表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍使いと、黒猫。  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1996/2167

千九百九十五話 オッドグレイムと五層の十天邪像の遺跡


「はい。では、邪神たちの像が鎮座している遺跡に行きましょう。そこにも時折、強力なモンスターが出現することがあります。そして、途中には、レベッカさんたちが討伐依頼を受けていた、オッドグレイム戦士、オッドグレイム槍使い、オッドグレイム射手、オッドグレイム魔法使いのモンスター兵士が現れます。目は複眼。腕の数は二本から四本とランダムです。肌は灰色で、かなり大型の豹獣人(セバーカ)系と言えば分かりやすいですね」


 と、シャウラさんは、冷静かつ的確な説明を付け加えてくれた。

 彼女の先導に従い広大な地下空洞に広がる古代遺跡の中を進んでいく。

 

 巨大な石柱が等間隔に並び、その多くは風化し、蔦に覆われていた。


「お前たちは経験豊富だが、あえて、氣を引き締めようか」


 グルド師匠が低い声で告げる。

 その言葉に応じるように、師匠たちはそれぞれ得物を抜き放ち警戒態勢を整えながら進む。

 セレスティアと魔界騎士シャイナスも、その背後に続き、隙のない陣形を組む。


 歩きながら、ふと、あることを試しておきたくなった。

 この階層、この惑星セラで、あの通信手段が使えるのかどうか。

 左手の人差し指に<血魔力>集中させる。〝光紋の腕輪〟も使えるかな? と肩の竜頭装甲(ハルホンク)も意識した。


「『ルシェル、現在、イゾルガンデ迷宮の第五階層にいるが、見えて、聞こえているか?』」


 空間に赤いインクが滲むように、文字が出現した。

 いつも通りの血文字は虚空に消えると、目の前に、


「『シュウヤ様! はい、〝光紋の腕輪〟による音声と血文字の文字情報は、しっかり見えています。こちらの砂城タータイムは異常ありません。迷宮都市イゾルガンデを見守るように浮いたままです。ご武運を!』」


 とルシェルからの音声が響き、血文字も浮いた。


「ん、血文字の通信が使えて良かった」

「問題なく使えて安心しました」

「そうね、ペルネーテでも二十四面体(トラペゾヘドロン)の転移は使えたから、時空属性は大丈夫ってこと」


 エヴァとレベッカの言葉に、既にキサラとユイとキュベラスがキッシュたちにも血文字を送っていた『ほぉ、迷宮都市内になら大丈夫なのだな、傷場の先にある魔界セブドラや、狭間(ヴェイル)が微妙な【幻瞑暗黒回廊】とは異なるか』


 と、キッシュの血文字がキュベラスたちの前に浮かんでいた。

 ヴィーネは、


「大枠の黒き環(ザララープ)が機能しているからこその、迷宮システム。この五層と邪界ヘルローネと、わたしたちがいる宇宙次元は繋がっていると言えます」


 ヴィーネの言葉にアクセルマギナとセレスティアが頷く。

 ヴィーネも俺の傍にいるからそうした宇宙知識は積み重なっているからな。

 そのヴィーネたちを見ながら、


「……あぁ、そうだな。レベッカも言ったが、このイゾルガンデでも二十四面体(トラペゾヘドロン)は、使えるということだ。〝レドミヤの魔法鏡〟も使えるだろう。そして、その〝レドミヤの魔法鏡〟は既に二十八カ所覚えているから、ここを覚える場合は、どこか記憶した場所を消すことになるかも知れない」

