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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百八十話 狩魔の王ボーフーンとの激戦・二

 

 魂を削るように<鬼神キサラメの抱擁>と<龍神・魔力纏>を同時に回す。

 全身を巡る魔力が、龍の如き咆哮を上げて俺の輪郭を焼き焦がした。

 <血道第五・開門>――。


 意識を研ぎ澄ますと同時に、周囲に溢れ出していた俺の<血魔力>が沸騰し、数百体の<光魔・血霊衛士>へと形を変えて顕現する。


 五十体ほどの<光魔・血霊衛士>をボーフーンへ直進させ、残る五十体を砂城タータイムと高台の鹿魔族たちへ向かわせる。

『雑魚を増やしたところで意味はない――』

 ボーフーンは嗤い、六本の巨腕から漆黒の炎と雷を帯びた魔刃を放った。だが、血霊衛士はその凶刃を浴びても微動だにせず、一斉に棍を振り下ろす。


「『チッ、お前らはつくづく――』」


 血霊衛士たちが時間を稼いだ刹那――。

 巨大な魔角に串刺しにされていたレベッカとエヴァが、自らの肉を裂きながら強引に離脱を図る。


「……ナイス、シュウヤ。助かった!」

 

 レベッカが真っ赤な血を吐き捨て、炎を纏う。


「ん、……平気。まだ、やれる」


 エヴァもまた、銀髪を血に染めながら車椅子を浮かび上がらせた。

 俺も、己の脚と脇腹を貫く魔角から肉を引き千切るようにして強引に離脱した。


 だが、狩魔の王ボーフーンに攻撃をしかけていた血霊衛士の群れは消えていた。

 その狩魔の王ボーフーンから空を覆うほどの魔角が伸びてくる。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を向かわせるが、一部しか防げない。


「ご主人様、ここは私が!」


 ヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)を天に掲げた。

 直後、膜状に広がる紫電の障壁が俺たちを包み込む。

 だが、ボーフーンが放つ圧倒的な質量の魔角が空間を削り取り――。

 

 <ヘグポリネの紫電幕>を紙細工のように無残に食い破っていく。

 紫の火花が散り、防御エリアが蒸発するように消失した。

 

「ヴィーネ、十分だ――」


 と指示を出し、前へと躍り出た。


「にゃご――」


 相棒も続く。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を右に展開――。

 巨大な駒が魔刃と雷を受け止め、盾となった。

 ――耳を劈く轟音と衝撃波が空間を激しく揺らす。完全には防ぎきれず、装甲を掠める刃が肌を裂いた。

 

 激痛に視界が明滅するが、致命傷には至らない。

 逆に膨大な魔力を得たことで、裂けた傷は一瞬で塞がり、魔力も回復する。

 そのままボーフーンへと飛翔した。

 だが、動きを見越していた奴は六眼を三日月の如く歪め、二本の巨腕で握る巨大な魔剣を横薙ぎに振るう――。


 それを神槍ガンジスで防ぐ。

 反撃に突きを繰り出すが、魔大剣が疾風の如き早さで飛来。

 それを紅斧刃の峰で防ぐ――。


 突き、連続的な突きを繰り出してきた。

 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで<刺突>――。

 魔大剣と魔槍の突きを基本の<刺突>で連続的に防ぎ――。

 

 左中腕が持つ魔杖から出た雷撃は、<風柳・異踏>で軸をズラして避ける。

 最上段からの大剣の振り下ろしは、神槍ガンジスの<風柳・上段受け>で受け持って防いだ。


 更に、空間ごと削り取るような剣閃も飛来。


 右手の魔槍杖バルドークと左手の神槍ガンジスを交差させるように、剣閃を弾き、逸らす――火花が散り、腕の骨が軋むほどの重撃だったが――防ぎきった。


 六眼の内、二眼に魔力が集結し、<隻眼修羅>で把握。

 二眼から放たれた怪光線を神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを盾に防ぐ。

 と、巨大な魔剣が斜め下から迫った。

 それを神槍ガンジスで防ぎ、反撃の突きを繰り出す。

 だが、ボーフーンは踏み込みの歩幅を大きく広げ――。

 別な腕で握っていた魔槍から片手を離した。


 巨躯の肩と腰の捻りを加え、推進力のすべてを乗せるように片手で魔槍を一氣に前に突き出してくる。予測していた間合いを遥かに超え、一直線に心臓へと迫る切っ先。

 

