表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍使いと、黒猫。  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2222/2225

二千二百二十一話 大魔公爵ヴェデルアモボロフとの戦い

 急降下してきたヴェデルアモボロフは急激に腹を膨らませる。

 拡がった腹の血肉と皮が靡き、翼となると、加速し右へ旋回。同時に腹の血肉の一部を無数の闇と黄の槍のような物へと変化させ、それを伸ばしてきた。


 右手に魔槍杖バルドークを、左手に無名無礼の魔槍を召喚し、掌に馴染む二振りの双槍が、ずしりとした重量感とともに、全身の血脈を沸騰させるように――。

 <血道第三・開門>――<血液加速(ブラッディアクセル)>を発動させる。

 <無方南華>、<無方剛柔>、<メファーラの武闘血>をも発動。

 戦闘本能を表に出すように超加速する思考のなかで、大型の駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、斜め右上にいるヴェデルアモボロフへ放つ。


『ヘルメ、外に出て皆をフォロー』

『分かりました』


 左目から液体状のヘルメが飛び出て、一瞬で女体化。


「――皆、ヴェデルアモボロフは俺が対応する。周囲を見て臨機応変に!」

「「はい」」

「――にゃごぉ」


 皆の返事を聞きながら、ヴェデルアモボロフを凝視。

 飛来してきた無数の槍と黄の槍と衝突していく八咫角は、直進し虚空を穿つようにヴェデルアモボロフに向かうが、ヴェデルアモボロフは速い。

 右に回りながら体の一部を大斧に変化させ、八咫角を下から上へと斬るように弾いて、左に飛ばされた。即座に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消す。

 ――<雷光跳躍(ボルトリープ)>。

 下からヴェデルアモボロフに近付き、<闇雷・一穿>で肉布団ごと貫くことを狙ったが、ヴェデルアモボロフは大斧に変化させた体を引き戻しながら、後退、風船から空氣が抜かれたような奇怪な動きで斜め上へと急上昇し、逃げては、


「ハッ、ここでお前を仕留めば、我は!」


 と叫びながら異様な音を発し、その体から放たれていた膨大な黄色の魔力が大氣の組成を塗り替える勢いで拡がっていく。

 

 深紅とはもう言えない、大魔公爵ヴェデルアモボロフ体の一部が裂かれて変形。

 拡張された腹の血肉と皮膚が、またも新たな翼や血肉の漆黒と黄の槍に変貌し、それらの黄の槍が飛来してきた。


 一つの黄の槍を魔槍杖バルドークの<闇雷・飛閃>で捉え、斬りながら右へと旋回し――ヴェデルアモボロフを追いかけながら、次に迫った黄の槍を避けていく。


 すると、急旋回中のヴェデルアモボロフの全身から異臭が漂ってきた。

 大氣が酸を帯び、唇が焼けるまま<血道第四・開門>を意識――。

 <霊血装・ルシヴァル>の面頬を装着し――有毒な大氣を遮断した。


 <血道第五・開門>、<血霊兵装隊杖>――を展開させる。


 ルシヴァル宗主専用の吸血鬼武装たる漆黒の甲冑が、闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)の装備、神聖な胸甲、そして和洋の美が融合した鈴懸(すずかけ)と不動袈裟風の衣装防具を貪るようにして融合していく。


 圧倒的な魔力の防壁を全身に纏い得るまま――。

 迫り来る黄の魔槍目掛け、魔槍杖バルドークの<血穿>を突き出した。

 黄の魔槍を穂先を紅矛が穿ち、貫いた。

 続けて、左手の無名無礼の魔槍を横から振るい、柄で、黄の魔槍を下から折る。

 

 二振りを振るって、飛来してくる黄の魔槍を――順調に叩き落とし続け、火花を散らしながら大魔公爵ヴェデルアモボロフへと向かうように、猛追した。


 身をくねらせ高速移動しているヴェデルアモボロフが氣持ち悪い。

 その蠢く腹部が増殖し、百八十度の広角にわたって、おぞましい肉の根が下方と側方へと急速に伸長していく。

 その根の先端から「第二のヴェデルアモボロフ」と呼ぶべき歪な肉塊が急膨張し、大音響とともに自爆。飛び散った肉片の一つ一つが不氣味に蠢く無数の「極小のヴェデルアモボロフ」へと変態し、羽虫の群れのようになって殺到してきた。


