二千百八十八話 魔界狂想曲・激突編、紫光の女神と――
灼熱の燃え滓へと成り果てた無数の眼球が、断末魔の残光を曳きながらクレーターへと降り注ぐ。
大平原コバトトアルに蠢く神々、諸侯の軍勢にとって、神獣を従えた俺たちの存在を改めて注視したころだろう。
膠着していた敵陣に明らかな動揺と、そして明確な殺意が波及していくのが肌で感じ取れる。
構わず、神槍ガンジスの神魔石の輝きを活かす――。
神座の余韻が混じる濃厚な<血魔力>を注ぎ込み、神槍ガンジスを一閃させる。槍纓が空を裂き、古代の英知を象徴する蒼白きルーンが虚空に明滅したが、神罰の如き極大の光条は放たれない。……「理」を喰らうには、まだ生贄の質が足りないということか。
神魔石の連動は、旧神ギリメカラも関係がありそうだ。
と、そこに、紫と赤黒の光が飛来した――。
巨大なグリフォンの相棒が「にゃごぁ」と鳴きながら右を向き、口から紅蓮の炎を吹いた。
扇状に広がった紅蓮の炎は、紫と赤黒の光と衝突――。
ドッとした衝撃波がこちらまで響く。
ヘルメたちは相棒の背後に移動していたから大丈夫だろう。
大爆発が起きて紫と赤黒の光は雲のような形で止まると、そこから漏れ出した膨大な魔力が数十カ所に収束していくのが見えた。
そこに、左と真上からカメレオン型の魔術師集団が現れる。
「『ウォォォン――』」
魔皇獣咆ケーゼンベルスが、その更に左から猛烈な突進を仕掛けた。
カメレオン型の魔術師集団の間を暴力的に突き抜けていく。
左から真上の宙空にかけて巨大な剣が、通り抜けたようにも見えた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスに中央を突破されたカメレオン型の魔術師集団は左右に割れるように散って、魔皇獣咆ケーゼンベルスに反撃を繰り出すが、魔皇獣咆ケーゼンベルスは上昇し、一回転するように上昇後、急降下し、カメレオン型の魔術師集団へと吶喊し、一度に数十のカメレオン型の魔術師を喰らうように倒し、地面と激突、魔皇獣咆ケーゼンベルスは地面を蹴って、また、カメレオン型の魔術師たちに突撃していく。
骨鰐魔神ベマドーラーも、「『ボォォォン』」と腹の底に響くような鳴き声を上げながら、巨大な骨の顎を打ち鳴らす。
悍ましい骨鰐神の威圧が、多数の骨鰐の幻影を周囲に生むと、それが宙空をジャックするように薄く広まり、地上にも伝搬していく。
それに触れた漆黒の鎧を着た魔獣騎兵たちは、次々に、失神したように動かなくなり、慣性のまま地面に衝突して転げていた。
そして、骨鰐魔神ベマドーラーは後方から魔力をジェット噴射するように加速し、斜め下へと勢いよく飛翔――。
死を振りまく巨大な顎を突き出すまま、転げた魔獣騎兵たちを一氣に飲み込む――重低音を響かせながら直進し、魔神の軍勢を噛み砕いて地形を大きく変化させた。地形そのものを噛み砕き、魔神の軍勢を蹂躙するその姿には、完成された「暴力の美学」が宿っていた。
――陶酔する暇もなく、視界を焼き切らんとする火球と雷球が殺到する。
魔槍杖バルドークを旋回させ、<魔雷ノ風穿>で火球を爆砕。
間髪入れず、神槍ガンジスの鋭い<刺突>が雷球の核を無慈悲に貫いた。
またも火球が飛来――雷球も飛来――。
魔槍杖バルドークの<魔雷ノ風穿>で、火球を撃ち抜くまま、前進し、神槍ガンジスの<刺突>雷球を貫く。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動しながら、カメレオン型の魔術師へと肉薄し、魔槍杖バルドークで<闇雷・一穿>――。
紅矛が、多頭のカメレオン魔術師の体を穿ち、神槍ガンジスの<光穿>で、その胴体をぶち抜いて破壊した。
左の方角から――双頭を持つ巨大な竜の群れが見えた。
鎌首をもたげ、その顎の奥で赤黒い炎をチロチロと明滅させる。
と、こちらに頭部を向けてきた。近くで戦っている魔族兵への攻撃を止めたから、異質。
ヴィーネがこちらに飛来――片腕に相棒の細い触手が絡んでいる。
ターザンのような機動で周囲を移動しながら、この周囲を巡って戦っていたんだろう。
そのヴィーネが、
「――ご主人様、先程倒したのは悪神デサロビアの?」
「あぁ、大眷属の一人らしい、ゲヒュベリアンを知っていた。名は特務眼将ヴェグママナ。『星眼装殻』という魔法かスキルか、アイテムか、分からんことを言っていた。相棒が氣付かなかったから、結構な強者だと思うが、逃がさず、倒せた」
