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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百六十六話 言葉なき槍笑い、師と弟子の夜

 大三郎が熱量を持って一歩前に出る。

 と、周囲の上笠影衆や近寄衆がピタリと動きを止め、空間の音が消えたかのような静寂が訪れた。


「シュウヤ様。よくぞ、よくぞこの源左の地へお戻りになられました。我ら一同、首を長くしてお待ち申し上げておりましたぞ!」


 大三郎の腹の底から響く野太い声が庭園を震わせる。

 その誠実で重厚な出迎えに、アキレス師匠も目を丸くして感心したように髭を撫でていた。


 相棒が俺の肩からピョコンと飛び降りて、「にゃ」と挨拶した。


 大三郎も相棒を見て破顔し、「神獣様……あいかわらずの可愛さですな!!」と興奮している。いかつい武者のおっさんがデレる姿は、少し面白い。


 苦笑しつつ、彼に、


「……おう、大三郎。サシィも玲我も武蔵も、皆元気そうで何よりだ。今回は、俺の武の師匠であるアキレス師匠と、弟子のレファとムーも連れてきた」


 背後の三人を示すと、サシィたちは目を見張る。

 すぐさま姿勢を正して深く一礼した。


「――シュウヤ様の御師匠様と御弟子様方でございますか! これは手落ちを……私は源左サシィと申します。此度の御来訪、この槍斧ヶ丘を挙げて歓迎いたします!」

「うむ、シュウヤから話は聞いておる。見事な氣の練り上げ方よ。良い武者が揃っておるな」


 アキレス師匠が豪快に笑いながら頷きを返す。

 レファとムーも、魔界の武者たちの迫力に少し緊張しながらも、胸に手を当ててラ・ケラーダの挨拶を返していた。


「にゃおぉ~」


 相棒の黒猫(ロロ)もサシィの足下へ擦り寄る。


「ふふ、あぁ、ロロ様、お労しゅうございます!」


 サシィが顔を綻ばせて黒猫(ロロ)の首筋を撫でると、周囲の張り詰めた空氣がふっと和らいだ。

 そこにフクナガとディーが前に出て、

 

「サシィ様、久しぶりでございます」

「おぉ、フクナガ! お前の魔料理が恋しい者たちが、続出していたぞ!」

「はは、そうでございますか!」

「うむ、オオザクラの総料理長が残したレシピがあるとはいえ、やはり本人が作る絶品とは、少々異なるからな」

「はい」

「では、大広間にて、茶と団子に、お握りとたくあんも用意してある。飲んでゆっくりするがいい」

「了解、砂城タータイムをここの空に展開させておく」

「ふむ、了解した」

「たくあん~?」

「わーい」

「「「はい」」」


 皆の声を聞きながら〝七雄七竜を封じた時仕掛けノ砂城タータイム〟を取り出し、魔力を込めて空に展開。

 瞬時に、ジオラマだった砂城タータイムは巨大な白亜の城となった。

 深淵のネプトゥリオンが出現し、周囲を行き交う。

 同時に、ザガ、ボン、魔滅皇ラホームドが、その砂城タータイムから転移してきた。


 砂城タータイムの鍛冶所や試作型魔白滅皇高炉で、ザガとボン、そして魔滅皇ラホームドたちが、この地特有の魔鋼や『蹈鞴たたら』の精錬法、さらには『でいだらぼっち』や魔仙人といった土着の妖怪伝承について熱く語り合いながら研究に没頭している姿が脳裏をよぎった。彼らなら、この上具足の構造を見て大興奮するに違いない。


