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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百七十九話 狩魔の王ボーフーンとの激戦・一

 指先で闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの指輪をなぞり、熱い魔力を流し込む。刹那――。

 

 大氣を裂く咆哮と共に、視界を塗り潰すほどの魔弾が殺到した。

 脊髄の反射で<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を頭上へ――。

 盾となった八咫角が魔弾の衝撃を咀嚼するたび、腹の底を突き上げるような重低音が鳴り響き、俺の体が沸騰せんばかりの魔力が逆流してくる。


 狩魔の王ボーフーン、力押しの巨漢かと思えば、これほど緻密な弾幕を操るとはな。意外だ。


「「ウゴァァ」」

「「光魔、<血魔力>ごと喰らってやる!!」」


 真横と真上から、魔剣師の鹿魔族が襲い掛かってきた。

 魔槍杖バルドークに<血魔力>を込めつつ跳躍し、右から左へと魔槍杖バルドークを振るう<闇雷・飛閃>を繰り出す。


 襲い来る魔剣をバルドークの石突で強引に跳ね上げ、その反動を乗せて鹿魔族の角ごと頭蓋を真っ向から断ち割る。

 肉を裂く手応えを掌に感じつつ、左手の神槍ガンジスを突き出し、<闇雷・一穿>を叩き込む。奔った雷光と双月刃が、魔剣を構え直そうとした腕を肩口から蒸発させ、断末魔すら置き去りにして剥き出しの胸核を貫いた。


 次の鹿魔族の胸元へと――。

 魔槍杖バルドークの<妙神・飛閃>をぶちかます――。

 翼を得たような速さの紅斧刃が、呪怨鉄の鎧を紙のように引き裂き、魔神の眷族を物言わぬ肉塊へと変えた。


 視界の端で、キュベラスとヴィーネが立ち回るのが見えた。そして、<霊血導超念力>の紫光と赤き<血魔力>に操られた無数の白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃が宙を舞っている。

 

 発動中の<水神の呼び声>と<滔天仙正理大綱>を極限まで意識し、砂城タータイムの縁際で<血道第四・開門>、<霊血の泉>を発動する――。


 足下から溢れ出した血と水の奔流が、ルシヴァルの紋章樹を模りながら展開していく。それは、男の足下で暴走する紫色の魔法陣を覆い尽くさんばかりの勢いだった。


 荒れ狂う魔力と衝撃に、行き場を失った魔力の奔流をルシヴァルの紋章樹の根が貪欲に啜り上げていく。


 膨大な糧を得た根は、脈動する光を湛えながら、砂城タータイムの城壁を包み込むようにして宙空へとその枝葉を広げていった。


「ヘルメ、グィヴァ、そのまま防御を意識してくれていい」

「はい、閣下!」

「はい!」

 

 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの指輪から出た魔線が、直ぐに光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスに変化。

 

「――閣下!」

「敵は、鹿、狩魔の王ボーフーンですな!」


 兜の前立てと頭頂部の日の出のような旭日を輝かせる。

 ヒョードルとザレアドもヒヒーンと鳴いていた。


「おう、戦いは見ての通り――」


 魔矢と魔弾と火球、雷球を避けてから、


「激戦だ――」


 と言いながら腰のフィナプルスの夜会からフィナプルスを出した。

 

「「閣下の敵はそこかァ――」」


 ゼメタスとアドモスが跳躍し、飛び上がる。

 砂城タータイムに近付いていた、鹿魔族を名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙で、それぞれに両断して倒す。


「「「――げぁぁ」」」


 ミレイヴァルが、ユイの横を駆けていく。

 聖槍シャルマッハを持つミレイヴァルは直進し、魔剣師の魔大剣を受けてから返す石突の<豪閃>を浴びせ、吹き飛ぶ魔大剣持ちへと右腕ごと槍になった如くの<一式・閃霊穿>を喰らわせて仕留めていた。


