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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百八十九話 厖婦闇眼ドミエルとの決戦<霊穿・籟戈>

 大厖魔街異獣ボベルファの前にいるミトリ・ミトンの杖から銀の魔線が迸り、ボベルファの大きな角と頭部に付着していくと、それが一氣に拡がり、ボベルファを包み込んでいく。


 銀色のスライムはキラキラと輝きを増し、ボベルファの角と頭部で星屑のような瞬きを放った。

 ミトリ・ミトンの純粋な祈りが結晶化した守護の魔力、『聖なる膜』か。魔界の濁った大氣を拒絶しながら、その巨躯の輪郭を滑らかに、かつ強固に包摂していった。


 更に、ミトリ・ミトンの杖から魔線が前方に迸った。

 無数のビーム状に幾重も広がり、周囲にいた魔族たちを薙ぎ払う。

 こちら側にも飛来した魔線は、ドミエルの闇眼ドレスが放つ魔線を物理的に遮断する。

 

「ん、シュウヤ、味方! ミトンちゃんは記憶で観た通り!」

「おう。分かっている」


 エヴァは安堵の吐息を漏らし、傍らへと舞い降りる。

 その瞳には俺への全幅の信頼が宿っていた。


 彼女は即座に無数の白皇鋼(ホワイトタングーン)を足下と周囲に展開させ、遠距離攻撃を防いでいく。

 <神獣焰ノ髭包摂>を弱め、霊湖の水念瓶を取り出す。


 全身の細胞が神座の余韻に歓喜し、産声のような震えを上げる。

 <闘気玄装>と<滔天魔経>を同時直列で回し、<経脈自在>によって荒ぶる魔力の奔流を『法』として制御する。


 ――肩の竜頭金属甲(ハルホンク)が俺の意思を先読みして咆哮し、霊湖水晶の外套を、光の糸を紡ぐ速度で織り成した。

 ――神を喰らい、神座に座した俺の毛穴から溢れ出すのは、もはやただの魔力ではない。黄金の粒子が空間の歪みを強制的に平らげ、魔界の理そのものを塗り替えていく覇氣のような魔力に思えた。


 掌にある霊湖の水念瓶の中で、サファイヤブルーの液体が生命を宿したように脈動する。


 魔力を流し込めば、中身の〝レイペマソーマの液体〟の表面が輝き、深淵にマンデルブロー集合の無限連鎖と、宇宙の理を示す神聖幾何学模様が鮮烈に浮かび上がった。


 高次元の意思を秘めた叡智の雫に見えるまま、


『霊湖の水よ、我が意志を理として響け』


 <水念把>を魂の核から発動させた刹那――。

 

 霊湖の水念瓶から解き放たれたサファイヤブルーの聖水が、重力を無視した螺旋を描き、俺の口内へと滑り込む。


 冷徹な知と無限の活力が喉を焼き、俺の「声」を皆に、


『「――エヴァ、ユイ、レベッカ、ヴィーネ、キサラ、ミレイヴァル、相棒、フィナプルス、カルード、リサナ、ゼメタス、アドモスの眷属で、友よ、出迎えの刻だ。厖婦闇眼ドミエルとその軍に注意しながら前進しようか!」』


 <水念把>の水の膜が声に合わせ振動――。

 クラドニ図形の神秘的な模様が伝搬するように振動は拡がりながら発光を繰り返し、咆哮を増幅させ広がった。

 

 世界を震わせる言霊へと変質した理解。

 周囲と、更に遠くの戦場へと震わせていく。

 その振動は空氣の分子を叩き、フラワーオブライフの波紋となって魔界の汚れた大氣を清冽に焼き払う。


 厖婦闇眼ドミエルの新手の魔族たちは燃焼し後退していく。


「にゃごぉ~」

「ん」

「了解」

「「はい」」

「「「承知――」」」


 視界から外れていたフィナプルスやナギサにゼメタスたちも寄ってくる。


 その時、戦場を圧するように大厖魔街異獣ボベルファが「ボァァァッ!」と魂を震わせる咆哮を放った。


 巨大な音圧の波紋が陽炎のように大氣を歪ませながら同心円状に広がり、群がっていた敵魔族どもを木の葉のように一氣に吹き飛ばす。大地が悲鳴を上げ、空氣が爆ぜる音が鼓膜を叩いた。


