第六章穏やかな朝 第一節「目覚めのキス」
朝の光が、長い夢の続きを現実へと変えていく。
目覚めた先には、もう失いたくない笑顔があった。
小鳥のさえずりが、窓の外から聞こえてくる。
遠くの街路樹の葉が、そよそよと揺れる音を出す。
ゆっくりと意識が浮かび上がり、朝が訪れたことを知る。
いったい、どれくらい眠ったのだろうか。
レースのカーテンからは、明るい陽が、射し込んでいる。
白い壁に反射した光が、波のようにゆらめく。
僕は、手探りで、横にいるはずのアナスタシアを探す。
居ない。
あれは、やはり、長い夢だったのか。
体を起こし、辺りを見回す。
生成りのソファーには、白いシルクのパジャマが掛けられ、僕の着替えが用意されていた。
アナスタシアが、僕の荷物を解いてくれたのだろう。
うん、夢じゃない。
ここは、ジョージアのアナスタシアの部屋だ。
よかった。
「ゆうちゃん、起きた? おはよう」
扉の向こうから、明るい声がした。
アナスタシアが部屋に入ってきて、ベッドの端に腰を下ろす。
朝の光を受けて、髪がやわらかく光り、笑顔がまぶしい。
昨日よりも、少し綺麗に見えた。
僕は、アナスタシアを引き寄せ、唇を重ねる。
「もう、何よ。いきなり」
そう言いながらも、アナスタシアは嬉しそうに微笑んだ。
「おはよう」
「おはよう。ぐっすり、気持ちよさそうに眠っていたわね。やっぱり、疲れていたのね」
「うん。そうかも。今、何時?」
「十時過ぎよ」
「えっ、嘘? 僕、そんなに寝てたん?」
思わず笑ってしまう。
こんなに深く眠れたのは、いつ以来だろう。
アナスタシアと一緒にいると、体の芯がほぐれていく。
それは安心という名の、最も深い休息だった。
「そうよ。ぐっすりね。朝ごはん、食べるでしょ?」
アナスタシアの笑顔は、朝の光そのもののようだった。
アナスタシアもまた、僕がここにいることに、心を落ち着けているのかもしれない。
そう思うと、胸が熱くなった。
「うん」
「じゃあ、起きてきて。用意するから」
アナスタシアが軽やかに部屋を出ていく。
その背中を見送りながら、僕はゆっくりとベッドから降りた。
用意してくれたシャツに袖を通し、髪を整える。
リビングへ向かうと、アナスタシアの鼻歌が聞こえてきた。
ああ、なんて穏やかな朝なんだろう。
小鳥のさえずりと、フライパンの油の音と、アナスタシアの歌声。
すべてが混ざり合って、まるで音楽のように僕の胸を満たしていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、二人の穏やかな時間が、さらにゆっくりと流れていきます。
面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります(^^)
☆☆☆☆☆ ↓評価はこちら↓ ☆☆☆☆☆