 ――腰ベルトに繋がっている〝フィナプルスの夜会〟に手を当て魔力を送り『出番だ――』と念じた。


 フィナプルスの夜会の書物から白い翼を擁したフィナプルスが顕れながら真っ直ぐ屋敷に直進し、エヴァの頭上を越え、破壊された窓の前に居た鹿魔族の一人を黄金のレイピアで穿ち倒す。

 そこに、空から近付いていた鹿魔族連中――。

 エヴァが、<霊血導超念力>で操作している白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃が向かう、カルードの<バーヴァイの魔刃>も鹿魔族に向かった。

 俺も右手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、鹿魔族の射手と魔術師の頭部を穿って倒す。


 フィナプルスは、魔剣師タイプの鹿魔族に近付く。

 魔剣を突き出されたが、黄金のレイピアで弾くと、素早いリポストで胸を突き、続けざまに<奇怪・霊魔刃>と<奇怪・宵魔斬剣>を放ち、胸の上部から顎に頭頂部まで一氣に裂いて倒した。


 ユイは左の窓の前に居た魔剣師を神鬼・霊風の二太刀で、腕から首を斬り捨て倒している。


 波群瓢箪と<闇烙・竜龍種々秘叢>を意識し、意識し、闇烙・竜龍種々秘叢の巻物をアイテムボックスから取り出す。


 闇烙・竜龍種々秘叢の巻物を放るように砂城タータイムの真上に展開させた。


 和風ジオラマ世界の中に立体的な闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスとして現れていたが、その二体は一瞬で砂城タータイムの城壁を越えるほどの巨大な闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスとして現れる。

 

「ナギサ、リサナ、出番だ! 空を覆う羽虫と地上の重装兵の注意を引き付けろ!」

「承知いたしました」


 血龍魔仙族のナギサが顕現し、両手を天へ掲げる。


 闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスは、天空で凄まじい咆哮を上げ、ブレスを吐き散らしながら暴れ回る。ボーフーンの空軍師団は突如現れた巨大な脅威に恐れをなし、砂城への飽和攻撃を一時中断して竜たちへと群がり始めた。まだまだ多い鹿魔族たちだが、「ンンン――」と、喉声を発している相棒の触手骨剣の餌食になっていく。

 

 波群瓢箪の真上に現れたリサナも「はい♪」と発言。


「リサナ、地上を頼む!」

「はい! <魔鹿フーガの手>」


 リサナの声と共に波群瓢箪の一部が剥がれる。

 同時にリサナの半身の骨と血管たちが輝き、半透明な皮膚を打ち破るように突出――。飛び出た血管と骨たちは筋束となって巻き付くように腕肉と骨に指を作りながら波群瓢箪の剥がれた一部と融合し、カーボンブラックの重量感を放つ巨大な漆黒の魔腕を一対生み出した。

 彼女は巨大な鐘にも見える波群瓢箪の上部に下半身を入れるように螺旋を描いて沈み込む。簡易な要塞と化した波群瓢箪の周囲で、漆黒の魔腕が城壁に取り付こうとする鹿魔族の重装兵を次々と鷲掴みにする。

 そのまま波群瓢箪の内部へと敵を強引に引きずり込む<抱き殺し>を敢行し、波群瓢箪が不気味な唸り声を上げた。直後、海賊の樽にナイフを刺して飛び上がる玩具のように、波群瓢箪の上部からリサナが勢いよく宙へと飛び出す。手にした鳥獣戯画の描かれた扇子状の魔武器から魔線を放ち、空中の敵を次々と切り裂いていった。


「キュッ!」

「えぇ、分かっていますよ、ケニィ。そこですね」


 戦場を飛び回るキュベラスが肩に乗る桃色のリス、ケニィの鳴き声に呼応する。キュベラスは<愚王・魔加速>で飛翔し、複数の魔杖を周囲に衛星のように展開していた。ケニィが敵の死角や密集地帯を的確に知らせると、キュベラスはそこへ向けて<魔晶力ノ礫>をショットガンのように撃ち込む。紫と黒のエネルギー刃が乱舞し、鹿魔族の部隊を容赦なく血肉の雨へと変えていった。