 大厖魔街異獣ボベルファは前進。

 ボベルファの背の城壁のような壁と、赤煉瓦の建物の群れが見えていた。


 四肢が前後するたびに、地面が窪み、衝撃波を生む。

 地響きが轟く。衝撃波は、空から飛翔していく漆黒の騎士部隊の一部を吹き飛ばす。

 眼球型魔族、<血魔力>を有した六腕魔族、四つの頭部を持つ魔獣魔族たちも吹き飛ばされていった。


 大厖魔街異獣ボベルファの背の街から鬼魔人たちが現れてくる。


 先頭は大型の鹿魔獣マバペインに乗る魔界騎士ド・ラグネス――。


 次にザンクワ、トモン、ジェンナが続く。

 魔将オオクワ、射手のアラ、副官ディエも見えた。


 <黒呪導術>の鬼魔・幻腕隊ガマジハル、魔刀ヘイバトの片腕の部隊――。


 名の知らぬ優秀な仙妖魔の部隊。


 先頭のド・ラグネスは、猪の頭部の四腕魔族と頭部が見えない二眼二腕の魔族の部隊と衝突していた。


 先陣を駆けるド・ラグネスの魔大剣が、魔界の空を紅蓮の劫火で焼き裂く。

 狂気的なまでの忠誠心を乗せた一閃は、猪頭の四腕魔族が防御に掲げた三本の剛腕を、熱したナイフでバターを断つが如く容易く斬り飛ばした。


刃は止まることなく、絶望に目を見開く魔族の巨躯を肩から股下まで斜めに両断し、断面から溢れる血を瞬時に蒸発させる。


 返す魔大剣――。

 紅蓮の劫火が、魔界の大氣を両断するような強烈な一閃が、左からの猪頭の四腕魔族が振るった三つの魔剣と衝突、豪快に打ち上げ払う。


 と、ド・ラグネスを乗せた鹿魔獣は加速し、ド・ラグネスは魔大剣を速やかに振るう。魔剣を下段に構えようとした猪魔族の三本の腕を瞬時に削ぎ落とし、返す刃で巨躯を斜めに袈裟懸けに両断した。

 返り血が蒸発する間もなく、彼は次なる獲物へと視線を向け、腰溜めモーションのまま体がブレると、前進、既に魔大剣を振るっていた。


 やや遅れて火炎が吹き荒れる。

 細切れになった猪の頭部を持つ四眼魔族の死体だったモノが周囲散っていた。ド・ラグネスは続けて前進し、魔大剣を振るう。その刃が猪の頭部の四腕魔族の得物を弾き、豪快に肩口を突き抜ける。と、強引に斜め下に動かし、その鎧を潰すように胸を両断。


 そのド・ラグネスに、二眼二腕の魔族たちが持つ魔槍の穂先が迫る。

 

 だが、ド・ラグネスは動かない。


 それらを魔大剣で弾く前に、鹿魔獣マバペインの角が前方の四方へと伸び、二眼二腕の魔族たちの魔槍を弾き、体を突き抜け、串刺しにした。

 マバペインは頭部を振るい、角に刺さっていた多数の魔族たちを吹き飛ばし、ド・ラグネスを騎乗させたまま前進。


 トモンは獄猿双剣を振るい、相対した漆黒の魔力を纏う魔族を斬り刻み、倒す。ジェンナは香華魔槍で<杖楽昇堕閃>のような左右の連撃で薙ぎ倒し前進してくる。


 俺たちも前に駆けてミトリ・ミトンたちに近付く。


「チッ、合流させる――」


 喋りかけた漆黒の騎士は光線の矢を体に浴びて爆発して散る。体に嵌まっている複数の眼球は弾け散る。


 漆黒の騎士たちが左右から突撃を仕掛けてくるのに目掛け――。


 まずは右に出た。

 左手の神槍ガンジスで漆黒の騎士の魔槍を軽くいなし、その死角へと右腕の魔槍杖バルドークを叩き込む<魔雷ノ風穿>――鎧に蠢く不気味な眼球ごと騎士の腹部を雷光が貫いた。手応えはないが、神座を得た槍にとって、この程度の鎧は虚空を突くのと同義か。


