↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/76

第七十三話 聖女様の恵み

 血を使った商品をお求めになるお客様が、増えてきた。

 一般向けにも、『高貴な恵』という名で販売が始まったらしい。


 当店では扱っていないとお伝えすると、残念そうにされる方もいた。

 いつも香油を買ってくださるお客様から、取り寄せられないかと頼まれたこともある。


 扱うべきなのかと、考えることはあった。

 けれど、売れるたびにまた誰かが血を抜くと思うと、どうしても仕入れる気にはなれなかった。


 買い物へ出ても、その商品の話が耳に入った。

 人気があるのは、一般向けの商品を作るために、ご自分から名乗りを上げた男爵家のご令嬢なのだという。


 店の窓には、肖像が飾られていた。

 小さな瓶が並び、値札を見た女性が、連れの方を呼び寄せている。


 扉が開くたび、店員の礼を言う声が通りへ漏れた。

 出てきた女性は軒先で包みを開き、連れの方へ瓶を見せていた。買い物籠から、長い葉野菜がはみ出している。瓶をしまう場所に困ったらしく、包みは連れの方へ預けて、二人で笑った。


 以前は貴族街でしか見かけなかったものが、いつもの買い物道にあった。


 窓の肖像と目が合った気がして、足を速めた。


 向かいの青果店から、果物を勧める声が飛んでくる。

 荷車を避けて道の端へ寄ると、花売りのそばで立ち話をしている女性たちの声が聞こえた。


「聖女様の恵みもあるって、本当なのかしら」


 足が止まった。


 聖女様の恵み?


 神殿から商材の案内は毎日届く。血を使ったものは断っていたが、その中に、聖女様のものまであったのだろうか。

 聖女認定店として、同じようにお断りしてよいものなのか。


 気になって、お店へ戻り、案内を読み直した。


 やはり、そのような商品は見当たらなかった。


「マルタさん。聖女様の恵みについて、ご存じですか?」


「いえ。私も案内を確認しましたが、そのようなものはありませんでしたよ」


 マルタさんも街で噂を聞き、調べていたそうだ。

 以前の仕事で知り合った方にも尋ねたが、扱っている店を知る人はいなかったという。


 よかった。


 貴族様の商品は断っておきながら、聖女様のものなら置きますなど、言えたものではない。


 そのとき、魔道具が鳴った。

 ルチアさんからの連絡だ。


『リネさん。クラリス様の件が片付きましたので、ご報告いたします。商品の販売を停止し、回収を進めております』


「わざわざ、ありがとうございます」


 販売まで止めてほしいと、私からお願いしてよいものか悩んだ。

 それでも、クラリスさんのお話をお伝えしてよかった。


 胸の奥が、少しだけ軽くなった。


「あの、聖女様のことで、噂を聞いたのですが……」


 隣で聞いていたマルタさんが、魔道具へ顔を寄せた。


 画面の中で、ルチアさんが珍しく首を傾げる。

 いつもきびきびとしているのに、こうして見ると年相応で、可愛らしかった。


「聖女様の恵みも売られていると。血を使った商品のことだと思うんですが」


 ルチアさんが、目を見開いた。


『……何を仰っているのか、お分かりですか?』


 いつもより、ずっと低い声だった。

 先ほどとは違う。明らかに怒っている。


 背中が冷えた。


「あ……いえ、街でそういう噂を聞いたものですから……すみません」


 私もすぐに謝り、経緯を伝えた。

 街で耳にすることが増え、聖女様の商品も案内されていたのかと、二人で確かめていたのだと。


 話している間に、ルチアさんの後ろで誰かが立ち上がった。

 そばの人へ声を掛け、部屋を出ていく。別の人も書類を抱えて、そのあとを追った。


『リネさん。マルタさん』


「はいっ」


 自分でも驚くほど、甲高い声が出た。


『そのお話は、ほかの方には決して口になさらないでください』


 分かりましたと答えようとした瞬間、


『聖女様の血を求めれば、ご本人だけの処罰では済みません』


 画面が、ぷつりと消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。