 その時、ナギサの竜たちによって雑兵が引き離された空域からボーフーンの大眷属クラスと思しき屈強な鹿頭の魔族が複数、俺たちを明確な標的として降下してくる。


 魔力障壁を展開している鹿魔族もいた。


「ンンン――!」


 強者の氣配を察知した黒虎(ロロ)――。

 全身の毛を逆立てて威嚇する。先程見せた燕の魔力が燃え盛る巨大な衝撃波を放とうと、大きく口を開けて氣張る。


「にゃごぉぉッ!」


 だが、期待に反して放たれたのは「ポフッ」という拍子抜けな音と共に、親指ほどの燕を象った魔力が数羽、頼りなげに宙を舞うだけだった。


 黒虎(ロロ)は「にゃ……?」と首を傾げ、己の肉球と空を交互に見つめ、信じられないといった様子で硬直している。


「はは、気にするな相棒。その燕たちが、勝利の福を呼んでくれるさ」


 その頭を撫でてやると、黒虎(ロロ)は氣を取り直したように「にゃ!」と短く鳴き、再び前を見据えた。


「強敵が来るぞ! ヴィーネ、エヴァたちを頼む!」

「はい! <ヘグポリネの紫電幕>!」


 ヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)を掲げ、大眷属たちが放つ腐食の魔弾の雨を紫電の結界で防ぎ切る。

 そのまま皆の位置を確認したヴィーネ。

 俺に笑みを見せた? と、<光魔銀蝶・武雷血>を発動し、雷状の血を纏って超加速。大眷属の死角へと回り込み、古代邪竜ガドリセスの<白炎一ノ太刀>を繰り出して、魔力障壁に傷を作り、後方宙返りを行い、後退し、翡翠の蛇弓(バジュラ)を召喚、周囲にいた四腕の鹿魔族に向け、<速連射>を繰り出す。その近くにいた鹿魔族へと、風朧の霊弓の効果と共に光線の矢を突き刺しながら前進。

 大柄の鹿魔族の攻撃を避け、翡翠の蛇弓(バジュラ)の両端に魔刃を展開させ、舞うように踏み込み――<羅迅剣>の、踊るような回転斬撃を繰り出す。大柄の鹿魔族の角が切断され、四腕も舞う。最後に、首が切断していた。

 

 そこにレベッカの巨大な炎の鳥が見えた。

 ヴィーネが作った魔力障壁の亀裂に直撃すると貫く、その魔力障壁を作り出していただろう鹿魔族と、その魔杖も溶かすように突き抜けて、周囲の鹿魔族の群れが、一氣に数百は減った。


 凄まじい威力。

 皇級:火属性炎神鳥の囀り(フェニックス・ロア)だろう。


 元ハイエルフだと理解できるほどの魔法力を示す<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のレベッカは、巨大な漆黒のドラゴン、ナイトオブソブリンと、巨大な真っ赤のペルマドンと共に左上を飛翔中。


 そして、ユイの姿も右に見た。


「そこね!」


 ユイは<血液加速(ブラッディアクセル)>で宙空を加速し、魔剣師タイプの部隊に突入、イギル・ヴァイスナーの双剣を振るい抜く。

 魔剣師の鹿魔族を一人、二人、斬って捨てる。

 次の鹿魔族、大眷属らしき存在へと飛翔していく。


 ヴィーネの光線の矢も、その大眷属に向かった。

 ユイは神鬼・霊風の一本に切り換えながら間合いを詰める。


 大眷属目掛け、《氷縛柩(アイシクル・コフィン)》と《連氷蛇矢フリーズ・スネークアロー》を連発し、フォローした。

 ユイは、大眷属が繰り出した増殖する不可思議な魔剣の軌道を正確に読み切って回避。すかさず<銀靱・壱>を繰り出し、続け様の袈裟斬りで大眷属を斬り裂いた。ダメージを与えた直後に反撃の衝撃を喰らい吹き飛ばされたが、その落下地点にいた鹿魔族の体を斜めに両断して蹴り捨てる。そのまま次の敵と相対し、<死臓ノ剋穿>と思しき突き技で鮮やかに仕留めてみせた。


