「皆、少し離れてくれ」

「ご主人様、その〝びーむらいふる〟でモンスターを遠距離狙撃ですか?」

「いや、修業する」

「戦わない修業ってこと?」

「そうだよ。鍛錬だ。おっぱい修業?」

「わざとらしい。その手の動きはおっぱい大魔王のごとく厭らしいけど、武人顔なんだから、ごまかされないからね」

「ですね、おっぱい大魔王に襲われる前に逃げましょう。下がります」


 ヴィーネも微笑みながら語る。


「うん、なんの訓練か分からないけれど、がんばって」

「ん、えっち修業がんばって」

「えっちじゃないが、おう」


 皆、笑うと、神獣(ロロ)の後頭部から離れた。

 俺は、


『ヘルメ、修業をやる』

『えっと、ロロ様から離れて、空中の模擬戦でしょうか』


 ヘルメの念話に操縦桿の触手を握りながら、


『いや、飛行したままだよ――』


 と伝えながら<無影歩>を発動――。

 <無影歩>のオンとオフ。


 発動と消去をくり返す。


『<無影歩>を軸とした研究と修業だ』

『なるほど、わくわくする修業なのですね』

『おうよ』


 そうして、掌握察を怠らずに有視界の警戒も強めながらの……。

 <無影歩>を発動途中にキャンセルしたり意識するか意識しないかくり返したりする。

 <無影歩>の気配殺しの境目を探りつつの、気配の強弱をコントロールできるかどうかを試す。


 <無影歩>の感覚を薄めた。

 逆に魔闘術を全身に纏ったり、足と手や体幹と大腰筋に魔力を集中したりもくり返す。


 キサラから習い途中の魔手太陰肺経と『魔漁掌刃』の構えを実行。

 <導想魔手>と<精霊珠想>に<仙丹法・鯰想>も何回も繰り返す。


 続いて、<仙魔術>も単体で実行。

 霧が発生する。

 同時に胃がねじれる、痛いし辛いが……。


 それこそが修業。

 この喉からせり上がる胆汁のようなモノにも、慣れることはないだろう。

 そして、流れるように霧の蜃気楼(フォグミラージュ)の指輪を使い分身体を作った。


 背後から仲間たちの歓声が起こる。

 霧の分身が宙を飛翔しているからか?

 分からない。


 俺の左目から出ている神秘的なヘルメは鯰の造形となっている。

 この面白い<仙丹法・鯰想>を操作。


「やはり、巨大地底湖アドバーンの主!」

「ヴィーネ殿は、幻の地底湖の主を見たことが?」

「いえ、資料としてだけです」


 と、墓掘り人たちと会話をしていくヴィーネ。


 神秘的な視界を左に得ながらも<無影歩>を実行。

 精神力というか、結構、魔力を消費する……。


 そして、仙魔術を繰り返したお陰か……。

 <無影歩>で気配を徐々に薄くしていくことが可能となった。

 全身を巡る神経網……。

 このセラ世界に干渉するような感覚……。


 俺だけの狭い範囲のステルス効果は続いているが……耳鳴りのような音も脳から響いた。


 臨界期を繰り返すらしいが……。

 さすがに<脳魔脊髄革命>にも限界があるようだ。


 そして、何回か<無影歩>を繰り返していると、ある重要な事実に気づく。

 相棒がグリフォン級だと<無影歩>が上手く機能しない時がある。

 ステルス効果を得ている時もあれば、ステルス効果が切れている時もあった。

 エヴァ、カルード、ヴィーネ、ユイ、レベッカ、鴉さん、バーレンティンと墓掘り人たち、ママニ、フー、ビア、蜘蛛娘アキ、マジマーン一味が神獣(ロロ)に乗っているから人数が多すぎるのもあるかな。


 相棒が姿を小さくすれば<無影歩>も通じるかもだが……。

 それに相棒は神獣として空を飛ぶ時、推進力を生む魔力波を主に両翼から発している。


 これが<無影歩>を阻害するとか?