 右手に持った魔槍杖バルドークを背へと回し込む。

 視線を切った状態で、背に回した柄で魔神の渾身の片手突きを跳ね上げ、<風柳・背環受け>。

 死角からの雷撃を<風柳・異踏>で軸をズラして避けつつ、即座に<刺突>のモーションに入る。

 左手を離し、柄の末端を右手一本で握りつつ身を捻り、強烈な踏み込みと共に片手で神槍を突き出す――。


 <風柳・単撤手たんてつしゅ>――。


 ボーフーンの魔大剣と神槍の切っ先が宙空で激しく衝突した。

 奴は驚愕に六眼を見開くが、即座に低い姿勢へと沈み込むと、魔大剣の柄を下から上へ、俺の顎をカチ上げるように力強く跳ね上げてきた。

 魔槍杖バルドークの紅斧刃の峰で下から逆に魔大剣を叩き、脇腹に、神槍ガンジスの<刺突>――。

 ズシュッと、脇を貫く双月刃――。


「『――神たる我の槍武術を、ただの武の理で凌駕するか……!』」


 ボーフーンは驚愕と屈辱に顔を歪めながら加速。

 右、否、左から<魔皇・無閃>を思わせる怒濤の連続一閃攻撃を仕掛けてきた。

 右腕と左腕だけでは、防御が追いつかないままラマドシュラーを握らせた<導想魔手>――で<闇雷・飛閃>、大地竜槍テラブレイカーを握らせた<鬼想魔手>で<刺突>。


「『――ぬぅ、これほどとは――』」


 狩魔の王ボーフーンは更に加速し、神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの<魔皇・無閃>を防ぎながら、<導想魔手>に怪光線を放ち、魔線ごと破壊。<鬼想魔手>の攻撃を己の鹿頭の角で防御――。


 そこから魔刃と紫電の広範囲魔法を繰り出した。


『パパ――』


 光精霊フォティーナが胸元から飛翔し、散り、光神ルロディス様の幻影を模ると、幻影は閃光を発し、魔刃と紫電の広範囲魔法は包み込むように消し飛んだ。


 狩魔の王ボーフーンは、後退し、光線の矢を避けては、カルードとユイの<バーヴァイの魔刃>を下腕だけで掴み、指先の爪から無数の鹿魔獣を生み出しては、吶喊させつつ、俺を六眼の内、三眼で睨みつけて、


