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第五章 歪むまやかし

第五章!

なんか新しいのほしいよね前書きとあとがきに…

まぁ、たのしんで!

 二度目の嘘――「俺たちは将来を約束した婚約者だ」という、さらに重く狂った虚言から始まった二年目の日々は、一年目とは明らかに違っていた。


 ひまりは俺の言葉を受け入れ、再び俺の『婚約者』として健気に振る舞おうと努力してくれた。けれど、二人の間には、どれだけ笑顔を交わしても決して埋めることのできない不気味な『違和感』が、常に(おり)のように沈殿していた。


「ねえ、れんくん。私たち、昔はどんなデートをしていたの? どんなお話をしていたの?」


 夏のある日、お気に入りのカフェで冷たいココアを飲みながら、ひまりが小首を傾げて聞いてきた。 俺は一年目のあの水色の浴衣で行った夏祭りや、大きなクリスマスツリーの前で一つのマフラーを巻いて笑い合った最高の思い出を話そうとして、ハッと息を詰まらせ、口を強く(つぐ)んだ。


 今のひまりは、あの向日葵の浴衣のことも、花火の爆音の下でしたキスのことも、何一つ、塵ほども覚えていない。今の彼女にとっての「過去」は、俺の口から語られる『設定』でしかないのだ。


「……そうだね、江の島の方へ行って海を見たり、何でもない街をただ二人で散歩したりしたよ」


「そっか……。ごめんなさい、れんくん。私、どうしてもそれが思い出せなくて。れんくんがどんなに楽しそうに話してくれても、どこか、絵本の中の他人の地続きのお話を聞いているみたいで……。私の心の中に、何も残っていないの」


 ひまりは悲しそうに細い眉をひそめ、冷え切ったコーヒーカップを小さな両手で包み込むように見つめた。

 当然だった。幼馴染としての十何年間の記憶すら完全に消去された今のひまりにとって、俺との思い出はすべて、俺から口頭で教えられただけの無機質なデータに過ぎない。彼女自身の魂や身体が記憶していないまやかしの関係。ひまりが俺に向ける微笑みには、どこか義務感のような、無理に作った歪な硬さが混じるようになっていた。


 (ほころ)び始めた俺たちの世界を、周囲の現実がさらに容赦なく追い詰めていった。

 学校生活が再開し、クラス中が次の行事に向けて活気づく中、俺とひまりの関係がおかしいことに、二人の本当の過去を知る人間たちが気づき始めるのは時間の問題だった。


「おい、れん。ちょっと面貸せよ」


 十月のある日の放課後。夕暮れ時の誰もいないオレンジ色の屋上で、俺は共通の友人である男友達に、激しい口調で問い詰められた。胸ぐらを掴まれんばかりの、怒りに満ちた視線。


「お前、ひまりに何て説明したんだよ? あいつ、クラスの女子に『私はれんくんと昔から付き合ってる婚約者だから』って言ってたぞ。おい、ふざけるなよ! お前ら、あの事故の前は、ただの一度も付き合ってなんてなかっただろ! ずっとただの幼馴染だったはずだ!」


「うるさい……! お前に何が分かる……ッ!」


 俺は友人の手を激しく振り払い、狂ったように叫び返した。


「俺はひまりを愛してるんだ! ひまりだって、俺を必要としてる! 記憶を失って怯えるあいつを支えられるのは、ずっと隣にいた俺しかいないんだよ!」


「それはお前の最低な嘘をあいつが信じ込まされてるからだろ! 記憶喪失につけ込んで過去を捏造するなんて、そんなの、本当の恋でも何でもねえよ! お前がやってることは、あいつの心を騙して縛り付けてるだけの監禁だ!」


「……監…禁」


 友人の剥き出しの正論が、俺の心の最も柔らかく、最も醜い部分を容赦なくブスリと突き刺す。

 分かっている。こんなものは綺麗な恋愛なんかじゃない。俺の独りよがりの、泥のような執念が生み出した虚飾の檻だ。だが、もう止まれなかった。一度目を覚ました時に「あなた、誰ですか?」と冷たく拒絶されたあの絶望を思い出すだけで、俺の精神は恐怖で狂いそうになる。

 ひまりの隣という特等席に居続けるためには、どれだけ魂を汚そうとも、嘘の上に嘘を重ね、まやかしを演じ続けるしかなかったんだ。

ご覧いただきありがとうございました。

何を前書きに足そうか迷ってる……

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