 その言葉を合図にしたように上笠影衆の一部と近寄衆の方々が一斉に会釈し、闇に消えた。


 ◇◇◇◇


 大広間に満ちていた喧騒が遠のき、心地よい酔いと高揚感が、夜の静寂に溶けていく。  そこで<魔闘術>系統の話となり、模擬戦を行う流れとなる。


 サシィの案内に従い、奥座敷に広がる庭園へと足を踏み入れた。


 そこは、幻想的な蒼に支配された空間だった。

 苔生した古岩の隙間から、仄かに青白い光が溢れ出す【源左蛍ノ彷徨変異洞窟】。


 しっとりと肌に吸い付くような湿り氣と、静謐ながらも密度の高い魔力が、大気を重く満たしている。この場所が放つ特有の「氣」は、武を磨く者の心を研ぎ澄ますには、これ以上ない舞台と言えた。


 黒猫(ロロ)が、喉を鳴らしながら周囲の魔素を確かめるように細い目を細めている。


 アキレス師匠は、俺が渡した魔槍ルドルを掌で回す。


「ドイガルガが隠していたという伝説(レジェンド)級の品……。その真価、この身で確かめさせてもらおう」

「にゃ~」


 タンザの黒槍をアイテムボックスに仕舞うと獰猛な笑みを浮かべる。

 体から風雷の覇氣のような魔力が渦を巻き始めた。


 相棒は俺たちから距離を取る。


 少し前にも見ているが、その時よりも、バーマアドの実と<天瞬・雷霆時角>によって得た風と雷の魔力の質を向上させていた。


「……さぁ、シュウヤよ。まずは手本を見せよ。お前がこの地で得たという<源左魔闘蛍>の神髄をな!」


 アキレス師匠の言葉に頷き、庭園の中央へ進み出る。

 ユイ、カルード、レファ、ムーが真剣な眼差しでこちらを見つめ、サシィや大三郎たち源左の武者たちも固唾を呑んで見守っていた。


 丹田を基点に、<血魔力>を練り上げる。

 血管を駆け巡る熱い奔流。

 サシィから授かった理を、俺自身の魂で再構築する。

 

 <経脈自在>で魔力の流路を最適化。

 <月冴>、<紫月>、<月読>――そして、<魔闘血蛍>を連鎖的に紡ぎ出す。

 

 視界に鮮烈な月の紋様と魔法文字が焼き付く。

 

 夜の闇を紫に染め上げた――。

 体表から溢れ出した血の魔力が無数の光り輝く蛍へと変貌し、庭園を幻想的に舞い踊る。


 その光景は美しくも禍々しい。


 血の蛍は<紫月>の妖艶な輝きに同調し、<月読>の理によって周囲の微細な風の流れ、魔素の揺らぎを完全に掌握していく。


 かつてないほどに【源左サシィの槍斧ヶ丘】からエネルギー源の魔力を感じた。

 