「……ここで光神ルロディスか、下にいる精霊共のような一派を飼っているとは、聞いていた頃よりも進化しているということか……」

「あぁ、お前の体は鹿魔獣、鹿の眷族を自由に生み出せるのか」


 狩魔の王ボーフーンは、皆からの遠距離攻撃を体に受け爆発を繰り返しているが、なんともないように俺を見据え、


「……黙れ小童が、魔神をなんだとおもうておる――」


 漆黒の閃光が飛来した。<武行氣>で右に飛翔して避けると、背後に狩魔の王ボーフーンが転移してきた即座に、ふりむきざまに魔槍杖バルドークを振るう。

 狩魔の王ボーフーンは魔大剣を盾にし、魔槍を突き出してきた。

 姿勢を極端に沈め、座るような低い体勢から下から上へ突き上げる<風柳・槍挑斗(しょうちょうと)>で、魔槍の螻蛄首を穿ち破壊――。


 狩魔の王ボーフーンは即座に他の魔槍を召喚し、足下を狙ってきた。

 それを浮遊しつつ避ける。


 六眼に嘲りの色を浮かべ、


「ハッ、闇遊の姫魔鬼メファーラは元気か? あの女の『血』の匂いがするぞ」


 と、嗤いながらヘラジカのような無数の魔角を脈動させる。

 その神威は、ただそこに在るだけで大氣を重く歪ませていた。

 狩魔の王ボーフーンの背から弧を描くように第七の腕のようなモノが迫った。

 それを神槍ガンジスの<光穿>で穿つ――巨大な拳状のモノを左右に引き裂くように防ぐが、左右に分かれたモノが樹状突起の如く伸びてきた。


 即座に、


「あぁ、元氣だろうよ――」


 皮肉を込めて返しつつ、<メファーラの武闘血>を発動。そのまま<姫魔鬼連舞・闇遊閃>を繰り出す――。


 魔槍杖バルドークを盾にし、<風柳・上段受け>で左右からの角の攻撃を防ぐ。

 神槍ガンジスを<握式・吸脱着>で手放し、下から迫った角の下部を左掌底で叩き、破壊――。

 魔槍杖バルドークの柄から離した右拳で、飛来した角を横から叩き、破壊――。

 肘鉄で角をへし折り、破壊――。

 神槍ガンジスを掴み直した双月刃の一閃で、長い角を両断するまま右へと旋回――。

 角と魔剣の突きを、<月読>を使用し上と下に移動し、避ける。


 狩魔の王ボーフーンも右に移動し、右下腕と左中腕が持つ巨大な魔弓から漆黒の矢を射出。

 即座に<暁闇ノ歩法>を用いて避けた。<隻眼修羅>を使用し弱点を探していく。


 奴の巨躯や呪怨鉄の装甲には――。

 これまでの激戦で受けた俺の<血魔力>が、こびりつくように付着したまま残っていた。


 これは、いけるか?

 

 感覚のまま己の体から爆発的に<血魔力>を放出する――。

 奴の巨躯にこびりついた俺の<血魔力>が、俺の意志に応えて脈動を始めた。

 起爆の合図は、俺の心音――<血鎖の饗宴>。ゼロ距離で共鳴した血が内からボーフーンを食い破る無数の棘と鎖へと変異する。装甲の隙間から噴き出した血の鎖が、魔神の巨躯を内から縫い留め、赤銅色の爆炎を上げた。

 

 ――赤銅色の閃光がボーフーンの顔面を覆い尽くした。


「『ヌグォォッ!?』」


 狩魔の王ボーフーンが初めて苦悶のような声を上げ、赤銅色の閃光から逃れながら巨躯を揺らした。血塗れになり、装甲の一部が砕け散っていく。


 ――無数の血鎖が狩魔の王ボーフーンの体を貫く。

 紫黒の瘴氣のような魔力も蒼炎状に変化し塵と成っていた。


 無数の<血鎖の饗宴>の攻撃を維持しつつ――。

 血鎖の隙間を縫うように<双豪閃>を放つ――。

 再生しかけの狩魔の王ボーフーンの角と、頭部を――神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの穂先が捉え、ズシャバババッと奇怪な重低音と共に、両断せしめた――。

 だが、縦に斬ったはずの狩魔の王ボーフーンの頭部は、脱皮をするようにすぐ背後へ体ごと抜け出し、後退していた。確かな手応えはあったが致命的なダメージは期待できないのか。

 

 ――血煙が晴れると、血塗れで、ダメージを受けていた狩魔の王ボーフーンが姿を晒す。

 しかし、


「『――光魔ルシヴァル、なるほど、光の血か……光神ルロディスに負けず劣らず、凄まじい光の質よな。だが、少々細いという他ないな……』」


 六眼と顔には、絶対者の傲慢と冷酷さがあった。

 狩魔の王ボーフーンは、俺の血鎖を手に取り、握り込む。

 ギシッ、と空間が軋む音が響いた。神意力を伴う圧倒的な握力が、<血道第二・開門>による<血鎖の饗宴>の<血魔力>を、脆い枯れ枝のようにボロボロと崩し、塵へと変えていく。