 無意識のまま<血鎖の饗宴>――。

 体から迸っていた<血魔力>が一瞬で無数の赤黒い鎖――<血鎖>と化し、全方位に向けて射出された。細かなヴェデルアモボロフを串刺しにし、消し飛ばしていく。


 迫り来るミニ分身どもの数は異常だが――。

 ――正確無比に串刺しにし、その体を内から蒼い炎を撒き散らすように、爆裂させて虚空へと消し飛ばしていく。


 そこで、<導想魔手>を発動。

 王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを出し、<導想魔手>に持たせ<氷王ヴェリンガー使役>を発動。


 毛孔から噴き出した絶対零度の冷たい魔力が、渦を巻きながら氷の騎士――氷王ヴェリンガーの姿へと氷結、固定化していく。

 ヴェリンガーが顕現すると、激しい熱戦が繰り広げられていた大氣は一変――。

 宙空と地面にも美しくも冷酷な氷霜花樹が結晶の音を立てて急速に咲き乱れていった。

 神律の適格者と<縫合のアハシュムロン・スートラ>の効果が、結構な範囲だ。


「――ヴェリンガー、敵は、闇神リヴォグラフ側と欲望の王ザンスイン側、そして、目の前のヴェデルアモボロフだ」

「はい!」


 ヴェリンガーは足元から氷の波紋を広げ、滑るような超高速で戦場を駆けた。

 氷の神槍が冷氣の尾を引きながら一閃。

 ヴェデルアモボロフが生み出し続けていた細かなヴェデルアモボロフを両断。

 続いてヴェリンガーを攻撃をしようと迫った細かなヴェデルアモボロフを確実に、仕留めていく。


「神界の眷属だと!?」


 ヴェデルアモボロフは驚くと、肉塊から自らの闇の魔力を押し潰しながら不吉な黄金の輝きを帯びた無数の太い肉槍を多数、こちらに伸ばしてくる。


 ヴェリンガーは回避せず突進。


「――<冽閃霜花穿>」


 神槍で、黄金肉槍を貫いて対処。

 ヴェデルアモボロフから黄金に輝く魔力と血肉か、欲望の王ザンスインの恩恵か。

 その魔力と血肉が、己の闇神リヴォグラフの権能を、喰らうような印象にも視えたが、欲望の王ザンスイン側にも狙いがあると分かる。


 黄金肉槍はこちらにも飛来した。


 ――<刹那ノ極意>を意識し発動。

 意識を極限まで加速させ、世界の動きをコンマ数秒の遅滞へと追い込む。


 左手の無名無礼の魔槍で<風穿>――大笹穂槍の鋭利な穂先が黄金肉槍の先端を正確無比に穿ち、そのまま竹を割るように縦真っ二つへと裂きながら前進。


 右手の魔槍杖バルドークを振るう<龍豪閃>――。


 紅斧刃が飛来する第二波の黄金肉槍の下側を捉え、肉を裂く鈍い感触とともに斜め上へと切断する。その勢いのまま体幹を軸に鋭く横回転、またも飛来した第三の肉槍へと――。

 遠心力を乗せた無名無礼の魔槍の<豪閃>が衝突、第三の肉槍を両断した。


 体が独楽のように回りながら、次々に飛来してくる肉槍を魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍の強靭な柄を交差させ――対処していく。


