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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2197/2201

二千百九十六話 嘗てのアバドンの空に響く、六眼の終焉

 掌で〝幻夜の転晶体〟を転がす。

 ――大厖魔街異獣ボベルファの丸ごと転移は不可能か。


「ご主人様、人型ならなら多人数転移も可能のようですし仕方ありません」


 ロロディーヌの頭部の上で、ヴィーネが俺の右腕にもたれかかっていた。

 

「うん、骨鰐魔神ベマドーラーと古の魔甲大亀グルガンヌが特別なだけかな」


 左腕にはレベッカが安堵の吐息で寄り添う。


「あぁ、そうだろうな」


 掌で冷たい感触を残していた〝幻夜の転晶体〟を、意識の端でアイテムボックスへと沈める。前方で、白皇鋼(ホワイトタングーン)の輝きを纏ったエヴァが、紫の<血魔力>を揺らめかせながら、戦場の揺らぎを看破するように、


「ん、右から近付いてきた眼球型の魔族は、五番隊隊長ベーバティたちが倒してくれている。心配ない」


 声音には、揺るぎない確信が宿っている。

 ユイが刀の柄に手を添えて隣に立ち、白銀の瞳が静かに黒の瞳へと戻っていく。


 血文字でレンに、


『レン、そちらはどうだ。忙しかったらごめん』

『大丈夫です。常闇の水精霊ヘルメ様たちもいますし、魔皇獣咆ケーゼンベルス様が見えなくなってからこちら側に闇神リヴォグラフと悪神デサロビアの魔族兵士たちが現れなくなりました』

『了解した。こちらは無事にミトリ・ミトンの故郷に到達した。だが、ミトリ・ミトンの過去の事象絡みで、結構なことをした』

『あ、はい。〝魔神殺しの蒼き連柱〟は幾つか確認済みです』

『おう、皆から血文字もあると思うが、詳しくはまた今度』

『はい』


 左から飛来してきたキサラが、


「――シュウヤ様、左翼に闇神リヴォグラフ側の軍隊の動きが天と地に視認できましたが、狂気の王シャキダオスの勢力と推測できる黄色の魔力を宿した者たちと戦っていることを確認しました」


 と、背後に着地。

 キュベラスも相棒の速度に合わせて連続的に<異界の門>を出しては閉ざすを繰り返し、<筆頭従者長>サシィと<従者長>ラムラントに連絡を取っていた。

 ボベルファは咆哮を低く響かせながら、ロロディーヌの後ろを並走している。

 毒薔薇特務大隊の側翼陣形が上空で何度も円陣と魚鱗と組み直し南東の地平線の彼方――。

 十層地獄の王トトグディウスと悪神デサロビアと闇神リヴォグラフ側の軍隊は見えている。


 天と地、双方から立ち込める魔素の氣配は濃厚だ。

 アバドンの丘の血錆色の起伏と、ライムランとリルドバルグの窪地が、夕闇の中に、ゆっくりと沈んでいく。

 二千年ぶりに銀翠の雨が止んだ蒼黒の天蓋を、新たな〝魔神殺しの蒼き連柱〟が貫いていた。


 胸の奥で、織神の最後の核が静かに温かく脈打っている。

 神座の理に組み込まれた「縫合の法」が、まだ俺の中で形を成しきっていない。

 応用の輪郭は感じるが、具体的な発現は大量の<血魔力>を消費するか得る機会で、見えてくる予感がある。


 ミトリ・ミトンの正式な眷属化――その時にこそ、織神の縫合の理は、はっきりとした姿を見せるだろう。


 そのミトンが、ロロディーヌの頭部の縁を四つの腕でバランスを取りながら、こちらへ歩み寄ってくる。歩を進めるたび、半透明の階段が足下でリズミカルに展開されては消えていった。


 ブッティちゃんたちが腰元で「ブブッブゥ」と弾みながら付き添っていた。


「シュウヤ様……わたくしの、眷属化の儀式は……いつ、どこで……」


 ミトリ・ミトンの眷属化を早る氣持ちは分かる。

 銀緑色の瞳が、湖面を揺らす月光のように、純粋な祈りと期待を湛えて、見つめてくる。


「ここはまだ激戦区。魔導要塞陣地か、砂城タータイム辺りで行おうと思っていたが、ここら一帯から少し離れて安全な地に着いてから、執り行おう」

「……はい」

「お前の母さんの最後の弔いの余韻は、まだ俺の中に残ってるのもある。儀式の場では、その温もりも、一緒に注いでやりたい。だから、急がない。安全な高台に着いたら、霊脳魔花の間を儀式の聖域にしよう。ミトリ・ミトンとボベルファ、二人合わせた『場』で、執り行う。それが、お前にとって一番ふさわしいはずだ」


 ミトンの四つの腕が、胸の前で交差された。


「……シュウヤ様の、お心遣いに感謝いたします」

「ま、楽しみにしてろ」

「はい」


 ミトンが微笑む。

 その微笑みの熱量が、二千年前の記憶の底に沈む織神の面影と、静かに重なり合った。胸の奥に定着した織神の核が、共鳴の余韻を噛み締めるように、深く、温かく拍動する。


 その時左隣で、ルリゼゼが細長い上腕の手は目元に置いて、遠くを見やる。


「ルリゼゼ、先程の呟いていた理由だが、まさか、アバドンの丘で、父と?」

「いやいや、アバドンの丘での戦いと、父とは、直には関係ない。ミトリ・ミトンの現象の愛の行為に、『父さんと一緒に森に行く』という言葉を思い出したのだ……そうした、戦いの根元を思い出したのだ」