「シュウヤ様、導きし者!!」

「――シュウヤ様」


 ド・ラグネスは魔大刀で鹿頭の残党魔族を倒し、ザンクワも双魔刀で、相対した<血魔力>を有した四眼四腕の魔族を斬り捨てて――。


 俺も相対した六腕魔族の攻撃を読む。

 無造作に魔槍杖バルドークで受け、流れるまま神槍ガンジスで<風穿>を繰り出し、双月刃が、その六腕魔族の腹をぶち抜くと、その魔族は衝撃で霧散した刹那、戦塵を貫いてド・ラグネスとザンクワの視線が俺を捉えた。


「二人とも、よくぞ辿り着いた!」


 俺の声に、ド・ラグネスが兜の奥の瞳を熱く燃やし、ザンクワは溢れる涙を拭いもせずに、


「はい……シュウヤ様! この、この瞬間を……魂が摩り切れるほどに、待ちわびておりました……っ!」


 頬を伝う涙は、彼女の薄緑色の肌に光る真珠の如く零れ落ちる。

 氣持ちは分かる。

 【玄智の森】での戦い以前にも、鬼魔人たち、特にザンクワの故郷は……蹂躙されていた。更に、この魔界セブドラの旅路も結構きつかったに違いない。「帰るべき場所」として、俺たちを見ていてくれる。


 それだけで、俺の、光魔ルシヴァルの血が、胸の内で熱く脈動した。


 笑顔でザンクワの肩に左手を置き、ド・ラグネスの兜越しに視線を交わす。ド・ラグネスは魔大剣の切先を地に突き立てると、片膝を折って騎士礼を取った。


 その二人の背に、他の鬼魔人たちに近づいて来る。

 ミトリ・ミトンが見えた。

 振動も強くなり、大厖魔街異獣ボベルファの動きがゆっくりとなって俺たちを少し迂回して右回りの位置で止まる。


 魔界騎士ド・ドラグネスは、


「シュウヤ様。我ら鬼魔人、貴方様の旗の下に再び集いました。命じてくだされば、この命、煉獄の底までも槍と成りましょう」

 

 と発言。


「はい、シュウヤ様と共に――」


 ザンクワも双魔刀を逆手に握り直して胸の前に捧げた。

 その背後から、トモンが、「シュウヤ様――」と獄猿双剣を腰の鞘に戻す。ジェンナは香華魔槍の柄を地に立て、頭を垂れた。

 魔将オオクワ、射手のアラ、副官ディエ、鬼魔・幻腕隊ガマジハル、魔刀ヘイバトの片腕の部隊までもが、それぞれの得物を地に突き立て、静かに膝を折る。


 大厖魔街異獣ボベルファの背の城壁から、それを見下ろす無名の仙妖魔たちが――声を上げた。


『導きし者ぉぉぉっ!』

『シュウヤ・カガリ陛下に栄光あれぇぇっ!』


 地響きとなった声が、ボベルファの咆哮と重なって、戦場を一氣に押し返す。しかし――感傷の刻は短い。


「礼は要らん。それより、前を見ろ」


 俺の声に、跪いていた者たちの視線が一斉に空へ向く。

 厖婦闇眼ドミエルの闇眼ドレスから放たれる魔線は、なおも黒い嵐となって戦場を蹂躙していた。ボベルファの背を覆う銀色のスライム結界に阻まれ霧散していくものの、結界の外では味方魔族が次々と切り刻まれている。


「――ドミエルを叩く。皆、続け」


 神槍ガンジスを掲げながら、右手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出。 直進する<鎖>が、虚空を奔る。

