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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百六十三話 お宝と炎邪宝珠の欠片に硝子のカエル

 ドイガルガが遺したセナアプア下界の隠し宝物庫。

 金貨の山と安全なアイテムの回収を進めていく。

 部屋の奥に陳列された異常なコレクションの鑑定をラムーが進めていた。

 

「はい、では、次の丸い魔道具の羅針盤。こちらはユニーク級。名は、〝海王の偽針〟。特定の海域で海流や天候を偽装し、指定した航路を隠蔽する効果があります。群島諸国やローデリア海での海賊との裏取引に用いられていたのでしょう」

「ほぅ、海賊どもと繋がっていた証拠ですね。暗部の仕事にも向いていそうだ」


 カルードが呟く。

 ラムーは休むことなく鑑定杖を隣の香炉に移す。


「次は、この香炉です。伝説(レジェンド)級。名は、〝夢幻の魔香炉〟。珍しい香油を焚くことで、吸い込んだ者の精神を弛緩させ、暗示にかかりやすくする効果があります。一部の大商会による贅沢品の独占の裏には、こういった精神操作の魔道具が使われていたようです」


 ペレランドラ派閥が独占を阻止しようとしていた香油の裏には、こんなえげつない魔道具が絡んでいたのか。


「……悪趣味な代物です」


 キサラが嫌悪感を滲ませて唸る。


「ん、次、あれをお願いします」


 エヴァが指差したのは厳重なガラスケースに封じられた、赤黒くくすんだ破片の集まりだ。

 近くには箱もある。その箱をエトアは開けると、ピサード大商会の資料か。

 ラムーは上のガラスケースに霊魔宝箱鑑定杖の先端を向ける。

 

 先端から、強い魔力の光が照射された。


「……これは……神話(ミソロジー)級に指定される禁忌の残滓。名は、〝炎邪宝珠の破片〟。かつて、炎邪セガルドが討伐された際に砕け散った宝珠の一部……炎邪の強力な魔力が封じられています」


 炎邪セガルドか。


「ルマルディが命懸けで解決し、そのせいでドイガルガたちにセナアプアを追放される原因となった事件の品だな」


 ヴィーネが、


「はい。ピサード大商会の施設が半壊した際、虚空のラスアピッドが一部を回収し、ドイガルガに渡していたのでしょう。彼らはルマルディの手柄を奪い、追放しておきながら、この破片を大切に保管し、いつかまた強力な触媒として利用するつもりだったのかと」

「……どこまでも腐っているわね」


 レベッカが怒りを滲ませ語る。

 キサラも、


「はい、つい先程まで、あの顔と声が……」


 と嫌悪感を露わにした。

 ヴィーネも頷いて「……」翡翠の蛇弓(バジュラ)を握りしめ、冷徹な殺氣を放つ。

 ユイも、


「サーマリア王国の未来のために生かしたけど、やっぱり許せないわよね、ルマルディがどれだけ苦しんだか……」


 ユイもアゼロスとヴァサージの柄に手を添え、静かな怒りを燃やす。

 エヴァは沈黙しているが、かすかに頷いた。

 キュベラスは、


「ドイガルガもこれを残していたということは、よからぬことに利用する算段なのは明白ですね」


 頷いた。

 ドイガルガはこれを厳重に保管し、いつかまた己の権力を補強するための道具にするつもりだったのだろう。そこで、耳に嵌めた魔通貝に指を当て<血魔力>を送る。

 

 そして、同時に指先に<血魔力>を溜めて、血文字を展開――。

 ペントハウスで待機しているルマルディたちに、


『ドイガルガの宝物庫から〝炎邪宝珠の破片〟が複数個見つかった。ざっと見て数百はあるか。結構大きい怪物だったようだな。空極のラスアピッドが回収して、ドイガルガが隠し持っていたようだ』

『シュウヤ様……それは私が追われた原因の……』

『あぁ。ルマルディの名誉を回復する決定的な証拠になるはず。急ぎならキュベラスに持たせて先に送る』

『……あ、ありがとうございます! お願いいたします!』


 ルマルディの震えるような声と血文字の反応を見て安堵の息を吐く。

 すると、キュベラスはアイテムボックスからサークレットのようなアイテムを出現させる。

 宙空にぷかぷか浮いたサークレットは、巨人が装備できるほどの大きさ。

 