 <仙魔・桂馬歩法>を織り交ぜ、宙空で異なるステップを踏むように、肉槍を潰す――。

 残る肉槍の軌道を金属音とともに弾き飛ばしながら一氣に、ヴェデルアモボロフとの間合いを宙空から詰めて、<風柳・連礼穿槍>を繰り出す。


 ヴェデルアモボロフもさること――。

 奇怪な体から出てくる肉槍を、槍術の基本「らん・()()」を用いて、払い弾き、引っ掛ける――更に穿つ――。


 魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍の柄で、黄金肉槍を弾き斬り、前進――。


 無名無礼の魔槍から繰り出される無慈悲な<死突>が肉槍を穿ち、魔槍杖バルドークの<刃翔刹閃・刹>が描く光の刃がそれを追う――。


 大笹穂槍と紅斧刃の二重奏が、しなる黄金の肉槍を枯れ枝のように叩き折り、千切り飛ばしていった。右上と真下からの黄金肉槍には<神聖・光雷衝>と<神樹ノ領域>の衝撃波で対処、頭上と足下に神々しい<血魔力>が散乱、ルシヴァルの紋章樹の幻影が出現した。


 ヴェデルアモボロフは下に移動し、ヴェリンガーの一撃を喰らっていた。


「ぬぐお!? 邪魔だ――」


 ――ヴェリンガーの追撃を避けたヴェデルアモボロフの側面を突く。

 魔槍杖バルドークを<投擲>し、右手に〝大地竜槍テラブレイカー〟を召喚するまま、<投擲>した魔槍杖バルドークを、魔法陣の盾で防ぐヴェデルアモボロフに<飛怪槍血刃>――魔法陣の防壁を回り込むようにして軌道を変えた血の刃がヴェデルアモボロフの右腕と右肩を穿つ。


「ぐぇぁ」

 

 痛みの声を発したヴェデルアモボロフだったが、左側の肉布団盾を生み出す。

 <鬼想魔手>で<血仙瞑貫手>を繰り出し、それを貫くまま、<鬼想魔手>で魔槍杖バルドークを掴ませ、<鬼想魔手>が握る魔槍杖バルドークで、ヴェデルアモボロフの頭上から<血刃翔刹穿>を繰り出した。ヴェデルアモボロフは頭上にも、肩や背の贅肉を引き上げ、肉厚な肉布団盾を展開し、紅矛と紅斧刃の<血刃翔刹穿>の一撃を防ぎ、無数の血刃も防ぎきる。


 そんなヴェデルアモボロフとの間合いを詰めたが――ヴェデルアモボロフは素早く、黄金肉槍を体から前に生み出しながら、後退し、口からも凍てつく息吹を吐いてくる。


 凍てつく息吹は宙空を占める勢いで拡がった。

 単純に後退し、凍てつく息吹の範囲外に離脱した。


 ヴェリンガーは凍てつく息吹の一部を吸収したが、体の一部が破裂し、速度が減退するままヴェデルアモボロフを追う。


 即座に<隻眼修羅>と<闇透纏視>で退いたヴェデルアモボロフを凝視。

 

 以前の戦闘では存在しなかった「異様な魔力の淀み」が、複数箇所にわたって蠢いているのが視えた。弱点が増えている?

 欲望の王ザンスインの権能を無理に取り込んだ弊害か。

 

 と考えてから――。

 水神アクレシス様由来の<水神の呼び声>を発動、心魂に響かせ〝大地竜槍テラブレイカー〟を<握吸>で引き寄せて消す。

 続いて<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>を同時展開し、この戦場に「水の理」を幾重にも重ねて引き込んだ。

 <魔闘術の仙極>と<トガクレの魔闘氣>を極限まで同調させ、骨組織から細胞の一つ一つにいたるまで体を研ぎ澄ます。仕上げに<龍神・魔力纏>を発動――。

 背後に巨大な東洋龍の幻影を立ち昇らせるようにして真紅の<血魔力>が嵐となって吹き荒れながら、<月冴>を発動。


 視界に美しくも冷たい『月冴』の魔法文字が浮かび上がる。

 体は世界から質量を失ったかのように超加速――。

 

 <武行氣>を臨界点まで高め、ヴェデルアモボロフの残像を追った。

 ヴェデルアモボロフは後退し、六眼四腕の魔族、二眼四腕の魔族、二眼二腕の魔族四眼四腕の魔族たちを吹き飛ばしていく。


 体から、またも黄金の魔力を強く放つ。


 俺の加速に合わせたか。さすがに強い。

 ヴェデルアモボロフは分身を前後に生み出しながら、体の一部を魔大剣に変化させ、ヴェリンガーを吹き飛ばしては、こちらにも無数の魔刃を飛ばしてきた。


 その魔刃を上昇し、下降しながら魔槍杖バルドークの柄と無名無礼の魔槍の柄で叩き、大笹穂槍で斬りながら前進し追い掛けた。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、ヴェデルアモボロフに送りながら<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を飛ばしたが、そのヴェデルアモボロフには当たらず。