 ボベルファを攻撃していた翼を有した魔族の背を、<鎖>のピュアドロップの先端が貫く。


「にゃごぉぉっ!」


 神獣ロロディーヌが口から紅蓮の炎を撒き散らし、上空のカメレオン型の魔術師部隊の一部を炭化させて、隣を奔る。


「ん、シュウヤ、私も」


 エヴァが白皇鋼(ホワイトタングーン)の浮遊足場を金属の足で突き、一部を吸着加工しながら、無数の金属を操作し、周囲から俺たちに迫っていた無数の遠距離攻撃を相殺してくれていく。


 同時にエヴァの神意力を感じて、何か、心、精神の内包に膨大な力を得たような不思議な氣概さを得て、感覚のまま、遠くから飛来した眼球を神槍ガンジスで自然と捉え、眼球を突き抜けていた。


 エヴァは魔導車椅子を近くに展開させたまま、俺の右に並ぶ。

 彼女の瞳は紫光を強め、<神獣焰ノ髭包摂>の余韻が髪をふわりと舞わせていた。

 そのエヴァと頷き合ってから、皆に、


「ユイ、レベッカは左翼。ヴィーネとキサラはそのまま中央。フィナプルス、カルードは後衛の守りを。リサナ、ミレイヴァルは負傷した味方魔族の救護を頼む。ゼメタス、アドモスは俺の側面警戒」

「了解、シュウヤ」

「任せて! ドミエルの取り巻きごと焼き払うわ!」

「「閣下のご命令のままに」」

「シュウヤ様の御意に応えます」

「シュウヤ様……ご武運を」

「主、お任せを」


 左翼ではユイのイギル・ヴァイスナーの双剣が敵を裂き――。

 レベッカの蒼炎が螺旋を描いて魔族の群れに突き刺さる。

 中央ではヴィーネの光線の矢が、眼球のモンスター兵に突き刺さる。

 キサラのダモアヌンの魔槍から出たフィラメントが、角の多い四眼四腕の魔族たちの得物を封じ込めては、払い、前進しての<血刃翔刹穿>を繰り出し、相対した大柄の魔族の腹をぶち抜き、背後にいた戦士風の魔族たちに無数の血刃を喰らわせていた。


 フィナプルスは遠距離から<奇怪・霊魔刃>を繰り出す。

 カルードは裾を翻しながら接近する魔族を一撃で仕留めていく。


 周囲に皆に任せつつ飛来した複数の眼球を――。

 両手首の<鎖の因子>から出た<鎖>で仕留めた。

 少し上昇し、厖婦闇眼ドミエルを見据えた。

 闇のスカートのような膨大な魔力を宙空に展開させている。

 と、そこから、無数の魔線が飛来し、闇眼ドレスからも黒い触手が飛来してきた。「ンンン――」相棒の触手骨剣がすべて迎撃してくれた。


 途端に、無数の女性の幻影が宙空に浮かぶがバッと音を響かせ消える。

 皆の神意力が厖婦闇眼ドミエルの神意力を弾いたか。


 すると、オーロラのような漆黒の布地に浮かび上がり、嗤いながら俺を見据えた。


『「お前が、槍使いだな。妾が闇眼の深淵を覗き、その矮小な魂を跪かせよ――」』


 ドミエルの神意力を有した言霊が、精神の防壁を直接穿つ毒矢となって脳髄を揺さぶる。

 強烈な精神への直接干渉だが、視界はすぐに元通り。


 普通の英雄ならば即座に発狂し、魂を差し出すであろう強烈な精神干渉のはず。だが、神座:神律の適格者として『理の主』となった以上、それは湖面に落ちた一滴の雨粒に等しいか。

 

 意思が、ドミエルの干渉を無効化したと理解。

 逆に、その魔力の流れを逆算して看破する。


 ヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)を掲げ、<ヘグポリネの紫電幕>を展開すると、完全に厖婦闇眼ドミエルの波動はこちらに届かなくなった。ドミエルの干渉波は、共鳴せず、俺たちから遠く大氣で爆発するように四散していく。


