第四十六話 訂正と謝罪も、一緒に
〈私たちが教わったことも、間違っていたんですか?〉
届いたのは、研修を受けていた人からの連絡だった。
マルタさんは画面を読み、顔を上げた。
「店の子ではありませんでした」
それから、もう一度文字を見る。
私はそばを離れた。
*
マルタは受講者の名前を見た。
覚えている。
力の加え方も、商材の量も、何度も自分に確認していた人だ。試験に合格した日は、礼を言いに来てくれた。
〈来週、初めてお客様に施術をします。最近、肌がしみることもあるそうですが、試験と同じように行えばいいでしょうか。〉
マルタは手帳を開いた。
使用量と時間を守れば、実施できます。
研修で繰り返した説明が、自分の字で残っていた。
リネが試験で施術を断ったときも、そう言った。
昨日も、客が我慢できると言った途端、同じ説明を始めていた。
魔道具へ返事を書いた。
〈お客様の状態を確認し、責任者へ相談してください。〉
送ろうとして、指が止まった。
これでは、なぜ教わった通りにしてはいけないのか、分からない。
受講者が信じているのは、自分が教えた言葉だった。
マルタは、もう一度入力した。
〈試験と同じ手順なら大丈夫、とは言えません。肌がしみると伺っているのであれば、そのまま施術を進めず、まず状態を確認してください。〉
そこで手が止まった。
今の自分に、どこまで言えるのか。
「リネさん。一つ、確認していただけますか」
リネは画面を読み、うなずいた。
「この情報だけで、施術してよいとは言えませんね」
マルタは礼を言い、画面を自分へ戻した。
返事の下へ、書き加える。
〈研修で私が説明した「使用量と時間を守れば実施できる」という言葉は、不十分でした。肌の状態によって、行わない判断が必要になることを、十分にお伝えしていませんでした。申し訳ありません。〉
自分の名前で、間違いを認める。
これを、ほかの講師に見せられたら。責任者の耳へ入ったら。間違って教えていたのだと言われるかもしれない。
何度も質問に来てくれることが、嬉しかった。自分の説明を頼りにして、試験に合格してくれた。店を辞めさせられても、その人たちの役には立てたと思っていたかった。
訂正を送れば、あのとき教えた内容まで疑われる。
マルタは、最後の段落を選んだ。消せば、施術を止める返事だけは残る。自分が間違っていたとは、書かずに済む。
けれど、この人は今も、教わった通りなら大丈夫だと思っている。その言葉を信じたまま、来週、お客様の前に立つ。
大丈夫だと、何度も答えたのは自分だった。
マルタは選択を解除した。
訂正と謝罪を残したまま、送信した。
*
返事を待つ間、マルタは盆を用意した。
瓶を取ろうとして、棚の前で止まる。
「今日、使うものを教えてください」
リネが隣へ来た。
一本ずつ聞いて、盆へ並べる。
魔道具が鳴った。
〈分かりました。先にお客様へ確認して、責任者にも相談します。〉
マルタは、その返事を二度読んだ。
続けて、もう一通届いた。
〈ほかの受講者にも、この返事を見せていいですか? 同じことで迷っている人がいます。〉
研修室に並んでいた顔が浮かぶ。あの人にも、この人にも、同じように教えた。
返事を広められるのは、まだ怖い。けれど、訂正をこの人だけに伝えて終わるわけにはいかなかった。
マルタは、今度はリネに尋ねず、返事を書いた。
〈はい。私からの訂正と謝罪も、一緒に伝えてください。〉
送信して、魔道具を置いた。
手帳には、まだ以前の説明が残っている。
マルタはその一文に線を引き、今日確かめたことを書き添えた。