「では、この炎邪宝珠の一部を、このサークレットの中に運びます」


 と発言。大きなロケットの中心の表面は幾何学模様で半透明。形も不思議だ。


「おう、頼む。しかし、その魔道具は呪い対策用か」

「はい、サークレットタイプの――」


 と、キュベラスはガラスケースを開けた。

 そこに入っていた炎邪宝珠の欠片の数個を浮かばせ、それを、サークレットの中心、大きなロケットの中へと移動させていく。

 

「呪い対策用の魔道具は数種類持ち合わせているので、大丈夫です、では、行ってきます。ここはもう記憶しているで、お呼びしてくたら、直ぐに戻れますので」

「了解した、帰りは普通に帰るから、ゲルハットで休憩してていいぞ」

「はい」


 キュベラスはお辞儀をしてから、<異界の門>を発動――。

 いつもより小型の石門が目の前に出現。

 キュベラスは、ユイたちにも会釈すると、桃色のリスのケニィが変化している魔法の衣を煌めかせながら、その石門に入って消えた。


 すると、右肩に装備されていた肩の竜頭装甲(ハルホンク)が、突如として低い歓喜の鳴き声を上げた。


「ングゥゥィィ!」


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)が生き物のように首をヌルリと長く伸ばし、大きく顎を開く。


「ん!? ハルホンク?」


 ハルホンクはガラスケースの中に浮かんでいる〝炎邪宝珠の破片〟をじっと見つめ、ヨダレを垂らすように魔力の粒子をこぼしている。

 

「ハルホンク。これは証拠品だから全部はあげられない」

「スコシ食ベタイ、ウマソウ、ゾォイ!」

「なら、複数個あるから数個だけな――」


 ガラスケースを開けた。


「ングゥゥィィ!!!」


 ハルホンクは嬉しそうに唸った。


「〝無魔の手袋〟なら触っても大丈夫かな」

「「はい」」

「ん」


 皆の肯定を見てから〝無魔の手袋〟を取り出す。

 それを手に嵌めて、小さな〝炎邪宝珠の破片〟を掴む。

 そのまま右肩に出現中の肩の竜頭装甲(ハルホンク)の口に、小さな破片の一つを当てると器用に咥え噛む。と、直ぐにガリガリと咀嚼し始めた。

 

 途端に膨大な魔力を得た。

 指先に炎の魔力が自然と出現したが、消える。


 もう一つ、二つと掴んで、炎邪宝珠の破片を食べさせていった。

 すると、奇怪な音が響く。炎邪宝珠だったモノの悲鳴かな。

 すぐに肩の竜頭装甲(ハルホンク)の歯牙が衝突し合うカチカチとガリガリ音だけなった。

 

 キサラとヴィーネが右肩に近づき、


「おぉ~第一種危険指定クラスの呪物の破片ですが、美味しそうに食べてます……」

「炎邪が、美味しいおやつに見えてくるから不思議」

「ふふ、ハルちゃんは相変わらずね」


 レベッカが苦笑する。


「ンンン――」


 黒猫(ロロ)の興奮した喉声だ。金と銀のコップに、黄金の髑髏を猫パンチしまくり、アイスホッケー遊びを始めていた。


「相棒よ、その遊びは今だけだからな」

「ンン――」


 愛らしい喉声を返し、容赦のない肉球パンチを繰り出した。

 興奮した相棒の肉球からは、燕の形をした淡い魔力が次々と弾け飛んでいる。

 弄ばれた黄金の髑髏が抗議するかのように紫の魔力を噴出させ、ふわりと宙に浮いた。


 相棒は一瞬目を丸くした。


「ンンン」


 くぐもった声で鳴き声を発し、宙に浮く不気味な髑髏へ向けてダッシュ。

 歓喜のステップを踏むまま両前足を振り下ろし、叩き落とし、前方へと転がすが、その黄金の髑髏は、突如として、真上に跳ねた。

 相棒も「ンン」と喉声を発し、跳躍し、体を捻る後ろ脚の蹴りで上昇。

 その蹴りで、黄金の髑髏を跳ね上げるまま一回転し、乱打。

 宙空で燕と紫の魔力が激しく交錯し、黄金の雨が降り注ぐ。

 