 ヴィーネに『ありがとう』とアイコンタクト。

 銀の眼を見るとかすかに微笑むヴィーネ、素敵だ。


 そのまま<水の神使>を意識、<魔闘血蛍>と<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を発動。

 霊湖の水念瓶から出ていた液体が体内に吸収される。

 瞬時に魔力を循環させ、<経脈自在>で精神波を肉体外へと逃がす。


 霊湖の水念瓶を仕舞う。


「ん、右に銀の強烈な矢を放つ存在がいる、強い――」

「はい、ドミエルの大眷属の一人でしょう。少ししかけますので、エヴァ、レベッカ、フォローを――」


 キサラが漆黒の残像を引き連れ、戦場の右翼を切り裂くように飛翔する。

 爆風の熱波を裂き、硝煙をマントのように纏う彼女の姿は、まさに死を運ぶ戦女神のそれだ。


 銀の矢をダモアヌンの魔槍で弾く。

 右に飛翔、わずかな硝煙を纏うように宙空に踏みとどまり、偏差撃ちの予測軌道の銀の矢を避ける。


 キサラの姿が鮮烈に際立っていた。

 手に握られたダモアヌンの魔槍は、主の昂揚に応えるように不気味なフィラメントを明滅させ、周囲の空間から魔素を吸い上げ、飛来してくる銀の矢を弾く。


 穂先に破壊の衝動を凝縮させていた。


 彼女の分厚い漆黒のツインテールが、戦場の風を受けて荒々しく舞う。

 両目を覆うアイマスク、眼帯のような魔具が彼女の内に秘められた魔力と呼応するように怪しく明滅していた。黒を基調としたタイトな戦闘衣の各所には、血管のように赤い魔力線が発光して浮かび上がっている。


 光魔ルシヴァルの血と黒魔女教団の秘術が彼女の体で完全に融合し、活性化している証しだ。


 ――<超能力精神(サイキックマインド)>で数本、宙空で縫い止めたが、皆にも銀の矢が向かう。


 ドミエルの大眷属と思われるその射手は、闇のオーラを纏った四腕の魔族。強弓から放たれる一撃一撃が、空間を歪ませるほどの威力を持っている。銀の矢を<星想(フォズニック)潰力魔導(クラッシュ)>で潰しつつ神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの握りを<握吸>で強めながら左上へと上昇――。


 ドミエルは、闇眼ドレスを覆う触手の網の一部を伸ばしてきた。

 それらを、神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの<龍豪閃>で、紙細工のように切り裂いた刹那、上下の大氣に漆黒のドレスを着た無数の女の顔の幻影が出現。嗤う女から「『キチャァァァァァァ』」と悲鳴的な残響波、即座に<血鎖の饗宴>の血鎖――。

 無数の血鎖が女の顔の幻影たちを貫いていく。

 しかし、血鎖が不自然に固まり、回転力が落ちてしまった。

 それらを切り落とすように血鎖を操作する。<隻眼修羅>で確認すると、無数の細かなドミエルの魔力粒子が血鎖にこびりつき、光の<血魔力>に反応して浸食しているのが見えた。どういう構造だ。


 即座に<血鎖の饗宴>を消す。

 光属性への耐性や光への攻略法もあるということか。

 水の法異結界を出すように<水神の呼び声>を発動。


 巨大な厖婦闇眼ドミエルに近付く。

「『水神に吸血神に光神とは、噂通りのようだね――』」

 

 ドミエルは上昇しているのか、その姿が遠のく。すかさず<仙魔・龍水移>――だが、転移した直後に爆風が襲いかかった――。

 ダメージはわずかだが、対転移用の何かがあるようだ――。

 <仙魔・龍水移>を予測したかのような見事な置き土産。

 

