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白い百合  作者: 森本有介
第四章新しい家族

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第四章新しい家族 第四節「家族の食卓」

エリナに手を引かれ、僕は初めて「家族」の席に着いた。

そこには、二十八年という歳月を埋める温かな食卓が待っていた。

エリナが、早速、僕のことを「パパ」と呼び、僕の手を引いて食卓まで連れて行く。


その「パパ」という言い方があまりに自然だったのか、あるいは、健気けなげなエリナの気持ちをおもんばかってか、アナスタシアもアンナも、エリナが僕のことを「パパ」と呼んだことについて何も指摘しなかった。


その瞬間、胸の奥で何かが確かに溶けた。


ああ、これが「家族」というものなんだ。


僕がエリナに手を引かれて座ると、左隣にアナスタシアが腰を下ろし、向かいにはアンナ、そしてアナスタシアの正面にはエリナがちょこんと座った。


「すごいね。これ全部、僕が寝てる間に作ったの?」


食卓の上に並んでいる料理の品数の多さに、僕は驚嘆した。


「そうよ。すごいでしょ? お母さんとあたしで作ったのよ」


アンナが誇らしげに言う。


その顔は、「大人に変わりつつある十八歳」というよりも、「あどけない、無邪気な少女」という顔だった。



お母さんの初恋のひと


そのひとを思って作ったのよ。


そう、ユーサクさんのためにね……。



そう言いたげだった。


「生地は、アンナにゆうちゃんを迎えに行ってもらってる間に仕込んでおいたんだけどね」


さらっと言ったその言葉とは裏腹に、僕を待ちわび、嬉しそうに心を込めて作っているアナスタシアの姿が目に浮かんだ。


アナスタシアの僕への愛が、じんわりと染み込んできた。



カントリー調の、無垢の木で出来た、その飾り気のない無骨な食卓には、中央に蠟燭ろうそく三本灯ともされ、その周りには、美しい花が飾ってある。


そしてたくさんのジョージア料理が、おいしそうな匂いと温かい湯気を立てながら並んでいた。


餃子のような「ヒンカリ」に、パンの船に、たっぷりのチーズと、卵とバターが乗った「ハチャプリ」に、ガーリックとミルクの香り漂う「シュクメルリ」に、あとは、名前は忘れたが、緑や茶色のペーストを、揚げた茄子やパンにのせて食べる料理など、どれもこれもが手の込んだ料理だった。



「ねえ、パパ。これ何て名前か知ってる?」


エリナが大きな瞳を輝かせて聞いてくる。


「ヒンカリ」


楽しそうなエリナの顔に僕も嬉しくなり、リズムよく答えた。


エリナの顔が、「思い通りにいかない」とねている。


ちょっと、かわいく見えた。


「なんだ……。じゃあこれは?」


エリナが次に指差したのは、とろけるチーズに卵黄がのった黄金色のパン。


「チーズパン」


僕は、間違えて見せる。


エリナの顔に笑顔が戻った。


「残念でした。これは、『ハチャプリ』っていうのよ。ちゃんと覚えてよね」


エリナの嬉しそうな声が部屋いっぱいに響いた。


「ありがとう。『ハチャプリ』ね」


小さい女の子って、なんてかわいいいんだろうか。


カヲルの時とは、また違ったかわいさがあるな。


「じゃあ、今度はヒンカリ、食べてみて」


エリナが期待のまなざしを向ける。


「いいよ」


僕は、フォークでヒンカリを突き刺した。


その穴からスープがお皿にあふれていく。


エリナが声を上げて笑う。


「もう、パパ、しょうがないなあ。あたしが教えてあげるから、ちゃんと見ててよ」


エリナがあきれた顔をしてみせた。


そして嬉しそうに、ヒンカリの絞り込んである、つまみのような形の部分を手で持ってひっくり返し、底をちょっとかじって穴を開け、開けた穴からこぼさないように注意しながらスープを飲み、最後に皮と一緒に中の具を食べて、つまみのような部分を取り皿に置いた。


「いい? これが、ヒンカリの食べ方よ。もう、間違えないでよ」


エリナは、アナスタシアのまねをして、まるでお母さんのように、僕に自信たっぷりな顔で教えてくれた。



まるでアナスタシアが幼い頃に戻ってきたようだった。



その顔があんまりかわいらしくて、僕もアナスタシアもアンナも大笑いした。


エリナには訳が分からず、ぼんやりとしている。



アナスタシアが、僕にそっと目くばせしてきた。



わざと間違ったことに気づいたのか。


まあ、そうだよね。


あれだけ食べたんだから……。



湯気と笑い声に包まれた食卓。


家族という名の灯りが、今、静かにともった。



あの日の食卓には、料理の湯気と同じくらい、家族のぬくもりがあふれていました。

次回、二十八年前の「思い出の味」が静かによみがえります。

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