第二章出発 第二節「二十七時間の旅路」
人生には、どれほど遠回りをしても辿り着きたい場所がある。
今回は、ユーサクがアナスタシアの待つジョージアへ降り立つまでのお話です。
時間になり、搭乗する。
初めての電子チケットで緊張していたが、すんなりと乗れ、なんだか拍子抜けした。
ビジネスクラスの、少し、ゆったりとしたシートに身体を沈めていても、なんだか落ち着かない。胸の奥がそわそわとする。離陸の振動さえも、どこか遠い出来事のように感じた。
機内食は、韓国料理だとか、中東料理だとか、いくつか出てきたが、味はまるで分からなかった。舌も心も、もう別の場所に置き忘れてきたようだ。
窓の外では、雲の層がゆっくりと流れていく。
地上の時間が、あっという間に遠ざかっていった。
この白い雲のどこかに、アナスタシアの住む空がある。
そう思うと、なぜか息苦しくなった。
二回の乗り継ぎ。
八時間を超える待ち時間。
空港スタッフに道を尋ね、ラウンジで時間を潰し、無機質なモニターを何度も眺めた。
だが、どの国の空港にいても、どんな景色を見ても、頭の中はアナスタシアでいっぱいだった。
現実感が徐々に薄れていく。
まるで、夢の中を歩いているようだった。
そして、二十七時間の大移動を終えた。
降り立ったのは、異国の風が吹くトビリシ国際空港。
長い時間の果てに、ようやくアナスタシアのいる地に着いたのだ。
トビリシ。
人口百五十万ほどの、ジョージアの首都。ヨーロッパとアジアの狭間に佇む、美しい古都。
歴史ある建物と、やわらかな人の気配が交錯する街。
空港のガラス越しに見える遠い灯りが、心の底に沈んでいた記憶を少しずつ溶かしていく。
あの夜、二十八年前の夏の空気が、ふと甦る。
アナスタシア。
僕は、ようやく帰ってきた。
ようやく辿り着いた再会の地。
しかし、ユーサクの前に現れたのは、記憶の中のアナスタシアによく似た少女でした。




