第三章再会 第三節「抱擁」
二十八年という歳月は、二人の心を離すことはできなかった。
再会の抱擁は、失われた時間さえ優しく抱きしめていた。
「アナスタシア」
どちらからともなく、引き寄せ合った。
抱き合った瞬間、世界が、静止した。
強く、力強く。
二十八年分の思いを込めて。
後悔と愛情を。
そして、唇を重ねた。
涙がこぼれた。
その涙が互いの頬を伝い、境界を消していく。
それでも僕たちは、力強く抱きしめ合い、唇を重ね続けた。
どれほどの時間、そうしていたのだろう。
永遠にも、刹那にも感じられた。
離れた所から、アンナのすすり泣く声が聞こえてくる。
その小さな嗚咽が、まるで時の鐘のように、現実へと僕を引き戻した。
僕は、アナスタシアの顔をまじまじと見つめる。
今のアンナのように瑞々(みずみず)しく、きめの細かかった肌はくすみ、涙の流れたあとのある目尻には、うっすらと小じわが出来ていた。
「あたし、おばあちゃんになったでしょ?」
アナスタシアが恥ずかしそうに言う。
その仕草さえ懐かしくて、胸が詰まる。
「いや。そんなことないよ。アナスタシアはアナスタシアのままだよ。すごく綺麗だよ」
「本当?」
「うん。すごく綺麗だよ」
「……うん」
アナスタシアが僕の胸に顔を埋めた。
その瞬間、心の奥底で何かがゆっくりとほどけていく。
「でもなんか、こうしていると落ち着く。『ここが僕の居場所』って感じがする」
「あたしも」
もう一度、唇を重ねる。
今度は、ゆっくりと。
愛の記憶をなぞるように、静かに、深く。
アナスタシアの僕への愛が、全身に広がっていく。
柔らかく、優しく、僕の体の中へ、深く、深く、溶け込んでくる。
ゆっくりと穏やかに。
そして、体中に愛が溢れてくる。
それは、愛というより……赦しのようだった。
「ねえ、アナスタシア」
「何?」
「好きだよ」
「ちゃんと『愛してる』って言って」
「愛してるよ。アナスタシア」
「あたしも……」
互いの声が溶け合い、部屋の空気がゆっくりと震えた。
時間は流れていた。
しかし、その流れのすべてが、いま、二人の間で止まっていた。
抱きしめ合ったその温もりは、二十八年という空白を静かに埋めていった。
そして僕たちは、失われた時間を少しずつ語り始める。