「マイロード、こちらへ!」


 カルードは、次の大眷属の一体の角を一瞬で両断し、<二連暗曇>を放つ、角を消し飛ばした大眷属に傷を与えては、


「おう――」


 カルードの横を通り過ぎながら、その傷口を回復させないように大眷属を<血龍仙閃>で両断――。


 更に、ナイアの風の刃が、その大眷属の両断した二つの体に突き刺さり、爆発を繰り返す。続いて、古の水霊ミラシャンの<水晶銀閃短剣クリスタル・シルバーダガー>が、大眷属だった二つの体に、吸い込まれるのが見えた。大爆発が起きて大眷属は沈む。

 

 カルードは、次の、混乱したような大眷属に向かう。

 懐へ潜り込み、流剣フライソーを振るう<血滅・虎牙>の猛撃で一体の体勢を大きく崩したタイミングで、


「ナイスだ、カルード!」


 魔槍杖バルドークを右手に神槍ガンジスを左手に構え、崩れた敵へ向けて<雷炎縮地>で踏み込む。

 狙い澄ました神槍の双月刃が、大眷属の首を体から鮮やかに断ち切った。空の雑兵を捌き、邪魔な大眷属を突破した。


 ついに天空の亀裂の奥に座す――。

 狩魔の王ボーフーン本体との本格的な対峙へと視線を向ける。

 亀裂がさらに大きく裂け、紫黒の瘴氣が滝のように雪崩れ落ちてきた。 その奥から姿を現したのは、山脈のごとき威容を誇る巨大な鹿頭の魔神。その全身は呪怨鉄の重装甲に覆われ、数多の神々や魔獣から奪い取ったであろう禍々しい装飾が施されている。


「『――我の庭を這い回る光魔の羽虫ども。その血肉、我が呪怨鉄の錆に変えてくれるわ!』」


 ボーフーンの神意力を帯びた咆哮が物理的な衝撃波となって砂城タータイムの石材を軋ませる。天空の亀裂が歪に広がり、そこから無数の呪怨鉄の杭が、獲物を狙う猛禽の如き速度で降り注いだ。


 それはもはや雨ではない。

 空間そのものを縫い留めようとする、巨大な拒絶の意思に感じた。


「皆、上空の迎撃に集中しろ! 本体への道は俺が切り開く!」

「ん、任せて。<霊血導超念力>――」


 エヴァが魔導車椅子の上で指を滑らせると、無数の白皇鋼(ホワイトタングーン)が上空で複雑な幾何学模様を描き、降り注ぐ杭を次々と弾き落としていく。


「エヴァだけに負担はさせません! <ヘグポリネの紫電幕>!」


 ヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)で紫電の結界を上空へ展開し、呪怨鉄の雨を相殺する。さらに彼女は弓を背に回し、右手に古代邪竜剣ガドリセス、左手に戦迅異剣コトナギを召喚した。

 <握吸>と<握式・吸脱着>の感覚を研ぎ澄まし、<迅暗血刃>を放つ。


 白銀の髪をなびかせながら彼女が宙を舞うと、戦迅異剣コトナギの刀身がブレ、無数の幻影の刃がボーフーンの放った魔法陣を次々と切り裂いていった。


「ヴィーネ、エヴァ、見事だ!」


 二人が作り出した一瞬の空白。

 魔槍杖バルドークを短く握り込み、<雷炎縮地>の神速で天空へと駆け上がった。ボーフーンが迎撃のために巨大な六本の腕を振り下ろしてくる。その圧力は空間そのものを圧殺するかのようだが――<隻眼修羅>で軌道を見切る。


