第四十四話 閉まる店
「エデンが、止められるんですか」
翌朝、出勤してきたマルタさんは、鞄を持ったまま私を見た。
「はい。マルタさんのお話も、確認されたそうです」
「……私の話も」
肩が下がった。
鞄を机の脇へ置き、もう一度、私へ顔を向ける。
「私だけの責任ではないと、分かっていただけたんですね」
「はい」
口元が、少し緩んだ。
けれど、そのまま何かを言いかけて、黙った。
「店の人たちは、どうなるんでしょう」
「そこまでは、伺っていません」
マルタさんは鞄を見下ろした。
「受付の子も、今日、出勤するはずです」
私は、今日の予約を机へ広げた。
「発表は今日だそうです。それまでは、私たちから営業停止のことを広めるのは控えましょう」
ここで働いていることの発表は、待っていただいたとも伝えた。
マルタさんは小さくうなずき、手帳を取り出した。
*
最初のお客様を迎える準備を始めたところで、マルタさんの魔道具が鳴った。
画面を開き、手が止まる。
「……その子からです」
「受付の方ですか?」
「はい。出勤したら、今日は客を入れるなと言われたそうです。理由は、あとで説明するって」
続けて、もう一通が届いた。
「私が神殿に何か話したのか、聞かれています」
マルタさんは、私へ画面を見せた。
開店までは、まだ少し時間があった。
「今、お返事をされますか。奥を使ってください」
彼女はうなずき、魔道具を手に店の奥へ向かった。
私は、盆へ載せかけた瓶を棚へ戻した。
*
〈話しました。店から指示されたことと、私がしたことを伝えました。〉
マルタは、返事を送った。
自分のしたことも話した。店のせいだと言っただけではない。
そこまで伝えたのだから、何を言われたのか、どうして話すことになったのかも聞いてほしかった。
すぐに通話を求める表示が出た。
触れると、聞き慣れた声がした。
「それで、店が止められたんですか?」
答えようとして、口を閉じた。
私が止めたわけではない。そう言えば、この子は何と返す?
声が聞けてうれしいと思ったことが、急に恥ずかしくなった。
「私の話が、どこまで関係しているかは分かりません」
向こうで、誰かが職員を呼んでいた。
返事をする声が遠ざかり、通話の相手が声を落とす。
「私、来月から研修を受ける予定だったんです」
知っていた。
講師になりたいと相談され、申し込み方を教えた。
研修の話をするときは、いつもこの子の方から声を掛けてきた。分からないことがあると、私に聞きに来た。
今も、私に聞いている。なのに、同じ声が責めているように聞こえる。
「費用も払いました。これ、どうなるんでしょう」
「神殿に、確認した方がいいと思います」
「確認しています。でも、今は返事ができないって」
マルタは、返事を探した。
責任者に聞けば。
そう言いかけて、口を閉じる。
あの人に聞いても、私には何も返ってこなかった。
「皆、来ているんですか?」
「はい。待っていろと言われたので。でも、お客さんは入れるなって。明日も来ていいのか分からないんです」
マルタは、奥の部屋から店先を見た。
リネが、ベッドへ新しい布を掛けていた。
昨日と同じように、今日も客を迎えるつもりで。
「マルタさんは、もう別のお店で働いているんですよね」
声が戻ってきた。
「……はい」
「リネさんのお店だって、聞きました」