 高度な魔力の応酬に違いなかったが、端から見れば、ただの苛烈な黄金のピンポン遊びだ。


 金貨の山や家具に激突しながら逃げ惑う髑髏は紫色の魔力を強めた。

 そのたびに、ヴィーネとキサラが真剣な眼差しで追っている。


 時折、俺に『大丈夫なのですか?』と言うように視線を向けてくる。

 『相棒の楽しみだ』と言うように、視線を返すが、俺も氣にはなっていた。

 

 硬質な音で、またも皆から視線を集める、黄金の髑髏は、財宝が載っている家具と衝突していた。

 即座に得物を狙う動きで、両足で髑髏を捕獲した相棒はごろんと仰向けになり、ラッコのように腹の上で獲物を転がし始めた。


「さて、俺たちは――」

「ふふ、うん――って、可愛い!」


 その愛らしい姿に耐えきれなくなったのか。レベッカがたまらず、猫と髑髏の乱戦へダイブした。


「はは」


 苦笑をこぼし、じゃれ合う彼女たちを横目に残るアイテムの鑑定へと意識を切り替えた。

 騒がしい背景音だが、キサラとユイも、相棒の可愛さの誘惑に負けそうになっていると分かるが、淡々と危険なアイテムの処理を進めていく。


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)も食い終わり、


「――ウマカッチャン!!!」


 と、満足げなゲップを連発している。

 良かった、お気に召したようだ。魔竜王の蒼眼が赤い炎を纏っていたが……ま、いっか。

 ――ふと、背後の空間がわずかに歪んだ。

 魔力も殺氣もない。ただ、空間の凪のようなものが不自然に途切れた。

 <無影歩>クラスの極大の隠密スキルか?


 ヴィーネたちも鑑定と回収に集中しており、氣付いていない。


『閣下、<無影歩>クラスの使い手、暗殺一家でしょうか!?』

『わからんが――』


「――そこか」


 振り返りざまに白蛇竜小神の短槍を召喚し、空間の歪みへと突き出す。

 不可視のヴェールが剥がれ、黒外套の影が跳んだ。

 迎撃の刃が閃くより早く間合いを潰すが、黒鴉と蛙の残像が出現し、後退した。

 擒拿術による捕縛の狙いは外れるが、<雷炎縮地>で加速し、身を翻した黒外套の懐へ潜り込んで<血仙拳>のモーションから風槍流<槍組手>の『風巻蹴刀』を放つ。


 ピコーン※<風柳・風巻蹴刀>※スキル獲得※


 鋭い風の刃を纏った変則的な蹴り上げ。

 影は手にした短刃を捨てて蹴りの威力を殺し、袖口から滑らせた新たな刃で俺の死角を突く。


「ちょっ、侵入者とか、信じられない!」

「はい、氣付かなかった!」


 背後の悲鳴を置き去りに、近接戦へと持ち込む――。

 <風柳・槍組手>を実行――。

 相手の放った短剣を右手の甲で滑らせ、そのまま左腕を絡め取った。

 

「げぇぇぇぇ――」


 男装の隙間から漏れたのは苦悶に満ちた女のような声だった。

 続けて、隙だらけになった相手の左肘へ、己の左肘の打撃を叩き込んだ。


「ぐっ!?」


 くぐもった声が漏れる。

 左腕を相手の左腕に深く絡めつつ、そのまま踏み込み、風槍流『右背攻』を繰り出す。


「えっ――」


 侵入者の胸に、肩と背中の打撃を重く叩き込む。


 ――え?


 背に伝わったのは、殺し屋には不釣り合いな柔らかな弾力。


 やはり女か。


 半身に移行し、蹌踉めいた女を追う――衝撃でわずかに乱れた黒服から素肌が見えた。

 と、女は<魔闘術>系統を強め、短剣を突き出してきた――。


 それを白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄で防ぎながら押し出し、間合いを詰め、相手の左腕を右肩に乗せ、擒拿の<魔人武術・光魔擒拿>を発動――テコの原理でむりやり限界まで捻り曲げた。


