二千百七十五話 絶死の重圧、大眷属グラキアスとの死闘
「ングゥゥィィ」
装備が自然と〝煉霊攝の黒衣〟に変化。
〝黒衣の王〟の外套と腕防具が呼応するように漆黒の魔力を陽炎のように立ち昇らせる。
<祭祀大綱権>を持つ俺ならば、これらの装備は試せる。
『マスター。深層基盤より、かつて星の光の船と共に宇宙の深淵へと旅立った『ハティア・バーミリオン』の遺産――〝魔導探査盤〟に酷似する特殊波長を検出。この空間、神話の残滓だけではありません』
『ここでもか、影が差すのか』
第一世代。数億年の眠りから目覚め、同胞を探すために去っていった古代の存在。
なぜ、狩魔の王ボーフーンに滅ぼされた魔神スラウテルの骨から、そんな超科学の痕跡が検出される?
あ……待てよ。案内してくれた魔風鍛冶師たちの防塵マスクや機械的な装備。彼らは、ただの奴隷ではなく、第一世代の技術、聖櫃の品々、素材を、歴史の底で忘れ去りながらも、無意識に受け継いでいる末裔だとしたら……? では、この奥に傷場か【幻瞑暗黒回廊】がある?
神界と魔界、そして遙かなる宇宙の理。
バースライル銀雷雲のレガナ時と似たパターンかな。
【幻瞑暗黒回廊】と傷場は、魔界と惑星セラだけの限定通路ではない。
ナ・パーム星系のゴルディクスゾーンを回る惑星セラと、同じ星系内のどこかに傷場や【幻瞑暗黒回廊】があるかもだ。更に銀河系には、系外惑星は無数に存在している。
そう考えつつ<隻眼修羅>と<闇透纏視>を用いた――。
周囲だけでなく、目の前の〝黒衣の王〟の外套と腕防具を凝視――。
すると、周囲の結界の色合いが少し変化、息づくような脈動も感じた。
先ほどラミアルの義角と同じスラウテルの呪骨と呪怨鉄のインゴットが煌めく。
ここで、暗剣の風スラウテルの装備類を出せば反応は確実。
戦闘型デバイスのアイテムボックスから――。
かつてバードイン迷宮で得た〝暗剣の風スラウテルの胸甲〟と〝スラウテルの魔風盾〟、〝暗剣の風スラウテルの腕甲〟に、そして先ほど得たばかりの〝立花弦斎の魔斧槍〟を取り出す。
キィィン――。
取り出した武具から溢れ出した魔素が、祭壇に澱む濃密な大氣と混ざり合い、火花を散らす。
大地そのものとなった魔神の遺骸が、失われた半身を呼ぶかのように咆哮し、空間全体を震わせる狂おしいほどの高周波を響かせ始めた。
直後に魔力を足下から吸われた感覚を受けた。
刹那、無数のスラウテルの呪骨と呪怨鉄のインゴットが真上に浮かぶと、〝暗剣の風スラウテルの胸甲〟と〝スラウテルの魔風盾〟と〝暗剣の風スラウテルの腕甲〟と〝立花弦斎の魔斧槍〟へと直進、衝突し火花を散らすと吸着されていく。
更にスラウテルの呪骨と呪怨鉄のインゴットが複数の武具とは別に一箇所へと集結し融合を始める。
やがて、膨大な紫の魔力を内包した巨大で禍々しい金属塊が生成された。
「それは!」
「「「「おぉぉ」」」」
「にゃおぉぉ」
魔風鍛冶師たちが、驚きつつ、異様なプレッシャーに耐えきれず、地面に這いつくばった。
黒虎は興奮気味に見上げ、強化されているようにも見える暗剣の風スラウテルの装備類と膨大な紫の魔力を内包した大きい金属の塊と黒衣の王の外套と腕防具に、恐る恐る前足を伸ばしていた。
共鳴音は周囲の白骨のドーム全体に反響し、大工房を揺るがすほどの振動へと変わっていった。
〝黒衣の王〟の外套と腕装備から魔力が噴出し、魔神バーヴァイの幻影となった。
やや遅れてスラウテルの呪骨と呪怨鉄のインゴット、暗剣の風スラウテルの装備類、膨大な紫の魔力を内包した大きい金属の塊からも魔力が噴出し、それら魔力も宙空で融合すると、暗剣の風スラウテルらしき女性騎士を模った。
魔神バーヴァイの幻影と暗剣の風スラウテルの幻影は笑顔を見せ、
