第二章出発 第五節「ジョージアへの道」
アナスタシアまで、あと少し。
ジョージアの風を感じながら、ユーサクは運命の再会へ一歩ずつ近づいていきます。
「ねえ、もう行こっ。お母さんは、ここからバスで一時間くらい行ったところにいるから」
アンナが痺れを切らしたように言った。
朝からどれくらい待っていてくれたのだろう。
その言葉に、胸の奥で小さな痛みが走る。
「じゃあ、タクシーで行こう。バスより早いでしょ?」
「そんなに早く会いたいんだ」
アンナがわざとらしく冷やかすように笑った。
その目の奥が、なぜか少しだけ優しく光っていた。
「うるさい。それより両替を探して。米ドルと日本円しか持ってないんだ」
アンナは手際よく空港の一角にある両替カウンターを見つけ、ジョージア・ラリへと五万円分を替えてくれた。レートは少し悪い気もしたが、空港だからしようがない。
それから、僕とアンナは、空港の建物の外に出た。
心地よい風が吹いてくる。
空は、日本のように真っ青だ。確かに天気はいいのだが、暑くはない。空気がさらっとしている。湿度が低いのだろう。とても心地よい。 蒸し暑かった日本とは大違いだ。いや、あれは、オーブンの中で焼かれていると言っても嘘じゃない。
「アンナ、タクシーと交渉するから手伝って」
「分かったわ」
タクシーを見つけ、アンナに通訳してもらい、金額を聞く。これがジョージアでは高いのか、安いのか、よくは分からないが、日本のタクシーよりは随分、安いから、まあ、よしとしよう。
アンナが通訳してくれたタクシー運転手は、気のいい奴だった。運転が少々荒く、おしゃべりだけど。名前はアンドレイとか言っていた。見た感じ、身長が百八十センチで、体重が九十キロってところの大男だ。年齢は、三十五、六だろうか。同い年の、アンドレイ曰く、ジョージア一美人の奥さんと、五歳と三歳の二人の息子がいるそうだ。
陽気な笑い声の奥に、ふと、家族を思う静けさが滲んでいた。
「おいお前、中国人か?」
「いや、日本人だよ」
「こんなとこに日本人が何しに来たんだ?」
僕が答える前に、アンナが何か言っていた。
アンドレイは豪快に笑い、アンナも声を立てて笑っている。
内容は分からないが、きっと僕をからかっているのだろう。
悪い娘だ。
車が走り出すと、街の景色がゆっくりと流れ出した。
石畳の道、レンガ造りの古い建物、遠くの丘の上には、古い教会の尖塔が霞んでいる。
異国の風景の中で、僕の胸だけがやけにざわついていた。
アンナが通訳してくれるその声を聞いていると、まるで僕とアンドレイが日本語で話しているような錯覚に陥る。
発音も、抑揚も、驚くほど自然だった。
ああ、アンナは本当にアナスタシアの娘なんだ。言葉の端々に、アナスタシアの意志が息づいている。
再会の場所は、もう目の前でした。
次回、二十八年という歳月を越えた、運命の再会が始まります。