 そして、飛翔する時に〝遊び〟と〝食べ物〟に集中する。

 飛翔するエネルギー源として食べ物が必要なのかもしれない。


 だが、ロロディーヌだ。

 単に食いしん坊なだけかも。


 と、<無影歩>の訓練を止めた。

 魔煙草を吸っていく。


 ふぅ……。

 世界は広いな……。


 慎重にモンスターを避けながらの運転を心掛けた――。


 そうして、ゆったりとした飛行を続けて……。

 八支流のサスベリ川とジング川を出て南東に続くアルゼ川に出る。

 といっても、ジャングルな樹海の範疇だから、下は森だらけで、空はモンスターランド。


 アルゼサーモンがどうとか、料理の話が背後から聞こえてきたが……。

 蜘蛛娘アキとマジマーンの一味は魚料理に関することで盛り上がっていた。


 一方で、ヴィーネとレベッカとエヴァは、遠距離攻撃を実行。

 ゆっくりとした飛行もあいまって、しつこいぐらいに追跡してきたガーゴイル系モンスターを遠くから撃ち落とす的当てゲームを行なっていた。


 今も、ヴィーネの翡翠の蛇弓(バジュラ)から射出された光線の矢が、ガーゴイルを貫く。


「ん、負けた。ヴィーネの弓術は凄い」

「うん、負けた、銀貨一枚ね」

「ん、わたしも」

「わたしの蒼炎弾も自信があるけど、やはりヴィーネの光線の矢は的確。確実に仕留めるし」

「ありがとう。二人とも凄まじい数を屠っているのだ。わたしの勝利は偶然に過ぎない」


 と、謙遜するヴィーネは地声だ。

 お陰でガーゴイル系の数は減って楽に進むことができた。


 しかし、竜系と巨大鯨の生存競争と遭遇。

 標高はそんな高くないのに樹海は本当にモンスターが多い。


 もう、あの歪なグリフォンの編隊で懲りた。

 幸い距離もあるし、生きるための盛大な狂宴はスルー。


 続いて、神界の戦士団と巨大狸に乗った人族の姿を、遠くから見たがスルー。

 前に見たことのある両手に薬の瓶を持った人型ではない。

 だが、色違いの巨大狸を操る人族だ。


 あの魔物使いは神界勢力なんだろうか。

 続いて遭遇したのは腕が四つと脚がキャタピラーの大柄怪物集団とブーさん系の神界戦士団が戦っている場面だった。

 勿論、スルーした。


 心でがんばってくれと、神界戦士団の健闘を祈った。


 次は、クラゲ軍団。

 これはスルーしない。

 主に相棒が――。


「ンンン、にゃぁ――」


 口を広げたロロディーヌはクラゲの群れに突進。

 鯨がアジの集団を仕留めるように、海面を浮上して魚を貪り食うように、一度に何十ものクラゲたちを平らげた。


 クラゲ集団、南無。


 次は……。

 アメーバのような触手を生やした茸編隊vs大鷹軍団に遭遇。


 幸い距離がある。逃げるぞ――。


「マジマーン、大丈夫か?」


 と、さり気なく腰を掴み、抱き寄せる。


「あ、う、うむ……大丈夫だ。ありがとう」


 マジマーンの息遣いが色っぽい。

 眷属たちからのギラついた視線を感じるが、操縦に専念するふりをする。


 速度を出して、更に高度を下げた。

 急降下――。


「あ、そろそろだ」


 と、マジマーンの声が響く。

 本当にアルゼの街らしき建物群が遠くに見えてきた。

 やはり、支流の傍にあるが、サスベリ川と違う。

 ハイム川の本流に近い幅だ。


 水深は深そうに見えた。


「マイロード、そろそろ、オセベリア領の警戒領域に近いです」

「ならこの辺りで降りよう。空軍は厄介だ」

「はい、オセベリア王国は戦力増大中。グリフォン部隊と竜騎士隊の駐留数も多かった」