『『……我らの戦いを継承しうる者よ、今、ここに、認めよう。狩魔の王ボーフーンを倒すのだ』』
と思念が心に響くと、浮いていたアイテム類が一斉に飛来。
〝立花弦斎の魔斧槍〟を掴む。肩の竜頭装甲、〝煉霊攝の黒衣〟の上に、〝暗剣の風スラウテルの胸甲〟と〝暗剣の風スラウテルの腕甲〟〝黒衣の王〟の外套、そして腕装備が装着された。
――やや遅れて〝スラウテルの魔風盾〟が背に吸着される感覚を得た。
工房の天井を覆うスラウテルの巨大な肋骨が、共鳴するように振動していく。
「「おぉ」」
魔風鍛冶師たちが歓声を発した。
暗剣の風スラウテルの幻影と魔神バーヴァイの幻影は俺の体に飛来――。
防具類に吸収された途端に、二つの魔神の魔印が生まれ出る。
※ピコーン※<暗剣の風>※恒久スキル獲得※
※ピコーン※<継承魔印:暗剣ノ風>※恒久スキル獲得※
※ピコーン※<継承魔印:黒衣ノ王胤>※恒久スキル獲得※
やったスキル化。
身に纏う〝煉霊攝の黒衣〟と〝暗剣の風スラウテルの胸甲〟と〝暗剣の風スラウテルの腕甲〟に〝黒衣の王の外套〟などが<血魔力>を媒介に変化が起きていく。
共鳴を起こし、ドクン、ドクンと熱く脈打つのを感じた。
すると、戦闘型デバイスの風防硝子の真上に、アクセルマギナのホログラムが浮かぶ。
『――マスター、警告です。結界の深層から、未知の認証コードがこちらをサーチしています。更に、工房の奥から極大の魔力反応。対象は……先ほど屠った老兵とは比較にならない、ボーフーン直属の『大眷属』級と推認されます!』
「……あぁ、そうだろうな。これだけのモノを置いて、あの兄弟だけなわけがない」
新しい装備のまま右手の魔槍杖バルドークを短く持ち直す。
足下の岩を蹴って前進した。ドッと重低音が響く、祭壇の裏、呪怨鉄を精錬していた巨大な溶融炉が内から爆発した。
飛び散る赤黒い液体金属をものともせず、ゆらりと、漆黒の巨躯が姿を現した。
現れたのは、先刻の老兵ラミアルたちが児戯に思えるほどの圧倒的な質量。
分厚い呪怨鉄を幾重にも重ねた重装甲は、それ自体が一つの城塞のようだった。
兜の隙間からは、腐食と死を煮詰めたような紫の瘴氣が、高圧の蒸氣となって噴き出し、周囲の空間を焼き潰していく。引きずる大剣は、スラウテルの大腿骨を無造作に削り出した歪な白骨で、蒸氣のような魔力を噴出させていた。
「……吸血鬼の小バエが紛れ込んだかと思えば。神の残滓を纏い、スラウテルと黒衣の王の遺物を嗅ぎ回る賊であったか」
重低音の声が大工房の空氣を物理的な重さへと変える。
大眷属が放つのは、長年この地でスラウテルの遺骸を喰らい、呪怨鉄と同化し続けてきた者だけが纏う絶死の威圧。
「あんたは? 狩魔の王ボーフーンの大眷属かな」
と聞くと、ヘラジカのような角と六眼を煌めかせ、
「……ふむ、それよりもお前、北の光魔ルシヴァルか」
「その通り、偵察していたお前らだ、ある程度は知っているだろう」
「無論だ、お前らは、我らの各地域における大事な戦力を尽く、打ち破っているクソ共」
「……あぁ、なんどか世話になった」
「……ついには、我らの土地への侵略か……」
頷き、笑顔を見せてから、
「そうとも言えるか、で、喋るだけか? 大眷属さん」
と言うと、狩魔の王ボーフーンの大眷属は、六眼の瞳を鋭くさせ、
「……我が名は呪鋼のグラキアス。ボーフーン様の御名において、貴様らのその血肉、呪怨鉄の錆の肥やしにしてくれる!」
大眷属グラキアスが骨の大剣をゆっくりと正眼に構える。
それだけで、工房全体の重力が数倍に跳ね上がったような錯覚を覚えた。
『マスター、敵の装甲表面に『第一世代』の自動防衛プロトコルの一部が魔界の呪力と癒着して起動しているのを確認。物理、魔法の両面に対し、高い減衰能力を保持していると推測されます。私も外に出ますか?』
