第七話 断る理由
予約票には、今日と同じ施術名が書かれていた。
その下に、複数の日付が並んでいる。
私は顔を上げた。
「来週だけではないんですね」
「はい。まとめて申し込んだので」
女性は予約票を折りかけ、手を止めた。
「今日やめたら、来週は受けてもいいんでしょうか」
私には、約束できなかった。
一週間あれば落ち着くのか。それまで何を使い、どんな変化があるのか。何も確かめないまま、日付だけで答えることはできない。
「来週のお肌の状態を見て、判断する必要があります」
女性は予約票へ目を落とした。
「まだ、こんなに残っているんです」
支払い済みの印があった。
受けなければ、払った分が無駄になる。
その気持ちは分かった。私も、不合格の用紙を鞄へ入れたばかりだった。
*
店へ戻り、翌日の空いている時間をご案内した。
女性は通信魔道具の予定表を開き、少し迷ってから予約した。
施術を受けるためではなく、まず相談するための時間。
説明すると、女性は何度かうなずいた。
それから、エデンへ連絡したいと言った。
私は席を外そうとしたが、女性に呼び止められた。
「ここで、電話してもいいですか」
窓際の椅子を勧めた。
女性は予約票を膝に置いて、魔道具を操作した。
来週の施術を延期したい。
その言葉を伝えたあと、返事を聞きながら、少しずつ背中を丸めていった。
「いえ、嫌になったわけでは……」
予約票の端が、指の間で曲がる。
「今日の研修で、肌を休めた方がいいと言われたので」
私は受付に立ったまま、その声を聞いていた。
女性がこちらを見る。
「リネさんという方です」
名前を伝えてから、しばらく黙った。
「……はい」
私は顔を上げた。
女性は返事を聞き終えると、魔道具を膝へ下ろした。
「何とおっしゃっていましたか?」
女性はすぐには答えなかった。
「リネさんは、今日の認定試験に落ちた方ですよねって」
鞄の中に、不合格の用紙がある。
私はうなずいた。
女性の指が、私の店の案内へ触れた。
「認定のない店で肌を傷めた場合は、責任を持てないそうです」
私は口を開いた。
まだ、この人の肌には触れていない。
その言葉が出かかったとき、女性が案内を予約票の下へ戻した。
「明日の予約、少し考えてもいいですか」
「……はい」
そう答えるしかなかった。
女性が帰ったあと、予約帳を開いた。
明日の欄に書いた名前を、私はまだ消せなかった。