 過去サシィから学び、この身で昇華させた<魔闘術>系統の複合は、よりスムーズに動く感覚となる……。


「「おぉ……!」」

「ん、綺麗」

「しゅうやんの魔力操作の技術は元々巧いってのもあるからね」

「ふふ、はい」


 サシィが驚愕に目を見開き、


「……<源左魔闘蛍>の進化系、<魔闘血蛍>。これほどまでの密度とは。私を遥かに凌駕する血の蛍の数……シュウヤ殿の底知れぬ魔力量には、脱帽するしかありません」


 ユイとカルードも、息を呑むように仕種から会釈。

 アキレス師匠は、魔槍ルドルの柄を見て、握りを直しつつ振るい、払う。

 そして、俺を見て、ルドルの握りを確かめるように何度も締め直し、一閃、空を切った。


「――見事。血の荒々しさを、静寂なる月明かりの如き統制で御しておる。だが、実戦でその美しさがいつまで保てるかな!」


 空気が爆ぜた。師匠が風雷を纏う雷光となり、一氣に間合いを潰してくる。

 魔槍ルドルの鋭い突きが放たれる。

 魔槍杖バルドークを召喚し、<風柳・中段受け>でそれを受け流す。

 返すルドルの切っ先が、視界を焼き切るような鋭い刺突となって迫る。

 魔槍杖バルドークを合わせ再び柄で<風柳・中段受け>を行い、<刺突>を防ぐ。

 柄と穂先から火花が散り、腕に重い衝撃が走った。


 即座に<魔闘血蛍>を操作――。

 無数の血蛍を師匠の視界へ炸裂させ、赤い光のカーテンを作った。


「目眩ましか、ぬるいわ!」


 アキレス師匠が笑い声を上げながら、雷の磁場を展開して血蛍を吹き飛ばす。

 だが、吹き飛ばされた光の粒の隙間から、紫電を纏った魔槍ルドルが豪雨のように降り注いできた。バーマアドの実と<天瞬・雷霆時角>によって神域へと昇華された師匠の風槍流の<刺突>と<風穿>の連続突き、そして、<偽・風穿>と<刺突>を織り交ぜた速さと、遅さの緩急の槍武術――。


「ハッ、武神寺の戦いからもまた進化しておるな! これだから、お前との立ち合いは血が滾るわ!」


 今の速く強い突きは<風柳・連礼穿槍>だろう――。

 ただ速いだけではない――。

 風と雷の魔力が礫のように飛来――それでいて風槍流の理と呼べる、突きと払いの連鎖――軌道も読み難い、雷の魔力を魔槍ルドルに載せているようだ――打撃の重さがこの間とは異なる。

 一陣の風となり、魔槍ルドルの穂先が豪雨のような連続突き――。

 またも<風柳・連礼穿槍>を繰り出してくる。

 

 ――凄まじい重圧だ。

 だが、それが心地よい。

 <風柳・中段受け>で往なす。

 再びの上段の払いを<風柳・上段受け>で横に弾いた。


 神域へと至って尚も成長し続ける師匠の武術は、一突きごとに大氣を削り取る――防御を食い破ろうとする――武神寺での修練が、師匠と交わした汗と血の記憶が蘇る。あの時よりも強く、鋭く――互いの進化を槍を通じて確かめ合うこの瞬間こそ、武人としての至福――。


 <風柳・異踏>で軸をずらし、足捌き一つで師匠の連続攻撃を避けた。

 師匠の笑みが、怖い――数回ずらし、カウンター気味の牽制の<刺突>――。

 避けたが、構わず、更に、死角を狙う。

 <刺突>の突きと、竜魔石の払い上げ、更に、<雷払雲>――。

 アキレス師匠は涼しい表情のまま、中段と下段の連続攻撃を、魔槍ルドルを蛇のように動かし、弾いてくる。

 しなる動きの魔槍ルドルの穂先の蛇矛を見ながら、横に移動し、魔槍杖バルドークを旋回させ――<豪閃>を繰り出す。師匠は半身で<豪閃>を避けると、魔槍ルドルを突き出して、石突――の連撃を、<風柳・中段受け>で防ぎ、魔槍杖バルドークを持ち上げる動きで、蛇矛を上へと弾き返す。


 ――ガキィィンッ!

 夜の庭園に、鼓膜を震わせる金属音が谺する。

 ――風雷の青と、血蛍の紫。二つが激しく交錯し、周囲の石畳を粉砕していく。


「ハァッ!」


 師匠の踏み込みが石畳を砕き、下段からの跳ね上げが俺の顎を狙う。

 それを<風柳・下段受け>で殺しつつ、返す刀の要領で竜魔石の<豪閃>を放つ。

 竜魔石と魔槍ルドルの柄が衝突――。

 柄を上げ師匠の持ち手の指を狙うが、「ふっ、基本に忠実(・・)――」と笑い言いながら至近距離で<魔手回し>的な風槍流『風手回し』で魔槍杖バルドークごと俺の腕を回し、擒拿で、関節を狙ってくる――左肘を下げ柄を上げ防ぎながらも足をも狙う師匠は素直に強いが、<風柳・下段受け>で対応、魔槍杖バルドークの石突を支点に体を入れ替える。至近距離で視線がぶつかり、火花が散った。