理不尽な防御力か。
「いや、今は分析のみでいい」
『はい』
背後の魔風鍛冶師たちへと、
「……お前たち、下がってろ! ここから先は、立っているだけで魂が削られる」
指示を飛ばし、全身から<血魔力>を放出しつつ<生活魔法>の水を足下にばら撒く。
そして、<煌魔葉舞>を発動。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を再発動。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>を再発動。
「……グラキアス……悪いが見ての通りだ。自然とくっ付いた装備はもらっていく。それに『黒衣の王』の遺物は、持ち主に返す予定だ」
「……身の程を知らぬ小童か……滅びよ……っ」
グラキアスが爆ぜた。
その山のような巨躯からは到底信じがたい、宙を跳躍するかのような爆発的加速。
呪怨鉄の床が爆雷のごとく粉砕され、神の骨を断じた大剣が、死風を纏って脳天に迫る。
「ガルルゥ――」
黒虎が咆哮と共に側面へ跳び――。
極太の触手骨剣でグラキアスの死角を穿つ。
だが、触手の切っ先が装甲に触れると不可視の六角形の魔力陣が浮かび上がり、物理的な衝撃と魔力を同時に減衰させた。
――アクセルマギナが警告した『第一世代の自動防衛プロトコル』と呪術の融合。
相棒の膂力をもってしても、容易くは貫けないか。
グラキアスは俺への攻撃を止め、相棒を睨み、
「その橙……戦神が好む神獣だな……」
弾かれた黒虎が着地し、牽制の紅蓮の炎を吐き出す。
グラキアスはその業火を呪怨鉄の装甲で真正面から受け止めると、「利かぬぞ、神界の炎なぞ――」と、怯むことなく大剣の軌道を俺へと修正してきた。
天が落ちてくるような重圧――。
大氣そのものを押し潰す骨の刃に対し魔槍杖バルドークを最短距離で斜めに差し込んだ。
――ガギィィィンッ!
衝突の瞬間、両腕の筋繊維が断裂の悲鳴を上げ、毛細血管が弾けて鮮血が霧となって舞う――。
だが、その衝撃すらも、ルシヴァルの体と槍のしなりで外へと逃がした。
凄まじい衝撃波が円形に弾け、足下の呪怨鉄の床がクレーターのように陥没した。
骨の芯まで軋む重圧。だが、飛び散った血飛沫は瞬時に傷口へと戻り、体を修復していく。
ラミアル兄弟とは根本的に次元が違う。
グラキアスが兜の奥で紫色と漆黒と赤の魔力を吐き出しながら、
「……ハッ、耐えるか。二腕二足に思えん強度。だが、いつまで持つかな?」
不氣味に嗤った。
「さぁな」
<紫月>――。
紫色の月光を纏うような<魔闘術>の一つが瞬き、反応速度が加速した。
<魔闘血蛍>――。
無数の血蛍が舞うと同時に<無方南華>と<無方剛柔>――。
全身から蒸氣のような<血魔力>が噴き上がる。
<月冴>を発動させ、月の紋様と『月冴』の魔法文字が淡く消えていく、<握吸>と<勁力槍>を再発動。
魔槍杖バルドークを握る力を強めて、大剣を押し込む。
「……魔力の質を上げ、<魔闘術>系統の重ねか。純なる力をも上昇させるとは……」
左手の〝立花弦斎の魔斧槍〟で<風研ぎ>――。
腹を狙ったが、大剣を盾にして、〝立花弦斎の魔斧槍〟の<風研ぎ>の攻撃は防がれた。
グラキアスは、
「……筋は本物、では、突如現れた、あの城は囮か――」
と、大剣を下から弧を描くように回し、上昇させ、大剣の刃で俺の首を狙う。
回された〝立花弦斎の魔斧槍〟を消し、魔槍杖バルドークの柄を大剣の刃へと衝突させる。
鍔迫り合いの至近距離。大剣の重圧に抗いながら、空いた左拳でグラキアスの兜へと強烈なフックを叩き込んだ。
ゴガンッ!