 爆風を抜け、わずかな硝煙を纏いながら宙空に踏みとどまる。

 空間転移に対する何らかの感知能力か、罠を張る狡猾さを備えている。

 殺氣――。

 <風柳・異踏>で右に跳び――殺氣の魔刃を避けた。

 魔刃を寄越したのは左下、ゼメタスとアドモスが相対した強者か。

 斬馬刀を扱う強者グレンデルではない。


 と、下ばかり見ては――。

 女の顔の幻影が飛来してくる。

 ヴィーネたちの援護で、ことなきを得たが――。

 転移は使えないなら、素直な速度を活かす。

 

 神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを強く握り直す。

 再度、<血道第三・開門>、<血液加速(ブラッディアクセル)>を強めて鼓動を一段と高め、全身の魔力回路を沸騰させた。


 同時に、右翼へと飛翔したキサラの動向を<闇透纏視>で捉える。


「エヴァ、レベッカ! キサラの退路と死角を頼む!」

「ん、任せて。<霊血導超念力>を強くする」

「オーケー! あの銀の矢、全部燃やしてあげる!」


 キサラの眼前に、空氣を切り裂きながら極太の銀の矢が複数飛来した。

 ドミエルの大眷属と思われるその射手は、闇のオーラを纏った四腕の魔族。強弓から放たれる一撃一撃が、空間を歪ませるほどの威力を持っている。だが、キサラは慌てない。


 彼女の瞳の奥で、<真眼・白闇凝照>が冷徹な光を放った。


「その軌道、見え透いていますよ」


 ダモアヌンの魔槍を風車のように旋回させ、飛来する銀の矢の軌道をわずかな力で逸らし、弾き落としていくと、体から、濃厚な光魔の血の力が溢れ出すと、白銀の<血魔力>となって膨大な神意力を有した<血魔力>が巨大な翼のように放たれていく。

 

 黒魔女教団の秘術と光魔ルシヴァルの血魔力があるからこそか。

 キサラの四肢がブレた。

 虚空を蹴り、一氣に大眷属の懐へと肉薄した。

 爆発的な推進力を活かすキサラの一閃、大眷属の肩を捉え、ダメージを与えた。


 <光魔血功>か<光魔鬼武・鳴華>だろう。

 逃げた大眷属が驚愕し、次弾を番えようと後退した刹那。


「ん、逃がさない。ここは、私たちの領域」


 エヴァの細い指先が空を指揮するように踊り、無数の白皇鋼(ホワイトタングーン)が意思を持つ蛇の如く飛来する。幾何学的な軌道を描きながら、大眷属の退路を塞ぐ銀の檻を瞬時に構築した。

 そこへ、レベッカが魂の熱量を込めた<光魔蒼炎・血霊玉>を解き放つ。蒼い彗星と化した業火が、大眷属の逃げ場を完全に奪い、その側面に神罰の如き衝撃を叩きつけた。


「グォォッ!?」


 蒼炎に焼かれ、鋼の網に退路を断たれた大眷属。

 その完全に動きが止まった一瞬を、キサラは見逃さない。


「天魔女流――<乱突>!」


 ダモアヌンの魔槍が、残像すら残さない神速の突きとなって大眷属の巨躯を捉えた。無数の矛先が鎧を穿ち、紫黒の血を噴き出させる。

 とどめとばかりに、キサラは体を捻り、全身のバネを槍に乗せた。

 

 意思が槍となった一撃の<刹那ノ極意>からの<刃翔刹穿・刹>。

 魔槍の一撃が大眷属の胸部を完全に粉砕した。

 断末魔を上げる間もなく、その巨体は塵となって魔界の大氣へと消え去る。


「見事です!」

「ん、完璧な連携」


 ヴィーネとエヴァの声が響く。右翼の脅威は排除された。

 頼もしい眷族たちに背を預け、再び、遥か上空に君臨する厖婦闇眼ドミエルを見据えた。


 ドミエルは闇眼ドレスの触手を蠢かせ、無数の女性の幻影と共に更なる魔線の豪雨を降らせようとしている。

 転移が罠なら、自らの足で空間を蹴り破るのみ。


 ――<雷飛>。


 足裏から弾ける雷光が空間を消し飛ばす。

 転移に頼らぬ純粋な超加速のまま真っ直ぐ、ドミエルへと突進。

 迎撃に放たれる無数の魔線と黒い触手を、魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで叩き斬り、あるいは紙一重で回避しながら距離を詰める。


