第八話 予約の時間
翌朝、予約帳の名前を見た。
昨夜、延期の連絡はなかった。それでも、来ると決まったわけではない。
相談だけでもいい。施術を受けなくても、料金はかからない。
伝えておけばよかったと思い、通信魔道具を手に取った。けれど、画面を開いたところで止まった。
来てほしくて、安心できそうな言葉を並べる。
昔の自分と、どこが違うのだろう。
昨日、不合格になったことも、認定がないことも事実だ。それでも選んでもらえると思うのは、都合がよすぎるのかもしれない。
予約の時間になった。
入口の鐘は鳴らなかった。
*
十五分ほど過ぎてから、扉が開いた。
女性は私を見ると、すぐに頭を下げた。
「遅くなって、すみません」
「いえ。どうぞ」
来てくれた。それだけで安堵する。
椅子を引くと、女性は座る前に店内を見回した。
認定の印を探しているのかもしれない。
そう考えてしまう自分が嫌だった。
「今日は、まだ施術を受けるか決めていないんです」
「はい。まず、お話を伺います」
女性が座った。鞄を膝に置いたまま、口元に手をやる。
「エデンにも、行ってきました」
私は向かいの椅子へ座った。
昨日の連絡のあと、直接説明を受ければ納得できると思ったのだという。延期したい理由を話すと、担当者は施術を受けたほかのお客様の写真を見せてくれた。
綺麗になった人が、何人もいた。
続けたから変わったのだと説明された。
「私も、そうなりたくて申し込んだんです」
女性は鞄から予約票を出した。昨日より折り目が増えていた。
「だから、やめたいわけじゃなくて」
「はい」
私は続きを待った。
女性は票の裏へ目を落とした。
「昨日、お金が戻るかも聞いてみたんです」
受けていない施術が、まだ何回もある。それなら、しばらく肌を休めてから、改めて考えられると思ったらしい。
返金はできないと言われた。
用意した商材と、確保した予約枠。その費用がかかっているためだという。
「それで……」
女性が予約票を裏返した。
下の方に、昨日の日付が書き加えられていた。その横には短い注意書きがある。
〈認定外店舗でのお手入れによる状態変化は、当店の対応対象外となります。〉
私はその文字を読んだ。
ここで手入れを受ければ、何かあっても対応しない。
昨日の電話より、はっきり残る形になっていた。
女性は私を見た。
「今日は、ここで何もしないでください」
私はうなずいた。
けれど、女性は帰ろうとはしなかった。予約票を机へ置き、鞄の持ち手から指を離した。
「一緒に、読んでもらえますか」
もう一枚、折り畳んだ紙が出てきた。
エデンで交わした契約書だった。
「私、何に同意したんでしょう」
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