装甲の硬度に俺の拳の骨が砕け、血飛沫が迸る。だが、構わず魔槍杖を引き、大剣を弾き飛ばすと、砕けた拳の上に即座に再召喚した〝立花弦斎の魔斧槍〟で<光穿>を放つ――。
拳の痛みを忘却の彼方へ追いやりながらの<光穿>だったが――。
グラキアスは巨体を揺らしながらも半身引き、大剣の角度を鋭く下げて<光穿>を正面から受け止めた。
直撃の刹那、大剣の表面を覆う幾何学的なモノが不規則に明滅。物理法則を無視した反発力が、俺の槍の威力を強引に逸らした――。
「フンッ、光の穿ちか。利かぬ」
強引に弾き返され、後方に数歩滑る。
グラキアスは追撃してこない、空いた左手を煮えたぎる呪怨鉄の溶融炉へと無造作に突っ込んだ。
「……小手先の技で、魔傭兵の成り上がりを倒したようだが……大眷属たる我の牙城を崩せるとは思うなよ」
「牙城……遺物の番犬にしちゃ、随分と重役出勤だと思ったが」
グラキアスの背後、溶融炉のさらに奥。
大剣との激突で発生した余波が魔界の空間を揺らしたことで、隠されていた『空間の歪み』が<隻眼修羅>の視界に鮮明に映り込んだ。
赤黒い魔力と、時空の裂け目。
……傷場か。なるほど、単純に、神々の骸が転がるだけの死地ではないということか。
他次元へと直結する莫大な権益を産む魔穴があるからこそ、ボーフーン直属の大眷属が軍団を率いて駐留しているわけだ。
「嗅ぎ回る羽虫は、呪怨鉄の錆の肥やしにしてくれる!」
グラキアスが左腕を引き抜くと、赤黒い液体金属が重力を無視して浮かび上がる。
巨大な鉄の蛇となってこちらへ襲いかかってきた。魔法と物理の複合攻撃。
「相棒!」
「ンンッ!」
黒虎が瞬時に意図を察し、前に出る。
極太の触手骨剣が鞭のようにしなり、煮えたぎる呪怨鉄の大蛇の鎌首を幾重にも絡め取った。
超高熱の液体金属と神獣の触手が激しく摩擦し、ジュウウウッと鼓膜を劈くような悲鳴と白煙が上がる。
「にゃ、ごぉぉッ!」
熱量に耐えきれず、触手の表面が焼け焦げて黒い血が迸る。
それでも相棒は一歩も引かず、牙を剥き出しにして大蛇をその場に縫い留めた。
その白煙の隙間を縫い、<雷炎縮地>の神速でグラキアスの懐へと潜り込んだ。
分厚い装甲と第一世代の防衛プロトコル。ただの打撃では弾かれる。
ならば――。
左半身に宿る<炎邪竜ノ装炎>を心臓の鼓動に合わせて極限まで励起。
肩の竜頭装甲が、獲物を前にした飢えた獣のように「ングゥゥィィッ」と、金属と肉が軋み合うような咆哮を上げるや否や、左腕からドッと腹に響く重低の音と共に赤黒い業火が噴き上がり、空震を引き起こしながら視界を揺らす――グラキアスが展開していた重力場を力任せに焼き尽くした。範囲は狭いが神話の業火を思わせる――。
同時に身に纏った〝黒衣の王の外套〟と〝暗剣の風スラウテルの胸甲〟が、この大地の濃密な魔素と完全に同調し、心臓の鼓動に合わせて漆黒のオーラを波打たせた。
体が羽のように軽い。
それでいて星を背負ったかのような底知れぬ力強さが全身の細胞を満たしている。
魔界の理が、今、完全にこちらへ味方していた。
「小賢しいわッ!」
グラキアスが迎撃に大剣を振り下ろす。
スラウテルの大腿骨を削り出した巨大な質量の暴力。
その軌道を<隻眼修羅>で完璧に見切り、左手に握る〝立花弦斎の魔斧槍〟を斜め下から跳ね上げるように振るった。
――<血龍仙閃>。