「はい、セラの各地に眠る二十四面体(トラペゾヘドロン)のパレデスの鏡も回収はしときたいですね」

「あぁ、いつかいつかと、後回しにしていた」

「ん、土に埋まっている状況だから、回収も大変」

「うん、前に一度血鎖鎧で回収していたけど、結構時間かかるからね。他にもやりたいことはわたしたちは多いし、仕方ないわよ」


 ユイの言葉に皆が頷いた。

 そこで、


「では、進むとしよう」

「はい」

「ん」

「……ペルネーテの迷宮と同じような十天邪像で開くシステムがあれば良いんだけど」

「たしかに」

「あぁ」

「「はい」」


 シャウラさんは、


「像に、皆さんが語られている鍵穴があるのかは不明ですが、邪神たちの像が鎮座している遺跡は確実に存在しています」


 と力強く語る。

 キサラは、


「十天邪像シテアトップの鍵で、その像の下にある部屋が開くなら、十階層や二十階層にすぐに転移できそうですね。そして、シテアトップがまた接触してくるかもしれません」


 と発言した。

 皆が頷いた。


「おう、そうかもだ。行こうか」


 シャウラさんの先導に従い、広大な地下空洞に広がる古代遺跡の中を進んでいく。

 巨大な石柱は大小様々だ。多くは風化し、蔦に覆われているのは基本か。


 表面には、邪神たちのレリーフが刻まれているが、十体の邪神が、均等に並ぶのばかり。

 石造りの迷宮を進むと、前方から複数の魔素の氣配が増えてきた。


 キサラが、目元を輝かせ、


「モンスターの魔素です」


 と発言。<真眼・白闇凝照>かな。

 続いて、ヴィーネが〝星見の眼帯〟を装着。


「敵! 人型ですが、例のモンスターでしょう」

「「「――おう!」」」


 トースン師匠とソー師匠とグルド師匠の鋭い声が響く!


「ふむ、わしは背後を見ておこう」


 と、バフハールは冷静だ。

 師匠たちも半身で、バフハールの動きに倣うのは、飛怪槍流グラド師匠。

 シュリ師匠は右に左にレプイレス師匠が並ぶ、鶴翼のような陣を取る。

 

 ほぼ同時に、左右の崩れた遺跡の瓦礫の陰から複数の影が躍り出た。

 シャウラさんが説明していた通りのモンスターだ。

 不気味な複眼で、大型の豹獣人(セバーカ)のような異形の兵士たち

 灰色の肌に、二本から四本の様々な形の腕を持つ。

 シャウラさんが、


「名は、オッドグレイムです!」


 レベッカが待ってましたとばかりに拳を握りしめた。


「やった! 早速依頼達成のチャンスね!」

「ん、資料通りのモンスター。討伐数は三十体」


 エヴァがモンスターブックの情報を補足する。

 その言葉に、不敵な笑みを返し、


「よし、依頼達成と洒落込もうか。皆、氣を引き締めろ!」


 俺がそう言うと、前方の先頭集団から一体の大型の豹獣人(セバーカ)のような異形モンスターが前に出た。


 そのオッドグレイムが俺たちに魔剣を向ける。

 

「――ヒュアアアッ!」


 と、仲間に指示を出した。


「「グェッグォ!」」

「「――グェェガッ!!」」


 奇声と共に、リーダー格の背後に並ぶオッドグレイムの射手たちから矢の雨が飛来してきた。

 