「……ふっ、力任せではない風槍流の理。お前がそれを掴むたび、わしの槍もまた高みへ導かれる!」


 師匠は魔槍ルドルを器用に動かし、魔槍杖バルドークの柄を引っ掛け、下から弧を描くように回しながら裏拳――。

 それを仰け反って避けた、師匠は<魔手回し>を行う。合わせ、<武行氣>を発動しながら低空を飛ぶように仰向けに横回転――。


「なんという――」


 驚きの声を上げる師匠だが、その動きに淀みはない――。

 その師匠は、一回転しながら見たこともない変則的な薙ぎ払いから<風柳・鳴鴉>を繋げ、俺の武器を弾き飛ばさんとする。更に目にも止まらぬ連続蹴り。


 それらを防ぎきる――。


 師匠は「見事……だが、まだまだ――」と姿勢を深く沈めるや否や、加速、地面を舐めるような<風柳・撥草尋蛇>を繰り出してきた。


 激しい下段払いの連続攻撃――。

 

 かつての俺なら足を刈られていただろう。

 だが、今の俺には見える。すべての衝撃を<風柳・下段受け>で流し、横回転で回避し、片足で地面を捉え蹴り<雷炎縮地>を発動、加速して師匠の懐へ肉薄する。


「<闇雷・一穿>――!」


 渾身の突きだったが、師匠は魔槍ルドルを盾にした。


「――くっ、手が痺れた、まさに鬼の一撃よ!」


 後退しつつも、その表情には歓喜が張り付いている。

 師匠も負けじと加速。


「……己の業を完全に支配した見事な一撃――」


 <魔雷ノ風穿>のような突きを繰り出してきた。

 <月読>による空間の読みも活かす――。


 <風柳・中段受け>で防ぎ、反撃と思ったところに、師匠が雷と風の魔力を発した。

 一瞬のドッとした剛の衝撃波、そこからの活かした連続突きに――得物の穂先が伸びた――ルドルの穂先が、俺の回避に合わせて「伸びた」ように錯覚させる変幻自在の突き。


 それを魔槍杖バルドークの<山岳斧槍・滔天槍術>で防ぎ続けた。

 更に、魔槍ルドルの穂先の形が少し変化――。

 伝説級の武器の特性を、この短時間で完全に己のものとしている。


 師匠は突きのリズムを変化させ、横に逃げた俺を横に回転しながら<龍豪閃>のような一閃技を繰り出し追ってきた。

 それを<風柳・上段受け>で往なしながら<豪閃>を返す。


 宙空で交錯する二つの影。

 師匠は残心をわざと活かすように後退、否――跳躍――。

 紫電ごと俺に――上から叩き付けを<風柳・上段受け>で防ぐ。

 と、師匠は、水面蹴り――。片足をあげ、避け――たが、腹元に変則的な突きが――。それを<風柳・中段受け>でなんとか防ぐ。

 師匠は牽制の<刺突>から、俺の横に移動しながらの<妙神・飛閃>と似た一閃――。

 柄に引っ掛かるような、その薙ぎ払いを回転しながら防ぎ、避けたが、師匠も、体を独楽のように回転させ、柄から手を離した。否、持ち手を変えて、右腕一本に全魔力と推進力を乗せた、超ロングリーチの片手突き。


 ――風槍流『単撤手たんてつしゅ』か――。


 咄嗟に背へ槍を回す<背環受け>で凌ぐ。

 師匠が次の<風柳・連礼穿槍>へ移行する予兆を感じる。

 周囲を舞う血蛍が師匠の筋肉の収縮、空氣の微細な震えを伝えてきた。最小限の<風柳・異踏>で半身になり、頬をかすめるルドルの切っ先を紙一重で見切る。逆に師匠の右腕の内へ魔槍杖バルドークの柄を滑らせ、竜魔石で肘の神経を的確に打突した。