グラキアスは大剣の剣身で<血龍仙閃>を防ぎ、血龍に呑まれるように少し後退したが、あまり効いていない――。
そこに魔槍杖バルドークで<風柳・撥草尋蛇>。
石畳ごと払い突き斬るように、左右の下段攻撃を放つ。
グラキアスは柄頭から骨刃を伸ばし、足下の<風柳・撥草尋蛇>の連続下段攻撃を防ぐ。
即座に左へ踏み込み、〝立花弦斎の魔斧槍〟で<豪閃>、立て続けに魔槍杖バルドークで<龍豪閃>を放つ――。
グラキアスは伸長させた鹿角と大剣を右に置く独特の防御術と分厚い装甲で連続攻撃を凌ぐ。そして筋肉が膨張した刹那、防御姿勢から強引な暴風のごとき反転攻勢に打って出た――。
極端に伸びた無数の鹿角が迫る――。
仰け反って避けるが、角は意志を持つ槍の如くうねりながら追従してくる――。
横に移動しつつ魔槍杖バルドークの柄で防ぐ――。
だが、またも、こちらの両目と心臓、そして両足を同時に狙って殺到――。
続けて、右に置かれていた大剣が、地を抉るような下段からの横薙ぎへと変化した。
それを〝立花弦斎の魔斧槍〟の<風柳・下段受け>で弾き、魔槍杖バルドークでグラキアスの腕を狙うように<魔手回し>で大剣を回し、〝立花弦斎の魔斧槍〟の穂先で<風柳・顎砕き>――。
だが、伸びていた鹿角で、それは防がれる。
刹那、グラキアスは<魔闘術>系統を強めた。漆黒の魔力と共に紫や赤の魔力を放出させ前に出ては、
捌ききれない数本の角が飛来――。
――上中下、すべてを潰す完全な包囲の連続攻撃か――。
肩の竜頭装甲の装備の肩と脇の装甲を貫き、腹の肉を浅く抉り、鮮血が宙に派手に散る。その痛みを闘争心へと変え、<風柳・異踏>で軸を半歩ずらし、<水月血闘法>を再発動。
血飛沫ごと加速を強めて、迫る鹿角の群れへと、左手の〝立花弦斎の魔斧槍〟を旋回させた。
源左の『剛』を乗せた<風柳・劫蛇崩打>の変形――。
斧刃で迫り来る角を纏めて絡め取り、強引に何度も下へと叩き伏せた。
同時に、足を薙ぎ払うような大剣軌道に対して、右手の魔槍杖バルドークの柄を落とし込む。
――<風柳・下段受け>で、硬質な音を響かせながら、連続攻撃を防いだ。
絶死の質量を誇る骨の大剣を、竜魔石の石突のすぐ上で受け止める。
腕の骨が軋むほどの重圧――。
だが、マミから得た<トガクレの魔闘氣>が、その衝撃を体内で圧縮・相殺し、次なる反撃の推進力へと変換していく。
「!? これを止めるか、だが――」
グラキアスが六眼を驚愕に見開く。
直後、その六眼から極太の破壊光線が飛来――
咄嗟に<炎邪竜ノ装炎>を纏った左腕のハルホンクを盾にする。
「ングォォォッ!」
ハルホンクが炎の障壁を展開し、怪光線を真正面から受け止めた。
爆発的な熱量と光が弾け、周囲の視界が完全に白く染まる。
呪怨鉄の装甲と第一世代のプロトコルに守られたグラキアスの巨体も、その反動で大きくたたらを踏んだ。
一瞬の空白。
視界が塞がれていようと、最高の相棒は決して見逃さない。
「にゃごァッ!」
白煙を突き破り、黒い閃光がグラキアスの右死角へと突き刺さった。
黒虎だ。
極太の触手骨剣が、大剣を振り抜いて体勢が伸びきったグラキアスの右腕の関節、防衛プロトコルが最も薄くなる接合部へと深々と突き刺さる。
「グォォッ!? 忌々しい獣めが!」
グラキアスが痛みに呻き、大剣の抑えがわずかに緩んだ。