「――させません!」


 シャウラさんが即座に反応。

 背の弓から放たれた一本の矢が三筋の光となり、飛来する敵の矢を的確に撃ち落とす。

 即座に、大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、敵陣へと直進させた。

 複数の矢を防ぎ、先頭のオッドグレイムの魔剣と魔槍に衝突したが、それも押しのけ、その正面のオッドグレイムを、前衛集団にまで運び押し潰す。


 魔界騎士シャイナスが黒銀の曲大剣を掲げ、


「――ハッ、九槍卿の駒の輝きに続け! 前衛は突撃! 後衛は援護を!」


 と、号令をかける。

 それより早く師匠たちが動いていた。


「恰好の腕試し――」


 ソー師匠が無覇と夢槍を振るう。

 オッドグレイム戦士の一体を強かに打ち据える。戦士は武器と鎧を破壊されて吹き飛んでいた。

 グルド師匠とイルヴェーヌ師匠は、巧みな連携で槍使いの繰り出す鋭い突きをいなし、的確に急所を貫いていた。


「我も続く!」


 ルリゼゼも前に出て四腕を振るう。

 四腕の魔剣を振るうと、オッドグレイム戦士の腕が斬られ、胸と腹が袈裟掛けに斬られていた。

 そのまま前進し、魔剣で旋風を巻き起こすように、敵兵を薙ぎ払う。


「キサラ、ユイ、援護します、エトアとラムーはあまり前に出ないように」

「「はい!」」


 翡翠の蛇弓(バジュラ)の光線の弦が引かれると、光線の矢が射出されていく。


「はい」

「了解」


 キサラとユイが前に出た。

 二人の動きは影と光のように対照的だった。

 キサラはダモアヌンの魔槍から伸びた無数のフィラメントを鞭のようにしならせ、オッドグレイム射手たちの視界を奪い、その動きを巧みに誘導する。まるで熟練の獣使いだ。

 一方、ユイは<ベイカラの瞳>を爛々と輝かせ、三刀流用のホルダーを装着し、斗宿仙秘刀鶯を咥え、右手に神鬼・霊風、左手に魔刀アゼロスを持ち、袈裟斬りにオッドグレイムを斬り捨てると、左右のオッドグレイムの攻撃を斗宿仙秘刀鶯とアゼロスで受け、身を捻る動きの<黒呪仙炎剣>の斬り払いと、<銀靱・壱>の斬り払いを繰り出して、オッドグレイムの両腕を切断。そして、前進し、その胴体を真横に斬る。

 

 俺も右手首の<鎖の因子>から<鎖>を伸ばし、右の群れの先頭のオッドグレイムの頭部を穿った。

 ユイは、左を駆けながら対峙したオッドグレイムたちの、攻撃の予備動作を完璧に見切る。

 流れるように避けまくる。ヴィーネとエヴァたちの遠距離攻撃が、そのオッドグレイムに決まりまくった。

 ユイは左斜め前に出て、大柄のオッドグレイムと相対する。相手が振り下ろした斧刃を斗宿仙秘刀鶯で受け止めると同時に、神鬼・霊風を左から右に振るい、その胴体を斬り裂いた。

 続けて跳躍し、身を捻る跳躍斬りを繰り出し、オッドグレイムの首を刈り取る。

 と、宙空で跳ねるように左に移動し、またも身を捻りながら神鬼・霊風一本に切り替え、迅速な一閃。

 <白炎一ノ太刀>は理解できた。

 だが、ユイが次に繰り出した身を捻る剣技は、俺の動体視力でもすべては捉えきれない。

 思考が追いつく前に三体のオッドグレイムの胸から血飛沫が上がる。

 残像を描くように翻ったユイの黒髪が元の位置に戻った時、一体の首が既に宙を舞っていた。


 神速の突きか、あるいは払い斬りか。

 <飛剣流・笹落ち>の動きに似ているが、その練度は桁違いだ。

 神速の突きか、払いか。首狩り用の介者剣術かな。

 それとも、この間皆も覚えた<神式・一点突>の突きを活かした剣術スキルか。

 

 <神式・一点突>を見事な自身の剣技に昇華させたようだな。


 と、考えながら両手の<鎖の因子>から<鎖>を伸ばし、魔矢を弾きながら、皆を見る。

 エトアとラムーの位置にはバフハールと飛怪槍流グラド師匠と相棒がいて、守ってくれていた。


 再び、前を見て、ユイたちと複数のオッドグレイムを潰したままの大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を見てから、それを消した。

 

 そのユイは、


「――キサラとルリゼゼ、師匠たちとバフハールさんにシャイナスに負けないように狩り続けましょう」

「えぇ、お任せを! ――<暁闇ノ跳穿>!」

「承知!」


 ユイは、キサラとルリゼゼと分かれ、オッドグレイムの左側の群れへと最短距離で切り込んでいく。

 キサラは影を利用し、跳躍。

 ダモアヌンの魔槍の穂先が後方にいたオッドグレイム魔法使いの眉間を正確に貫いていた。

 そのキサラは<光魔鬼武・鳴華>を使用し加速を強めた。

 前進し、オッドグレイムとの間合いを詰めると、<血刃翔刹穿>を繰り出す。

 ダモアヌンの魔槍の穂先で相対したオッドグレイムの体を穿つと、ダモアヌンの魔槍の穂先から迸っていく無数の血刃が、背後のオッドグレイムたちの体と衝突していった。


 素早くダモアヌンの魔槍を引きながら右に跳び、魔槍の柄からフィラメントを展開させる。

 複数のオッドグレイムが古代狼のように爪を伸ばして攻撃していたが、フィラメントが弾いていった。更に、そのフィラメントがヘルメの<珠瑠の花>のようにオッドグレイムの手足に絡めて、動きを鈍らせる。