「……なるほど」


 ルリゼゼが、下二眼を覆う太い黒眼帯の縁を細い指先でそっと押さえる。

 そのわずかな仕種に、昔の躊躇いと孤独が滲んでいた。


「……幾星霜とした忘却の淵、その泥底に沈めたはずの記憶だったのだ」


 彼女の声音が、かすかに震える。


「父アガルゼと交わした、最期の契り。あの夜、シクルゼの谷を焼き尽くした業火の熱と、肉の焦げる臭い……祖父バイオミが連鎖破壊陣と共に光へ消えた瞬間の絶叫が、今も耳の奥で鳴り止まぬ。父の背越しに見た、夜を切り裂く絶望の閃光――それが、わたしの世界の始まりだった。あの言葉が、呪いのように、あるいは祈りのように胸にあったからこそ、わたしは血塗られた森を死に物狂いで駆け抜けることができたのだ」


 ルリゼゼの上腕の片方が、自分の額に当てられた。

 黒眼帯越しに彼女の四つの瞳のすべてが、一瞬、強く煌めく。


「父アガルゼが、その後どうなったか、わたしは知らぬ」

「……」

「邪界ヘルローネに飛ばされて、数千年の歳月を放浪したわたしには、父の消息を辿る手段がなかった。アバドンの丘で六眼のデザを討っても戦友たちから化け物と恐れられて孤独になっても、父アガルゼの行方は、ずっと闇の中だった」

「……」


 頷く。


「だが――主の中に眠っていたのは、傷だけではない。父との約束も、そこにあった……(ミル)が、廃魔塔の前で、結晶雲が晴れた瞬間に、私の中の最古の記憶を呼び覚ましてくれた」


 ルリゼゼの四つの腕が、俺の左腕に絡んでくる。


「我は、シュウヤの(ミル)として、第二十六の<筆頭従者長>として、この道を歩んでいる。だが、その根は、父アガルゼと祖父バイオミから来ているのだ。それを、忘れずにいたいと思った」

「あぁ、そうだな、忘れるな」

「うむ」


 ルリゼゼが、四つの瞳すべてを煌めかせて、頷いた。

 その仕種の中に過去の孤独が緩んでいるのを見た。

 その時――。


 ヴィーネが、右肩越しに飛んできた。

 〝星見の眼帯〟の銀光が、強く明滅している。


「――ご主人様、後方に不浄な風を察知いたしました。黄金の鎖を掲げたザンスインの軍勢が、東南より急速に距離を詰めております。およそ五里――彼らの殺氣の速度からすれば、半刻を待たずして刃を交えることになるでしょう」

「ザンスインの旗か」

「はい。そして――」


 ヴィーネが、躊躇いがちに視線を細める。


「六眼の魔族が、混じっています」


 左腕で、ルリゼゼの呼吸が止まった。

 同時に、後方のロロディーヌの大きい触手の鞍に乗っていたキスマリの六眼が、すべて見開かれた。

 二人が同時に東南方向へ視線を向ける。


「六眼……トゥヴァン族か……」


 ルリゼゼの声が、戦士の声に切り替わっていた。

 幼少口上の余韻は、もう、そこにはない。四つの瞳が、煌めく。

 キスマリがロロディーヌの触手を伝って、俺たちのいる頭部へと跳び移ってきた。

 六眼を細めて、東南方向を凝視する。


「六眼のトゥヴァン族か……ザンスインを信奉する一派だな」

「キスマリ、元の同胞たち」


 ルリゼゼはキスマリを凝視。

 六眼が、強く煌めいた。


「血は同じ、理は違う。我は嘗て、欲望の王の鎖を断ち切った。神魔山シャドクシャリーの祖の血脈を背負って、新たな主の元で生きると決めた。彼奴らは――まだ、繋がれたままだ」

「主ならば、力ではなく、会話を行おうとするかもだが」


 ルリゼゼの指摘に、肯定しようとしたが、ここは戦場だからな。

 キスマリは、


「必要ない。元同胞なだけ、我は光魔ルシヴァルの<従者長>。そして、六眼の感応で、強い『歴史』を背負った氣配がある。ただの一兵卒ではない。祖デザの血を継ぐ者――と、推察する」