 そして、俺を睨み、


「『……我は狩魔の王ボーフーンぞ? 光神ルロディスとその眷族神、戦神ヴァイスにその戦神たち、幾度と戦ったと思うておる――』」


 右の下腕の魔大剣が右下から迫る。

 魔槍杖バルドークを振るう<豪閃>で迎え打った。

 螻蛄首で、その魔大剣の一閃を防ぐ。金属音と火花が散る最中、狩魔の王ボーフーンは左上腕と中腕が持つ雷の魔力を放ちながら魔剣を突き出す。

 その雷を帯びた切っ先を神槍ガンジスで<風柳・中段受け>で防御、横に、払いながら左に移動し、右腕の手が持つ魔槍杖バルドークで<魔皇・無閃>――。


 狩魔の王ボーフーンの右半身に向かう紅斧刃の一撃は魔剣と魔大剣の刃に防がれた。

 刹那、狩魔の王ボーフーンは、前のめり――。

 頭部の無数のヘラジカのような角は、もう再生している。それを伸ばしてきた。

 迫る角の群れ――冷静に神槍ガンジスで<闇雷・飛閃>――。


 最初の魔角の角を斬る。

 続けて<血魔力>を体から出しつつ――次の魔角を紅斧刃で斬る。

 複数の魔角ごと狩魔の王ボーフーンを吹き飛ばすイメージで、<超能力精神(サイキックマインド)>を繰り出した。


 無数の角刃は折れるように弾き飛ぶが、狩魔の王ボーフーンは衝撃を受けても微動だにしない。

 角を再生させ続けて伸ばし続けては、<超能力精神(サイキックマインド)>を連発。


「『――ぬん!』」

「くっ」


 ――反動で、互いに後退した。


 だが、狩魔の王ボーフーンは、「小賢しい小技をつかいおる――」と赤黒い魔刃を連続的に飛ばしてくる。地面に落下していた無数の魔槍と神槍類を<握吸>で引き寄せる。それらを、迫りくる狩魔の王ボーフーンの赤黒い魔刃へと次々に衝突させていく。

 

 ――後退しつつ<血想槍>で消費した魔槍類の幾つかを回収。

 そのアイテムボックスからコインを取り出す。

 

 血魔剣を右手に召喚し、振るがままの<湖月血斬>で赤黒い魔刃を切断――。

 更に血魔剣に<血魔力>を送ると、柄と剣身から紅蓮の血が炎のように噴き出た。

 

「百目血鬼、出ろ――」


 その血魔剣から複数の目を全身に持つ女性がにゅるりと現れ飛翔――。


「久しいの外魔ノ血ヲ刻ム者――」


 百目血鬼の腕に宿る複数の目は、俺の<血魔力>と硬貨を吸収していく。

 柳の葉のような黒髪を持つ百目血鬼は、血飛沫を背から発しながら――。


「相手は異常な鹿、否、魔神か――<百目魔剣・障目鬼>――」


 と言うと、細い片手に持った八枝剣を振るう。

 百目血鬼の周囲に、歪な目が無数に誕生していく。

 八枝剣から濃密な魔刃と硬貨が混じった魔力の刃を狩魔の王ボーフーンに繰り出した。


 狩魔の王ボーフーンは、「血の魔剣から召喚か――」と言いながら六腕を振るい、魔剣、魔大剣、魔槍による武器で、百目血鬼の魔刃を防ぎながら後退した。

 銅貨色に輝く円月輪のような魔刃はボーフーンの魔剣を弾き、その腕の一つを切り飛ばす。

 レベッカの蒼炎弾とエヴァの白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃も、巨躯に次々と衝突していく。


「『――小癪な。血の召喚には、我の狩猟獣をくれてやろう』」


 狩魔の王ボーフーンが六眼を細め、魔大剣の柄で虚空を叩いた。

 刹那、空間がひび割れ、漆黒の雷と呪怨鉄で構成された無数の角枯れの鹿角を生やす猟犬と、鹿が這い出てくる。


 猟犬と鹿の群れは百目血鬼へと跳びかかり、上空で魔刃と呪怨鉄が激しく噛み合う大乱戦となった。


 百目血鬼が猟犬どもを抑え込んでいる隙を突き、相棒が触手骨剣を伸ばす。

 キサラとユイとカルードも、他の大眷属との戦いから離れ、その新手の増援部隊に近い鹿猟犬と鹿たちに攻撃をしていく。


 すると、ボーフーンは巨体に見合わぬ速度で加速――。

 目前へと迫るや否や、怒濤の魔槍の突きを繰り出してきた――。


 それを血魔剣の<神式・一点突>で迎撃し、横に弾く。

 

「『反応が速いが、これならならば――』」


 魔大剣がしなるように飛来。

 それを見るように避けて。

 次の袈裟斬りには、血魔剣の<仙式・流水架>で受けて防ぐ。

 

 ――左手に神槍ガンジスを召喚し、怪光線を右に飛翔して避ける。


 神槍ガンジスで<血刃翔刹穿>を狙うが、、狩魔の王ボーフーンは魔角をこちらに伸ばしながら後退――。

 