「はい。お見事です。しかし、そのヴェグママナは、今のご主人様を相手にして戦闘ができていた。かなりの強者でしょう――」
ヴィーネは俺へ敬愛の眼差しを向けつつも、その意識の刃は瞬時に戦場へと向けられた。
翡翠の蛇弓が月光を吸い込み、猛毒を孕んだ光条を解き放つ。
線の矢は、四腕で二つの弓を持っていた四眼四腕の頭部に光となって突き刺さった。
すると、光線の矢から無数の緑の蛇が出現し、突き刺さった頭部が内から破裂するように爆発していた。
「――右の大地を進む双頭竜を中心とした大部隊は、トトグディウス軍です」
「了解した。双頭竜、魔街異獣タイプもいそうだな」
「はい、正確な部隊名は不明ですが、穿山ウアンの戦場でも似たような大部隊は存在していました」
「あぁ、それは聞いている」
と、奥にいる魔街異獣タイプの多頭の獄炎竜の漆黒のブレスが、闇神リヴォグラフ側だろう、飛翔している魔族たちに向かう。
闇神リヴォグラフ側の大眷属は、片腕を振るう。
闇と虹が混じる膨大な魔力が刃となって、漆黒のブレスを薙ぎ払って相殺していた。
闇神リヴォグラフ側も十層地獄の王トトグディウス側も、強そうだ。
そして、神格を得ているだろうヴィーネの<血魔力>の量が今までにないぐらいの勢いで噴出し、巨大な黒虎の黒い毛を勢いよく靡かせている。
と、遠方のクレーター付近にいた闇神軍の魔街異獣が見えた。
「『――光魔の羽虫め、図に乗りおって! 全砲門、あの黒髪ごと灰塵に帰せ!』」
地を揺らすような神意力の咆哮が轟いた。
あれが闇神リヴォグラフの軍勢を象徴する巨大な移動要塞、魔街異獣ゲルマドー。
その皮膚に無数に開いた眼窩から膨れつつ、一斉に紫黒の魔力線が収束していく。
魔街異獣ゲルマドーの触手砲台が火を噴く。
複数の巨大な砲弾が飛来――。
「ご主人様、魔毒の女神ミセア様とディペリル側の軍も動いているようですが、敵の数は多い――」
ヴィーネは〝星見の眼帯〟を装着し、光線の矢を射出。
風朧の霊弓から風の矢も連続的に射出されていく。俺も、
「――あぁ、狩魔の王ボーフーンがどれほどの存在か、理解できる――」
ヴィーネに言いながら――。
両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出していく。
砲弾のような巨大な頭蓋骨を、梵字が煌めく<鎖>がぶち抜き、次々に破壊していく。
ヴィーネも光線の矢を射出し続け、
「――魔神の一柱、その器が吸収していた様々な神格、魔力、利権は、膨大ということですね――」
「あぁ――」
返事をしながら両手から<鎖>を射出し続けた。
飛来してくるのは、砲弾のような巨大な頭蓋骨ばかりではない。魔矢、火球、雷球、土槍、様々だ――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>も足下に展開させ、俺たちを潰そうとする諸勢力からの飛び道具を防ぎ、的確に反撃――。
各個撃破を行う。地面から迫る機動部隊にも<鎖>と《氷竜列》を連発していった。
エヴァが操作する白皇鋼の群れが、右の遠くから飛来してくる頭蓋骨砲弾に向け、飛翔していくのが見えた。
その白皇鋼の群れが、砲弾のような頭蓋骨の塊と連続的に衝突を繰り返す。無数の白皇鋼の刃が砲弾を破壊しては、一部の巨大な砲弾を地面へと運び、次々に墜落させていく。
レベッカの、漆黒のドラゴン、ナイトオブソブリンの雷撃も炸裂――。
紅蓮のドラゴン、ペルマドンも口から相棒と似た炎を吐いて、砲弾や火球の遠距離攻撃を弾き、宙空で迎撃をしてくれた。
深淵のネプトゥリオンも、巨大な口から大量の液体を吐く。
大津浪のような波頭の群れが、砲弾や雷球、雷槍、火槍、隕石のような大規模魔法までも、呑み込んで、戦場の一部を占めていた大隊規模の魔族たちを呑み込んでいた。
「シュウヤ様たちを守りますよ!」
神々しい魔力糸が、虚空から盾を織り上げるように張り巡らされていく。砲弾を防ぎ、跳ね返して、向こう側に損害を与えていた。
皆のおかげで、敵の遠距離攻撃は、遠くの位置でだいたい相殺されていく。だが、完全に防げない。
――魔導要塞陣地の壁には傷が目立つ。
近くを浮遊している砂城タータイムにも衝撃を受けて傷が生まれていくが、傷はすぐに修復されている。
しかし、敵の数は多い。この場にいる全員ごと灰燼に帰すつもりの勢いはずっと保たれ続けていた。
更に、圧倒的な質量の暴力が、津波のように押し寄せてくる前兆の後、無数の眼球が飛来した。
悪神デサロビアか?