 その言葉にルリゼゼの四眼に<血魔力>が宿る。

 四つの瞳が戦士の眼差しへ完全に切り替わった。


「祖デザの血か、キスマリ、ルリゼゼ。お前たちが先陣を切れ。俺は後ろから支える」

「「了解」」


 二人の声が揃った。


 神槍ガンジスと無名無礼の魔槍を握り直しながら、ロロディーヌの頭部に手を当てた。


「相棒、背後の連中の速度に合わせていい。防御陣形を取る。皆も考えていると思うが、五番隊隊長ベーバティたちを守ってやってくれ」

「ンン――」


 ロロディーヌが喉声を鳴らしながら、頭部を低くする。

 橙色の魔力翼が背の横から展開され、上下にゆっくりと揺れた。

 神獣の法具レベルの触手骨剣が、象牙色から白銀へ、そして橙色半透明へと、自在に質感を変えながら宙空に幾本も立ち昇る。


 ヴィーネは<血魔力>を体から放出。

 ユイが白銀の瞳を煌めかせて<ベイカラの瞳>を発動し、追跡者を遠目から凝視していく。

 レベッカが拳に蒼の炎を灯し、<光魔蒼炎・血霊玉>の準備。

 エヴァが紫を帯びた<血魔力>を四方に展開し、<霊血導超念力>で全員の感覚を一つに繋ぐ。

 キサラがエトアとラムーを守るように魔槍を構え、キュベラスが胸元から<血魔力>を立ち昇らせて<異界の門>の予兆を作っていた。ザンクワが双角強症を共鳴させ、ボベルファの背の鬼魔人と仙妖魔の住民たちが一斉に額の角を明滅させる。毒薔薇特務大隊の側翼陣形が、五重の毒霧結界で宙空に輪をより硬く編み直した。


 完璧な戦闘陣形を把握し神座の理を全身に巡らせる。

 <闘気玄装>を核とし、<経脈自在>によって荒ぶる魔力の奔流を「法」として御していく。<握吸>と<勁力槍>を発動。

 <血道第三・開門>、<血液加速(ブラッディアクセル)>――。

 <魔銀剛力>で銀の魔力が体幹を強化。

 <魔闘血蛍>と<トガクレの魔闘氣>で無数の血の蛍を纏うように体を強化した。<ルシヴァル紋章樹ノ纏>、<月冴>――。

 水神由来の<水の神使>、<滔天神働術>、<滔天仙正理大綱>を発動。

 水の法異結界が体から溢れるまま<経脈自在>で、体と無数の<魔闘術>系統の重ねを整える。

  

 世界がスローモーションになるがこれも慣れだ。


 その先――東南の地平線から、黒煙のような闇属性魔力の塊が、急速に近付いてくる。



◇◇◇◇



 接敵までは半刻もかからなかった。

 最初に視界に入ったのは、ザンスイン陣営の旗印、黄金の鎖が無限大の輪を描く意匠を掲げた魔族の大部隊。

 数百か、否、もう少しいるか。大型の魔獣、黒翼を持つ獣狼系に騎乗した魔騎兵が中心で、その後ろに歩兵の集団。皆、欲望の王ザンスインの黄金の魔力の残滓が薄く纏わりついている。


 そして、その部隊の中央から進み出てくる一人の魔人がいた。

 六眼四腕。灰色がかった肌、頬骨の高い顔立ち。

 背に三つの武器を佩いている。一つは古びた魔剣。柄頭は少し視えたが、意匠からしてかなりの品かな。

 もう一つは、ねじれた長い魔槍。三つの武器はどれも魔力が濃厚。

 その魔人が二十メートルほど手前で、足を止めた。

 六眼の魔力が強まると、ロロディーヌの頭部の上で構えるルリゼゼを凝視。


「あぁぁぁ……」


 その魔人の口から、歓喜に打ち震えるような声が漏れる。

 六眼のすべてを限界まで見開き、四腕を大きく広げて叫んだ。


「見つけた……見つけたぞぉ、四眼のルリゼゼ……ッ!」


 六眼キズラァの六つの瞳が、それぞれ異なる焦点を結びながら、狂おしい執着を放つ。


「我が祖デザの魂を弄んだ仇よ……! この瞬間のために、幾星霜とした闇を、汚泥を、屈辱を這いずり回ったのだ! あぁ、なんという美味な再会か。その心臓を、我が手で握り潰す想像だけで、幾万の夜を越えてきた……!」


 復讐という名の毒に骨まで侵された、歪んだ歓喜。

 だが、ルリゼゼの四つの瞳は、その狂氣を撥ね退けるように凜烈たる光を湛えて真っ向から見据えた。

 

 <隻眼修羅>と<闇透纏視>で、あの六眼魔族を凝視。

 他とは明らかに異なる強者。


「皆、出よう――」

「「「はい!」」」


 六眼魔族も<雷飛>のような加速で俺たちとの間合いを詰める。

 足を止めた。


「六眼のトゥヴァン族だな?」

「その通り!」

「退いてくれたら助かるが」

「笑止――そこのシクルゼ族の生き残りに用がある退け――」


 魔剣から魔刃が飛来――。

 それを視るように横に跳んで避けた。

 六眼のトゥヴァン族は、俺は追わず、ルリゼゼに向かう。


「シクルゼェ――」


 ルリゼゼは、左右の上腕に握った魔剣を交差させ、突き出された一撃を弾き落とす。

 その隙に無名無礼の魔槍で<魔雷ノ風穿>を狙うが、後退し、即座に、前進し、キスマリの三連続斬りを三腕の得物で防ぎ、ルリゼゼの曲剣の袈裟斬りも防ぐ。

 ルリゼゼは、


「お前の名は?」

「我は六眼キズラァ。祖デザの直の血を継ぐトゥヴァン族の戦士。貴様がアバドンの丘で祖デザを屠ったあの日から――我は、貴様を屠るためだけに幾星霜と生きてきた!」


 六眼キズラァは四腕に持つ魔剣と魔槍を交互に振るい回す。

 キスマリは右に、ルリゼゼは左に、俺は左後方に退いた。


 ユイ、カルードは左右に移動、ヴィーネ、キサラ、エヴァ、皆の位置を把握しながら飛来した棒手裏剣の群れを<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出現させて防いでいく。


