第二章出発 第一節「灼熱の空の下で」
二十八年前、伝えられなかった言葉がある。
今回から第二章「出発」。運命の再会へ向けて、物語が大きく動き始めます。
それから瞬く間に三日間が過ぎて、出発の日が来た。
朝からじりじりと照りつく強い日差しで、空は真っ青で、絵に描いたようなきれいな入道雲が出ている。蝉の鳴き声がそこら中に響き渡っていて、まさに「夏」っていう感じだ。何もしなくても額から汗が吹き出す。まだ、朝の八時過ぎだというのに、現在、気温三十三度。日本はいつから熱帯になったのだろう。この分なら、今日も三十五度を超えそうだ。
本当なら久しぶりの旅行で浮足立っているはずだが、今回ばかりは不安に押しつぶされそうだ。二十八年ぶりにアナスタシアに会えるというのに。心配で、心配でしようがない。
でも多分、僕の不安は確実に当たっている。
だいたいあの、人に弱みを見せるのが大嫌いなアナスタシアが、昔の男であるこの僕に助けを求めているのだから、よほどのことに違いない。
アナスタシアは、今、絶体絶命の危機に瀕しているのだ。
とにかく実際に会って、そのことを確かめてみよう。
出発の二時間くらい前に福岡空港に着き、チェックインカウンターで無事にチェックインし、保安検査を終えた。
一安心する。
ラウンジに入り、コーヒーを片手にノートパソコンを開く。忘れないうちに、FXの全ポジションをスクエアにした。ジョージア滞在中に何が起こるか分からない。電波が悪く、情報が遅れることもある。
これで、ようやく心置きなく出発できる。……そう自分に言い聞かせる。
ラウンジが徐々に賑わってきた。顔を上げ、周囲を見渡すと、ビジネスマンが半分、旅行者が半分。そのうちの四割ほどが外国人だった。福岡も、ずいぶん国際的になったものだ。
コーヒーを飲みながら、クッキーをつまみながら、ぼんやりとそんなことを考えて気を紛らわそうとしたが、やはり頭に浮かんでくるのは、アナスタシアのことだ。
いったい、この二十八年間、どんな暮らしをしてきたんだろうか。
そして今、アナスタシアの身に何が起こっているのだろうか。
考えれば考えるほど、胸の奥がざらついていく。心の中で鳴り続けるのは、蝉の声ではなく、あの日、言えなかった「結婚しよう」だった。
搭乗時刻のアナウンスが流れる。
席を立つとき、胸の奥で何かが微かに鳴った。
不安と期待と、祈りにも似た響きだった。
僕は、アナスタシアの待つ空へ向かった。
二十八年ぶりの再会まで、あと少し。
しかし、最初にユーサクの前に現れたのは、アナスタシアによく似た一人の少女でした。