 巨腕の隙間を縫うように<仙魔・龍水移>で転移し、ボーフーンの懐へ肉薄。全身の<血魔力>を爆発させ、魔槍杖バルドークに龍の形をした魔力の嵐を纏わせた。


「狩り尽くされるのはお前の方だ、ボーフーン! <紅蓮嵐穿>!」


 魔槍杖バルドークを前に出すモーションのまま――。

 秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと次元速度で直進――。


 ――魔槍杖バルドークから魑魅魍魎の魔力嵐が吹き荒れる。

 体から出た龍の形をした<血魔力>もその魔力嵐の中に混じるや否や推進力が増した。次元の壁を置き去りにする速度で、紅矛が鹿魔神の極厚の装甲へと突き進む。


 だが、鹿魔神こと、狩魔の王ボーフーンの体がブレた。

 次元を置き去りにする<紅蓮嵐穿>の奔流は分厚い呪怨鉄の装甲を粉砕し、巨躯を穿ったが、魔槍杖バルドークから伝わる手応えが虚空を掻いたように霧散した。後方からやや遅れて爆発音が響く。

 紅矛が貫いたのは、紫黒の瘴氣と呪怨鉄の砂塵が凝縮して作られた精巧な抜け殻――残像か。


「『――光魔よ。狩られる側が、狩人を穿つことなどありえん』」


 背後、頭上からの神意力を帯びた重低音。

 <隻眼修羅>の知覚が、死角から迫る圧倒的な絶死の質量を警告する。


「しまっ――」


 ボーフーンは巨躯に似合わぬ神速で、頭上へと回り込んでいた。

 その巨大な六本の腕には、それぞれ異なる禍々しい呪具や、刃こぼれした規格外の魔大剣が握られている。


 六本の巨腕が、空を圧し潰すように同時多角的な軌道で振り下ろされた。


「くっ――」


 <紅蓮嵐穿>を放ち切った直後の体勢。

 即座に<魔手回し>と<風柳・上段受け>を複合させ、魔槍杖バルドークの柄と紅斧刃を盾にして頭上を覆う。

 ガギィィィンッ! と、天空で隕石同士が激突したかのような轟音が響き渡った。凄まじい神圧。六腕から放たれる暴力的な重圧が魔槍杖バルドークを通じて全身の骨を軋ませる。

 宙空に足場がない状態では質量のすべてを相殺しきれない。

 体は、天空から撃ち落とされる流星のように、眼下の砂城タータイムに向けて一直線に吹き飛ばされた。


「シュウヤ!」

「ご主人様!」


 ユイとヴィーネの悲痛な声が響く。

 落下しながらも<武行氣>を強引に練り上げ、<仙魔・龍水移>を発動。砂城の防壁に激突する寸前、水飛沫の幻影を残して横へと転移し、城壁の縁に両足で激しく着地した。ズドォォンと石畳が陥没し、衝撃を殺しきる。


「『逃がさんぞ、羽虫』」


 空を見上げれば、ボーフーンが六本の腕を広げ、巨大な鹿の角から極大の紫黒の雷光をチャージし始めているのが見えた。


 <水月血闘法>を再発動――。

 

「ハッ、逃げるかよ――」


 飛来する雷光の魔刃を血の分身を活かし避け、魔槍杖バルドークを<闇雷・飛閃>――。

 神槍ガンジスで<光穿>――。

 狩魔の王ボーフーンは、六眼を煌めかせながら左上腕の魔大剣で<闇雷・飛閃>を防ぐ。左下腕の魔槍で、<光穿>の双月刃を受け持ち防いだが、神槍ガンジスの双月刃は振動し、その魔槍の柄を穿ち、そのまま腕を貫いた。


「チッ」


 六眼を煌めかせた狩魔の王ボーフーン。

 ボーフーンの六本の腕が持つ武具が変化。

 それぞれに禍々しい呪力を持つ大剣、魔槍、そして巨大な弓が瞬時に召喚されて、


「『消え失せろ!』」


 ボーフーンの巨大な弓が撓み、家屋ほどもある漆黒の魔矢が放たれた。 避ければ砂城、皆が喰らう可能性がある。

 魔槍杖バルドークを旋回させ、<風柳・上段受け>でその質量を真っ向から受け流すが、鼓膜を破らんとする衝撃が走り、腕の骨が悲鳴を上げた。体を駆け抜けていく震動を光魔の体で強引に抑え込み、次なる一撃に備えた。


