第二章出発 第六節「再会の扉の前」
長編小説「白い百合」が、『小説家になろう』純文学週間(連載中)ランキングで9位にランクインしました。
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二十八年という歳月を越え、ついに運命の再会の時が訪れます。
けれど、その場所には、どこか言葉にできない重苦しい空気が流れていました。
だが、気まぐれな十八歳の少女は、ときに僕を軽く弄ぶ。
その笑い声が、どこか懐かしく、そして、少しだけ胸を刺した。
やがて、アンドレイが運転するタクシーが、古ぼけた七階建てのアパートの前に停まった。
その辺りには、同じような、おそらくはソ連時代の、四、五十年くらい前の建物がたくさん建っていた。
壁の塗装は褪せ、鉄の手すりには長年の錆が食い込んでいる。
だがその古さが、なぜか懐かしい。
時間の風が吹き抜け、建物の隙間に、まだ生きている街の匂いがした。
約束通りの金額にその半分のチップを乗せ、アンドレイに渡すと、喜んで何度もお礼を言ってきた。
そして車から降りて、荷物を降ろしてくれた。
帰り際に、アンドレイが僕の肩を叩き、
「二度と大事な女を手放すなよ」
その言葉は、冗談めかしているようでいて、なぜか胸の奥に深く響いた。
「ああ、分かっているよ。この二十八年、身に染みたよ」
僕がそう答えると、アンドレイは満足そうにうなずき、握手をして、最後に、電話番号が書いてある紙切れを僕に渡し、
「トビリシにいる間は、いつでも呼んでくれ」
そう言って帰って行った。
上手いアンナの通訳に、ついに僕は、アンドレイが日本人であるかのような錯覚に陥った。
陽気なアンドレイが去った後、僕とアンナは、その古ぼけたアパートの前に取り残された。
空気が澱んでいる。
重苦しい。
高いアパートが密集しているせいか。
僕の気が重いせいか。
目の前には公園がある。
七、八人の子供たちが、何度もペンキを塗り重ねられた古い遊具で遊んでいた。
でも僕には、その喧騒はまったく聞こえてはこなかった。
いよいよ、アナスタシアに会える。
僕は、現実に引き戻され、嬉しさと不安が入り混じっていた。
さっきまであんなに明るかったアンナの顔まで、心なしか暗く見える。
まるで、これから僕が出会う運命の重さを、彼女だけが知っているかのように……。
長い旅は終わり、いよいよ運命の再会が始まります。
次回、二十八年間止まっていた二人の時間が、再び動き出します。