「四眼ルリゼゼ! 貴様の四眼を一つずつ抉り取ってやる――」

 

 六眼キズラァの一撃をルリゼゼは曲剣で弾き、反撃の突きを繰り出す。

 突きは六眼トゥヴァンに避けられ、キスマリの追撃も、魔槍の柄と衝突、横に払われていた。

 六眼キズラァへと肉薄し、<風研ぎ>を繰り出すが、それも防がれた。

 ルリゼゼは、曲剣を突き出す。


「――得物はなかなかの物のようだな、無駄――」


 六眼キズラァは魔槍の柄を上下に振るい、ルリゼゼとキスマリの攻撃を弾くと、俺に魔刃を寄越しながら宙空で回転しながら、キスマリ、ルリゼゼに超高速な動きの<飛剣・柊返し>のような剣術を繰り出してきた。


 六眼キズラァは、


「――貴様の四腕を一本ずつ引きちぎってやろう。貴様の体を八つに裂いて、欲望の王ザンスイン様に捧げてやろう……あぁ、なんと素晴らしい日だ……!」


 六眼キズラァの左右上腕が破裂――。

 衝撃波――しかも腕が、消えた? 魔刃も飛来した――後退。

 左右上腕から無数の魔力で構成された腕が、ルリゼゼとキスマリ、俺にも飛来した。

 残った下腕二本の魔剣と、もう一つ別の魔剣の柄頭も点滅――。

 ドッとした衝撃波と共に爆風が押し寄せて。

 

 <仙魔・龍水移>で後ろに後退した。

 爆発の根元の六眼キズラァから、欲望の王と視られる幻影が見えた。

 またも衝撃波、神槍ガンジスと無名無礼の魔槍を掲げ、防ぐが、勢いに押されて後退。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚、盾にし、六眼キズラァに投げつけるように放る。同時に、<仙魔・桂馬歩法>を使用。連続的に飛来してくる衝撃波をぎりぎりの距離で避けていく。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は衝撃波を浴びて連続的に宙空に跳ね上がっていった。


「さぁ、邪魔は消えた、四眼ルリゼゼ――戦いの始まりだぁぁぁ――」


 六眼キズラァは、キスマリとルリゼゼが得物から繰り出す無数の<バーヴァイの魔刃>を避けていく。

 と、目の前に他の六眼魔族が近付いて来た。

 魔剣を突き出してくる。神槍ガンジスの螻蛄首(けらくび)で魔剣を絡め取り、爆ぜるように伸長した蒼い槍纓(そうえい)が意志を持つ刃と化して六眼魔族を全方位から断ち切る。魔族の体は数多の血線から血が噴き出し、バラバラと無残な肉塊へと崩れ去った。

 

「キズラァ、ルリゼゼには手を出させぬ――」


 キスマリの四魔剣――魔剣ケル、魔剣サグルー、魔剣アケナド、魔剣スクルドの上段、中段の突きと袈裟斬りが六眼キズラァに向かう。キズラァの狂喜の笑みが、一瞬、消える。


「チッ、キスマリ! 欲望の王を裏切った同族の恥さらしがっ!」

 

 六眼キズラァはキスマリの攻撃を魔剣の柄と魔槍の柄で防ぎ、ルリゼゼの曲剣の突きを仰け反って避け、俺の<鎖>をも魔槍の柄で弾きつつキスマリの横に移動し、キスマリの足を魔剣の切っ先で掬い、同時に左下腕の魔剣で、ルリゼゼの腹を狙い、三眼から俺に破壊光線が飛来した。


 驚きのまま<仙魔・龍水移>で横に転移して避けると、そこに魔矢と火球が飛来。

 その魔矢を神槍ガンジスの双月刃の穂先で真っ二つ。火球は肩の竜頭装甲(ハルホンク)の防護服で受け止める。


「しつけぇ! お前から血祭りに上げてやろうか!」

「ハッ、ぺらぺらと、六つの口でもあるのか!」


 キスマリと六眼キズラァは一瞬で五合を打ち合う。

 その頭上からルリゼゼの曲剣による唐竹割りのような振り下ろしも、魔槍をわずかに傾け受け流していた。

 その六眼キズラァに近付き無名無礼の魔槍で<闇雷・一穿>――。


 六眼キズラァは<魔闘術>系統を強めて横に軸をズラし、横に回転、キスマリの一閃を避けていく。

 宙空に移動した六眼キズラァに<超能力精神(サイキックマインド)>――拘束を狙う。

 だが、「ハッ!」と魔力を発した六眼キズラァは<超能力精神(サイキックマインド)>をゼロコンマ数秒も経たせず、破ると、ルリゼゼの突きの一撃に合わせたようにカウンターを繰り出す。

