第一章DM 第五節「ジョージアへの切符」
たった一枚の航空券だった。
だがそれは、過去と未来を繋ぐ切符でもあった。
メールアドレスと住所も添えられていた。
手が震えた。まるで、二十八年前に封をした記憶が、突然、熱を帯びて蘇ったかのようだった。
気づけば、僕はもう返信を書いていた。悩む間も、考える余裕もなかった。
「航空券が取れたら、明日にでもそっちに向かう」
すると、すぐに返信がきた。
「うん、早くね。すぐに来てね」
ああ、アナスタシアは、僕が思い出に浸っている間、何時間もスマホを握って、ずっと、ずっと待っていたんだ。もしかしたら、この二十八年間、ずっと僕を待ち続けていたのかもしれない。胸の奥に、重たい痛みが走った。
僕は、自分の愚かさを呪った。
そう思った瞬間、胸騒ぎを覚えた。すごく嫌な感じがした。
アナスタシアの身に何かが起こっている。何か悪いことが起こっている。
すぐに行かないと、すぐに行かないと、二十八年前と同じ過ちを犯してしまう。
焦燥感に駆られ、僕は、スカイスキャナーを検索した。
だが、現実は冷たい。ジョージア行は便数も少なく、日本からの直行便もない。最短で取れるチケットは、三日後だった。
「ごめん、アナスタシア。三日後の切符しか取れなかったよ」
「大丈夫。あたし、大丈夫だから。必ず、その飛行機に乗ってね」
「必ず行くから。絶対に行くから。もう少し待っていて」
「うん」
その一言に、かすかな温もりがあった。
まるで、文字の代わりに、掌のぬくもりを感じたようだった。
僕は夢中で予約を完了させ、その画面をじっと見つめた。チケットの数字が、運命の刻印のように見えた。
たった一枚の電子チケット。
それが、僕の過去と未来を繋ぐ、最後の、切符だった。
出発八月二十九日(木)
フライト(一)
アシアナ航空OZ一三三便
一五:〇〇 FUK福岡空港発
一六:二五 ICNソウル仁川国際空港着
フライト時間 一時間二十五分
接続待ち時間 八時間五十五分
フライト(二)
カタール航空QR八五九便
一:二〇 ICNソウル仁川国際空港発
五:四五 DOHハマッド国際空港着
フライト時間 十時間二十五分
接続待ち時間 三時間五分
フライト(三)
カタール航空QR二五五便
八:四五 DOHハマッド国際空港発
五:四五 TBSトビリシ国際空港着
フライト時間 三時間十分
到着八月三十日(金)
総移動時間二十七時間。
ようやく彼女に会える。
それなのに、胸騒ぎだけが消えなかった。