「にゃごぁ」
相棒の紅蓮の炎が、吹き荒れた。
漆黒の魔力を放つ眼球の群れを呑み込むが、眼球の数は異常だ。
「<ウラニリの流星雨>――」
無数の青白い流星が、眼球たちを貫いていく。
「<暗雷大剣グィヴァ>――」
巨大な雷状の大剣も眼球の群れを一度に両断――。
その漆黒の眼球の群れにヴィーネたちと向かおうと思ったが、「東と南、新手です、速い――」
ヴィーネと共に相棒の近くから離れたが、眼球の群れの向こう側は、漆黒と魔力が闇神リヴォグラフ並に増大している、諸侯は確実。
更に、眼球が増殖、圧倒的な物量。
相棒や魔皇獣咆ケーゼンベルスの大きさを超えて、魔夜世界のすべてを塗り潰す勢い――。
「ん、新手の眼球たちは任せて」
「――光魔の大将ァァァ」
と叫びながら宙空から加速してきた厳つい存在は、斬馬刀のような武器を持ち、それを振り下ろしてきた。
<経脈自在>を意識、<魔闘術の仙極>を発動――「エヴァ、任せた――」と言いながら、上からの斬馬刀を、魔槍杖バルドークの<風柳・上段受け>で受け持ち、強烈な一撃を防ぐ――。
「ん!」
エヴァの白皇鋼の刃が、斬馬刀を振るった存在に突き刺さったが、斬馬刀を持つ魔族はビクともしない。
その魔族に、即座に神槍ガンジスで、<血刃翔刹穿>――。
四眼の豹獣人と似た人型魔獣は、斬馬刀を盾にして神槍ガンジスの突きを防ぎ、双月刃から迸る無数の血刃を体に受けながら後退した。しかし、さして効いていないのか、奴は怯むどころか更に加速して前進し、巨大な斬馬刀を突き出してきた。
<月読>で読みながら横に移動し、斜め下から神槍ガンジスで<魔雷ノ風穿>――。
防がれる。魔槍杖バルドークで<魔雷ノ風穿>――。
四眼の豹獣人と似た人型魔獣は、凶悪な角を揺らしながら鼻で嗤い、斬馬刀の腹で紅矛の突きを弾き飛ばした。
荒ぶる魔息を吐きながら、豪快に斬馬刀を高速に返す――。
神槍ガンジスの<風柳・上段受け>でその斬馬刀を弾き、反撃を狙うが、斬馬刀の柄頭から魔刃が湾曲しながら伸びてきた。
それを魔槍杖バルドークの柄で防ぐまま、力で押されて、地面に両足で突く――と、斬馬刀の峰から無数の乱杭歯が伸びてくる。
即座に<血魔力>を放出するように<血鎖の饗宴>で乱杭歯を突き刺し、消滅させながら、<血鎖の饗宴>で四眼の豹獣人と似た人型魔獣を仕留めようとしたが、斬馬刀から吹き荒れる魔力風で血鎖がすべて弾かれる。四眼の豹獣人と似た人型魔獣は後退するまま四眼から破壊光線を寄越した。
<仙魔・桂馬歩法>を使い斜め上に飛翔するように跳び、破壊光線を避けては、<血龍仙閃>――。否。フェイクの<仙魔・龍水移>――右から移動し、左からの神槍ガンジスで<杖楽昇堕閃>を繰り出す。
四眼の豹獣人と似た人型魔獣は反応し、斬馬刀の刃と、片腕から出した魔盾で、二連撃の<杖楽昇堕閃>と魔槍杖バルドークの<闇雷・一穿>を防ぐと「ハッ、黒髪の槍使い、狩魔の王ボーフーンを屠ったのはお前で間違いないな?」と聞いてきた。
「あぁ、お前はなんだ――」
と、神槍ガンジスで<光穿>で、腹を狙うが、四眼の豹獣人と似た人型魔獣は後退。
「我は。闇神アスタロト様の麾下、魔獣将グレンデル――」