 ルリゼゼはカウンターを喰らわず、曲剣の柄で受け持って後退。

 膨大な<血魔力>を神槍ガンジスと無名無礼の魔槍に込めながら、飛来した棒手裏剣の群れを、<仙魔・龍水移>と、<仙魔・桂馬歩法>で避けては、左右の両手首からの<鎖の因子>から<鎖>を射出、<鎖>で、六眼キズラァと、他の六眼魔族たちを攻撃し、<鎖>でぶち抜いた六眼魔族の体を引き寄せるまま神槍ガンジスで<血龍仙閃>――。


 首をぶった斬りながら、<血魔力>を全身から発した。

 一部を<血鎖の饗宴>に変化させ、数十の六眼魔族に向かわせる。

 更に、<無方南華>と<無方剛柔>を意識しながら、肉薄してきた六眼魔族の魔剣の斬撃連舞を紙一重で避けながら、<髑髏武人ダモアヌン武闘術>を発動、<炎邪竜ノ装炎>も発動。


 レグィレスを召喚、意識して使う。

 <空数珠玉羅仙格闘術>――。

 王牌十字槍ヴェクサードを召喚、<投擲>。

 王牌十字槍ヴェクサードの穂先が、右斜め前方の六眼魔族の腹を突き抜け、その背後の魔族の足を穿って地面に突き刺さる――。

 右手首の<鎖の因子>から伸びていた<鎖>で、その足を穿った六眼魔族の頭部を穿ってから<血想槍>――。


 血を纏う雷鳴竜槍ヴォルトブレイカー。

 血を纏う雷式ラ・ドオラ。

 血を纏う王牌十字槍ヴェクサード。

 血を纏う六浄魔槍キリウルカ。

 血を纏う夜王の傘セイヴァルト。

 血を纏う炎牙竜槍フレイムファング。

 血を纏う魔槍ハイ・グラシャラス。

 血を纏う白蛇竜小神ゲン様の短槍。

 血を吸う魔槍杖バルドーク。


 で、接近戦を挑んでくる六眼魔族たちを確実に屠っていく。

 

 俺に迫った最後の一人の六眼魔族の魔剣がこちらに伸びる前に、無名無礼の魔槍の<魔雷ノ風穿>が、その六眼魔族の腹を貫いていた。

 

 即座に離脱し、六眼キズラァと戦うキスマリとルリゼゼのところに戻った。


 キスマリは「――我は嘗て、欲望の王の鎖を断ち切った。神魔山シャドクシャリーの祖の血脈を背負って、新たな主の元で生きると決めた。我の理は、お前の理とは違う――」

「戯れ言――ザンスイン様の道を外れたお前は外道――」

「それで結構――」


 キスマリの連続回転斬りの合間に――。

 六眼キズラァへと肉薄――。

 <血刃翔刹穿>を繰り出した。

 神座を込めた神槍ガンジスの双月刃――。

 六眼キズラァはキスマリとルリゼゼの攻撃を避けながら、魔剣の柄を斜め下に伸ばして、<血刃翔刹穿>の初撃を防ぐが、双月刃は振動、柄を貫き、破壊しそのまま脇腹を穿った。


「ぐっ」


 身を横にズラしながら得物を振るった六眼キズラァ――。

 痛みの声を発しながらの一閃を後退して避けた。

 同時に、双月刃から迸っていく無数の血刃を、六眼キズラァは、視るように、左右斜め後ろへと、点々と<仙魔・龍水移>のようなスキルで、連続的に後退して避けては、キスマリとルリゼゼの得物から飛び出た<バーヴァイの魔刃>をも簡単に避けて、足下の地面が爆ぜていく。


 その六眼キズラァへ、キスマリが<血液加速(ブラッディアクセル)>で肉薄する。

 

「<欲王・巴魔復(バアスマ)>」


 キスマリの必殺剣技。四魔剣のすべてが巴の形に旋回し、嵐のようにキズラァへと殺到した。キズラァが即座に召喚した魔剣を交差させてそれを受け止めるが、激しい火花が散り、大氣がビリビリと震え上がる。


 ルリゼゼは双頭の魔蛇槍を六眼キズラァに繰り出すが、上昇したキズラァは宙空から双頭の魔蛇槍を蹴り、一閃――。


 ルリゼゼは曲剣の刃で、首に迫った薙ぎ払いを防いだ。


「キスマリ、我もシュウヤの<筆頭従者長>の一人。古代の魔界対戦の続きは、我自身が引き受けよう――」


 ルリゼゼの曲剣に、赤い稲妻が走った。


「――<血雷靭・鳴神けつらいじん・なるかみ>」


 ルリゼゼの全身を美しい紅蓮の稲妻が包み込む。

 <血魔力>と、古のシクルゼ族が奉じる鳴神ハヴォスの理が、その魔力の流れから感じた。

 四本の腕に握られた曲剣から空間を焼き切るほどの赤い魔刃が乱舞していく。


 六眼キズラァは片目から魔法陣を宙空に放出させながら身を捻り後退。

 

