第四章新しい家族 第八節「葡萄畑へ続く未来」
人生は、ときに思いもよらない場所から、新しい未来へと続いていく。
あの日、僕たちの未来は、一面の葡萄畑の向こうで静かに待っていた。
「でも、よく覚えていたよね」
「当り前よ。だってこれ聞いた時、絶対、パパに教えてあげるって、思ったんだもん」
「ありがとう」
「ねえ、ユーサクさん。このワインはね、お母さんの友達の葡萄農園で作ったものなのよ。あたしたち、毎年、収穫の時期にその葡萄農園にお手伝いに行ってるの。もうそろそろじゃなかった? ねぇ、お母さん?」
アンナが、教えてくれる。
「そうねえ、確か、今週の週末じゃなかったかしら?」
「ねえ、ユーサクさん。一緒に行こうよ」
「ねえ、パパ。行くでしょ?」
最早、この二人は、天使のような笑顔で僕に、「行かない」という選択肢を与えない。
「じゃあ、行こうか」
「本当? やったあ、万歳!」
アンナとエリナが手を取り合って喜ぶ。
葡萄農園での収穫の手伝いか。まあ、確かに、面白そうだな。
グラスを持ったアナスタシアが、そっと僕の肩に頭を預けた。
その体温が、炎よりもやわらかく、静かに胸の奥までしみ込んでくる。
ああ、この瞬間が、永遠に続けばいい。
僕たちは、それから、アナスタシアとアンナが作ってくれた、おいしいジョージア料理を食べながら、たくさんおしゃべりをした。
エリナが、一番よくしゃべって、学校でのことを色々教えてくれた。
仲良しの女の子のこと。いじわるな先生のこと。大好きな男の子のこと。
笑い声が部屋いっぱいに広がる。
その音は、ワインの香りとともに、夜の静けさの中に、ゆっくりと溶けていった。
人生は、失ったものを数える物語ではなく、もう一度手にした幸せを大切にする物語なのかもしれません。
次章、葡萄の実とともに、四人の未来もゆっくりと実っていきます。