『「くっ、二眼二腕の下級神ごときが! 我が闇眼の深淵に呑まれるが良い!」』


 ドミエルの神意力が再び脳を揺らす――。

 彼女の周囲に、空間を歪めるほどの巨大な闇の防壁――触手の網が何重にも展開された。

 囮の<導想魔手>を発動――。

 更に、<鬼想魔手>の発動――。

 闇の防壁と拳の<導想魔手>と<鬼想魔手>が衝突。

 <闇の千手掌>も発動させるが瞬時に霧散した、そこから突き抜けてきた闇の花のようなモノに包まれている女の顔目掛け、〝思考共鳴の魔導輪〟と共に<超能力精神(サイキックマインド)>で弾き飛ばす。

 

 そのまま『思考共鳴の魔導輪』思念、魔力の壁を構築した。


「『小賢しい蝿が、それは<神意空防>か!?』」


 <血想槍>――。

 両手の槍を構えたまま体から<血魔力>を爆発的に放射する。

 周囲の<血魔力>の霧の中に、アイテムボックスから魔槍、神槍、星槍、聖槍の数多の槍が顕現した。

 殺意に呼応するように数百の槍が血想槍として展開。

 銀河の流星雨となってドミエルの闇の防壁へと殺到する。


 ズドッドドドドドッ――。

 血の槍が触手の網に突き刺さり、大爆発を繰り返す。


 分厚い闇の壁が物理的に削り取られ、悲鳴のような魔力の摩擦音が響き渡る。防壁が薄れ、ドミエルの驚愕の表情が露わになった一瞬の隙――。


 <仙血真髄>と<魔仙神功>を発動。


 防御網の裂け目へと突入。

 だが、ドミエルの体から無数の眼球が飛び出て飛来してきた、神槍ガンジス<光穿>――。

 魔槍杖バルドークで<血穿>――。

 両腕を前後させ眼球を貫くまま両手を引き、二つの槍を消し、再出現させ、神槍と魔槍で<光穿>を連続的に放ち、眼球をぶち抜きまくる――。

 

 と、<隻眼修羅>が反応、捉えた――厖婦闇眼ドミエルの眼球、前方の空間が歪む。

 盾として複数の魔界騎士が召喚される寸前――<投擲>を放った。

 直進した魔槍杖バルドークと神槍ガンジスが、召喚された二人の魔界騎士の背を突き抜ける。直ぐに<握吸>で引き寄せ、掴んだままノーモーションの神槍ガンジスで<光穿・雷不>――。


 ――紫電一穿の如きの<光穿>が巨大な厖婦闇眼ドミエルの顔に突き刺さる。

 振動した双月刃は頬骨を貫いてめり込み、奥へと浸透していくまま神槍ガンジスの真上に雷不が出現した刹那――厖婦闇眼ドミエルの悲鳴が轟いた。

 神ノ雷が頭蓋を穿ったのか、雷不はそのまま直進し、ドミエルの頭部を完全に突き抜けていく。


 魔槍杖バルドークを消し、霊槍ハヴィスへと変更。

 <隻眼修羅>で厖婦闇眼ドミエルの虚飾に満ちた肉体の奥、魂の核たる煌めきを完全にロックする。

 即座に前進、全身のバネを、神座の理を、そして槍への愛着を一点に収束させ――。

 腰の回転を霊槍ハヴィスへと伝える――<風槍・理元一突>を繰り出した。

 霊槍の穂先が掻き消えるかのような一陣の神風が、ドミエルのコアを貫く――。

 その瞬間、世界から音が消え、否、霊槍から光のうなりのような高音がキィィィンと響き渡り、太い一条の白光戈が深淵を浄化するように直線状に突き抜けていった。

 

 ※ピコーン※<霊穿・籟戈>※スキル獲得※

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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