 ヴェデルアモボロフは他にも紫、肌、土の色合いの魔力を体から放ち始めた。


 そして、この間のような、ヨーヨーのように丸くした硬い体での高速回転技は一度もない。

 闇神リヴォグラフの権能は、消えているから使えないのか?

 そのヴェデルアモボロフは黄の魔力で構成した巨大な魔刃を寄越して、


「魔力を高めての加速、前と同じだな――」


 と発言し、左に転移するような加速してきた。

 右腕を大きい黄金のランスに変化させ、それを突き出してくる。


 その前方の空間が歪む――嫌な直感のまま<仙魔・龍水移>を使い、ヴェデルアモボロフの背後へ瞬時に跳躍し、背後を取った。

 しかし、ヴェデルアモボロフも死に物狂い。

 右方へと空間転移し、俺の死角となる側面から黄金の肉槍を突き出してくる。

 それを魔槍杖バルドークを下から上に振るう<豪閃>で、防ぐように斬る――。


 ヴェデルアモボロフは左上へと転移しながら複数の黄金の魔槍を振るい突いてきた――。

 魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍で、防御を意識、<風柳・上段受け>を使い、弾く。


 ヴェデルアモボロフは、「お前を押し潰す――」と叫び、左上空へと転移し、無数の黄金の魔槍を雨のように突き放してくる。


 魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍を交差させ、右に出ては<風柳・中段受け>。

 防御に反撃の<龍豪閃>――。


 だが、黄金の魔槍に弾かれるまま魔槍杖バルドークの<風柳・上段受け>で防ぐ。


 無名無礼の魔槍を振るう、そぶりのフェイクで消し、魔槍杖バルドークで<風柳・単撤手>を狙うが――。

 

 ヴェデルアモボロフは肉厚の盾を生み出し、突きの<風柳・単撤手>を防ぐと、魔槍ではなく、黄金肉槍を体から突き出してきた。


 頭部に迫る黄金肉槍――を魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍の柄で、上へとズラすように防ぎ、身を捻りながら<風柳・風巻蹴刀>を繰り出す――。

 黄金の魔槍の柄の下を蹴り弾くが、尚も重さが増してくる黄金肉槍を、無名無礼の魔槍の柄で弾きながら、魔槍杖バルドークの柄を蹴っての<風柳・鳴鴉>で、ヴェデルアモボロフへと魔槍杖バルドークを送り、柄を衝突させるが、「ぐっ」と多少血飛沫が出る程度、<握吸>で、魔槍杖バルドークを手に引き寄せながら――。


 <風柳・異踏>で、迫った黄金の魔槍の突きを、右に避けた。

 次の黄金の魔槍も、無名無礼の魔槍を盾にして防ぐ。

 ヴェデルアモボロフの体から次々に伸びてくる、黄金肉槍から、黄色の魔力刃も噴き出てきたが、無名無礼の魔槍の柄で防ぐ。


 体から出る黄金肉槍と、両腕に持つ黄金の魔槍との連続攻撃に加え、魔力刃の遠距離攻撃を的確に防ぐが、防げない魔力刃が何度も体を響かせてくる。


 鉄壁の盾を築くようにして、それらの攻撃を叩き弾き破壊していった。

 下段構えの<雷払雲>を放ち、黄金の魔槍を弾いた。肉槍が出るタイミングは読めた。


 次の黄金の魔槍を振るった後――ここだ――即座に<風柳・片切り羽根>の歩法で――そのヴェデルアモボロフとの間合いを詰めた。


 魔槍杖バルドークの柄を盾にしつつ金属音を響かせながら肉薄した刹那<夜行ノ槍業・弐式>を発動――神速の勢いで無名無礼の魔槍が下から上に向かう。


 俺の体と無名無礼の魔槍の柄と大笹穂槍と魔槍杖バルドークから、八槍卿たちの魔力と魔力文字が噴出し、黄金の魔槍の群れと衝突した。黄金の魔槍を粉砕し、その勢いのまま大笹穂槍がヴェデルアモボロフの腹部を抉る。