 魔角を血魔剣の<白炎一ノ太刀>で切断しつつ――。

 血魔剣を魔槍杖バルドークに変化させながら追跡した刹那、狩魔の王ボーフーンがブレた。

 

「『そろそろ、我の神意を見せてやろう――』」


 無数の鹿の幻影と共に無数の魔族たちの悲鳴が轟く。

 途端に、眩い漆黒の閃光が見えた直後、上下の感覚が失われた。

 漆黒の闇に呑み込まれ、視界が消える――否。


「にゃごァァァ――!」


 視界の端で巨大な黒虎の影が躍った。

 ボーフーンの絶死の一撃を、え? 相棒がその身を挺して受け止めていた。


 ……無数の黒い毛が舞い、魔槍に貫かれた相棒の体から鮮烈な赤が虚空に飛び散った。


「……ンン……」


 耳の奥に、弱々しい相棒の悲鳴が届く。

 重力に引かれ、力なく落下していく黒虎(ロロ)

 

 魂の繋がりが、ふつりと断ち切られるような恐怖が俺を支配した。


 <血魔力>が全身から噴き上がるまま落下していく黒虎(ロロ)の元に向かったが、「『笑止――』」と狩魔の王ボーフーンが目の前に――。


 魔大剣と魔槍の連続攻撃を「邪魔だ――」と魔槍杖バルドークで防ぐが、神槍ガンジスで反撃の前に、腹を魔剣で刺し抜かれていた。


「フハハハッ、あの獣がお前の弱点か――」


 その言葉が響いた刹那――。

 魂、存在そのものが、世界を拒絶するように何かが身から膨れ上がった。

 急激に世界が色褪せる――。

 

 ピコーン※<暴理・狂乱枯渇(カオスティックアウト)>※恒久スキル獲得※


 ――脳髄に響いた、そのあまりにも無機質な獲得音が。

 俺の体と精神の枷を、着火剤となって強引に焼き切った。


「あァ……?」


 口から漏れ出たのは苦悶の呻きではない。

 極上の酒を味わったかのような、熱を帯びた歓喜の吐息だった。

 腹に凶刃を突き立てられたまま、自らその切っ先を深く迎え入れるように――。


 一切の躊躇なく一歩、前へと踏み込んだ。


「『なッ!?』」


 ズブリと肉を裂き、骨を軋ませて刃がさらに深く体へと食い込む。

 頭部にも魔角が突き刺さるが、構わず前へ出る。

 暴理の狂氣――黄色が混じる俺の<血魔力>が、魔神の巨躯へと浸透していく。

 絶対的な優位にあったはずのボーフーンの六眼が、驚愕に見開かれた。


「『――貴様、己の体がどうなっているのか分かって……!?』」

「……邪魔だと言ったのは、テメェだろうが」


 自分でも驚くほど低く、冷たく響いた。

 腹を貫く魔剣を無視し、魔槍杖バルドークをただの鉄塊としてボーフーンの頭部へ叩きつける。 ――型も、呼吸も、槍術の極意も要らない。

 ただこの魔神を、塵も残さず粉砕するという執念だけが、紅斧刃を加速させた。

 魔槍杖バルドークを至近距離からボーフーンの巨躯に向かって力任せに叩きつけた。

 ただ純粋な暴力と狂氣だけを乗せた紅斧刃の一撃。


「『――グォォッ!?』」


 呪怨鉄の装甲に激突し、凄まじい火花と血の魔力嵐を撒き散らしながら、神意力を纏う巨大な魔神を強引に押し込み始めたが、無数の魔角が飛来――。

 全身に突き刺さるまま構わず、左腕で神槍ガンジスを狩魔の王ボーフーンに叩き付け、指が潰れようとも、魔槍杖バルドークでも、何度も叩きつけて、<連環魔打>、<血仙拳>を繰り出していく。


 ――<血魔力>ではない暴理の狂氣の黄色が混じる<血魔力>が狩魔の王ボーフーンに浸透していく。


「『ぐぇぁ……この膂力、この魔力……全身を穿たれながら何故だ!?』」


 ――分からねぇ、視界は真っ赤のままだ――。

 絶対的な優位にあったはずのボーフーンの巨体が、無様な音を立てて後退を余儀なくされる。その傲岸不遜な顔に、初めて明確な動揺と困惑の色が浮かんでいた。

 