グレンデルは<魔闘術>系統を強めた。
全身から、暴力的な魔圧が噴き上がり地面を蹴り、前進してきた。
巨大な斬馬刀が空氣を絶叫させながら突き出された。
神槍ガンジスの柄でその「重さ」を受け流すが、奴の連撃は止まらない。
二撃、三撃。鋼がぶつかり合う火花が俺の頬を焼く。
<魔手回し>で武器を奪わんと仕掛けた刹那、グレンデルは自らの得物を躊躇なく手放し、剥き出しの拳から零距離の衝撃波を叩き込んできた。更に、斬馬刀の頭から伸びた魔刃で、足を狙ってきた。魔刃を<風柳・下段受け>の魔槍杖バルドークの柄で防ぎ、斬馬刀の強烈な突きも神槍ガンジスの柄で防ぎきる。
「――我の<馬衝殺>からの連撃を防ぐか」
グレンデルの四つの瞳の奥に、狂気に似た武への歓喜が灯るのが見えた。
「光魔の王、その武の底、我の斬馬刀で測らせてもらうぞ!」
グレンデルの言葉と同時に、斬馬刀から吹き荒れる漆黒の炎が勢いを増した。
大氣を焦がす熱波と共に、嵐のような連続斬りが放たれる。
「闇神アスタロトなら、吸血神から俺たちのことは聞いていないのか?」
「――ハッ、光魔の王よ、分からぬのか?」
咄嗟に、後退、右に軸をズラすように<風柳・異踏>で四眼の破壊光線のような魔線ビームを避ける。
即座に<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動し、心臓の鼓動を爆発的に跳ね上げる。
<仙魔・暈繝飛動>と<水月血闘法>を展開。足下の血の<血魔力>から複数の水鴉と分身を発生させた。
グレンデルは、「ハッ、残像か!」と、肩口を畳ませるように斬馬刀で袈裟掛けを仕掛けてくる。
それを見るように<暁闇ノ幻遊槍>を発動、斬撃を避ける。
即座に神槍ガンジスで<風研ぎ>、最速を狙うが、グレンデルは斬馬刀から手を離し、後退。
手に斬馬刀の柄巻が吸い寄せられて戻っていた。刹那、消える、否、左からグレンデルの斬撃。それを神槍ガンジスの<風柳・上段受け>で防ぐ。グレンデルから放出された漆黒の炎を吸収していく。魔槍杖バルドークを下から上に振るう<豪閃>――。
それは避けられたが、即座に、<仙魔・龍水移>でグレンデルの右死角へと転移。
魔槍杖バルドークを短く握り込み、極限まで引き上げた速度で<血龍仙閃>を放つ。
グレンデルは巨躯に似合わぬ反応速度で斬馬刀を引き、巨大な刀身を盾にして紅斧刃の一撃を受け止めた。
火花が散り、強烈な衝撃波が周囲の地面を抉る。
速い――左手の神槍ガンジスで足下を狙うが、グレンデルは前転と同時に斬馬刀を振り下ろしてくる――。
魔槍杖バルドークの紅斧刃で受け持つまま、右手を離し、<神聖・光雷衝>――。
光の衝撃波がグレンデルと衝突したが、「ほぉ――」と血塗れになりながら斬馬刀を突き出してくる。
構わず、突きを横に見ながら左斜め上に回転し<風柳・単撤手>――神槍ガンジスの柄の末端を握り込み、全身の捻りを乗せた片手突きが、グレンデルの防御の隙間を縫って腹へと迫る。
「ヌゥォォッ!?」
グレンデルは咄嗟に後退するが、双月刃が装甲を掠め、浅く肉を裂いた。
直後、殺氣――銀の光条!?