「ぐぇぁ」


 裂ける肉塊、散る黄色の魔力。渾身のカウンターが決まる。

 奴を宙の彼方へと叩き飛ばした。


 宙空でヴェデルアモボロフは「……なんて威力だ。我の能力を打ち破るとは……」と発言し、口の端から黄の眼球を生み出しながら、「だが、ここからだ……」と呟くと、またも体を膨らませ、


「……お前だけでも確実に倒せば……」


 呟きながら上昇し、体の中心に大きい孔を作る。

 <隻眼修羅>で、孔の中心に凄まじい勢いで魔力が集積していくのが確認できた。

 大氣がバチバチと音を響かせて空間が歪む、神魔山シャドクシャリーの跡地の傾斜した岩肌が崩れていく。


『主、あれは見覚えがある。『無』属性の魔力を活かした<無業魔反吸>とかいうスキル。デカブツの秘策の一つ』


 ナナシが叫ぶ。

 ほぉ――。

 だが、この間のような、鋼を超えた硬度肉布団で体を覆っての回転技ではない。

 速度で沈める<仙血真髄>を発動――魔力の巡りを極限まで純化する。

 <雷光瞬槍>による瞬発的な踏み込みから、更に、空間を縮める<雷炎縮地>へと繋ぐ、驚異的な二段階加速。ヴェデルアモボロフが反応する前に右側面の完全な死角を奪っていた。


 狙うは<紅蓮嵐穿>――秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと次元速度で直進――。


 バルドークの紅斧刃から魑魅魍魎が咆哮するような魔力の嵐が吹き荒れた。

 体から溢れ出た龍の形を成す赤黒い<血魔力>も、魔槍杖バルドークが噴出している嵐と融合しながら赤と黒の巨大な螺旋となってヴェデルアモボロフの胸部中心から上半身すべてを一切の抵抗を許さずにぶち抜いた。


 凄まじい衝撃波が遅れて大氣を引き裂き――。

 後方で連続する爆発音が鼓膜を震わせる。


 ――魔槍杖バルドークを引くように振り返った。

 

 ヴェデルアモボロフの下腹部の一部は甲羅のような形に変形し右に移動し、<紅蓮嵐穿>から逃れていた。だが、上半身だった血肉はすべて、蒼白い塵と化している。

 すると、甲羅からマグマ混じりの爆炎が噴出し、こちらに迫る。


 迫り来る爆炎に対し、カウンターの構えをとった。

 だが――奇妙なことに、ヴェデルアモボロフの周囲に無数の不気味な黄色の魔紋が浮かび上がる。


 奴の動きがガクンと不自然に制動された。

 黄色の魔紋はどろりとした黒紫色へと変色し、生き物の心臓のようにドクドクと異常な脈動を始める。


「――ぎ、ギガァッ!? く、我をザンスインめ、生贄にするというのか!?」

 

 甲羅だったヴェデルアモボロフは、その甲羅を崩すように体を人型に戻す。

 血肉の鎧が明滅し、素の肌色は、炎を発している箇所が目立つ程度で、明らかに弱まっていると分かった。即座に、無名無礼の魔槍に<血魔力>を込めて<投擲>。

 

 ヴェデルアモボロフは周囲の黄色の魔紋に吸い寄せられて、無名無礼の魔槍の<投擲>をまともに喰らって、半身が削れ、錐もみ回転のまま地面に落ちていくが即座に回復した。


 <断罪ノ半化身>、<月読>、<紫月>、<煌魔葉舞>を発動。

 

 すると、神魔山の地下深くから「ギュガァァ」と咆哮――。

 共に大きい魔刃が、回復したばかりのヴェデルアモボロフに向かうと、その体を真っ二つ、ヴェデルアモボロフは「!?」と驚きのまま左右の分かれた体をくっ付かせて回復していた。

