第七十四話 誰の血か
「レオンハルト陛下!」
また、部下が紙を持ってきた。
次は何だ。
「聖女様の血を求める声が、街で広まっております!」
――何を言っている。
昨日、王城にいくつもの知らせが届いた。
令嬢の了承を得ないまま、血を使った商いを進めた司教がいたという件。施術を受けた令嬢が、身体の不調を訴えているという件。どちらも、頭を抱えるものばかりだった。
医療と呼べるものは、原則として神殿ギルドが管轄している。
身体への負担を確かめたくとも、こちらで頼れる者は少ない。動きたくても、動けないのだ。
神殿は、施術のあとに休めば問題ないという。
だが、そう説明した相手から、不調の訴えが出ている。
一件ならば、まだ収拾もつけられた。しかし、訴えは着実に増えている。
このままでは、神殿と貴族の争いになる。
そこへ、この紙だ。
問い返すと、部下は青い顔で答えた。
貴族向けに聖女の恵みが売られている、という噂があるのだという。販売部門には、価格を尋ねる問い合わせまで届いていた。
神殿の商いは、すでに調べさせている。
だが、聖女の名を冠した商品など、報告のどこにもなかった。
「聖女は、血を提供したのか?」
部下は、そのような事実はないと首を横に振った。
一瞬、胸をなで下ろした。
だが、差し出された紙には、確かに価格を尋ねる言葉が並んでいた。
売られていないのに、買おうとする者がいる。
その意味に気づいて、背筋が冷えた。
聖女の出自を知る者は、今や王城にもほとんどいない。
彼女は旧王家の血を引く、唯一の正統な継承者だ。
その血が、いくらで買えるのかと問われている。
金で買えるものではない。
買わせてはならない。
神殿を調べれば、枢機卿にも話が伝わる。
即位の際、私を支えたあの男へ、先に告げるべきなのだろう。
だが、事は一刻を争う。
聖女の身に何かあれば、取り返しがつかない。
「王室特務局に権限を与える。神殿を調査せよ」
たとえ、あの男の顔を潰すことになっても。




