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白い百合  作者: 森本有介
第四章新しい家族

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第四章新しい家族 第二節「カモミールの眠り」

二十七時間の長い旅の疲れは、一杯のカモミールティーが優しく癒やしてくれた。

そして目を覚ました僕を待っていたのは、小さな春の妖精だった。

しばらくして、アナスタシアがハーブティーの良い香りを漂わせながら、綺麗な赤いバラの描かれている華奢きゃしゃな紅茶茶碗を持って近づいて来た。


「ゆうちゃん、コーヒーの方が好きだったけど、うち、今、コーヒー無いからカモミールティー飲む?」


少し不安げに、でもどこか嬉しそうに、アナスタシアが微笑んだ。


ああ、アナスタシアは、二十八年前から何ひとつ変わっていない。


そんな些細な気づかいに、僕の胸は甘くとけていく。


「うん、飲むよ。最近、でも、紅茶も時々飲むんだ」


そう言いながら受け取ると、アナスタシアは、ほっと、安堵したように微笑みを浮かべた。


「本当? じゃあどうぞ」


「ありがとう。すごく良い香り」


「でしょ?」


アナスタシアが入れてくれたカモミールティーを一口飲む。


やさしい甘みと淡い苦みが、舌の上で溶けた。


鼻からカモミールの甘くさわやかな香りが抜けてきて、体中に広がっていくのを感じる。


心が、ほろほろとほどかれていくようだ。


アナスタシアの微笑みも柔らかくほどけた。


「おいしい」


「よかった。ご飯が出来るまでゆっくりしてて。ゆうちゃん、疲れてるでしょ」


遠い昔、聞いたような言葉に、僕は、心がほんのりと温かくなっていくのを感じた。


そしてそれは、優しく、甘く、僕の身体からだに溶け込んでくる。


心地よい音階と振動。


「うん。そうかもね」


僕は二人が夕飯の準備をしている間、キャリーバックとリュックサックを開けて荷物の整理をしようと思っていたが、生成りのソファーに座ってくつろいで、注いでもらったカモミールティーを飲んでいると、急に眠気が襲ってきた。


忘れかけていたが、僕は、二十七時間の大移動を終え、くたびれ果てていた。




「ねえ、起きて、起きて。ご飯食べようよ」


遠くから、鈴のような声が聞こえてきた。


まぶたの裏にあたたかな光が差し込み、僕はゆっくりと目を開けた。


薄い毛布が肩に掛けられている。


どうやら、眠ってしまっていたらしい。


まだ夢の中にいるような感覚のまま、ゆっくりと体を起こす。


すると、すぐ隣に、小さな女の子がちょこんと座っていた。


青く澄んだ目。


柔らかく波打つ金髪。


アナスタシアの面影がそのまま宿っている。


百三十センチほどの背丈に、二十五キロくらいの軽やかな体つき。


肌は透き通るように白く、頬はうっすらと桜色。


大きな丸い目と小さな鼻、そして、笑うと花が咲くような口元。



彼女は、まるで春の妖精のようだった。



カモミールの優しい香りに包まれ、長い旅の疲れも静かに消えていきました。

次回、いよいよエリナとユーサクが初めて出会います。

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