「スゥンの幻影や皆の協力があったから楽に撤退ができたんだったっけ」

「はい」

「主、リングオブガイガーの力が必要ならいつでも指示を」

「幻影ってどんな感じなんだ?」


 と、スゥンとヴィーネを見比べるように目配せした。


「相手の恐怖心を増大させるモノです」

「わたしのコレ(・・)とは違うようですね」


 ヴィーネは銀仮面を触りながら発言。


「そっか、ま、降りる場所を探す」


 旋回だ――。


「ンン、にゃおぉぉ~」


 両翼が気持ちよさそうに風を受けて滑空していく。

 相棒は楽しそうだ。俺も嬉しい。

 片膝を突けて、相棒の後頭部を片手で撫でながら飛行する。


 すると、相棒の長耳たちが左右から迫った。


「きゃ」


 傍にいたマジマーンごと俺を包む長い耳。

 姐御さんの雰囲気を持つマジマーンから可愛い声を聞けて嬉しかったが……。


 やはり相棒の労りの気持ちを受けると、心が癒やされる。

 そのマジマーンはアルゼの街に隣接する支流を見て、港らしき船が多数碇泊しているところを見ていく。


 やはり自分の船のことが気になるようだ。

 聖ギルド連盟にギルド秘鍵書を返したら、港を見てみるか。


 船も優秀らしいし、拿捕されていなかったら、メルの船商会にマジマーン船長ごと組み込める。


 俺は支流の川からアルゼの一帯をスコープで覗いたり覗かなかったりを繰り返す偵察を続けた。


 ん?


 腕を差した先に竜騎士と思われる姿が飛翔しているのを確認。


「竜騎士だ。一騎だけだが竜は大きい。大騎士にしか見えない。あれが漂流の竜騎長ストシュルマンか」


 ビームライフルのスコープでズームアップ。

 ほぅ……精悍な面だ。

 得物は槍と方盾。

 周囲を警戒している。


「……小さい姿としてしか見えないですが、目がいいですね……たぶん、そうだと思います」

「この魔道具のお陰だ」

「マイロード、下は樹木ばかりですが、急ぎ下りたほうが……」

「そうだな」


 ――神獣(ロロ)、降下してくれ――。

 空き地がないなら――樹木を押し倒していい。


「皆、触手が絡まったから分かると思うが、多少揺れを覚悟してくれ」

「「了解」」

「「はい」」 


 ロロディーヌは尻尾を使うようだ。


「ンン――」


 ロロディーヌは火炎を使わず――。

 長く太い尻尾で樹木を薙ぎ倒した。

 そして、無数の触手を展開し、倒れゆく樹木群を粉砕――。


 一対の巨大な前足で、これまた太い樹木の一部を薙ぎ倒して着地した。

 あまり揺れずに着地に成功だ。


「圧巻ね――」

「凄すぎて……腰が……」

「あぁ、おれは今日、とんでもない世界を知った」

「空旅は危険。【天凜の月】の盟主は、とんでもない槍使いで大魔術師な仙人で、神獣使いだと」

「……あぁ、そして、イカス男……」


 と、姐御肌のマジマーン船長がボソッと語る。

 すぐに流し目となったマジマーン。

 横を見て、街道を探しているが、耳が真っ赤だ。


 可愛い。


「ん、ロロちゃんは、わたしたちのためにクッションを用意してくれた――」

「おう」


 相棒は触手が絡まったマジマーンたちを降ろしていく。

 俺も相棒の後頭部から飛び降りた。


 着地、軟らかい感触だ。

 緑の葉がよく茂っている……森か。


 お、右に街道か、馬車が見える。


「ンン――にゃお」


 小さくなった黒猫(ロロ)だ。

 可愛い小さな体重を肩に得る。

 頬に頭部を擦りつけてくれた。


 俺もゆっくりとした飛行ありがとな!

