第一章DM 第六節「旅立ちの支度」
二十八年の歳月を越えた再会は、もうすぐそこまで来ていた。
ユーサクは、静かに旅立ちの支度を始める。
二十七時間か……長いな。
モニターの時刻を見つめながら、僕は小さくため息をついた。
僕は、それから夢中で荷造りを始めた。
もしかしたら、長い滞在になるかもしれない。
コートとセーターも念のため一着ずつ。
まあ、足りなければ買えばいいさ。
靴は、スニーカーと革靴。
それと丸めてもしわになりにくい、ジャージ素材のスーツを一着。
あとは適当にキャリーバックに詰め込んだ。
服を入れるたび、心の奥の空洞が少しずつ満たされていく。
まるで、過去へ旅立つための儀式のように……。
次に悩んだのは、息子のカヲルのことだった。
一緒に暮らしている以上、何も言わずに出るわけにはいかない。
どう話せばいいのだろう。
大学時代の友人が、たまには顔を出せと言うから……。
そう、半分だけ本当のことを言えばいい。
真実の半分は、いつだって人間を守るためにある。
この作戦でいこう。
そう決めた。
とはいえ、何か月も家を空けても大丈夫なのだろうか。
だが、ここは実家だ。母もいる。洗濯も、掃除も、食事の心配もない。
カヲルはもう二十四歳。
医大の五年生で、病院実習もすっかり板についた。
来年は国家試験。
最近は自分のことは自分で決め、僕に相談することもめっきり減った。
あの小さな背中を守るために生きてきた年月が、気づけば遠い記憶になっている。
もう大丈夫だ。
何かあれば、LINEでもメールでも連絡を取ればいい。
僕の助けなど、もう必要としていない。
……それより今は、アナスタシアだ。
アナスタシアの「うん」という短い返事が、頭の奥で繰り返し鳴り響いていた。
音のない部屋に、心臓の鼓動だけが響いている。
まるで、その鼓動が、アナスタシアの命の灯火のように思えた。
人は未来へ向かう時、なぜか過去を振り返るものなのかもしれません。
次回、白いソアラにのせた思い出が静かによみがえります。




