第五章時を埋める 第四節「満月の夜」
二十八年という長い時を越え、ようやく二人の想いが重なります。
幸せとは何か――その答えが、静かな満月の夜にありました。
そして僕は、幸せだ。
本当に、今、人生で一番、幸せな感じがする。
アナスタシアに、アンナに、エリナ、みんな大好きだ。
この幸せが、ずっと続いてほしい。
死ぬまで続いてほしい。
何万回生まれ変わっても、続いてほしい。
神様、お願いです。僕の、この、小さな願いを叶えてください。
そんな、取り留めも無いことをずっと考えていると、アナスタシアが戻ってきた。
僕の左隣に座る。
白いシルクのパジャマを着て、頬を紅潮させている。
化粧は、きれいに落としているが、その美しさは、変わらない。
いや、むしろ、この方が美しい。
僕だけにしか見せない、特別な顔。
本当の顔。
確かに、昔と比べ、肌はくすみ、目尻に小じわも出来てはいるが、それでも尚、美しい。
いや、それさえもいとおしい。
世界で一番、好きな顔。
アナスタシアは、僕の手を取り、自分の唇に近づけ、そっと僕の手の甲に唇をあてた。
そしてそのまま、僕の指を自分の頬に這わせた。
「好きよ、ゆうちゃん。もう、あたしを一人にしないでね」
その夜、僕たちは、二十八年ぶりに夜を共にした。
窓の向こうには、美しい満月がのぞいていることも知らずに。
第五章「時を埋める」も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
次章では、新しい家族として歩み始めた四人の日々を描いていきます。