 と、頬を擦って喉の毛を伸ばすようにグルーミングしてあげた。

 ごろごろ、ごろごろ、と心地いい音を響かせる。


「ふふ」

「ん、ロロちゃん、幸せそう」

「そうねぇ、なんだかんだいって、シュウヤの肩が一番なのかな?」


 レベッカは人差し指を黒猫(ロロ)の鼻に伸ばす。

 黒猫(ロロ)はくんかくんかと、小鼻を動かして、レベッカの指先の匂いを嗅いでいく。


 俺はマジマーンとゾスファルトたちの様子を確認。

 ゆっくりとした飛行とはいえ、ヴァンパイア系の種族ではない方々、体調を崩していないか心配になる。

 皆、笑みを浮かべて談笑していた。


 よかった。大丈夫そうだ。


 片腕のゾスファルトはタフそうだが……。

 カルードの闇ギルドの初期の大事なメンバーとなる人材だ、無理はさせたくない。


 そこで、カルードに視線を移す。


「カルード、あの街道からアルゼに?」

「そのはずですが、わたしたちが逃走したルートは森の中で、反対側からですから、ここの道は分からないので、地図で確認を」

「了解」


 地図を見ると、森と川に挟まれたアルゼの街があって……。

 道らしきものは上下にいくつかあるが……。


 下側って道が、あの街道ってことかな……。


「……よし、それじゃ、着いた直後で悪いが街に俺たちは向かう。カルードたちはもう少し先にいったところで待機してもらうぞ」

「はい、あの藪の中なら、見つかることは、まず、ありますまい」


 カルードが腕を伸ばした先は、紫苑が咲いた原っぱの奥。

 岩場の窪んだ場所だった。

 俺は頷く。


「でも、街の衛兵たちが全員、父さんたちの顔を覚えているかな?」

「全員は覚えてないはず。だが、街を救うためとはいえ、追撃してきた兵士たちの命を奪った事実は変わらない。わたしが行けば、マイロードの交渉時に足かせとなることは必定。だから、待機だ」

「俺たちもカルードの傍に居ればいいんだな?」


 赤髪のサルジンだ。

 爪系の武器を伸ばしている。

 警戒を怠らないあたりは、さすがだ。


「そうだ。バーレンティンはどうする?」

「主、我らもカルード殿と待機しています。吸血鬼に反応する魔道具か結界はあるかと思いますので」

「まぁ、それを言ったら俺も反応すると思うが、分かった。バーレンティンも残ってくれ」

「はい」

「主、偵察をしますか?」


 スゥンが聞いてきた。


「そうだな。地形の把握を頼む」

「はっ」

「なら、俺も偵察の護衛をしとこう」

「俺は残る」

「……」


 トーリは偵察に加わるようだ。

 ロゼバトフとキースはバーレンティンの傍にいく。


「わたしも主と一緒がいいけど、聖刻印バスターっていう、オリミールの寵愛を受けている存在。そんな人員を要した組織だからね。ソレグレン派の吸血鬼になって力を得たけど、争いたくはないわ」


 イセスがそう語る。

 頷きながら、


「さっきチラッと見たが、アルゼの街もそれなりに大きい。大商会絡みの利権争いもあると聞いたし、サザーやフーからの報告では神聖教会もあるそうだからな」


 俺がそう話をすると、ビアと話をしていたフーが俺に一礼をしながら、


「はい、規模は小さいですが、宗教街はペルネーテのようにありました」


 と、補足してくれた。

 そんな会話をしながら森を歩くと……。


 急激に近寄ってくる魔素を感じ取る。

 二つ。速い。こりゃ、さっきの……。


 頭上に風を感じた。


「――何者だ! 死の旅人か!」


 やはり、漂流の竜騎長ストシュルマンか。

 だいぶ離れていたが……ロロディーヌの着地に気付いたか?

続きは来週予定です。

HJノベルス様からノベル版「槍使いと、黒猫。」1巻~11巻発売中。

コミックファイア様からコミックス版「槍使いと、黒猫。」1巻~2巻発売中

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