 ユイが、


「――そこっ!」


 神速の踏み込み。

 三本の刀がそれぞれ異なる軌道を描き、一体のオッドグレイム戦士の四本の腕を同時に断ち切った。

 返す刃で喉を掻き切り、次の獲物へと視線を移す。その一連の動きは、まるで流麗な舞のようだった。

 連携はさすがだ。

 しかし、敵の数はあまりにも多い。

 一体倒せば、二体がその穴を埋めるように湧いてくる。


「――グェェガッ!!」


 リーダー格のオッドグレイムが甲高い咆哮を上げる。

 と、兵士たちの複眼が一斉に赤く輝き、その動きが明らかに統率されたものへと変わった。


 前衛が分厚い盾を構えて壁を作り、その後ろから槍と矢の雨が降り注ぐ。


「面倒な陣形!」


 レベッカが両手に蒼炎を宿す。

 エヴァもサージロンの球を前方に展開し、防御態勢に入った。

 分厚い盾を構えた前衛が壁となり、ヴィーネの翡翠の蛇弓(バジュラ)の光線の矢を防ぐ。

 隙間から槍が突き出され、後方からは矢の雨が絶え間なく降り注ぐ。


 バイキングの盾の陣を彷彿とさせる。

 敵ながら見事な連携だった。

 相棒は俺の横に来ては、少し駆けて跳躍、宙空から「にゃごァ」と口から紅蓮の炎を吐いた。

 

 複数の矢を焼却してくれるから<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を再度使わずに済んだ。

 その黒豹(ロロ)は地面に回転して着地し、前方のオッドグレイムの群れを睨み付けてから「ンンン」と喉声を発し、後退。

 そこに、


「マスター、あの盾の連携、わずかに隙間があります。こじ開けます」


 アクセルマギナが静かに前に出ると、その手に握られた魔銃が銀色の光を放つ。

 放たれた魔弾は敵兵を狙うのではない。盾と盾が重なる僅かな接合部、地面と盾の隙間、突き出される槍の穂先へと、寸分の狂いもなく吸い込まれていった。


 ――タタタタタッ! 

 という連続した着弾音と共に、完璧に見えた盾の壁に、一瞬の綻びが生まれる。


「――好機!」


 その一瞬を見逃さなかったソー師匠の双槍が幻惑的な軌道を描いて舞う。

 綻びから侵入した穂先が内側から盾兵の体勢を崩し、敵の陣形が大きく揺らいだ。


「側面から別動隊が来ます!」

「オッドグレイム魔法使いを守るような陣形ね、お弟子ちゃん、わたしたは、この戦士たちを同時に屠るわよ――」


 ヴィーネの鋭い声と、シュリ師匠が<雷飛>からの<雷炎腹柵斬り>をオッドグレイムの戦士の下腹部に喰らわせて吹き飛ばしていく。

 