 

 遥か下方、展開したままの氷結結界王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードから、青い魔力のラインが幾重にも伸びて地脈へと繋がっている。


 そこで闇神リヴォグラフの四眼四腕魔族や、ザンスイン配下の六眼魔族を薙ぎ払っていたヴェリンガーが、氷の槍を振るいながら、


「――<水の神使>をもつ主、下から、八大龍王トンヘルガババンの反応があります!」

「おぉ、まじか。だが、ヴェデルアモボロフを倒すのが先だ――」


 <魔仙神功>を発動。右手に神槍ガンジスを召喚。

 イルメラの悲劇を引き起こした元凶の、ニクデカ大魔公爵を、ここで確実に消滅させる。

 先ほど<投擲>した無名無礼の魔槍を<握吸>で左手へと回収。

 左右に双槍を構え直し、<ブリンク・ステップ>と<雷飛>を連動させ――。

 ヴェデルアモボロフの目前へと肉薄し、己が「神座」と槍ノ神威を、神槍ガンジスへと注ぎ込むまま<光穿・雷不>を繰り出した――。


 方天画戟と似た双月刃の<光穿>がヴェデルアモボロフが急遽用意した肉厚な盾をぶち抜く。

 胸の魔力溜まりを突き、奥の魔力の核へと達した。


「グエァァァ」


 更に神槍ガンジスの柄から溢れ出た幸運と浄化を象徴するてんとう虫の光の群れが、ヴェデルアモボロフの体に触れていくと、血肉がジュウジュウと音を立てて蒸発し始めた。

 そこに<光穿・雷不>が出現。

 ヴェデルアモボロフは、神槍ガンジスを止めようと、へどろの溶岩ように炎に変化している両腕で掴んできたが、八支刀の形状を成した神々しいまでの光芒の刃の先端は、悲鳴すら上げられないヴェデルアモボロフの頭部を溶かす――上半身は既にマグマの異形へと硬化していたが<光穿・雷不>は煌めきを放って止まらず、マグマの熱と核らしき物も貫いた――。

 

 ヴェデルアモボロフだった血肉類のすべてが蒼白く輝きながら収縮すると、蒼白い浄化の炎に包まれ、塵一つ残さず消滅していった。

 

 周囲に漂っていたザンスインの黄色の魔紋も光の奔流によって消し飛ぶ。


 ――よし、ヴェデルアモボロフを完全に討ち取った。

 膨大な魔力が流れ込んでくるのを感じる。


 大魔公爵ヴェデルアモボロフを貫いても、勢いの衰えない八支刀の光芒は、斜め下方の神魔山シャドクシャリーの険しい岩肌へと直撃。巨大な岩盤を容易く突き抜け、斜めに巨大な横孔を穿ちながら周囲を大爆発させた後、静かに光の粒子となって消えていった。

 戦場には高熱の蒸氣が白煙となって吹き荒れ、余波の炎が周囲の森を赤々と燃やし始めていた。



HJノベルス様より『槍使いと、黒猫。』1巻〜20巻 絶賛発売中!

コミック版 1巻〜3巻 絶賛発売中!【お知らせ】設定資料・外伝等の公式保管庫(note)を開設しました! https://note.com/kenkou_novel/n/n745c32bdb4ba 最初の投稿として書き下ろし限定SS『迷宮都市イゾルガンデの裏側で』(ロロとフォティーナの活躍劇)を公開しています。

※保管庫内には「魔界の最新地図」も掲載しております。また、今回は「槍猫」とは関係のない完全新作のSF短編――『たとえ世界が消しゴムで消されたとしても、僕が引いた黒煙の線だけは、君たちの明日に残る』(※実際のタイトルは『黒鉛の祈り』ですが、この紹介文のフレーズのままで完璧にフックになります)も同時に掲載しております。


皆様に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大魔公爵ヴェデルアモボロフとの戦いは、欲望の王ザンスインの恩恵がまだ十分に馴染んでいなかったことに加え、ザンスイン自身の干渉もあったため、思いのほかあっさりと決着が付きましたね。 大魔公爵ヴェデルア…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