刹那、魔槍杖バルドークで受け止めていた大剣を、風槍流の『崩』の理合いで強引に跳ね上げた。
空いた懐、そこに、左手の〝立花弦斎の魔斧槍〟を、下から上へえぐるように突き出す。
――<源左・引手右脚打>の変則。
魔斧槍の芯金である『スラウテルの肋骨』が、グラキアスの装甲と大剣に激しく共鳴する。
骨と骨、因縁の物質同士が激突した刹那――。
戦闘型デバイスの風防硝子の上に浮かぶアクセルマギナのホログラムが、蒼い光を激しく明滅させた。
『――マスター! 対象の装甲表面を覆う『第一世代』の自動防衛プロトコルに、同系統の魔力波長(スラウテルの真骨)による強烈な干渉を確認! 防御魔力陣のパリティチェックがエラーを起こし、局所的なシステムダウン(隙間)が発生しています!』
アクセルマギナの報告通り、グラキアスを覆っていた不可視の六角形の魔力陣が、ノイズ走る旧式の映像のように激しく乱れ、胸元の装甲が完全に無防備に晒された。
「今だ――」
<血液加速>の心臓の鼓動をトリガーに骨髄に圧縮していた<トガクレの魔闘氣>と、外へ爆ぜる<魔闘血蛍>の紫光を、右手の魔槍杖バルドークの切っ先へと一点集中させる。
更に左肩の肩の竜頭装甲から立ち昇る『炎邪の業火』を纏わせた。
――<闇雷・一穿>。
紅矛と紅斧刃の回りを紫電と紅蓮の嵐が螺旋を描くまま、紅矛が、グラキアスの胸甲へと突き刺さる。
ドッと鈍い音と共に、防衛プロトコルを失った呪怨鉄の分厚い装甲を円形に凹ませると、一氣に、紅矛が中心を穿つ。
物理的な破壊だけではない――。
<トガクレの魔闘氣>による浸透の理が、大眷属の巨躯の芯へと入り込み、内部で大爆発を起こす。
「ガ、ゴ、ボォォォォォッ!?」
グラキアスの巨体が、内部から破裂するような衝撃に耐えきれず、凄まじい轟音と共に後方へと吹き飛ばされた。
祭壇へと続く大階段を砕きながら転がり、ドスンドスンと大工房の床を激しく揺らす。
「……硬いな。だが、第一世代の防壁ごと通らないわけじゃない」
右に魔槍杖バルドーク、左に弦斎の魔斧槍。
黒衣の王の外套をはためかせ、静かに呼氣を吐き出す。
グラキアスは、破壊された胸甲の隙間からドロドロの赤黒い血と紫の瘴氣を間欠泉のように噴き出しながら、大剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がった。
兜の奥の六眼が、信じられないものを見るような驚愕と、それを上回る激怒でマグマのように沸騰している。
「貴様……光魔とはこれほどか……だがっ」
怪光線をフェイクに――。
角と大剣の時間差――否、多角攻撃――。
先程の攻撃よりも上位だが、<隻眼修羅>により読める――。
<経脈自在>を発動、<水の神使>を意識しながら<水月血闘法・水仙>――。
無数の水鴉と血の分身を周囲に展開させ、角と大剣の攻撃を囮の分身で受け流し、俺は――<仙魔・龍水移>――。
グラキアスの横を狙うように<杖楽昇堕閃>――。
時間差の左右の薙ぎ払いは、大剣と特殊な装甲と角に防がれた。
だが、<超能力精神>――。
「げっ――」
衝撃波で仰け反らせ、更に<神聖・光雷衝>――。
「ぐぁぁ」
掌から光雷の衝撃波が電気を帯びたスプライトのように広がる。
グラキアスは角で己を守るように展開、防御層を作り、狩魔の王ボーフーンの幻影を生み出し後退――。