「――そんな過去の祖デザの記憶を?」

「当たり前だ――」

「くだらぬ、ただの執着の亡霊だ――」

「執着だと……くだらぬだと!? 我の祈りを馬鹿にするなァ!」


 六眼キズラァは加速力を強化。

 キスマリとルリゼゼとの激しい応酬と、合間、合間の俺の一撃をも防ぐ。


 四魔剣と双頭の魔蛇槍と曲剣がキズラァの魔剣と、もう一つの魔剣と打ち合うたびに苛烈な火花と閃光が起きた。


 棒手裏剣の群れがまた飛来したところで、後退。

 六眼キズラァは二人に任せ――。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で棒手裏剣の群れを防ぎながら、ザンスイン陣営の大部隊全体に向ける――。


 エヴァたちは防御を意識。

 頭上の宙空から皆のフォローをしている。

 毒薔薇特務大隊の側翼陣形が周囲を固めた。


 ザンスイン陣営の魔族たち――黄金の鎖を腰に巻いた六人の精鋭が、それぞれの方角から、こちらに迫ってきていた。


 ナナシが無名無礼の魔槍の柄から墨色の炎の影を浮かべ、


「主、あれはザンスイン六羅刹。欲望の王の直臣中堅辺り。六人で一組の精鋭中の精鋭。一人一人がそれなりに強いが、六人揃ったら厄介な連携を仕掛けてくる」

「六羅刹か」

「あぁ。ザンスイン六羅刹の頭領は、紫鎖のヴァグドールって魔人だ。残りの五人もそれぞれ得物を持つ。気を抜くな」

「了解」


 神槍ガンジスを握り直すと「ンンン」と相棒の喉声が響く。

 皆を運んでいた神獣から、俺が乗れるほどの黒虎に変化し、前方を駆けていく。


 黒虎(ロロ)は首や背から触手をザンスイン六羅刹たちに伸ばしていく。

 ザンスイン六羅刹の新手は、宙空に大きい盾を生み出して、相棒の触手骨剣を物理的に防ぎ始めた。

 

「ヴィーネ、ユイ、レベッカ、エヴァ、キサラ、キュベラス、アドゥムブラリ。ザンクワとボベルファも頼む。俺は六羅刹を切り崩しに行く」

「「「了解」」」


 六つの声が、揃った。

 ――<血道第三・開門>を即座に発動。

 <血液加速>と<闘気玄装>を重ね掛けするように意識。

 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>をもう一度展開し直す。


 ザンスイン六羅刹の頭領――らしき紫鎖のヴァグドールが、こちらに視線を向けた。


「光魔ルシヴァルの宗主、シュウヤ・カガリ。織神の核を呑み込み、神の座を掠め取った不届き者よ――欲望の王ザンスイン様の祭壇に、貴様の首を捧げる栄誉、このヴァグドールが甘受しよう」

「栄誉、か。そんな栄誉を望むくだらん欲望馬鹿に、もったいないぞ? ま、死にたいようだから、ありがたく、俺たちの歩みの礎として、丁寧に、使わせてもらうとしようか」


 神槍ガンジスの穂先に<血魔力>を込める。

 柄から伝搬した双月刃が振動し、白い光弧を結ばせ、月のような輝きを放つ。


「行くぞ」


 ザンスイン六羅刹の最初は炎鎖の使い――。

 飛来するように斜めから弧を描く炎鎖の攻撃を、右に跳び避ける。


「――主、こいつの名は、炎鎖ドラグナスのはずだ」

「チッ、喋る魔槍とは――」


 ドラグナスは、俺を追うように炎鎖を寄越した。

 神槍ガンジスで横に弾き、また後退。

 炎鎖が飛来するタイミングで、<超能力精神(サイキックマインド)>――。炎鎖を宙空で縫い止めるように攻撃を止める。

 だが、他の宙空から炎鎖が出現、飛来した。

 それを無名無礼の魔槍で弾く。

 ドラグナスは舌打ちしながら、こちらに突っ込んできた。


 黄金の鎖に、紅蓮の魔力を纏わせる戦法らしい。


 神槍ガンジスを横に振るい、飛来した炎鎖を連続的に弾く。

 さすがに慣れるが、誘いか? だが――穂先を返すまま無名無礼の魔槍の螻蛄首に炎鎖を巻き付け神槍ガンジスで<刃翔刹穿・刹>を繰り出す。

 ドラグナスの胸を貫いた。血飛沫が舞う。

 ドラグナスが、声も上げずに崩れ落ちた。


 二人目――毒鎖使い。

 毒霧を纏った鎖を四方に展開させてくる。

 

 無名無礼の魔槍の柄に<血魔力>を込めての<血龍仙閃>。

 梵字バイ・ベイが煌めくまま、毒霧ごと毒鎖使いの得物を薙ぎ払う。

 神座の理が、毒の魔素を秩序立てて、ただの空氣に書き換えた。


 毒鎖使いが「ば、馬鹿な――」と呟いた瞬間、無名無礼の魔槍の穂先が、彼女の喉を貫いていた。


 三人目は、「雷鎖のヴェルドナスが参る――」


 黄色い稲妻を鎖に纏わせ、こちらに飛び掛かってきた。

 <光穿>の神槍ガンジスを繰り出す。

 防がれるまま無名無礼の魔槍の<魔雷ノ風穿>を繰り出した。

 それを防御に用いられた雷鎖に防がれたが、<魔手回し>で雷鎖を引っ掛け<魔銀剛力>を再発動。力で、押し切るように雷鎖を引っ張り、横回転からの神槍ガンジスの<魔皇・無閃>が、ヴェルドナスの胸元から顎を捉え、そのまま頭部を縦に斬り、真っ二つ。