「ングゥゥィィ、ハッ、オ前、狩魔の王ボーフーンカ!」

「『……な? 竜だと? それに、何が、おかしい? 死の淵で狂ったか、光魔』」


 動揺を振り払うかのような奴の言葉が、ひどく間の抜けた羽虫の羽音のように鼓膜を叩く。

 俺は――嗤っていた。


「アハハハハハハハッ!」


 狂氣の哄笑が、魔神の神威すら飲み込むように響き渡る。

 腹を貫く魔剣ごと、ボーフーンの巨腕を左手で強引に掴み取った。


「『なっ、貴様、その腕力は……!?』」


 驚愕するボーフーンの六眼に向け、魔槍杖バルドークの石突を容赦なく叩き込む。

 ボキィッという嫌な音と共に魔神の顔面装甲が砕け散り、巨大な体躯が後方へと弾き飛ばされた。


「ングゥゥィィ、オレモ、ヤルゾォォ!」


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)が赤黒い業火を噴き上げ、吹き飛ぶボーフーンを追撃する。

 その隙に一切の躊躇なく、落下していく相棒の後を追って虚空へと身を躍らせた。

 視界の先、血を撒き散らしながら落ちていく黒い毛玉。


「ロロォォッ!!」


 <暴理・狂乱枯渇>による無尽蔵の魔力を足下から噴射し、重力を無視した速度で急降下する。全身に突き刺さった魔角が風圧で肉を抉るが、痛みなどとうに消失していた。


 落下する小さな黒い影を、千切れるような想いで腕の中に収めた。

 抱きしめた黒猫(ロロ)の体は、驚くほど軽く、そして熱い血に濡れている。

 

 ……生きていてくれた。


「ン、……にゃご」


 かすかに目を開けた相棒が、血の匂いにまみれた俺の胸に愛おしそうに顔を寄せた。

 その喉の鳴動が、狂いかけた俺の意識を繋ぎ止め、明確で冷徹な殺意の形へと押し留めてくれた。


「ン、ン……にゃ」


 黒猫(ロロ)が、安心したように、喉を鳴らし胸に、また、頭を擦り付けた。

 すまんな、傷を、そして、ありがとう……。


 込み上げる思いに自然と口が震え、


「……よく耐えたな、相棒。あとは俺に任せろ」


 そっと相棒を抱いたまま、ゆっくりと天を仰いだ。

 上空では、顔面を砕かれながらも凄まじい再生力で傷を塞ぎつつあるボーフーンが、怒りに身を震わせ、周囲の空間ごと俺を圧殺しようと極大の魔力を練り上げている。


「『許さん……許さんぞ光魔ァ! 我が威厳に泥を塗った罪、その神獣ごと塵と消え失せろォォッ!』」


 天空を覆うほどの紫黒の雷光と、絶死の呪力、膨大な魔力を帯びた巨大な魔大剣の群れが、ボーフーンの背後に顕現する。それを冷たい目で見上げながら胸の奥底から湧き上がる<血魔力>を残された右腕と魔槍杖バルドークへと集束させた。


 狂氣と理性が融合した、完全なる絶死の極意。


「にゃご」


 相棒が黒豹と化して、右に飛翔していくを確認しつつ、狩魔の王ボーフーンを見定め、


「――塵になるのは、貴様だ」

 