その幻影は蒼炎のエフェクトを残し爆発、更に――全身から<血魔力>を放出し、深紅の霧を纏うように前進し、両手で柏手――<血想槍>を発動した。
神槍ガンジス。
聖槍ラマドシュラー。
夜王の傘セイヴァルト。
断罪槍。
炎牙竜槍フレイムファング。
大地竜槍テラブレイカー。
雷鳴竜槍ヴォルトブレイカー。
魔槍ハイ・グラシャラス。
白蛇竜小神ゲン様の短槍。
魔槍グドルル。
魔導星槍。
双雷式ラ・ドオラ。
茨の凍迅魔槍ハヴァギイ。
神槍ケルフィル。
アイテムボックスから解き放たれた伝説の残滓たちが、俺の殺気に呼応し、空間を埋め尽くす。
自律する数多の至宝。それらはもはや単なる武器ではなく、俺の「氣」を宿した鋭利な意志――死を告げる銀河の雨となって、呪鋼の巨躯へと殺到していく。
六眼の内、三眼を潰したグラキアスは、「チッ」と舌打ち、無数の角と大剣で、魔槍と神槍の群れの攻撃を弾いては避けて躱していく。
神魔石が嵌まっている神槍ガンジスの螻蛄首辺りから、<血魔力>が蒸発しているように沸騰していた。
周囲では、心臓と渦の魔印には陰陽太極図のような模様が浮かんで、闇色と白色の陰陽太極図の模様が回っている。
左、右に移動し、避けるグラキアスとの間合いを詰め、魔槍杖バルドークで<血刃翔刹穿>――。
大剣を盾にし、紅矛の一撃を防ぐが。穂先から迸る血刃は防げず、「くそがぁ、グガッ、ガッ――」と、無数の<血想槍>による連舞を浴びていった。
だが、狩魔の王ボーフーンの幻影が生まれると、グラキアスの体が急速に回復し、周囲の空間がぐにゃりと奇妙に歪み始めた。
――直後、視界が赤黒く染まるほどの重圧が全身を圧壊する。
纏っていた<血魔力>が強引に剥ぎ取られ、銀河の雨となって降り注いでいた神槍の群れが、見えない巨人に叩き伏せられたかのように次々と呪怨鉄の床へと撃ち落とされた。
「グハハハッ、<大暴領域>こそが我の強み! ここがどこか分からせてやろう」
弾き落とされた槍を回収する間もなく、無数の角が飛来――。
避け、魔槍杖バルドークで弾いたが、強烈な蹴り――〝立花弦斎の魔斧槍〟で防ぐが後退――。
追撃の大剣の突きを避け、右に<風柳・異踏>で移動しながら<血龍仙閃>――。
だが、角で防がれた。
<雷飛>と同時に、<妙神・飛閃>――。
正眼の大剣で防がれた。
グラキアスは、「お前の槍には、何かがある――」と言いながら前進した、否、背後と斜め後方から突如現れた魔刃――感覚のまま半身で、不意打ちの魔刃の攻撃を避けた――。
<闇透纏視>と<隻眼修羅>で、再度の不意打ちの魔刃を紙一重で、回避を続ける。
しかし――グラキアスの六眼の内の魔眼の攻撃が、常に追ってくる。
――俺も<滔天魔瞳術>を返すが、効かない。
魔槍杖バルドークを<投擲>、即座に、アイテムボックスから――。
右手に吸血神ルグナド様から賜った魔神槍・血河を召喚。
漆黒と真紅の魔槍から<血魔力>が溢れ出る。
左手に――陽槍ルメルカンド。
神狼の導きで得た太陽の如き黄金の槍から光の魔力が溢れ出た。
魔槍杖バルドークの<投擲>を防いだグラキアスは無数の角で、魔槍杖バルドークを弾く。
グラキアスが驚愕に六眼を見開き、
「相反する魔力を……同時にだと……!?」
返事はせず、両腕を構えた。
右に握る魔神槍・血河からは、周囲の光すら喰らう極限の闇と血の脈動が噴出する。