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚するがまま後退。
眩い閃光が衝突した<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を大きく横に吹き飛ばす。
続けて遠くから飛来した銀の刃、否、ジャベリンのような銀槍か? 弓矢かよ――。
それを<ブリンク・ステップ>を使い横に転移するように避けた。
グレンデルにもその銀の弓矢は飛来し、斬馬刀のような武器を盾にして、強烈な遠距離攻撃を防いでいた。
グレンデルは、
「クソが、ここでも我を邪魔するとは、しつこいぞ! ヒュネロ!!!」
グレンデルは俺を見向きもせず、銀の弓矢をこちらへ放ち続けている強者魔族へと吶喊していった。
闇神リヴォグラフが、ミセアとディペリルの軍の一部を突破してくる。
と、体勢を立て直した魔毒の女神ミセアやディペリル軍が乱入、少し先で大乱戦となった。
クレーターが、無数の軍勢で埋まり尽くす。
神獣ロロディーヌ、ユイ、カルード、レン、キサラ、ミラシャン、シュレゴス・ロード、リサナ、ナギサと闇烙龍イトス、ミレイヴァル、フィナプルスたちが、前線をかき乱すように一振りで数百の魔族を倒すが、意味がないように見えてしまう。
なんという光景だ――魔皇獣咆ケーゼンベルスと骨鰐魔神ベマドーラーが小さく感じるほどだ。
『「ふふふ、慄くな、槍使い、これは盲目の血祭りと考えよ、ここの権益を頂くわよ――」』
と、宣言したミセアの毒薔薇が宙空に咲き乱れると、そこからミセアの新手の軍隊が、闇神リヴォグラフ側か不明な軍勢に襲い掛かっていく。ディペリルの軍勢らしき者も見えた。
「――ん! ダメ! 皆を攻撃するのはだめ!」
エヴァの声――。
無数の白皇鋼が紫の軌跡を描きながら、宙空に展開していた。
それらが大柄の女神? に向かう。だが、眼球と闇の塊と衝突して、対消滅させられていた。
光属性があまり効いていない。
その眼球と闇の塊を操作、大本の上半身は人型で、蒼白い肌に灰色の長い髪、紫と赤の四眼。
四腕の手には漆黒の眼球の群れが渦巻いている。
更に下半身が、形容しがたい、足が見えないほどの漆黒の魔力スカートで無数の眼球を蠢いていた。
白き貴婦人ゼレナードのような存在か?
その足下には、大型の戦車のような大柄魔族と、肉の塊と融合した魔族兵たちが大量に現れる。
両足が長い魔族兵の両手は、眼球の群れだった。
ヴィーネが、
「ご主人様、あれは厖婦闇眼ドミエルと、その配下の軍!」
そのドミエルの闇スカートから生じる自律型の闇の触手や弾丸が皆に飛来――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>での防御が追いつかない、<超能力精神>で防ぐが、数が異常――。
突破されるままダメージを受けたが、〝黒衣の王〟の装備の〝煉霊攝の黒衣〟は崩さず――。
右肩のハルホンクが歓喜の咆哮を上げ、<神獣焰ノ髭包摂>と<煉霊ノ時雨>を同時展開する。
周囲数メートルが、ルシヴァルの血と煉霊の魔力が混じり合う、幻想的な「理の外側」へと変貌した。
※煉霊ノ時雨※
※<煉霊ノ時雨>物理魔法防御術:上位※
※使い手の周囲に雨のような光魔ルシヴァルと煉霊の魔力が融合した雨を降らせる※
※遙か昔、魔神バーヴァイがラージマデルの古道で煉霊雨王リィグルを倒し、その魂を煉霊攝の黒衣に変化させた※
※ハルホンクが〝黒衣の王〟装備の〝煉霊攝の黒衣〟を喰って<煉霊ノ時雨>を獲得した※
<神獣焰ノ髭包摂>を調べよう
※神獣焰ノ髭包摂※
※ハルホンクが神獣ロロディーヌの紅蓮の炎の魔力を取り込んだ※
※竜頭装甲から橙色の魔力に燃えている髭が誕生し、その髭は自由に伸縮が可能※
※加速力が上昇し、魔力が増加※
※髭の炎で攻撃も可能、味方は触れてもダメージはないようにハルホンクが自動的に調整する※
天気雨のような魔力の雨と<血魔力>の雨が降る。
幻想的な<血魔力>を有した火の玉が出現し、飛来してくる眼球系統を相殺していく。
魔力の雨と<血魔力>の雨と幻想的な火の玉が、エヴァたちも守っていった。