「――っ!?」


 驚愕に目を見開く師匠。

 だが、師匠は師匠――痺れを雷の魔力で強引に消し飛ばし、低空の姿勢で沈み込む。


 そこから地面を這うような左右の連続薙ぎ払い――またも<撥草尋蛇>――。


 かつて俺の足を刈り取り、風槍流『右背攻』へと繋げられた必殺の理合い。

 だが、読める――。

 <風柳・下段受け>で、的確に防ぎ続ける。更に、フェイクの一閃、更に掌底――。

 そこから<風柳・風蛇左腕>だろう――。

 読み通り――<風柳・槍組手>を交えて、<握吸>と<握式・吸脱着>を連続発動させながら魔槍杖バルドークを手放し、宙空に残す。またも柄を掴みつつ、アキレス師匠の短く持った魔槍ルドルの<風閃>を防ぐ。重低音を響かせながら、師匠の払いに合わせ魔槍杖バルドークを地面へ垂直に寝かせるように扱う。


 魔力を柄に乗せて、師匠の攻撃を円環状に受け流した。

 

「防御技術もわしを超えているな、見事だ!」

「――師匠もです。確実に、進化している! そして、苛烈で最高ですよ!」


 里で、俺に稽古をつけてくれたアキレス師匠。

 幾多の死線を越え、神格にすら手が届こうとしている今でも、こうして槍を交えれば、あの日のように魂が震え、己が武術家であることを強烈に実感する。


 師匠と俺は、だんだんと笑う回数が増えてきた。

 そのまま師匠は<槍挑斗(しょうちょうと)>へ繋げる。

 下から顎をカチ上げる強烈な一撃――。

 

 それを魔槍杖バルドークの柄を上げ防ぐ。

 重さで両手が一瞬震えた。

 即座に、魔槍杖バルドークの柄で押さえ込むように、<豪閃>――。

 叩き伏せること狙うが、当然、師匠に角を掠める程度、そこを狙う――師匠を跳び越えながら、宙空で、蛍の群れを誘導して師匠の斜め背後を狙う奇策、<龍豪閃>――<血龍仙閃>の連撃を見舞った。


 連続的に金属音が響いたように、師匠は難なく、対応。

 半身から紫電を発している師匠は、魔槍ルドルの柄越しに俺を見やり、

 

「――ふっ、今の連続の一閃技は、水と龍の魔力を発していた。玄智の森での経験もあるな」

「はい、<龍豪閃>です――」


 互いに全力をぶつけ合うことへの無上の歓喜と、限りない敬意。

 槍を交えるたびに魂が震え、己という存在が武の中で純化されていく。俺たちは示し合わせたように、またも破顔し、同時に後方へ跳躍して間合いを開いた。


「ははは!」

「ははっ」


 師匠と俺は笑った。

 同時に、皆から拍手が起きる。


 その直後、サシィが氣合いと共に一歩前へ踏み出した。


「アキレス様! 私めも、お相手つかまつります!」


 サシィが身に纏うのは、源左の伝統的な武具だ。

 動きやすさを重視した漆黒の具足帷子(ぐそくかたびら)がしなやかな肢体を包み、その上から急所を護る上具足(うわぐそく)が装着されている。

 魔鋼で精緻に編み込まれた草摺(くさずり)佩楯(はいだて)が、彼女の滑るような歩法に合わせてカチャカチャと小氣味良い金属音を鳴らした。


 和の武具の機能美と、魔界の魔鋼技術が融合した見事な装束。

 