 一部は削いだが、統率から外れた数体が、回り込もうとしていた。


「――ここは通しません、主、お任せを」


 セレスティアが静かに前へ出る。

 彼女の表情は普段の穏やかさとは違う、どこか無機質で冷徹なものへと変わっていた。


「――脅威対象を認識。これより、侵入者の排除を開始します」


 かつての母体が発したのと同じ、感情の無い声が響く。

 刹那、セレスティアの胸元と肩口の装甲が、カシャリ、と音を立てて花弁のように展開した。

 その内部から現れたのは白磁器のような光沢を放つ無数の鋼の刃。


 女王ゴーレムが振るった、あのカマキリの刃だった。


「なっ……!」


 思わず息を呑んだ。

 あの刃は、かつて対峙した女王ゴーレムが振るっていたものと似ている。

 セレスティアは、俺との戦闘で使用した時と同じように、複数の鋼の刃を扱う――。

 同時に光沢している白磁器のような体の節々から、白い絹糸のような魔力も放出されていく。

 更に、古い時計がカチカチ動くような音と発条仕掛けが動くような音が何度も響いた。


 刃の数本は、目にも留まらぬ速さで直進し、盾と盾のわずかな隙間を突き抜ける。

 ――キン、キン、キン! と何度も甲高い金属音が響きまくる。

 盾兵の腕や足に刃が突き刺さっては、完璧だったはずの盾の壁が内からの悲鳴と共に崩れ始めた。

 セレスティアは、


「まだです――」


 と、言いながら崩れた陣形の奥にいる射手たちに向け、双眸から二条の魔光線が発射された。

 魔光線は寸分の狂いもなく射手たちと魔法使いの頭部を撃ち抜き、敵の後方支援の一部を沈黙させた。


「見事だ、セレスティア! おかげで道が開けた!」


 仲間が作り出した完璧な好機。これ以上の舞台はない。


「では、覚えたばかりの魔法を試すとしよう。ユイ、キサラ、ルリゼゼ、左正面のオッドグレイムの群れを残し、右に移動しろ」

「「了解」」

「承知した――」


 <筆頭従者長(選ばれし眷属)>たちの動きは高速――。

 皆が視界から消えた直後に先ほど習得した紋章魔法――《氷刀魚沼アイスソードフィッシュ・マーシュ》を発動させた。

 右腕に持つ魔槍杖バルドークの穂先から青白い同心円状の紋章魔法陣が展開される。

 一瞬で、足元の石畳がその硬質な姿を失い、月光を映す水面のように揺らめき始めた。

 古代遺跡の床は、青白い光を湛える静かな沼へと変貌を遂げる。


 勢いよく突撃してきたオッドグレイムたちは、


「――グガッ!?」

「「グェ……!?」」


 突如として現れた粘つく沼に足を取られて、無様に封じられていく。

 好機とばかりに、沼の水面を割るように飛び出てきたのは、刃のように鋭い鱗を持つ無数の氷刀魚(ひょうとうぎょ)の群れ、それが、踊るように、身動きの取れない獲物の足下へと牙を剥く。


「「「グギャアアアッ!」」」


 硬い装甲も関係なく肉を抉り、骨を砕く。

 阿鼻叫喚の地獄絵図が眼前に広がった。


「……す、すごい」

 シャウラが息を呑むのが聞こえた。


「紋章魔法なだけはある」

「ん、<水の即仗>効果!」

「<水の即仗>……」


 シャウラが驚くのも無理はないか。師匠たちも、満足げに頷いている。


「群れを潰すに最適な魔法を覚えたな」

「お弟子ちゃんは、槍使いなんだけど、魔法使いでも通用するってのが恐ろしい~」

「うむ。敵の足を奪い、一方的に嬲る……我らの戦い方にも通じるものがある」

「カカカッ、わしらの魔君主が、弟子じゃからな、魔城ルグファントの城主に相応しい」

「うむ、魔界九槍卿の一人、同じ一角として、最初から認めているが、強く認めよう」


 グルド師匠、シュリ師匠、トースン師匠、グラド師匠、イルヴェーヌ師匠はそれぞれのやり方で評価してくれた。



「ありがとうございます!」

「好機だ! 一氣に畳みかけるぞ!」


 シャイナスの号令が飛ぶ。

 ヴェロニカが、


「ふふ、張り切っちゃって、魔界騎士さん、ついてくれるかしら――」

「シャイナスさん、共に敵を倒しましょう」


 ファーミリアもヴェロニカと共に、宙空から前に出た。

 サンスクリットの血霊剣で急襲、オッドグレイムの魔剣を払いのけ、刹那の血剣術で四肢を斬り刻む。

 動きを封じられた敵は、もはや的でしかない。

 