 神槍ガンジスの神魔石が青白い波紋を放ち、稲妻が消えた。

 ヴェルドナスが、地面に倒れる。


 四人目――氷鎖使い――。

 <義遊ノ移身>からの<神槍・烈業抜穿>で胴体を貫いて仕留める。

 

 五人目――闇鎖使い、否、もう一人の水を帯びた鎖使いがいた。

 二人同時に襲ってきた。

 水の魔力と、闇の魔力を融合させた連携攻撃。

 左手の神槍ガンジスで水鎖を断ち切り、右手の無名無礼の魔槍で闇の鎖を絡め取った。二人の鎖を、お互いの首に絡ませる形で締め上げる。

 骨が砕ける音と共に、二人が同時に絶命した。


 残るは、頭領である紫鎖のヴァグドールのみ。

 彼は、精鋭であるはずの五人の同僚が瞬殺された光景を前に、驚愕と屈辱に表情を歪めていた。


「ザンスイン六羅刹の五人だぞ、こんなの……」

「どうした? 逃げるならいいぞ」

「貴様ぁぁぁ――」


 ヴァグドールが咆哮し、紫の鎖が蛇のように空間を這い、世界を縛り上げる牢獄と化す。冷徹に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を呼び寄せる。

 巨大な駒が唸りを上げて突進し、紫の鎖を物理的に粉砕しながらヴァグドールの均衡を奪った刹那――。


 黒虎(ロロ)の背から、橙色に透き通る神獣の牙――触手骨剣が音速を超えて閃くまま抵抗の暇すら与えず、ヴァグドールの首に吸い込まれた。その頭部は因果を断ち切られたかのように虚空へと霧散。

 噴水のような血柱を上げる胴が魔界の乾いた土を濡らしながら無様に転がる。回復するように頭部が生え始めるが、「にゃごぁ」と紅蓮の炎を浴びて、その体は炭化。ザンスイン六羅刹とやらを倒しきる。


「ンンン――」


 相棒は、他のザンスイン側の手勢に、六眼魔族に向かう。

 神槍ガンジスを振って、血を払った。


 背後にいる眷属たちはザンスイン陣営の大部隊を、別働で殲滅し始めていた。ヴィーネの銀蝶のコヒーレント光線が、魔騎兵の魔獣を次々に射抜く。

 ユイの<銀靱・壱>が、敵の喉を白銀の閃光で薙ぐ。

 レベッカの蒼炎が、歩兵の集団を一気に焼き払う。

 エヴァの<白皇鋼ホワイトタングーン>が、後方の補給部隊を爆発させる。

 キサラの魔槍が、虚空を切り裂きながら、敵の魔将級を貫く。

 キュベラスの<異界の門>が、敵を別空間に閉じ込めて消滅させる。

 アドゥムブラリの<魔弓魔霊・レポンヌクス>が、援護射撃で敵の連携を崩す。

 ザンクワの双角強症の共鳴攻撃が、鬼魔人の特殊技として敵の魔力を乱反射させる。

 ボベルファ閣下の音圧波紋が、敵の魔騎兵を木の葉のように吹き飛ばす。

 毒薔薇特務大隊の五重の毒霧結界が、戦場の死体と敵の亡骸を毒霧の灰に還元していく。


 ザンスイン陣営の大部隊は、十数分のうちに、半数以上が壊滅していた。

 完璧な連携。後は皆に任せるか。


 キズラァと戦っているキスマリとルリゼゼの近くに向かう。

 キズラァの六眼すべてが見開いていた。


 後退しながら魔剣を翳し、「魔剣ヴァズミラの力をここに――」と魔剣に膨大な魔力を込めた。突きのモーションか?

 と思った瞬間、奴の体がブレた。その体から半透明の魔神らしき幻影が抜け出し、巨大な魔剣を振り下ろしてくる。即座に神槍ガンジスと無名無礼の魔槍を交差して掲げ、それを受け止めた。

 

 六眼キズラァは背から、ねじれた長い魔槍を抜いた。


「魔槍トゥヴァジル――」


 と、六眼キズラァの姿がブレた。

 <刃翔刹穿・刹>のような攻撃を無名無礼の魔槍の柄で受け止めた。


「チッ、光魔めが――」

「主、この魔槍トゥヴァジルは、神魔山シャドクシャリーの遺物だろう。神界セウロスと魔界セブドラの双方の理を武技に組み込める」


 キズラァが、その魔槍を、両手で構えた。


「光魔の者共……貴様らの連携は、見事だ。我の魔剣ヴァズミラでは、押し切れぬ。よって――終わらせる」


 魔槍の穂先から、七色の光が立ち昇る。

 その七色は、それぞれ、神界の七つの理を象徴していた。

 戦神ヴァイス系、否、神界セウロスの主要な神々の理が、武技に組み込まれているようだ。キズラァの魔槍が、空間そのものを切り裂きながら、キスマリとルリゼゼに向けて振り下ろされた。