だが、厖婦闇眼ドミエルの遠距離攻撃は熾烈を極める。
互いの弾幕が宙空で連続衝突し、光と闇のスパークが降り注ぐ。
「ん、シュウヤ、わたしも神様になった――」
エヴァを中心とした無数の白皇鋼や車椅子のパーツが、紫の彗星となって戦場を埋め尽くす。
ドミエルが放つ闇の触手が、その圧倒的な質量の<霊血導超念力>によって次々と粉砕されていった。
円樹鍛冶宝具も背後に浮いている。
白皇鋼などの太い金属刃が宙空を激しく行き交う。
紫を帯びた輝く<血魔力>で、金属が操作されたオールレンジ攻撃――。
視界いっぱいに紫の光の軌跡が走り、多方向から同時に光条がドミエルを襲う――。
エヴァの意思に呼応し、宙に舞う霊鋼のパーツが全方位からドミエルへと殺到する。それはまるで、意思を持つ紫の閃光が戦場の空間そのものを網目状に縫い止めるかのようだった。
「……下級が! 我の<厖婦闇眼思念>に対抗するとは――」
ドミエルの周囲から黒い液状の弾丸や闇の触手が射出され、エヴァのパーツ一つ一つを空中で迎撃してくる。
ドミエルの無数の闇眼が怪しく明滅――。
刹那、彼女の影から放たれた無数の闇の礫が、エヴァの操る金属や魔導車椅子のパーツと宙空で正面衝突を繰り返した。
激しい火花と魔力の余波を撒き散らした。
大きいエヴァの瞳の幻影が宙空に――
ドミエルの闇眼もアップになると、幻影と幻影が衝突し、閃光が迸る。
「ん、負けない……」
エヴァは宙空でふんわりと浮かぶ。
紫の霊血導超念力が爆発。
愛用の魔導車椅子がカチャカチャと音を立てて分解、パージされ、無数の浮遊パーツへと変貌。
白皇鋼、グドラ樹、金剛樹の破片が幾層もの曼荼羅を形成し、戦場全体を紫の神氣で包み込み、次々と敵を迎撃していった。
「ん、ダメ。争い……終わらせる――」
左上空から響くと、その周囲の空間が、ふわりと歪んだ。
重力が消失したかのように、エヴァの体が静かに宙へと浮き上がる。
彼女の全身から、紫の<霊血導超念力>が爆発的な輝きを放ちながら溢れ出す。
それは暴力的な光ではない。どこまでも冷徹で、そして神秘的な紫の輝きだ。
白皇鋼、グドラ樹、金剛樹の破片が幾層もの曼荼羅を形成し、戦場全体を紫の神氣で包み込む――。
厖婦闇眼ドミエルは『「なんだ、この光は! チッ――」』と、驚いたように、己の軍隊を放って、上昇後退。
残された左側の魔族たちは動きを止めた。
右側では、闇神リヴォグラフ、闇神アスタロト、魔毒の女神ミセア、淫魔の王女ディペリル、十層地獄の王トトグディウスの勢力、悪神デサロビアの残党などが戦っている。
「「ウゴアァァ」」
狂乱していた魔族たちがエヴァを見て「女神様……」と平伏し始める。
完全に左の戦場を制圧したか?
と思ったが、空が割れ、おぞましくも美しい闇が溢れ出す。
遁走したかに見えた厖婦闇眼ドミエルが、絶望を具現化したような闇を纏って再降臨する。
彼女の闇眼ドレスが、エヴァの放つ神聖な紫光を底なしの深淵へと呑み込み、戦場を再び夜の色に塗り潰していく。
更に、厖婦闇眼ドミエルの背後から漆黒に身を包む魔界騎士の編隊が現れ、
「ドミエル様、あやつらが狙っていた駒ですか」
「――ドミエル様、左手奥に闇神連中と、毒婦に、十層地獄の王などの乱戦がありますが、これは、好都合!」
そこに、
『ブペペッペッぺ~……』
ん? <魔街異獣の担い手>が反応した!?
戦場の喧騒を切り裂くように、不気味なほど美しい少女の幻影が揺らめいた。
はだけた衣装から覗くのは、生者とは一線を画す灰銀の肌。
周囲には奇妙な愛嬌を振りまくブッティたちが浮遊している。
その幻影が本物に、塗り変わる。ミトリ・ミトン――あの異質な「担い手」が、大厖魔街異獣ボベルファと共にこの地獄へ参戦してくれた。
四本腕の内、二つの腕で、短杖を持つ。
二つの腕は少し細長い。その細長い手は壊れた人形の手にも見えるのは変わらない。
「――ブボォォォ、ブペペッペッぺ~……ブペ、ペッペッぺ~……」
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版1巻~3巻発売中。