 ヴェロニカは、<血魔力>を目潰しに使い数体のオッドグレイムの視界を潰す。

 途端に、オッドグレイムとの間合いを潰すと、ベイホルガの頂を突き出した。

 四腕のオッドグレイムの右上腕から腹を突く。

 と、刺さったが、大柄のオッドグレイムは「グガッゲ!!」と叫び、貫かれたままヴェロニカに向け、三腕を振るうが、そのベイホルガの頂を足場にしたヴェロニカ、両手に別のフランベルジュの魔剣を召喚し、そのまま両腕がブレる。


 <血剣・猛襲連速>をオッドグレイムの上半身に喰らわせ、豪快に倒していた。


 バフハールが雄叫びと共に突撃し、幻魔百鬼刀の一振りで数体をまとめて薙ぎ払う。

 シャイナスの黒銀の曲大剣が死の舞を踊り、セレスティアの放つ光線が正確に敵の頭部を撃ち抜いていく。

 カルードと()()(テン)もシャイナスの横から<燕式・飛燕斬>などの剣技を繰り出し、斧を持ったオッドグレイムを両断するように倒しまくる。

 

 師匠たちもまた、水を得た魚のように敵陣を蹂躙する。

 ソー師匠の無覇と夢槍が幻惑的な軌道を描き、イルヴェーヌ師匠の断罪槍が月光の刃となって敵を切り裂く。


 戦況は一瞬にして決した。

 リーダー格のオッドグレイムが最後の抵抗とばかりに俺に飛び掛かってきたが、


「――《氷縛柩(アイシクル・コフィン)》」


 その巨体を、分厚い氷の棺が瞬時に包み込んだ。

 身動き一つ取れなくなった敵将との間合いを<ブリンク・ステップ>で潰し――。

 左足の踏み込みから右腕ごと槍と化す勢いの魔槍杖バルドークの<光穿>を繰り出す――。


 氷の棺の《氷縛柩(アイシクル・コフィン)》ごとオッドグレイムの胸、心臓を穿った。

 オッドグレイムの命脈を完全に断ち切った。

 氷の棺が砕け散り、敵将の亡骸が崩れ落ちると、周囲のオッドグレイムたちもすべてが地に伏していた。


 圧倒的な勝利。

 だが、誰もが油断はしていない。


「……見事な新魔法でした、シュウヤ様」


 キサラがダモアヌンの魔槍を仕舞いながら微笑む。

 その言葉に頷き返し、改めて周囲を見渡した。


「あぁ。だが、まだここは入り口に過ぎん。邪神の像が鎮座するという遺跡は、この先だ」

「はい」

「しかし、ペルネーテの五層とは、さすがに異なりますね」

「うん」

「ん、遺跡は、まだ少し先みたい」


 シャウラの案内で、オッドグレイムたちが湧けば、即座に倒す。

 そして、休憩はあまり取らず、先を急いだ。

 途中から、迷宮の石畳に飲まれているようなオッドグレイムの亡骸が増えてきた。

 

 そんな、湿った空氣と血の匂いが混じり合う回廊の先にひときわ巨大な広間へと辿り着く。

 

 その斜め左のほうに、壁に囲まれたモスクを思わせる荘厳な建物が見えてきた。

 門は破壊されたままだが、ペルネーテで目にした光景と重なった。

 

 ペルネーテの五層の寺院と形は似ている。


「似ているから確実っぽいけど、階段を下りて確認するまでは、ね?」


 レベッカが言葉に、思わず笑顔となって、「あぁ、そうだな」と言い、門を潜った。

 

 その手前の門を潜り、建物の内部にあった階段を下っていく。

 ひんやりとした石の感触が足裏から伝わってくるような氣がした。


 下った先の渡り廊下を進むと視界が開けて巨大な空洞になる。

 天井は段々と奥に向かうにつれて高度を下げている。

 その奥は淡い光に照らされ、十体の巨大な邪神の像が、円を描くようにして厳かに鎮座していた。


「ん、凄く大きい……」


 エヴァが悩ましく聞こえる声質で呟く。


「エヴァ、前を思い出している?」

「ん、バレた」


 と、てへっと、唇から少しだけ舌を出すエヴァが可愛い。

 そのエヴァたちと前進し、邪神たちの像に近づいた。

 