「ぐっ――」


 苦悶の声が響いた。強引に相手の背に回した両腕を極め――。

 首元に白蛇竜小神ゲン様の短槍を押し当てて、強固に拘束した。

 完全に極めた。身動き一つ取れまいと思った刹那、


「――あはっ、やるじゃない」


 女は妖艶に笑った。


「お宝は諦めるけど、私は捕まらないわよ」


 耳元を掠める艶やかな声と共に極めていたはずの腕の輪郭がドロリと不自然に崩れ落ち――破裂音と共に視界を覆う白煙、瞬時に――。

 <超能力精神(サイキックマインド)>で煙を吹き飛ばす。

 乾いた硝子音が響く、足下には身代わりの〝硝子カエル〟が無機質に転がっていた。


「ご主人様! 今の者は……!?」

「侵入者!?」


 ヴィーネたちが武器を構えて集まってくる。


「あぁ、どうやらドイガルガの隠れ家を狙っていたネズミらしいな。身代わりの触媒を残して見事に逃げられた。……魔法の晒布で胸を隠した、綺麗な女だったが」

「女性の侵入者……それにその硝子のカエル」


 足下の硝子のカエルを拾い上げ、アイテムボックスへ放り込む。


「さぁ、今は氣にせず、回収を急ごう」

「「はい」」


 安全が確認された物資をすべて回収し終える頃には、ドイガルガの隠し宝物庫はすっかりもぬけの殻となっていた。



□■□■



 同時刻、スラムの暗がり。 トリュフォーは壁に崩れ落ち、自らの左腕を強く抱きしめた。


「あ……ぁっ……」


 震えが止まらない。恐怖ではない。身代わりの硝子蛙が砕ける感触と、あの男が背を向けたまま見せた圧倒的な死の気配が、脳裏に焼き付いて離れない……。

 完璧な潜入計画? 自身の代名詞たる隠密スキル? 馬鹿馬鹿しい。そんなものは、あの男の前では児戯に過ぎなかった。


「あはっ……」


 折れかけた腕の痛みが、彼女の口角を歪に吊り上げる。

 

 ……極上の死線。これだから、裏の世界は辞められない。



□■□■



 塔烈中立都市セナアプア。魔塔ゲルハット。


 シャンデリアの明かりが照らす円卓の上には、エヴァが読み取った裏取引の帳簿、制圧済みの密輸ルートを示す海図、そしてタンダール支部からの定時報告書が無造作に積まれている。

 四人の女傑は優雅にグラスを傾けていた。


 上院評議員の顔を持つ光魔ルシヴァルの<従者長>ペレランドラ。

 セナアプアへと合流した【天凜の月】副長メル。

 空極の空戦魔導師ルマルディとアルルカンの把神書。

 そして、つい先程まで下界にいたキュベラス。


「……これが、私が命を懸けて討伐した炎邪の残滓……」


 ルマルディはテーブルの中央に置かれた『炎邪宝珠の破片』を見つめ、ギリッと拳を握りしめる。

 だが、その瞳に絶望はない。圧倒的な光であるシュウヤによって、因縁の敵は既に打倒されているのだ。


「えぇ。ルマルディ、貴女の功績はこれで完全に証明されるわ。ドイガルガの不正を暴く、最後のピースね」


 ペレランドラが凛とした表情で力強く頷いた。


「表の法で追い詰める準備は整った。裏の始末も……順調よ」


 メルが艶やかな唇に笑みを浮かべ、山積みの報告書を指先で軽く叩く。

 書類が示すのは、軍需派の完全なる崩壊だ。ネドー派閥は消滅し、中心人物であったロルジュ公爵も死んだ。ピサード大商会のような風見鶏は既に寝返り、エヴァの情報から洗い出した隠し格納庫や密輸ルートも、メルの放った『掃除屋』たちが次々と制圧している。

 巨悪の終焉と、それに伴って【天凜の月】へと流れ込む莫大な隠し資産。それらは彼女たちにとって、取るに足らない事後処理の記録に過ぎない。


「今頃、軍産複合体の連中も首を括る縄を選んでいるでしょうよ」

「ふふ……表と裏、両面から完全に退路を断たれては、為す術もありませんね」


 ルマルディが感嘆の息を漏らす。


「タンダール側の物流も抜かりはないわ。私たち裏方の仕事は、総長がいつでも心地よく戦い、帰ってこられるよう、この盤面を支配し尽くすこと」

「えぇ。総長が切り開いた道……私たちが、一粒の金貨も残さず喰い尽くすわよ」


 狂氣にも似た忠誠と野心が、夜の会議室に妖しく溶け合った。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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