 切り札の<脳脊魔速>を発動。

 <破壊神ゲルセルクの心得>と<仙血真髄>と<魔仙神功>を発動――。

 知覚が爆発的に跳ね上がった。

 世界が白昼夢のように静止――。

 狩魔の王ボーフーンとの間合いを詰め、神槍ガンジスで<光穿・雷不>――。

 突き出た神槍ガンジスの穂先から、神々しい天道虫の幻影が現れては散る。

 狩魔の王ボーフーンは己の体から半透明の分身を出し、左に移動し、<光穿>に、その半透明の分身を衝突させ、左上腕と下腕の魔大剣を突き出してきた。


 その攻撃を体で受け、否、魔槍杖バルドークでそれを防ぐ。


「!?」


 狂氣の影響を受けていた狩魔の王ボーフーンは、反応がやや遅れた。


 刹那、八支刀の光が連なるランス状の雷不が神槍ガンジスの真上に出現。

 狩魔の王ボーフーンを追跡していく神々しい光雷の矛は、半透明の分身を穿ち、狩魔の王ボーフーンの魔大剣を弾き、その上半身を貫く。


 背後に直進し、爆発を起こしながら虚空に<光穿・雷不>は消えた。

 狩魔の王ボーフーンの下半身をブレながら斜め後方に移動すると、一瞬で、再生。


「無駄ダ――」


 即座に、魔槍杖バルドークを<投擲>――。

 狩魔の王ボーフーンは魔大剣で魔槍杖バルドークを防ぐ。

 <握吸>で引き寄せ、魔槍杖バルドークを消すがまま右手に壊槍グラドパルスを召喚。

 <空穿・螺旋壊槍>――。

 壊槍グラドパルスの穂先の<闇穿>を、狩魔の王ボーフーンに繰り出す。

 魔大剣をすり抜けたが、狩魔の王ボーフーンは六眼の内、三眼を自ら破裂させた。噴出した神の血肉が、呪わしい防壁となって目の前に撒き散らされる。

 だが――それごと壊槍グラドパルスのドリル穂先が放つ<闇穿>が問答無用でぶち抜いた。そのゼロコンマ数秒後――。

 怒号喇叭を鳴らす壊槍グラドパルスは、俺の手を離れ直進。


 狩魔の王ボーフーンの血肉を吸い寄せるようにすべてを巻きこみながら直進。

 ――怒号を上げる壊槍グラドパルスが、ボーフーンの神体を蹂躙――。

 螺旋の回転は魔神の骨を砕き、臓腑を攪拌し、その存在そのものを大氣ごと蒸発させていく。

 ――神の魂すらも逃がさないグラドパルスのドリルが半透明な魔力の核を無残に引き裂き、虚空へと消えた刹那――全身を、神を喰らったことによる膨大な魔力の奔流が駆け抜けた。

 虚空に〝魔神殺しの蒼き連柱〟と〝魔神殺しの紅蓮なる連柱〟が交互に起きまくる。

 切り札の効果を終わらせる――。


 ※ピコーン※称号:狩魔ノ王ヲ討伐せし者※を獲得※

 ※称号:南域ノ理ヲ断ツ槍※を獲得※

 ※称号:神座:神律の適格者(しんりつ の てきかくしゃ)※を獲得※


 神座か。神座:神眷の寵児と同じぐらいか、少し上回る神格と分かる。

 これはセラに戻るには不要、魔皇碑石に封じないとな。

 すると、宙空に無数の魔皇碑石らしき物が転移するように現れては、砂城タータイムを囲うように展開されていく。どういうこと? 更に、高台の地形が魔皇碑石の形に合わせ盛り上がって変化を始めた。


「閣下!」

「ん、シュウヤ、狩魔の王ボーフーンの眷族たちが逃げていく!」

「シュウヤ、魔皇碑石は浮いて、何が起きているの!?」

「――ご主人様!」

「にゃ~」


 ヘルメたちが飛来してくる。

 下の砂城タータイム付近で戦っていたシュレゴス・ロードが、


「――主、理を喰らい、その法を自らの血肉としたか! 新しき神座を得たと分かりまする。そして、この南の死地にて絶対的な狩りの理を敷いていたボーフーンを理外の力で粉砕した意義は大きい!』

「おう」


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)が自動的に〝黒衣の王〟の外套と腕装備が振動した。


 東南の方角と北、そして真南からボーフーンとはまた質の異なる、しかしそれと同等、あるいはそれ以上の膨大な魔力の波動が、こちらを目指して急速に接近してくるのを感じ取った。


「……連鎖反応。それとも、新しい獲物の品定めか……」


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻発売中」

コミック版1巻-3巻発売中。

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おいおい、まじか ボーフーン討伐しちまったのか! グラドパルスつよすぎぃ!
今までは理性的に戦ってきたしそこが強みだったけど、不死身の種族としての強さを見せつける感じになるのかな?静と動に狂が加わりさらなる変化を身に着けたことになるのか…連戦でまた上級神との勝負になるかはたし…
相変わらず強いな、闇ドリル 新手は果たして誰か…
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