 弾き飛ばされるかと思った刹那――。

 ボーフーンの別の腕が振るう大剣が下段から俺の胴を薙ぎ払いに来る。


 宙空で身を捻り、大剣の軌道に合わせ、<風柳・背環受け>の要領で神槍の柄を差し込み致命の斬撃を受け流す。

 休む間もなく、残る二本の腕が握る魔槍が左右から<刺突>系の突きを繰り出してきた。


 瞬時の切り替え、そして流れるような多角的な連続攻撃。

 数千億年の時を生き抜いた魔神の武の極致がここにある。

 <トガクレの魔闘氣>と<魔銀剛力>を極限まで引き上げ、両手の槍で迫り来る魔槍の連撃を必死に弾き、往なしていく。


 火花が天空で咲き乱れ、衝撃波が砂城タータイムの直上を激しく揺さぶる。


「にゃごぉぉぉッ!」


 地上から飛び上がった黒虎(ロロ)が、漆黒の流星となってボーフーンの死角へ肉薄する。

 極太の触手骨剣がボーフーンの首元を狙うが、ボーフーンは六眼を煌めかせた。


「『獣風情が!』」


 六眼から放たれた紫黒の怪光線が、空を切り裂き黒虎(ロロ)へと直進する。


「ロロ、避けろ!」


 黒虎(ロロ)は器用に触手を壁にして怪光線を防ぐが、その威圧に押されて下方へと吹き飛ばされた。

 俺に向けた大剣の追撃を魔槍杖バルドークの<龍豪閃>で迎撃しつつ、後退する。


「『羽虫が小細工を……我の怒りを味わうが良い』」


 ボーフーンの鹿頭の口が大きく開かれ、中から圧倒的な熱量と死の瘴氣を孕んだブレスが吐き出された。

 視界を完全に塗り潰すほどの巨大な紫黒の奔流。

 <超能力精神(サイキックマインド)>で障壁を展開し、さらに<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前に出してブレスを防ぐ。

 凄まじい熱と圧力が、結界と八咫角を削り取っていく。


「これならどうだ――」


 ブレスの猛威を耐え凌ぎながら、全身から<血魔力>を爆発的に放出する。柏手を打ち、<血想槍>を発動。

 神槍ガンジス、聖槍ラマドシュラー、断罪槍、炎牙竜槍フレイムファング――。

 歩んできた軌跡、数多の槍が、血の魔力を帯びて天空を埋め尽くす。


「貫けッ!」


 ――解き放たれた無数の槍は銀河の流星雨のようにボーフーンの巨躯へと殺到――。

 一振りが必殺に近い、<血刃翔刹穿>を繰り出している断罪槍など、無数の槍の群れを前にした狩魔の王は、悠然と笑った。


「『――児戯に等しいわ!』」


 ボーフーンは六本の腕を高速で旋回させる。大剣、魔槍、弓の巨大な武具が防壁となり、俺の<血想槍>の群れをことごとく叩き落とし、粉砕していく。更に、鹿としての驚異的な膂力と体術を活かし宙空で、身を翻しながら残る槍の雨を完璧な軌道で回避しきった。


 一本の槍すら、その装甲に傷をつけることができない。

 圧倒的。絶望的なまでの実力差がそこにあった。


「……さすがは狩魔の王。伊達に数千億年を生きていないってことか」


 戦場に於いての肉弾戦、その神々との戦いで、勝利し続けていたと理解できる。

 両手に握る魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの柄を強く握り直す。テーバロンテやガンジス、ラシーンズ・レビオダと渡り合った記憶を身に宿す如く、魂の奥底でマグマのようなモノが膨れ上がるのを感じた。


