第五話 合格の条件
冒険者ギルドに頼んでいた、お客様の紹介について返答が届いた。
〈継続紹介の対象は、指定の認定を受けた店舗に限ります。〉
私は書面を机に置き、予約帳を開いた。
明日は一人。明後日は空欄。
今のお客様だけでも、店を続けられないわけではない。ただ、商材を仕入れ、家賃を払い、自分の生活費を残すと、月末には何度も帳面を計算し直していた。
認定があれば、紹介を受けられる。
そのための研修を、私はまだ申し込んでいなかった。
書面の下には、神殿ギルドの印がある。
エデンの案内と、同じ印だった。
*
研修会場へ入ると、受付で番号札を渡された。
講師は、エデンに勤める女性だった。
私は席に座り、その人が資料を配るのを見ていた。商材の説明は短かった。続いて始まったのは、提案と契約の講義だった。
「お客様は、迷われます。その迷いを解消するのも、私たちの仕事です」
書き留めようと、資料の余白へ筆先を近づけた。
「今始めないと後悔しますよ。そう、はっきりお伝えしてください」
書けなかった。
隣の受講者が、その言葉に線を引いていた。
*
実技では、研修に協力するお客様を一人ずつ担当した。
私の前に座った女性は、頬を気にしていた。確認すると、ところどころ皮がむけている。昨夜も、自宅で強い手入れをしたという。
用意された施術は、さらに肌へ負担をかけるものだった。
「今日は、この施術をお勧めできません」
女性が顔を上げた。
背後で、講師の筆が止まった。
「理由を説明してください」
私は肌の状態と、昨夜使ったものについて話した。
講師は聞き終えると、評価用紙を机へ置いた。
「今回は、指定された施術をご提案いただく試験です」
「今の状態でも、ですか?」
「使用量と時間を守れば、実施できます」
あのときも、量と時間を守れば大丈夫だと思っていた。
お客様が痛がっている理由より、決められた手順を優先した。
講師が評価用紙を指した。
提案成立欄に、合否と書いてあった。
女性は私と講師を交互に見た。
「受けた方が、いいんでしょうか」
私は女性へ向き直った。
「今日は、肌を休める方をお勧めします」
講師が、私の横へ来た。
「それでは、認定の条件を満たせません」
頭の中で予約帳の空欄が浮かんだ。
ここまで来たのに。
必要な説明だけして、女性が決めたことにすればいい。私は提案しただけだと言える。
膝の上で、指を握った。
講師は私の返事を待たず、女性の向かいへ椅子を引いた。
「担当を替わります。見ていてください」
女性に笑いかける。
「今始めないと、後悔しますよ」
講師が商材へ伸ばした手を私は止めた。