 シテアトップ、ニクルス、ヒュリオクス……見慣れた邪神たちの像が、変わらぬ威圧感を放っている。

 だが、その中で二体、ひときわ俺の注意を引く像があった。


 一体は、まるで影そのものを削り出して作り上げたかのような漆黒の像。

 人型であること以外、顔も、装飾も、性別すらも判然としない。

 光を当ててもその表面は鈍く沈み、まるで光そのものを吸い込んでいるかのようだ。


 その像の前に立つと、一瞬だけ背筋がぞくりと粟立つ。

 影の中から何かに見つめられているような錯覚に陥った。


 なんか、ぞわぞわ~とくるな。


「……あの像だけ、妙な氣配がするわね」


 レベッカが腕をさすりながら呟く。

 一瞬、綺麗な腋がチラッと見えた。


 やはり、俺だけが感じているわけではないらしい。


 もう一体は、四本の腕に、それぞれ巨大な鋏のような魔剣を構えた女神の像だ。

 他の女神像が槌や杖を手にしているのに対し、この像だけが明確な殺意を宿した武具を構えている。

 四つの瞳を持つ険しい顔つきは戦女神のようでもあり、処刑人のようでもある。


 この邪神セル・ヴァイパーが……。

 過去に、振るったセル・ヴァイパーから思念が届いたことがあった。


『新しい駒か――褒美だ――』


 腕が自然と動き、滑らかな機動の剣の扱いが運動野に刻まれたような感覚を受けては、セル・ヴァイパーで強かったミルデンを倒した。

 

 最後にセル・ヴァイパーの邪剣が重なると、鋏の形に変形。

 ミルデンの魂か魔素を吸い取るセル・ヴァイパーから鬼のような造形が浮かぶ。

 スキルの<鬼喰い>獲得を得たんだったな。


 更に、戦闘職業<獄星の枷使い>の条件が満たされ、<霊槍印瞑師>と<獄星の枷使い>が融合し<霊槍獄剣師>へとクラスアップした。

 すると、邪神セル・ヴァイパーは俺に反応したようにかすかに魔力を放ってきた。

 邪神セル・ヴァイパーの十天邪像はもっていないんだよな。


「……四腕の女神……ルリゼゼとはまた違う、苛烈な闘氣を感じますね」


 キサラが鋭い視線で像を分析する。

 その言葉通り、像から放たれる威圧感は、他の邪神像とは異質の、純粋な武威に満ちていた。


 そして、シャウラさんは、槌を持つ邪神フューシーの像にうっとりしながら、


「……邪神ヒューリーは美しいですが、あちらのセル・ヴァイパー様は、少し、怖いですね」


 と呟いた。マナブの邪神は邪神フューシーか。

 邪神シテアトップの虎をモチーフとした像の足下に黒猫に戻っていた相棒が、移動し、爪掻きをしている。

 はは、前と同じだ。


「……間違いない。ペルネーテと同じだ」

「ん、ということは、あの鍵が使える」


 エヴァの言葉に、懐から十天邪像シテアトップを取り出した。

 邪神シテアトップと邪神ニクルスの像もあるが、シテアトップの像の足下に移動した。 古びた文字が刻まれた石板が嵌め込まれているが、その隣に窪みと穴があった。


「――あった」

「「「おぉ~」」」

 

 皆の歓声を感じながら十天邪像シテアトップの鍵穴へと、ゆっくりと鍵を差し込んだ。

 何も起きず。だが、回すと、カチリと硬質な音が連続して響き像の目が紅く輝く。

 邪神シテアトップの黄色の魔力と青白い魔力が溢れてくる。

 十天邪像シテアトップの鍵は自動的に外れ、宙空に浮かぶ。


 地響きと共に、邪神シテアトップ像の足下が、像の内部、奥の空間へと吸い込まれるように窪む。

 だんだんと窄まる光景は、前と同じ。

 そして、先にお猪口のように出っ張る形で存在している黄金の扉が見えた。


 浮いたままの邪神シテアトップの十天邪像シテアトップを掴む。


「前と同じ!」

「ん」

「「「はい!」」」

「では、あの先は、邪神シテアトップの聖域。また現れますかね?」


 ヴィーネの言葉に頷いた。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