「『我の庭を荒らした罪、その命で購ってもらおう』」


 ボーフーンの六眼が再び怪しい光を帯び、六本の腕が新たな死の軌道を描き始める。

 相棒が、口を広げ、


「にゃごぁ――」


 紅蓮の炎を吐き、狩魔の王ボーフーンは、「くっ」と己の体から半透明の分身体を生み出し、宙空に展開し防御フィールドを展開し守りに入った。

 その紅蓮の炎は内から爆ぜるように消えた。

 狩魔の王ボーフーンの角の一部が溶け、右上腕の武器ごと一部が溶けて消えていたが、体は艶を帯びて傷が再生していく。


「ん、倒す――」


 エヴァの決意の声と共に、サージロンの球が紫色の魔力を帯びて高速回転し、ボーフーンの巨躯へと殺到する。

 回避が遅れた狩魔の王ボーフーン――。

 その体に、あちこちから転移するごとく白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃に紛れたサージロンの球の鉄球が衝突していく。


 ドッ、ドドォォン! と重低音を響かせ、サージロンの球の連撃が、呪怨鉄の装甲に衝突し、魔神の体勢をわずかに崩した。


「今だ、相棒!」

「にゃごぉぉッ!」


 黒虎(ロロ)が極太の触手骨剣で死角を穿ち――。

 <雷炎縮地>で懐へ潜り込み、魔槍杖バルドークを渾身の力で叩き込む<魔皇・無閃>を喰らわせて、狩魔の王ボーフーンの下腹部ごと鎧を切り裂き、血飛沫を生み出した。


 更に、後方から、「逃がさない!」とレベッカの極大の蒼炎弾が飛来し、衝突、続け様にボーフーンを《炎塔攻防陣エンフリート・ネイルディフューザー》の炎が包むように展開され、業火が包み込んだ。


 キサラが、――<瞬影歩法>を用いて、鹿魔族を複数屠る。

 と、<投擲>モーション。


 <補陀落ポータラカ>か。


 キサラが影から影へと瞬時に跳躍し、死角からダモアヌンの魔槍を<投擲>。直進したダモアヌンの魔槍が狩魔の王ボーフーンの胴体に完璧に突き刺さった。連携が決まった刹那――。


 貫かれたはずのボーフーンの巨躯が、ドロリと紫黒の瘴氣へと溶け落ちた。


「『……浅はかな羽虫どもが』」


 頭上から、神意力を帯びた重低音が響く。

 俺たちの連携をすべて受け止めていたのは、ボーフーンが瞬時に生み出した「もう一体の己」――膨大な魔力と呪怨鉄で構成された精巧な囮だった。上空へ離脱していた本体のボーフーンが六眼を煌めかせた刹那――足下の空間が不自然に歪む。


「しまっ――退けッ!」


 警告を発する間もなかった。

 突如として、足下の感覚が消える。

 地底から噴き上がったのは、幾十、幾百もの巨大で鋭利な魔角の刃。それは逃げ場のない死の剣山となり、俺たちの肉体を下から突き上げた。


「――ぐ、あぁッ……!?」

「あ、あぁぁッ!」

「んっ、がぁ……ッ!」

「にゃ、ご、ォ……ッ!」

「きゃあッ!」

「「……ぐぇ」」

「――痛ぃぃぃ」


 魔神の呪力を宿した漆黒の角が、俺の脚を、脇腹を、無慈悲に貫通する。

 視界の端で、レベッカが、キサラが、そして車椅子ごとエヴァが、ボーフーンの魔角の刃によって串刺しにされ、宙空に縫い留められる光景が焼き付いた。


 相棒の悲痛な鳴き声が、意識を真っ赤に染め上げる。


 狩魔の王ボーフーンは勝利を確信したように六眼を三日月の如く歪めて嘲笑う。


 全身の血と魔力が急激に奪われていく――。

 即座に<経脈自在>と<性命双修>と<滔天内丹術>を使用。

 回復しつつある中、六本の巨腕に俺たちにトドメを刺そうとしているように、膨大な魔力が収束していくの見た。


 <脳脊魔速>か、<仙血真髄>はまだ残しておきたいが……。

 

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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