左に握る陽槍ルメルカンドからは、魔界の淀みをすべて浄化するような、太陽の如き黄金の神威が迸った。
黄金の鴉の幻影が生まれては散る。
グラキアスから数体の狩魔の王ボーフーンの幻影が現れ、その幻影から角を生やした馬が現れ――。
攻撃してきた。
だが、魔神槍・血河で<魔皇・無閃>――。
圧倒的な闇と<血魔力>の一閃が、角馬の群れを両断。
更に、陽槍ルメルカンドで<血龍仙閃>――。
光を帯びた血龍の一閃が、狩魔の王ボーフーンの幻影と、グラキアスを捉え両断――。
否、グラキアスを斬ったのは分身か、本体が左に現れる。
その本体の胸元がざっくりと開いて、血飛沫が噴出。
グラキアスはゆらりと倒れそうになるが、六眼を回復させ、俺を凝視、
「……魔界の王権を象徴する遺物を纏い、あまつさえ、このボーフーン様が支配する第一世代の遺構を傷つけてくるとは……」
大眷属の全身から、先ほどとは比較にならない絶望的な死の氣が立ち昇り始めた。
大工房の壁を成すスラウテルの白骨ドームが、グラキアスの怒りに呼応してビリビリと悲鳴のような共鳴音を上げる。
「……簒奪者ども。……傷場を護る諸将の真の恐怖、その魂に刻んでくれる!!」
グラキアスが両腕を天に掲げると、大工房の奥、呪怨鉄の炉の底に隠されていた『空間の歪み』――傷場の裂け目から、底知れぬ赤黒い奔流が迸ってきた。
突風を感じた刹那――。
暗剣の風スラウテルの胸甲に刻まれたばかりの『暗剣の風スラウテルの魔印』が激しく熱を持ち、漆黒の芯を持ち、周囲に禍々しいまでの深紅を撒き散らす、怒りの光芒となって猛突進した。
傷場から溢れ出る赤黒い奔流、そしてグラキアスの巨体をも巻き込むように、その光芒が激突し、大工房を揺るがす爆発的な輝きを生み出した。
「ぐぇぁ――」
グラキアスは悲鳴を上げ、全身から血飛沫を噴出させ錐もみ状に吹き飛ぶ――。
だが、その回転の勢いを殺さぬまま兜の奥の六眼から太い怪光線を乱射した。
ビーム状の怪光線はスラウテルの漆黒深紅の光を迎撃し、そのまま手にした大剣を呪怨鉄の床に深々と突き刺すや、強引に火花を散らして巨体のブレーキをかけた。
グラキアスは「――くそがっ、お前はなんだ、スラウテルの……残滓? いや、そんなわけがねぇ!」と怒りの声を発し、傷場の裂け目の前で、巨体を膨張させながら不氣味に浮遊し始める。
背後の傷場から流入してくる莫大な魔力を貪欲に啜り上げると身震いをしたグラキアス、「ハッ」と声を発し、全身を覆っていた呪怨鉄の装甲が生き物のようにドクン、ドクンと脈打った。
バキィッ、メシャァァッ――。
呪怨鉄の継ぎ目から、赤黒く腐食した骨が呪わしい花のように芽吹く。
内から膨れ出た骨の塊が重装甲を無残に爆ぜさせ、ひしゃげた鉄の隙間から粘着質な音と共に新たな四つの腕を這い出させた。
四本の骨腕は、それぞれが空間を歪めるほどの漆黒の魔力の塊を、赤子でも抱くように慈しみながら握りしめている。
グラキアスはドッ、ドッ、ドッ、ドッ、と鈍い鼓動――否、空間そのものを軋ませる重力震を響かせていた。
傷場の理と、第一世代の防衛プロトコル、そしてボーフーンの呪力が完全に融合した異形か。
もはや人型の魔族の面影はない。
「ルォォォォォォッ!! 我は傷場の門番……神の死体を喰らいし呪鋼なりッ!」
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