第二章出発 第三節「出会い」
本日、長編小説「白い百合」が、『小説家になろう』純文学日間ランキングで10位にランクインしました。
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二十八年という歳月は、人を変える。
けれど、変わらない面影も、この世界には確かに存在していた。
まだ朝の七時前だった。
空港のロビーは、夜明けの名残を留めた淡い光に包まれている。
長旅の疲れがどっと押し寄せ、思考は霞んでいた。……八時頃まで時間を潰してから出るか。それとも、今すぐ出発するか。迷いながらも、胸の奥では答えが出ていた。一刻も早く、アナスタシアに会いたい。アナスタシアの顔を、この目で確かめたい。今すぐに、今すぐにでも。アナスタシアだってきっとそうに違いない。
そう信じて、僕はタクシーを探そうと足を踏み出した。
……そのときだった。
「ぼんやりしていると荷物を盗られますよ。ここは安全な日本じゃないんだから」
流暢な日本語。聞き覚えのある声だった。
反射的に振り向いた瞬間、僕の胸が凍りついた。
そこに立っていたのは、若き日のアナスタシア、そのものだった。
信じられない。
あの笑顔、あの青い瞳。木彫りの人形のような高い鼻。背中の真ん中まである、長く、艶やかな金髪。背の高さは、僕と同じ、百六十八センチくらいだが、体重は、四十五キロくらいに見える。かなりスリムで、とにかく足が長い。そして、顔も小さい。並んで歩くと、僕の足の短さと、顔の大きさが目立って恥ずかしくなる。そんなとこまでアナスタシアにそっくりだ。
僕の記憶の中に封じ込めた、二十歳のアナスタシアが、そのまま時を超えて現れたようだった。
「……アナスタシア?」
震える声でそう呼んだ。
少女は小さく肩をすくめ、唇の端を上げた。
その笑みの癖までも、アナスタシアと同じだった。
「残念でした。あたしは、アンナよ。ユーサクさんの大好きなアナスタシアの娘」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
目の前に立っていたのは、アナスタシアではなく、その面影を受け継いだ娘・アンナでした。
次回、二十八年間の空白を埋める会話が静かに始まります。