 神界の光と、魔界の闇が、同時に二人を襲う。

 キスマリが、四魔剣で受けた。

 四つの刃のうち、魔剣サグルーが、その一撃で粉々に砕けた。

 破片が宙空に散る。


「サグルー――」


 キスマリが、声を漏らした。

 四魔剣のうち一つ、永年の相棒を失った。


「キスマリ!」


 ルリゼゼが、双頭の魔蛇槍でキズラァの槍を逸らそうとするが、キズラァの魔力が強すぎる。

 ルリゼゼの曲剣にも、深い亀裂が走った。


「ふははははぁぁ! <神魔双環・トゥヴァジル斬>だ。貴様らに防げると思ったか? 貴様らの理は欲望の王の鎖を断ち切った『脱』の理。脱の理は、強い『繋』の理に対して、極めて弱い。神魔双環は、まさに『繋』の理の極致――」


 キズラァが、魔槍トゥヴァジルを背に戻し、今度は腰の魔剣を抜く。

 黄金の魔力が、剣の刃から、立ち昇る。

 欲望の王ザンスインの幻影が噴出していく。神格の一部でも入ってそうな魔剣だな。


「終わりにしようか。<欲王神剣・ザンファルド零式>」


 キズラァが、ザンファルドを高く掲げる。

 その瞬間、空間そのものが、歪んだ。

 欲望の王の魔力が、キスマリとルリゼゼの周囲の空氣を、ゆっくりと、しかし確実に、押し潰し始める。

 即座に得物を消し両手で地面を叩くように、<始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>を展開し、周囲に広がった圧力を逆に抑え、押し込んでいく。


「――四眼ルリゼゼ! ここで終わりだぁぁぁ……!」


 <仙血真髄>、<魔仙神功>を発動。

 六眼キズラァが魔剣を振り下ろす――その予備動作が完了するよりも早く、俺の体は神座の理に同調していた。

 全身の筋繊維が、魔力の爆縮と共に一点へと収束する。

 ――〝一の槍〟、<風槍・理元一突>。突き出された神槍ガンジスの双月刃は、もはや物理的な質量を超えた現象と化していた。

 キズラァの六眼が驚愕に染まる暇すら与えず、顎から消えていくのがかすかに見え、神の理を宿した一撃は、重厚な胸甲を薄紙のごとく貫通し、その背後の空間ごと、敵の存在を穿ち抜いた。

 

 鼓膜を震わせる突破音すらも遥か後方に置き去りにした。

 神速の刃を纏うように振り返ると、六眼キズラァの体は消えていたが、欲望の王の黄金の魔力が宙空の点から上下左右に歪んだ十字架のように噴出していた。


 即座に神槍ガンジスで<光穿・雷不>――。

 <光穿>が黄金の魔力の中心を穿つ。

 欲望の残滓を突き抜けた神槍ガンジスの双月刃、その柄からも不可思議な血の龍と天道虫の幻影が現れ、周囲に煌めきを起こす。

 刹那、八支刀の光が連なるランス状の雷不が神槍ガンジスの真上に出現し、直進し、光神ルロディスの涙が紡ぐ天命の糸となる如く、歪んだ十字架を貫き、蒸発させる。背後の欲望の神ザンスインの残影が地面に焼き付くまま、黄金の歪んだ十字架は完全に消失した。

 

 八支刀の光雷は前方の地面をくり抜きながら直進を続けて、他のザンスイン側の勢力の六眼魔族たちをぶち抜いてから虚空に消えた。



 ――刹那、背筋を撫でるような殺氣。


「主!」

「まだあるぞ、主!」


 キスマリとルリゼゼが即座に得物を構え直す。


「ご主人様、新手です――」


 頭上から舞い降りたヴィーネが背後に着地し、鋭く告げた。

 周囲は粗方掃除終えたか。


 ――その時、戦場の空氣が一変し、肌を刺すような峻烈な殺氣が左方から奔った。閃光と共に立ち現れたのは、漆黒の鎧を纏った異形の騎士。

 兜の前面には四つの瞳が冷徹に輝き、四本の腕が不気味な調和を持って動いている。中肉中背の引き締まった体躯は、一分の隙もない俊敏さを予感させた。その背に佩いているのは、闇を凝縮したかのような漆黒の大薙刀――。


 新たな絶望が、音もなく俺の前に降り立った。



続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻発売中」

コミック版1巻-3巻発売中。【お知らせ】設定資料・外伝等の保管庫(note)を開設しました。


https://note.com/kenkou_novel/n/n745c32bdb4ba

最初の投稿として、書き下ろし限定SS『迷宮都市イゾルガンデの裏側で』(ロロとフォティーナの活躍劇)を公開しています。今後はシュウヤ視点の小話や、本編では書ききれなかった設定をまとめた「槍猫」の総合アーカイブとして、無料・有料を織り交ぜながら更新していく予定です。


本編とあわせて、ぜひこちらもお楽しみください。

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