「シッ――!」


 サシィが地を蹴る。

 源左特有の歩法から、愛用の魔斧槍が鋭く振り下ろされた。


 ――源左斧槍流<劫蛇崩打(ごうじゃほうだ)>か。


 大蛇が鎌首をもたげるような独特の溜めから――。

 防御を崩すことに特化した重い一撃が放たれる。


「ぬんっ!」


 アキレス師匠は退かず、魔槍ルドルの柄で真っ向からそれを受け止めた。

 激しい火花が散り、師匠の足下の石畳がバキッと砕ける。


「良い重さだ! だが、次が本命であろう!」

「ご明察ッ!」


 サシィは弾かれた槍斧の遠心力を利用する。

 半身から一閃。その魔斧槍の穂先をアキレス師匠は<風柳・上段受け>で受け流した。

 サシィは、「そこ――」と体を捻り、具足帷子の袖口から流れるような動作で暗器を放った。


 ――<源左棒手裏剣・牙神>か。

 ただの投擲ではない。<魔闘術>系統を限界まで圧縮したように<源左魔闘蛍>の血魔力が周囲に生まれては散っていく。

 そして、牙を剥く獣の如き殺氣を帯びた棒手裏剣がアキレス師匠の死角を正確に抉る。


「フハハハ! 見事な連携じゃ!」


 アキレス師匠は二本の角から紫電を放つ。

 局所的な雷の磁場を生み出して棒手裏剣の軌道を強引に逸らした。


「「「おぉ」」」


 俺もだが、皆も歓声を発したように、その一連の攻防を見て武術家の血も激しく滾る。

 トガクレの血を引くというマミさんや、道場を開くアカネ婆さん。

 サシィの親族たちも、この研ぎ澄まされた源左の武を極めているのだろう。


 サシィとアキレス師匠が離れて一礼。

 サシィは、「次はシュウヤ、お前とだ!」と駆け足からの魔斧槍の薙ぎ払い。

 それを避けて返しの<龍豪閃>――。


 サシィは魔斧槍の<風柳・上段受け>のような受け技で防ぐ。

 返す石突の竜魔石の<豪閃>を繰り出すが、サシィは横に回転――。

 反撃の源左斧槍流の一閃技を繰り出してくる。


 それを<風柳・中段受け>で受け止めた。


「……サシィ、その<劫蛇崩打>の理合い、少しもらうぞ」


 魔槍杖バルドークを構え直し、全身の<経脈自在>を意識し再発動――先ほどサシィが見せた大蛇のような溜めの動作を再現し<ルシヴァル紋章樹ノ纏い>を発動――魔力の流れを速めた。

 ――<月読>の空間把握と<魔闘血蛍>の加速を乗せ、サシィに向け踏み込む。


 ――俺流にアレンジした<劫蛇崩打>。


 サシィは中段受けで紅斧刃を受け止める。防がれた魔斧槍越しにサシィの力強さを感じた。細身だが、<筆頭従者長(選ばれし眷属)>だ、素直に強い。


「くっ、重い――」


 サシィの言葉と共に脳裏に新たな武の理が刻まれる確かな手応えがあった。

 風槍流の柔軟さと、源左の剛毅さ、源左魔斧流が一つに溶け合っていく。


 ピコーン※<風柳・劫蛇崩打>※スキル獲得※


「――お! 今見た技を、己の規格外の力で昇華させおったか。さすがに成長が速い」


 アキレス師匠が嬉しそうに吠えると、


「サシィ殿、交代しよう!」

「あ、はい!」


 師匠は、「シュウヤよ、わしも源左斧槍流を少し覚えたぞ――」と、魔槍ルドルを構えると、風と雷の魔力を爆発させて迅速な<刺突>を繰り出す。

 ゼロコンマ数秒――魔槍杖バルドークを盾にするように、斜めにした柄の<風柳・中段受け>で、その激烈な<刺突>を受け止める――穂先と柄の衝突は苛烈な紫電となって俺と師匠を照らす――。


 レファが、


「すごい……わたしも、やってみたい!」

「……っ!」


 ムーも乗り氣だ。

 

「ん、分かる、かっこいい、しゅっ――」

「うん、素直に渋い!」


 大三郎や源左の武者たちが感嘆の声を上げ、エヴァ、レベッカに、ユイ、カルード、レファ、ムーも目を輝かせて俺たちの動きを追っている。

 言葉の要らない、純粋な武を通じた対話。

 魔界の奥深く、幽玄なる和の庭園で、俺たちの熱い夜はまだまだ終わらそうになかった。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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